拍手?関係ねぇな。4



某日・(言わずもがな)南郷宅

 とある土曜の昼下がり(ちなみに何故毎度拍手お礼が土曜の昼下がりかと言うと翌日が休みであるからして南郷さんに多少のご無体が働けるため、というのは皆様きっとご存知だったろうなぁ、とか、そういう)。
 ゆったりだらだらとテレビを見ている南郷と19アカギ。例の如く本編では既に新生活らしきものも始まっているため、最早慣れた空気が漂うこの夫婦。THE姉さん女房・南郷が煎餅をバリバリ食べているその膝に頭を乗せて、時折落ちてくる煎餅の欠片に眉を寄せるアカギ。熟年か、熟年夫婦なのか。いや熟年ならば膝枕はさすがになかなか無いだろうか。

「なぁアカギ」
「んー」
「足が痺れてきたんだが」
「んー」

 退く気のない悪漢に溜息を吐く南郷。するとそこに助け舟の如く響き渡ったノック音。続いて「郵便でーす」と間延びした声が聞こえて、南郷はアカギを転がすようにして強引に立ち上がった。アカギは不満気に片眉を上げる。そんなアカギを尻目に南郷は玄関に向かい、扉を開けた。そこには満面の笑みの配達員。差し出された封書は一通。南郷はそれを受け取る。

「ご苦労さん。速達?」
「はい」
「土曜なのに悪いね」
「いやぁ超法規的措置ですから」
「はい?」

 思わず南郷は首を傾げるが、名も無きその配達員は殊更に笑みを深めてからお辞儀を一つ、去っていった。頭に疑問符を浮かべたまま南郷は扉を閉め、宛名を見る。

「え、これ、お前宛てだぞアカギ」
「へぇ」
「19アカギ様、って。なんだ19って」
「あぁ、なるほど」
「何だよ」
「送り主は」

 言われて南郷は封書を裏返す。するとそこには『管理人』の文字。

「これ、え?」
「まぁ予想つくけど」
「なんか開けたくないような気がぶわっと沸いてるんだが」
「俺が開けるから問題ない」
「いやあるだろ、多分あるだろ」
「そろそろかなぁとは思ってたんだけどね」
「いやまぁ俺も薄々思ってはいたんだが」

 戻ってきた南郷が恐る恐る差し出すその封書を、アカギは受け取り中身を取り出した。何やら書かれているらしい便箋にさーっと視線を走らせれば、なるほど、と一言。封筒はそこらに投げ出し、南郷を見遣った。そんなアカギを訝しげに見ていた南郷は、視線が自分に向いた瞬間にまるで諦めたかのように肩を落としながらゆっくりと座る。

「南郷さん」
「はいはい、拍手お礼だろ」
「あらら、勘が良いね」
「いや時期的にね、分かるだろ、さすがに俺でも」
「さすがに南郷さんでも」
「自分で言うのは良いがお前に言われるとイラッとするな」

 南郷の(珍しい)冷たい笑顔は受け流して、アカギは南郷の隣に座り直す。

「で、拍手お礼なんだけど」
「分かった。皆まで言うな」
「ん?」
「確かに拍手は嬉しいっ。本当にありがたいっ」
「まぁね」
「だから俺も心の底から拍手をくれた皆様にお礼がしたい」
「うん」
「だから分かってる。もう分かってる」
「何が」
「脱ぐよ」
「え」

 南郷はフゥと一息、まるで場末のソープ穣かのように遠い目をしながら掌を振った。

「脱げばいんだろ。脱ぎますよ」
「わぁ。なんか予想だにしなかった方向に南郷さんが擦れてる」
「擦れもするだろ!毎回毎回!俺はまともなお礼がしたいのに最後にはお前と管理人に良い様にされてっ、俺、俺っ、うっ、うぅ」
「まぁ泣かないで南郷さん」
「じゃぁ拍手お礼もっと普通のやつにしろよぉぉ!」

 普通とはなんぞや、とは言わないお約束。
 そして南郷の言う普通というものでは恐らく拍手お礼にはあまりならないであろう事はアカギと管理人の暗黙の了解。というわけで今回の指令書(とか言うものは初めての登場だが)には、いつもと趣向を変えてお礼をお届けする旨を書いております、管理人。

「というわけで、南郷さん」
「何だ」
「3択を用意しました、管理人が」
「は?」

 おっとまさかの選択制。
 途端にどこからともなくチッチッチッチッとタイムアップまでを知らせるセコンド音。

「ちょっ、え?3択?」
「1.猫耳。2.メイド。3.むしろ執事・・・はい、どれ!」
「いや意味が分からない」
「え?メイド?」
「言ってねぇ!」
「俺としては大穴で3をプッシュ」
「大穴って何!」
「倍プッシュ」
「普通のが良いんだよぉぉぉ!」
「そう言うと思って別の3択も用意してあります。By管理人」
「・・・へぇ」

 最早ツッコむ気力も湧かない南郷。
 アカギは淡々と続ける。

「えーっと、1.いっそホントに猫。不思議な薬で耳と尻尾だけマジ生え」
「ってマニアック!」
「王道だよこの業界じゃ」
「どの業界!?」
「2.いっそホントに大正設定。華族の次男坊な俺と、俺専用のメイドという名の性奴隷」
「時代超え!?性奴隷!?」
「パラレルとしては王道だね、これも」
「だから何の王道だよ!」
「3.やっぱり執事。in性奴隷」
「ほとんど変わってねぇ!」
「考えるの面倒になったんだろうね」
「お礼しなさいよ管理人!」
「はい、どれ」
「いや明らかに後の3択のが危険過ぎる!最初のがまだ良いわ!」
「じゃぁ猫耳メイドで職業は執事と」
「最初の3択全部くっついてるから!もう3択じゃないから!1択だからそれ!」
「我侭だなぁ南郷さん」
「お・ま・え」

 やれやれと言った風に大袈裟に肩を竦めるアカギに、南郷は拳を硬く握り締める。こういうときに万が一の肉体的反撃を受けるのはアカギであって管理人ではない事をここに明記しておく。とか書いたらアカギさんが睨んでくるので今の無し。

「頼むからアカギ、他のにしないか」
「何、自分から脱ぐ脱ぐ言ってたのに」
「いやさっきはもうそれしか無いものと思っていたからな」
「まぁそれは変わりないと思うけど」
「あるだろ何か!」
「あー、じゃぁ俺的3択にする?」
「・・・一応、聞かせてみろ」
「1.南郷さんが先生。2.南郷さんが生徒。3.南郷さんが同級生」
「何がしたいんだお前は」
「学園恋愛シュミレーションざわざわメモリアル。略してざわメモ」
「略されるほど普及してないだろそれ!」
「いや業界内ではもう常識ってぐらいには」
「てかだから何の業界!?」
「俺としては大穴で3をプッ・・・」
「いや無理!2と3は絵的に無理!」
「大丈夫だって、制服はセーラーだから」
「どの辺がどう大丈夫なのか全く理解出来ない!ていうか男子生徒ですらないの!?」
「じゃぁ仕方ないから男子生徒で」
「仕方ないんだ!っていやだから生徒は無理だって!」
「本当に我侭だなぁ。じゃぁ先生で良いよ。俺は生徒で」
「まぁそれなら・・・って違う違う違う!何ノせられかけてんだ俺!」
「ねじ曲げられねぇんだ。自分が死ぬ事と、学園パロディは」
「はいアカギ馬鹿!」
「わぁ、返し早くなったね南郷さん」
「鍛えられたよ充分に」
「じゃぁ何がいんだよ南郷さんは」
「えっと、だから、普通の・・・あー・・・」

 言われて南郷は改めて考え始める。
 初拍手お礼の際に、自分の手料理だとかアカギの麻雀講座だとか言っていた事は思い出したが、それはあの時ざっくり却下されている。
 必死に頭を捻っている南郷を見ながらアカギは溜息を一つ、白い髪を掻き回しながら肩を竦めた。


▼あのぉアカギさん。
「何」
▼指令書ちゃんと読みました?
「読んだよ。適当に」
▼ちゃんとって聞いてんのにまるで仕事を見事こなしたかのように「適当に」って言い放った!
「3択は出したろ。2バージョン」
▼もう一つあったんですけど。最後の方にチョロッと。
「興味ねぇな」
▼出た!ヤクザだろうと一切を寄せ付けない切捨て台詞!
「お前の破滅に手が届くレートを吹っかけようか」
▼有り金全部吸い取った挙句に血まで吸われる!いやそうじゃなくてですね、一応、南郷さんが最後の泣き落としに来たときのために甘い3択をね、用意してあったんですが。
「いや泣くどころか擦れてきちゃってるから」
▼全てを諦めた風俗穣の顔されたときはこっちが泣きそうでしたね。
「今はまた頑張ってるけどね」
▼最後の甘い3択を出してあげてくださいよ。
「そうやって最後まで保留し続けるんだ、お前は」
▼あぁ!辿り着けない修羅の領域を指摘された!
「まぁ別に良いけど」
▼すんなり了承!何故わざわざ名台詞を並べた!
「それくらいの感覚がないようではとても生き残れなかった。この六年間」
▼いやいいから。つか早くしないと南郷さん頭から煙出てますよ。


「南郷さん」
「ちょ、ちょっと待て、今考えてるから」
「最後の3択出そうか」
「いやお前の3択はもういい!」
「そう?南郷さんのための3択なのにね」

 南郷はプスプス言っていた思考回路を一旦止めて、アカギに向き直る。

「・・・聞くだけ、だぞ」
「1.安岡さんの前で公開キス」
「あぁほら一瞬でも信じた俺が馬鹿だった!」

 だがキスだけというのは案外に緩い縛りかもしれない、と頭の隅で思っている辺り南郷はこれまでの3択に大分毒されている。

「2.石川さんの前で公開キス」
「一つ目と変わり無し!」
「3.俺と二人だけで公開キス」
「・・・」
「どれ?」

 思わずキョトンとした南郷の顔を覗きこむようにして、アカギはニッと笑みを浮かべた。いつもの悪漢の如きやらしげな笑みのはずなのに、細められた目はどこか優しげに見えてしまう。
 問われた南郷は少しだけ頬を赤くして、それから慌てて俯いた。

「お、お前と二人だけなのに、公開って、おかしくない、か?」
「あぁ、そうだね。じゃぁ、俺と二人だけでキス、かな」
「今更、だろ、それ」
「恥ずかしがるアンタは見飽きないよ」
「恥ずっ・・・いや、でも、なんか改めて、キスとか」
「ホント、見飽きねぇな」
「っ・・・」

 クックッと笑うアカギに南郷はますます顔を赤くしてしまう。それから、まるで答えを待っているかのようなアカギをちらりと見上げ、また俯き、また見上げ、そしてまた俯いた。視線が一瞬でも絡む度に顔は熱を持ち、南郷はモジモジとその大きな身体を揺らし始める。

「どうしたの」
「いや、その・・・じ、じゃぁ、さ、3・・・で」
「いいよ」

 アカギはゆっくりと手を畳みに着いて、四つん這いの格好のまま南郷に近付いていった。そして正座のまま身体を硬くして待っている南郷の太股に手を置く。下から覗き込むようにすれば、南郷の視線がゆるりとアカギに向けられた。
 口付けなどもう数え切れないほどしていると言うのに、それ以上の行為だって幾度と無くしていると言うのに、改めて口付けを待つというのは何故か南郷の胸を酷く高鳴らせた。

「南郷さん・・・」

 囁くように名を呼ぶ唇が近付いてきて、南郷はギュッと目を閉じる。鼓動が痛いほどに胸を叩き、南郷は息を止めた。
 そして唇が触れる。
 啄ばむだけの小さな甘音が耳に響いて、南郷は薄く瞼を持ち上げた。長い睫毛が白い頬に影を落としているのが見える。整った顔立ちのその青年も、ゆっくりと目を開いた。視線が絡み合い、南郷はキスだけなのに全身を嬲られているような感覚に陥る。

「ん・・っ・・・」
「南郷さん、口、開けて」
「は・っ・・・ぁ・・」

 言われた瞬間にようやく酸素を取り入れた。
 けれど補給しきる間もなく塞がれてしまい、南郷は息を呑む。背を抱き寄せられているわけでも、頭を押さえられているわけでもない。離そうと思えばすぐに離せる唇を、だが南郷は、一ミリたりとも動かせなかった。
 アカギの予想外に熱い舌先が、南郷の開いた唇を丁寧に辿っていく。いつもの荒々しさは全くなく、とても優しい舌先だけの愛撫。優し過ぎて逆におかしくなりそうだ、と南郷は薄っすらと感じた。
 唇をなぞり歯列に軽く触れただけで、アカギの舌は引いていく。南郷はまるで物足りなそうに、甘い吐息を隙間から零した。
 そして唇も離れ、間近な距離のままにアカギは笑みを深める。

「はい、拍手お礼、ちゃんと出来たね」
「あ・・・あぁ」
「何?」
「い、いや」

 南郷は言ってしまいそうになった言葉を慌てて飲み込む。
 足りない、と。もっと吸ってくれ、いつものように咥内を思う様掻き回してくれ、蹂躙して揶揄してくれ、まるでアカギの熱いモノで尻を貫かれているときのように、もっと、もっと。

「弄って・・・」
「ん?」
「っ・・・な、何でもないっ!」
「どうしたのさ」

 南郷は殊更に身体をモジモジと揺らし始める。
 口角を持ち上げたアカギはグッとまた顔を寄せ、鼻先が触れ合う距離で囁いた。

「言わないと分からないよ?南郷さん」
「あ、いや、その」
「アンタが望むなら、俺は何だってしてやるのに」
「っ・・・」

 南郷は息を呑み、それから思い切ったようにアカギを抱き寄せた。
 そして白い首筋に随分と熱くなってしまった額を摺り寄せ、耳を澄まさなければ聞こえないほどのか細い声で呟く。

「アカギ・・・」
「ん?」
「だ、だい、抱いて、くれ」
「まだ昼間だぜ?」
「っ・・・」
「こんな明るいうちからヤりたいなんて、やらしいねぇ南郷さん」
「お、おまっ、何だってするって!」

 途端ウルッと瞳をふやけさせた南郷にアカギは小さく笑いを零す。

「あぁもちろん。だから、明るいからなんて言い訳、もう出来ねぇぜ?」
「うっ・・・」
「全部、見るから」
「や、やっぱ、あの」
「駄目だよ。アンタが言ったんだ、抱いてって」
「アカギぃ・・・」


▼来たぁ!このまま最初の3択順番に行きますかアカギさん!


「猫耳は次回お礼でいいや」
「え?アカギ、何言っ・・・」
「公開はここまで」
「誰に!?」
「後は俺だけのもんね」


 暗転。


▼で・す・よ・ねぇ!予想通りですよ!ははん!
「無意味な死を迎えてしまえばいいのに」
▼それがギャンブルですからね!というか最後の3択「アカギと二人だけで『読者様に』公開キス」だったと思うんですが。ワードが一つ抜けてたような。
「まぁ同じでしょ」
▼そうですね。おもっきし公開キスでしたね。南郷さんが気付いてなかっただけで。
「あの人が羞恥に身悶える顔は本編で見れば良い」
▼何気に本編宣伝!?さすがッス!悪魔ッス!
「殴り倒すぞ、治が」
▼ひぃっ!仲間使って囲み麻雀やっても通し見抜かれて有り金持ってかれる!

END


ツッコみが、長いよ・・・
つかツッコみじゃねぇよ、もう・・・
あ、えと、は、拍手ありがとうございました!

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