チームメイトの前でナマエにちょっかいをかけるのが俺は好きだ。

人数が多ければ多いほどベネ(良い)。プロシュートなんかは特に無視を決め込む時があるからあいつ一人相手だとつまらない。いや、つまらない事も無いか。本気で嫌そうな顔をして俺にビンタを決めるナマエがキュートなのには変わりは無い。

「ほどほどにしてやれ」とリゾットは言う。同じ部屋に長居はしないから、リゾットの時ばかりはナマエもあまり慌てない。ただ、「一緒にどうだい」と尋ねられたリゾットの『馬鹿言うな』って顔は面白い。

プロシュートは、まあ、大抵童貞のペッシと一緒だ。ちらちらナマエを見るペッシをもプロシュートは無視して、新聞の隅々にまで目を通すのに余念が無い。爺臭いな。俺がそう呟きながらナマエの口に指を突っ込むと、白い煙が脅すように薄く漂うのだった。……まる。

からかってくるのはホルマジオだ。ナマエにとってはこれが一番迷惑らしい。ホルマジオの前で着てる服を捲ったり破いたりするとたいていその日一日はナマエのスタンドで腕が不自由にな……あ、いや話が逸れたな。もちろんナマエの、無いわけじゃあないが貧しいそれをにやにやしながら見て、「相変わらずだなァ」とホルマジオは呟くわけだ。そういう時はホルマジオの頬も赤くなる。片方だけ。

ギアッチョとイルーゾォとソルベとジェラートも基本的にプロシュートと同じくらい無反応だ。女に興味が無いのかいと尋ねると奴らは一様に首を振る。どういうことよそれ、とキレたのはナマエだ。
「私が女じゃないみたいじゃないの!」
こう言うと、二人は眉間に皺を寄せて、もう二人は目を見合わせた。そして、大袈裟に肩を竦めた。
こうなるともう俺は蚊帳の外になって、立ち上がったナマエが喧嘩を売りに行く。たじたじになって弁解するソルベ、無視してそのソルベを引っ張っていくジェラート、頭の事を罵られたら我慢のきかないギアッチョ、本当はナマエの裸体見られて喜んでるイルーゾォ。
俺の役目はその言い争いを黙って見上げたりたまに茶々を入れることくらいだが、それもまあ楽しい。怒りの矛先が急に俺に戻ってきた時の心臓の高鳴りがなんだか気持ち良いから。



昨日ベッドでナマエに、メンバーの前でそういうことをされるのは本当に嫌かと聞いたら、こんな時にそんなこと聞くんじゃないわよバカ、って言われながらひっぱたかれて結局おあずけになった。





「……そんなノロケ話聞かせて俺にどうしろってんだよ。あと別にナマエの裸は見慣れてるから別に」
「待てよ待てよ、おあずけになったってのもまあ重要だがまだこれからが最重要事項なんだ」
「……………」
「そんな顔で見るなよ。溜まってる?」
「死ね」
イルーゾォは少し赤くなった顔を嫌そうに歪めて俺にそう言い捨てた。まあそうだよな、溜まんないよな、事あるごとにナマエをオカズにし「してねえッ!」てる……嘘つくの下手だ、あんた。





「まあ、いいさ。俺があんたに聞きたいのはつまり、ナマエの誕生日に何をプレゼントしたら良いかって事だ」
言うと、イルーゾォは一瞬一点を見つめてから、怪訝そうにこっちを見た。そこら辺にあった置き時計の時間を意味も無く進めたり戻したりしながら、顔を上げて目を合わせる。
「誕生日はまだまだ先だろ?」
「やっぱりな。そう来ると思った」
「だってそうじゃねえか。五ヶ月……半も先だ」
そんなのは俺だってちゃんと知ってる。生まれた時間だってナマエに聞いて覚えてるくらいだ。
「重要なのは誕生日がいつかじゃない。何をやるかだ。ちゃんと聞いててくれよ」
「……聞いてたよ」
「じゃ、考えてないんだな」
イルーゾォは呆れたように溜息をついたが、そうしたいのは俺の方だった。普段相談なんかしないのに、ナマエの喜びそうなものを聞いただけでこの態度。せっかく頼りにしてるのに、わからない奴だな。時計の針をいかに速く回せるかに凝り始めた俺をまたイルーゾォが見たのが視界に入る。見るだけで何も言わないので俺から喋る事にした。
「ナマエに直接聞いても何もいらないって言うんだ。それならマッサージでもしてやろうかって言ったら嫌な顔するしな」
「大方やらしいものでもプレゼントした前科があるんだろ」
「………………やらしいって言われて否定できないものならやったかもしれない」
「やっぱりか」
「でも、ちゃんとアクセサリーを買ったことだってあるんだぜ。そういう時も、ナマエは黙って受け取りはしても嬉しそうな顔しない、っていうよりは『ふうん』って感じでたまにしか身につけない。そこら辺の女とナマエが全く違うってのはもうとっくの昔に分かってる事だが、それでもどうするのが良いのか俺にはわからないんだ」
指の先から根元まで使って、俺は一瞬で一時間進める事に成功した。途端に飽きた。時計を放り投げて、ソファの背に寄り掛かる。イルーゾォはバカ正直にちょっと戸惑った顔をして、テーブルの上に乗せた手の指を絡めたり解いたりしていた。やっと俺の苦悩を理解したのかもしれない。
「……それとおあずけになった話との関係は?」
「答えてくれたら教えてやるよ」
「とりあえずちょっかいかけるのをやめればいいんじゃあないか?」
「今はジョークを言ってほしいタイミングじゃないんだがな」
「…………………そうだなあ」
うーん、と唸ったイルーゾォが頬杖ついて目を閉じた。イルーゾォとナマエは毛の色が同じな分兄妹のように見える時があるが、目を閉じると瞳が見えなくなってますますその錯覚にはまりそうになる。そもそもイルーゾォは俺よりもずっと長くナマエといるんだから、兄妹と言えるくらいにお互いの事をよく分かりあってるかもしれない。うっすらイルーゾォの目が開いた。
「何もしなくていいんじゃないか?」
「なに?聞いてなかった」
「……いらないって言ってるなら何もやらなくて良いと思う」
聞いてろよ、と言いながらじろりとこっちを見たイルーゾォの言葉を、飲み込みきれずに耳の少し奥で何度も何度も聞き直した。『何もやらない』?そんな選択肢思い付いた事も無かった。だって何もやらなかったらナマエの喜ぶ顔も嫌そうな顔さえも見られない事になる。俺がそういう顔を見たいってわけじゃあない、たまには純粋にナマエを喜ばせてみたいだけだ。
「不満そうだな」
「そりゃあ不満だ!ほんとにちゃんと考えてるのか?」
「当たり前だろ。せっかく人が真面目に答えてやったのに……」
「どういう意味なんだよ」
「……だから……いや、俺だってナマエの気持ちはわからないが……そもそもどうしてお前と付き合ってるのかがわからな」
「その文句は聞き飽きた」
「だから、プレゼントなんか無くたってナマエはお前と……その、一緒にいたり話したりするだけで楽しいんじゃあないか?」
俺は衝撃を受けたあまり言葉を失った。口を半開きにして黙る俺を気味悪そうに見るイルーゾォに向かって何度か首を振る。
「いや……そんなの……だって、俺と一緒じゃないか。有り得ない」
「一緒だから付き合ってるんじゃないのかよお前ら」

なんだかめまいがしてきた。
そもそもナマエが喜ぶものをナマエ以外に聞いたのが間違いだったのか。何がなんでも本人から聞き出すべきだったのか。
「おい、全然アテにしてないだろ、俺の言ったこと」
イルーゾォは少し腹を立てたらしい、眉間に思い切り皺を寄せて俺を見ている。だから、そんな顔したいのは俺の方だ。
「嘘じゃないぜ。ナマエはちゃんとお前の事好きだ」
「なんだってそう言い切れるんだ?」
「言ってたし」
「は?」
「言ってたって、そう」
「言ってたってほんとかどうかなんてわからないじゃないか」
「……じゃあお前、本気でナマエがお前を嫌ってるとでも思ってんのか?」
「さあ。それが有力だね」
「…………………」
一段と大きな溜息をついたイルーゾォが、椅子からだるそうに腰をあげた。どうやら話を終わりにするつもりらしい。イルーゾォの答えじゃあ満足できなかった俺は、苛立ちを抑えながら、次は誰に聞くか悩みはじめた。

「あ……結局最初の長い前フリはなんだったんだよ」
部屋から出て行こうとしたイルーゾォが、開きかけた扉をそのままにして振り返る。目だけそちらにやって、俺は忘れかけていた『最初の話』をふっと思い出した。
「……なんでだったかな?」
「……おいおい」
呆れたように笑ってからしばらく待って、俺に答える気がないのが分かったらしいイルーゾォは部屋を出て行った。ドアが静かにかちゃりと閉まった。


20090804


タイトル:どこからお借りしたか忘れちゃった

みやさんの6666のお礼に。あんま変態じゃなくてごめんなさい




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