(はじめに)
*ドタチン視点です。
*以下は『Aの定義付け。』メンバーとのコラボ『三人三色』のお話です!
→元の話は『眉目秀麗の定義とは。』のせいはちゃんの【over Write】でした^^

そして『なんかショコラ』のちょこちゃんも現在過去の話を鋭利製作中ですー!そちらの方もよろしくお願いします(^□^)人(▼皿▼)
(後日別ページに移動します)

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【over world】













がいちゅう、といえば漢字に当てはめると二種類ある。『害虫』と書く場合と『外注』と書く場合だ。もちろん字が違えば意味も違うことは言うまでもなく、使い方を間違えればとんでもないことになるのはそれなりの常識を持った人間ならば誰だって分かることだ。害になる虫。それが害虫。その虫は多くの場合、薬などを使って退治される。もちろん人間の判断によって。

はっきり言ってしまえば、害虫にしろ外注にしろ、どちらの言葉も使う頻度を考えれば似たり寄ったりだ。だが、それでも前者を人に向かって使えば酷く差別的で非人道的なものに成り変わる。どんなに冗談だとしても、もしくはどんなに本気でそう思っていたとしても、人間は虫ではない。しっかりとした区分からして人間は人間として人間から認められ、人間としてそこに存在しているのだ。例え差別が蔓延る世の中だとしても人間という本質は変わらないと俺は少なくともそう信じている。だからこそ、人間を人間たらしめないこと。それがどれほど愚かなことなのか、自身を高尚化している馬鹿どもは早く気がつけばいい。

特に、害虫だなんて言葉を恋人に対して使う奴はもはやその恋人のためにもとっとと別れるべきだと俺は思う。一体どういう神経をしてそんな言葉を紡ぐのか。その神経は理解できないし、理解したいとも思わない。好きだから付き合って、互いを思いやれるから好きなのではないのだろうか。



「…………はぁ、」



先日の静雄と臨也のやりとりを思い出し、溜息が零れる。手に持った本も考え事が邪魔をしてなかなか前に進まない。今日は諦めようと布団の頭元に置き、また天井に視線を向けるが、どうしてもあの時の臨也の泣きそうな表情と、静雄の歪んだ笑みが忘れられない。
どうして。なんで。そんな言葉ばかりがクルクル回る。好き合えば上手くいくはずなのに、あいつらはいっこうに上手くいかない。そもそも言葉やその意味を知らずして果たして恋をすることが出来るのかと言われればまずノーではないのか。自分と他者を結び付けるのは言葉と意味だ。これがなければ意志疎通はおろか、人間はコミュニケーションすら取ることが出来ない。きっとあいつらにはそれが足らないのだ。特に静雄の方が。
愛を示せない男に恋人なんて必要ない。



(――どうしたもんかな)



臨也がいなくなった、お前は知らねぇか、と聞かれたのは今日の昼ごろだったはずだ。その時にざまーみろと思ったことは秘密だ。臨也だって人間だ。好きで付き合っている奴に酷いことを言われて傷つくような神経くらい当たり前に持ち合わせている。そもそも臨也の事に関しては人一倍鋭いはずの静雄がそんなことに気付いていないはずもない。あいつは恐らく、気付いているのに気付いていないフリをしている。それも良くない方向に臨也の事を意識しながら。



「気付いていながら気付かないフリをして、それであいつも臨也も幸せになれるのかよ……」



問いかけたい相手は今、目の前にいない。























――夢を見た。真っ暗なセカイ。右も左も分からないような自分がその場に居るのかすら不安になってしまうような真っ黒で真っ暗なセカイで、しかし導くように立ち並ぶ様々な色をしたキノコや花。

確か寝る直前に読んでいたのは不思議の国のアリスだったはずだ。大人と子どもの境目を生きる少女の話。感情も思考も全てが不安定で、それでいて何にも気付かないように生きていくと事が出来る幸せな時代。彼女はそんな境目をなぞるように不思議の国をも走り回る。何も気がつかなくていいようにと。ひたすらに喋り、自分に問いかけをしながら。

図書館で本を探している時にたまたま目についたその本は、久しぶりに読みたいなと思わせる何かを持ち合わせていて思わず手に取ってしまった。途中で心配事に意識を奪われ、読んでいる途中で寝たものの、頭の中にその物語の描写が所々残っていたらしい。こうして夢の中にまで出てきてしまうほど印象に残っていたとは驚かされる。




「――どた、ちん?」


「いざや?」




ふむ、と夢の中なのに今の現状を妙に納得できてしまい、顎に手を当てて一人で頷いた時だった。不意に聞き覚えのある小さな声が聞こえた気がして勢いよく振り返った。それはあの別れた際に聞いた臨也の悲しそうな声に酷くそっくりで、寝る間際に考えていたことを思い出しざわざわと心が騒ぐ。



「臨、也?……臨也?」



しかし、そこには誰もいない。後ろはおろか、右も左も、そして三百六十度ぐるりと見回してみても声の主は見つからない。左右には相変わらずキノコと花が様々な色で咲き誇り、そして自分の前後を挟む道の向こうには真っ暗な闇が広がっているだけだった。少し声がしたらしい方に歩いてみても、やはり誰もいない。

困ったなと純粋に肩竦めながら、消え入るような呼び声がする方へ慎重に耳を傾ける。アリスの世界ではパンジーや芋虫が喋るらしい。それに、道に沿って進むのがこのセカイでは最善とは限らない。

それならばもしかして、とふと思い辺り、駄目元で花を分けいるように雑木林に踏み込んでみた。これで違えばさっきのところには恐らく戻ってこれないなと頭の中で分かっていても、それでもどうしても歩みを止めることは出来なかった。



「臨也」




しばらく歩いている内に、次第に呼び声が大きくなっていることに気付いて、そこでようやくこれが正解だったと知る。妙にでかいパンジーに囲まれたその辺りを抜ければ、そこにはどこから持ってきたのか分からないほどたくさんのぬいぐるみで成り立った山が出来ていた。そしてその中に、一人。探していた人物はいた。



「どたちん?」



人形を抱きしめて、首を傾げながらこちらを見ている子どもが一人。かわいらしい顔をしたオレンジのライオンを胸にぎゅっと抱きしめる姿は普段とは似つきもしないけれど、間違いなくあの折原臨也だとそう思った。




「どうしたんだ?こんなところで」




夢にしてはやけにリアルだなと感じながらその子どもに近づき抱きあげる。大人しく抱かれた小さな身体はやはり子どもらしく温かい。手に持った人形は離す気がないようでしっかりと抱きしめているが、それでも反対の手では自分のシャツをしっかりと握りしめていて可愛らしく思う。




「どたちん、あのね……」


「なんだ?」




真っ黒な髪に、暗めの赤い瞳。いつものように流暢に言葉を吐き出さない口は、今もたどたどしく自分の名前を呼び続けている。その様子がまるで迷子みたいだと思った。



「どたちん、どたちん。白ウサギが、いなくなっちゃった……」


「白ウサギ?」


「俺が大好きな大好きな白ウサギ。いつも一緒にいるのに今日はどうしてもお出かけしなきゃいけないからって、それで……」


「ここでお留守番をしてたのか?1人で寂しかっただろうに、よく頑張ったな」


「うん……」



こくりと不安げに頷いた小さな頭を偉い偉いと撫でまわしてやれば、えへへ、と少し嬉しそうに目元を赤らめさした。それでもどこかぎこちない笑みは、最近の臨也の様子と被っていて少し戸惑ってしまう。そういえば臨也が心から嬉しそうに笑わなくなったのはいつからだろうか。そんなことに改めて気がついて、ひょいっと誤魔化すように小さな身体を更に抱き上げてみる。目線が自分と同じ辺りに来るように持ちあげれば、丸い目がさらに驚きで丸くなった。

昔は些細なことでもこれ以上にもっともっと色んな表情を見せてくれていたはずだった。だから、かもしれない。





「一緒に白ウサギを探しに行こうか」


「――――え?」




またしても驚きで大きくなろうとする目を見届けるその前に、わしゃわしゃと丸い頭を掻きまわしてやる。堪らず零れ出してくる自分の笑いに、子どもの方もつられるようにして小さく笑い出す。

口からぽろりと飛び出た誘いは、この子が嬉しそうに笑う瞬間に立ち合えるならという願望があったから。もう長い間見ていないあいつの笑顔がふいに見たいとそう思ったから。ただそれだけのことだった。




「どた、ちん!痛いよ!!」


「はははっ。そうだったな、わりぃわりぃ」


「もーー!」


「俺も一緒に探してやるよ」




だから白ウサギを探しに行こう。そうすることで臨也が心から笑ってくれるというのならどこまでもお前に付き合おうじゃないかというそんな思いを込めて、俺は自分の足を大きく一歩踏み出した。























パチリ、と目が覚めた。やはり夢だったのかと身体を起こす。ぼうっとした頭をがしがしと掻きながら枕元へと視線をずらせば、案の定そこには昨日読み切れなかった本が一つ。不思議の国のアリス。大人と子どもの境目を生きる少女の話。感情も思考も全てが不安定で、それでいて何にも気付かないように生きていくと事が出来る幸せな時代。彼女はそんな境目をなぞるように不思議の国をも走り回る。何も気がつかなくていいようにと。ひたすらに喋り、自分に問いかけをしながら。

そんな本の横には充電器に繋がれた携帯が一つ置かれていた。すでに使い始めて二年目に突入している黒のボディ。色んな思いと名前と記録が入った大切なもの。これによって繋がっている関係もたくさんある。
そんなかけがえともいうべき携帯が寝起きには似付かわしくないほど鮮やかにピンクのランプを点灯させていた。誰からだろうか。反応するようにそれを手に取り、メールの受信を開く。
最新の受信メールは一件。それも見知らぬPsychedelic02-savewall@ewax.co.jpというアドレスからだった。




『――門田京平、お前はまた臨也に会わせてやる』





























12,02,15(wed)


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