プロシュートは思ったよりも早く連絡をよこしてきた。時刻にしてAM2:40。明け方までかかると思っていたナマエは、なんとなく心が躍ってしまうのがいやらしいと自ら顔をしかめておいた。暗い部屋で、らんらんと光るテレビと携帯の画面とナマエの目。コール音はしばらくするとぴたりと止まり、程なくして青白い照明も消えた。

 今度は、玄関のほうでだんだんだんだんと無遠慮な物音がした。ドアを叩いているようなのだが、声はしない。ナマエは、無視をした。すると、今一度携帯電話が鳴り、ナマエは手に持っていたそれを思わず手放した。ソファに乗り切らず、床に落ちる。呆然としているうちに外の人間はドアへのパンチどころか発信までやめてしまって、諦めてしまったのかとナマエは少し動揺したが、しかしここで怖気づくわけにはいかなかった。ナマエは鳴動をやめた携帯電話を拾ってから立ち上がり、奥の部屋へのドアを開け、玄関のドア一枚挟んでプロシュートがいるはずの玄関が見えないように、場所を変えた。

 物音を聞きつけたのだろうか。携帯電話はもう一度鳴った。三度目の正直ってやつよ。ナマエは頭の中でなんとなくズレたことを言いながら通話ボタンを爪の先で軽く押した。安物のスピーカーのせいで、無音のはずの向こうからジーという小さな雑音が聞こえた。

「もしもし」
「オメー、部屋にいやがるな」
「いないわよ」
「嘘つきは感心しねえぞ」

 ナマエは、リビングのテレビをつけっぱなしだったことを思い出した。

「いるけど、だったらなに」
「なにだと、カワイイとこあるじゃねえかお前。笑わせるな」
「……面白いことなんか何も言ってないんだけど」

 少しだけカチンときた。主導権を握れるはずだった自分を、小さな子がちょっとわがまま言ってるみたいなそんな風に、あしらおうとしている、こいつは。そう思って、ナマエはしばらく黙秘して様子を窺うことにした。プロシュートは電話の向こうでも非常に聞き取りやすい声ではきはきと喋った。

「俺にも悪かった所はある」
「ふうん」
「くっくっく」
「なに?」
「いや。男ってのは、ヤキモチやかれると嬉しいもんだからな」
「ふうん」
「おい、女がどんなに怒って、俺がどんなめに遭ったか聞きたくないのか?」
「…………聞きたいけど」

 プロシュートが噴き出した音がした。ナマエは自分の笑いや吐息が漏れないように堪えながら、立ち上がって、そっと玄関の方を覗いた。隙間の多い古びたドアからは至る所から廊下の照明が漏れているのだが、それだけではプロシュートの姿かたちはよく見えない。

「はーあ、そういうわけだ。気が済んだらここを開けてもらおうか、お姫様」

 余裕ぶっこいちゃって!と捨て台詞を残して、ナマエは電話を切った。時刻はAM3:00。合鍵は今、プロシュートのコートのポケットに入っているのかいないのか。今日ばかりは絶対にこちらから開けてやるまい。外の浮気者のことなど気にせずに眠ってしまおうと思ってから、お気に入りのヘアバンドをよそへ置いてきてしまっていたのを思い出した。

邪魔ものばかりだ、二人はこんなに愛し合っているのに


2011.10.30

いちおう11666ヴェモちゃんの「転がされる兄貴」というリクエストをもとに書かせていただいたのですがあんまり転がされてないな〜〜でもけっこう気に入っていますプロシュートにお姫様と呼ばせたかった
今私の中で兄貴を優しい亭主関白にするのが流行っています
こういうときメローネだと素直に謝っちゃうもんだから、余計こじれちゃうんですよね




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