閑話3. 研磨くんの思うところ




クロが、たまにクラスメイトの女子の話をしてくる。たまにっていうか、わりとよくしてるかな、あんまりよく聞いてないけど。前に部活の前に生物のノートを一生懸命写してて、そのノートには藤沢東子と名前が書いてあった。その時は興味もなくてすぐに忘れてしまったけれど、ある日気づいた、それがちょっと前に知り合ったクロのクラスメイトの名前だと。



「けーんーまーくーん」

「……東子」

「何してんの?日向ぼっこ?」

「…これから練習だけど… 時間あるから、クロ待ってる」

「あー、鉄朗今日掃除当番だもんねぇ。」

「東子は何してんの?」

「飲み物買いにー。今日委員長会議なんだぁ」

「……へぇ」



どこの委員会だったかは忘れたけど、東子は委員長だとクラスメイトでマネージャーの稀子に聞いた。普段は意外と雑でそんな雰囲気なんてないのに、真面目にやってるんだと笑われていたし、東子本人も笑っていた。

正直、ここまでこの人と仲良くなるとは思っていなかった。仲が良いと思っているのも、自分だけかもしれないけれど、こうしてことあるごとに遭遇してよく話す。まあ、東子が話してるのを聞くだけだけど。



「あ… この前のアップルパイ、美味しかったよ」

「ほんと!よかった〜 頑張った甲斐あったわ!お母さんにめっちゃ怒られながら作ったから!」

「そうなの?」

「うん、ほんと大変だったよ〜」

「……ありがとう」

「また作るね、もっと美味しくなるように頑張るから!」

「うん、」



たぶん、恋なんて、したことがなかったしするとも思ってなかったけど。たぶんこれが、恋なんだと思う。
自分の好きなものを一生懸命作ってくれて、また作るね、なんて笑顔で言われたら、自惚れてしまう。きっとあれは自分だけじゃなくて、クロや稀子にもあげたんだと思うけど、それでも、勘違いしてしまう。



「じゃ、またねー」

「…バイバイ」

「部活頑張れ!」

「ありがとう…」



もやもやするのは、もっと彼女を独占したいと思うからなのか、周りに敵がいるからなのか。もう何もわからない、ずっとずっと、気づけば彼女のことを考えているのが、苦しい。クロは苦笑いしながら、このことを恋だと笑ったけれど、クロもあの子のこと好きなんだな、と気づくのにそう時間はかからなかった。何事も無気力な自分が、あの子だけは譲れないと思ったのだから、頑張るしかない、ありったけのやる気をそこに詰め込もう。





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