*直接的な表記はないのでR指定のつもりはないんですが、でも実際よく分からないんでR18指定。エロい話ではないです。すいません。愛に気付くまでの二人。(今回は静雄バージョン)


















静雄が臨也を見つけたのは偶然だった。とはいえ、偶然といえど類い稀なる嗅覚と第六感、そして対折原臨也追跡機能の三点が自然と稼働していたとなれば、臨也と路地裏で鉢合わしてしまったことはもはや偶然とは言い難い。少なくともなるべくしてしてなった結果だったといってもいい。
手に握り締めた標識とナイフは互いの姿を認識するや否やかち合った。



「まーだ生きてたのシズちゃん?人類のために早く死ねよ!」

「誰が死ぬか!つか人類のためにっつーたら手前が死ぬ方がよっぽどマシだろが!!このクソ蟲野郎ッ」



甲高い音と共に斬撃が路地裏で交錯する。野良猫一匹、人一人存在しないのはいわゆるここが喧嘩の名所だからだ。鉢合わせ率58%。高いのか低いのか判断が付きにくいここは、しかし度重なる二人の衝突によって見るも無残な傷跡ばかりが残っている。それもまるで隕石が激突したかのような歪なへこみがいくつもだ。とても人間の仕業とは思えない。少なくとも池袋の住人でなければ隕石衝突の類いを信じていたことだろう。

しかしここは池袋。首なしライダーや罪歌が闊歩する街。となればこの傷跡にもそれなりの理由がある。平和島静雄。人類で恐らく最先端の細胞を持ってして生まれた池袋最強の彼の手に掛かれば、街に穴が空くこともまるで問題にはならない。あらゆる金属器で組み立てられた500kg近くの自販機を担ぎその重みなどもろともせず投げたい方向へ投げ飛ばすその筋力が、たかだか押し固めただけのコンクリートの塊に屈するはずがない。恐らくダイヤモンドであっても彼の筋力には耐えられはしないだろう。もしもその力に壊されない物質があるとすれば、それは重力や物量を持たない影であり、また彼が心底心を許した限られた大切な人間だけだ。なぜなら静雄は誰もが認める池袋の破壊神。まさに夢物語さながらの特異な力を持っていた。



「今日という今日こそは殺す、メラッと殺す、すぐさま殺す!!!」

「毎回毎回同じこと言っててよく飽きないね、君!!」



そんな静雄に対し、軽い身のこなしでナイフで挑む折原はそれでも確かに静雄と対峙していた。例え静雄の拳が巨大ハンマー何十個分の威力を持っていようとも、例え戦車のような身体で目の前に立ちはだかれようとも、臨也は静雄を前にして逃げることはない。必ず真正面を陣取り、不敵な笑みを浮かべて静雄にナイフを向け続ける。それが当然とでもいうように堂々と伸ばされた背筋は、まるで駄犬を躾けるのが仕事である調教師のように、異端に対し人間が取るべきなのは逃げることではなくこうして立ち向かうことだと知らしめているようでもあった。とはいえ、実際のところ、人間の域を越えたものたち相手にたかだか一般ピープルがどうこうできるはずもない。俺たち人間は強いんだ。臨也の立ち向かう姿を見て勝手にそんな錯覚に呑まれた人間の絶対神話を信じた馬鹿たちは、彼ら彼女らの手によって見事に現実の底へと沈められていった。それほどまでに、彼の声や態度は人を惑わすにはあまりにも十分だったのだ。

特に、破壊神を呼び、時に首なしや罪歌までも呼び寄せる男は、生の人間であるにも関わらず彼らと対峙しても死を迎えたことがない。それがまた周囲の人間たちに生命に関わるレベルである誤解を生み出した原因の一つともいえた。

あいつも実は化け物かもしれない。そんな傍迷惑な錯覚を起こさせる男、折原臨也を揶揄して、住人たちは最近口を揃えて臨也のことを池袋の召喚士(サモナー)または魔術士と呼ぶ。もちろん住人たちにとって、もっとも池袋に召喚されて欲しくないのはあらゆる化け物を奮い立たせる新宿の折原自身であろうが、それは敢えて誰も口には出さないし、出せない。我関せず。それが様々なものが住む池袋で生きていくための賢い手段の一つでもあった。



「今日こそは殺してあげるよ」

「そりゃこっちのセリフだな」



今日は風が強い。激しく揺れる髪や服は普段の戦闘よりも幾分も神経を使い筋肉も使う。すでに加減ができなくなっていた静雄は普段以上に周囲に傷跡を残していた。そしてそれはまた珍しく臨也のVネックに対しても同じで、その爪痕は見るも無残な有様だった。



「…………まぁ精々俺を楽しませてくれよシズちゃん。これの、落とし前くらいはね」



これ、と差した指の先。臨也の黒いVネックの裾はズボンに入ってはいなかった。恐らく静雄との激しい戦闘で捲れ上がったのだろう。ファーコートと同様にバサバサと音を立てて暴れ回っている。しかもその暴れ具合はフロントチャックを開けているコートの比ではない。標識によってインナーが破かれたせいで、胸を丸出しで白い肌を全開にする羽目になっている。



「昨日下ろしたばっかりだったのにさぁ」



ぶつくさいう臨也の口はまだ笑っている。男同士だから裸を見られて恥ずかしいわけはないのだろう。しかし、見せたいほど出来ている身体でもないことは本人は恐らく、静雄もよく理解していた。それは軽く右手で胸元をコートごと握り締めたことで分かる。

しかし、なぜだか静雄は改めて意識のいったその胸板から視線を逸らせなかった。釘づけになる鷲色の瞳は白い肌と薄ピンクな突起物を捉える。女のものとは到底似付かぬが魅力的なそれ。そして、そうくれば必要になるはずの男の証でもある、下の突起物。その奥の濡れない閉じられた穴。そんな下部構造に全ての意識が持っていかれた次の瞬間、衝動的に静雄が臨也を押し倒していた。



「――ッ!!」

「いざ、や…」



渇いた、それでも熱の籠もった声が一つ路地へと響く。

臨也を押し倒していたことに理由はなかった。ただ押し倒したいと思ったから押し倒した。ただそれだけのこと。そこに静雄の意志は関係ないし、どちらかといえば本能的なそれは静雄が意識するよりももっと深いところに潜在されていたものだともいえた。服を脱がさないといけないと思ったから服を脱がし、全てを奪い尽くさないといけないと思ったから暴れる身体を拘束し酸素を奪うようにキスをした。殺したい、愛したい。ちぐはぐとしたそんな感情は瞬く間に静雄の脳ミソを麻痺させて、代わりにどこから出されているのか分からない指示に身体だけが次から次へと勝手に行動を起こしていった。正に人として異常をきたした身体。しかし、それは同時にあるべき動物のありさまでもあるようで静雄はそんな自分をありのままに受け入れる。こうして臨也を押し倒しむちゃくちゃにしながらも身体を貪れと本能が言うのならば、相手が男であろうが問題ではなかった。


その一方で、止めろ止めろと制止を求める臨也もまたこたびの生殖行動の無意味をよく理解し、だからこそ嫌悪した。それは吐き気も催し、悪寒によって全身の毛が逆立つ。もちろんあそこの毛さえもだ。誰がどう見ても拒絶を示していた。

それなのに静雄は何を思ったのか更に臨也へ身体を密着させて、女でもないその硬い身体を求めていく。まさに異常だった。どう適っても、これは自然の摂理ではない。臨也は頭でそう理解する。有り得ない、有り得てはいけない。だから殺さねばならぬ、と心の底からありったけの思いを込めて叫んだ。



「し、ね――…!!」



しかし、そんな臨也の全身全霊を込めた声に、静雄は言葉を発することなく荒い息だけを持って臨也に自分の存在を主張する。言葉は人が得たコミュニケーション手段だが、交尾の基盤はあらゆる生物の生存本能でしかない。本能のままに。言葉など生温いものなど生殖行動には一切必要ない。穴に入れ、精子を流し込む。そんな単純なことがまさに生殖において最も重要なことだった。

だからこそ、静雄は本能に任せてただただ穴を探す。臨也は女ではない。穴といってもヴァギナではなくアナルにあたる。故にそこに全ての真実を求めたとしても答えなど出ないことは十分に理解していた。そして排泄器官だと知識として知っていたからこそ、静雄は自分の唾液で臨也のそこを濡らした。勝手に滑油は出てくれない。知っていた。穴を求めた静雄は全てを知っていた。臨也が男であることも。自分の頭が可笑しいということも。おざなりに馴らした後ろにそれでも酷く素直に、そして満足げに微笑めたのも、全ては解って受け入れていたからだった。臨也だから自分は求めるのだと。犬猿の仲といえど、その理屈なしに愛が芽生えているのだと。

静雄は息を呑む。求める穴を目の前に自身が更に興奮したのが分かった。これこそが真実。同じく、これこそが――。





「退けよ、化け物が!!」


しかし、その真実にたどり着く前にガシリと顔面から蹴られた静雄の身体は、呆気なく臨也から遠ざかっていった。意識が穴へ入れることに集中していたことが仇となったのだ。

ドスンと間抜けな音が響いた路地は、まるで私は何も見てもいなければ聞いてもいませんとばかりにすぐに静寂が訪れる。訪れた沈黙はあまりにも冷えて痛々しい。



「触るな。触るな、」



罵倒と共に臨也の赤い両目が鋭く光る。形作られてしまいそうな濃い怒気を孕みながら、臨也は更に体勢を起こし、手元に落ちていたナイフを手にする。これ以上俺に触るなら殺すよ。建前の笑顔で告げられたその宣言は、しかし本人よりも誰よりも静雄には明確な警告に聞こえた。ごくりと息を呑む。背中に浮かんでいた汗はまた別の汗とくっつき脂汗となって筋を伝っていく。ヤバい。これは駄目だ。静雄はこの時確かに臨也に恐怖していた。それは自分のものをしまう前にそそくさと臨也に気に入りのコートを差し出したことにも表れるとおり、誰よりも何よりも目の前の相手をこれ以上怒らしてはいけないという防衛本能からだった。

次はない。この時静雄が感じとったのは正しく自分の身体が深く傷つけられるというあまりにも現実味溢れるビジョンだった。



「分かればいいよ、この下衆野郎が」



吐き捨てられた言葉は酷く冷たく生々しい。静雄は自身と隠される穴を互い見て、一言小さくこう盛らした。それが臨也の逆鱗に触れるとも知らずに。





「     」





















12,02,29(wed)閏年


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