承太郎がふかすタバコの煙をじっと見ていると何かの形がふわふわとできあがる気がしたけど、全くそんなことはなかった。白いモヤモヤは、青い空へ立ち昇って透明になって雲になっている?ぐいっと上を見ると犬の頭のような形をした雲がいくつか飛んでいた。

 開いていた口を閉じて承太郎を見ると、承太郎もこっちを見ている最中だった。あははとごまかすように照れ笑いをした私を尚も怒ったような顔で見ながらふうーっと煙を吐く。煙は私の顔にブッかかった。咳き込む私を見ても承太郎は笑わなかった。

「ぐぇほっ、げほぉっ」
「……三時か」

 承太郎が勢いをつけて腰を上げると、ブランコは待ってましたと言わんばかりに大きく揺れた。大きな背中の行方を追う私を振り返らず、帽子のつばは上を向く。

「ねえ、あの雲さあー、犬の頭っぽいよね」
「そうだな」
「見てないでしょ」
「……」
「その反対側と、あとこっちにも」
「そうだな」
「だから見てないでしょ」
「……」
「ブランコ三百六十度回転は今度にするの?」

 承太郎は頭の中で『何言ってんだコイツ』と思ったに違いない。私が適当なことを言ったからだ。ブランコをガチャガチャ言わせて立ち扱ぎ体勢になった私を無視して、承太郎は確かな足取りであっちのほうへ歩いてゆく。五秒(いや、三秒かも)粘ってから、私は諦めてブランコから飛び降りる。

「あぁ!」

 転んだ。いや、転びかけた。慌てて立ち上がって、振り返らない背中を追う。追いつくと、承太郎はちらっとこっちを見た。タバコはいつの間にかポイ捨てしたようだ。

「転んじった」
「……」
「痛い」
「……」
「歩けない」
「……」
「もうダメぇあいだァーッ」
「これ以上騒ぐと今度は本気だぞ」
 本気のデコピンだぞ。と念を押して、承太郎は歩調を変えない。膝にプラスして額も痛くなった私は、いけずの承太郎に向かって死の呪文を呟きながら、本当に死んじゃった時にホリィさんに謝る自分を想像する。謝ってるうちに、承太郎が棺おけからむくりと起き上がって私にデコピンをくらわせた。

2010/06/23

承太郎はおやつの時間にはおうちに帰ります



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