ノック音は、切れかけた電球のぶら下がる廊下で消えていった。私でさえ、本当に音がしたのか不安になった。もう一度ノック。鍵は開いていた。

 メローネはドアを開けてすぐに見つかった。廊下の先、大きな窓をすっかり覆っているカーテンにうつるように濃い影があった。ぽつんと置かれた椅子で片膝だけ抱えて座るメローネは、はっとした顔でこっちを見た。
 なんとなくドアを開けてしまったのが申し訳なくて、ごめんと謝る。メローネは驚いた顔のまま立ち上がって、きびきびとこっちへ近づいてきた。相変わらず、顔が疲れている。

「連絡がつかなかったから心配で……」
「ごめんな、携帯をなくしちまったんだ」

 これは嘘だ。

「ちゃんと食べてるの?」
「そこらへんにあるシリアルとかな。なんとかなってるよ。出かけるのが面倒でね」
「必要なものとかある?」
「いや、いいよ。あがってくか?」
「ううん、これから授業があるから」
「なんだ、そうか」

 メローネの髪が少し、短くなったような。

「行っておいで。携帯が見つかったら連絡する」
「うん。ごめんね」

 両の頬に一度ずつキスをしたメローネからは、シリアルの匂いがしなかった。何かはわからないけれど、もっと何か別の匂いだ。得体のしれないものが目の前にいるような気になって、その後は目を合わせないままアパートを出た。
 メローネの部屋のカーテンはやっぱり、外から見ても閉じてしまっている。せめてさっきのまま、また椅子に座っていてくれればいいのに。私は、首を一度ひねってからかばんを背負い直した。


20120103


背景を何も考えていない超短い話だけどメローネが病んでることは確か



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