01. ノート代と唐揚げ代
ぐーたらぐーたら過ごしていたら、あっという間に二年生の夏休みが終わった。来年は受験だなーと思うと、同時に青春終わった…!とも思う。高校生ってこんなもんなの?高校生の夏休みってもっとはじけてるんじゃないの?
部活もやっていない私は夏休みの大半を自宅で過ごし、それ以外は祖父母の家を訪ねた程度だ。友だちはいるが、部活組は最後の夏に青春を捧げ、彼氏持ちはサマーをエンジョイし、残された友だちとは夜な夜なスカイプ通話をした程度である。
「おはよー」
「おー」
「相変わらずすごい頭だけど」
「そうか?」
「鏡見た方がいいよ」
あと、こんな奴をかっこいい!ステキ!きゃー!っていう女子は眼科に行くべき。
夏休み明けというのはどうも頭が働かない。なんとかして働かない頭をフル回転させて授業を受けるも、睡魔と戦うので精一杯でノートが大変なことになっている。まあいい、写しただけマシだ。
「うあーねっむ、ジュース買ってこよ」
「俺カフェオレな」
「ていうか私よりずっと寝てる鉄朗が行くべきじゃない?目覚めるよ」
「貴重な睡眠時間奪うなよ」
「横暴…」
昼休みは購買前の自販機は激混みだから、校舎裏のちょっと遠いところに行こう。空いてるけど遠いからこういう時間でも誰もいないしね。っとあらら、先客?いや、あれは…
「稀子ちゃーん」
「!東子先輩!」
「へろー。なに買ったの?」
「カフェオレですっ」
「へー 私はコーラにしよっと」
スカートのポケットで歩くたびにちゃりんちゃりん鳴っていた小銭を自販機に入れてコーラを選ぶ。稀子ちゃんは今年入ってきた新入生で、委員会が一緒で仲良くなった。部活をやっていない私にとって、唯一の後輩である。カフェオレを抱きしめて私を待つべきか教室に戻るか悩んでいるようでチョロチョロしてる。面白い。でも貴重な昼休みなくなるぞ。
「んじゃねー」
「えっ、あ、さようなら〜」
ここは余計な話題が出る前に戻るのがお互いのためだ。私より随分と低い位置にある肩をぽんっと叩いて先に戻ろうとすると、ふと稀子が抱きしめていたカフェオレが気になった。
「……あー、鉄朗のカフェオレ」
「えっ!」
「忘れてたわ、ははっ」
「黒尾先輩、のことですか?」
「え?あー うん… え、何?一年生でも人気者なの?モテるね〜」
「あ、いや、なんていうか…」
「ま、いいや。んじゃねー」
良かった、自販機から離れる前に思い出せて。奴のことだからもう一回行けよとか言うに決まってる。ちょっと早足で教室に戻ることにしよう。ご飯を食べるのだけは、こうして私が飲み物を買いに行ってても待っててくれるから。
「お待たせー」
「おー、遅かったな」
「校舎裏まで行ってた」
「ん」
「あーはいは… 多いよ」
戻ってくるとタイミングよく鉄朗は顔をあげて、机の横のカバンからお弁当を出していた。帰りに買ってきたメロンパンをあげると満足そうにしながらカバンに入れたから、部活前に食べるんだろう。
席に着くと机の上にちゃりん、と小銭が置かれた。ジュースとパン代だと思ったけど、少し多い。
「ノート代」
「まじか」
渋々(200円で)机の中から生物と現代文のノートを出すと、鉄朗はひょいっと取り上げてカバンの中に突っ込んだ。はぁ、盛大なため息をついてお弁当箱を開けると、明らかにスペースの空いた部分がある… 今日のお弁当は唐揚げって今朝母親が言っていたはずなのに。
「ノート代と唐揚げ代」
「もうなんなのおまえ…!」
戻る