「なぁ、臨也。このライオンのぬいぐるみ退かさねぇの?」


「まぁーた、それ?やだよ、これ、俺の大事なものなんだから」








































 臨也の部屋の、それもキングサイズのベッドの中が、贅沢ながらも奴の指定席だ。

 奴と言うのはおおよそ臨也の身長の三分の一くらいある大きなライオンのぬいぐるみのことで、いつからいるのか分からないが、布の状態だとか毛並みのぼさぼさ感だとかで、結構長い間、臨也の手元にいるのだと分かってはいる。ここまで使い切るのかというほどのくたびれた感から想像するに、もしかしたら小さい頃に両親や祖父母のどちらかに買ってもらったりした思い出のある品なのかもしれない。とはいえ、何か特別な思い入れなどがあるのかと聞いたことはないために、その真相を俺は知らない。聞けばいいのかもしれないが、聞いたところできっと臨也はこのぬいぐるみをベッドから退かそうとすることを堅くなに拒むことは分かっているのだから、それも手間と言うものだろう。何せ情事の時だけですらベッドから退かすことを許してくれないのだから、相当だ。






「毎回言ってると思うけど、コレ汚れるかもしれないぜ?」



「汚したら殺すから」



「いやいや、吐き出す点で言えば汚す確立が高いのは手前の方だろ」



「……死んで」



「手前を残して死ぬ気はない」



「あ、そう」






 俺の真面目腐った発言に悪態をつきつつも、耳を真っ赤にして布団を顔へ手繰り寄せる臨也の可愛らしさは半端ない。それがどの程度かなんて新羅みたいにボキャブラリーがない俺にはうまく言葉では表現できないが、とにかく普段がツンツンしているだけあって、こういった時に見られるギャップの破壊力は物凄いということだけは言える。おかげさまで俺の薄っぺらい理性は毎回毎回ぐらぐらと揺れ動かされる始末だ。

 しかも、今も尚、押し倒した俺から逃れようと、乱した服を掻き抱いてもぞもぞとしている様子ははっきりいってもうヤバい。小動物かと言わんばかりのその動きと、羞恥から来た涙目のダブルパンチときたら吐血物だ。実際、初めて抱こうとしたときに鼻から血を垂れ流したことは記憶に新しい。

 そのことを思えば、今の俺はだいぶ成長したように思える。何せ今のように恥ずかしさで一人居た堪れなく悶えている臨也をそっと眺めていられるくらいには、成長した。というか、「可愛い、可愛い」という所謂愛でるという感情が、落ち着きを見せ始めたのかもしれない。

 ちなみに、それは可愛いという感情に慣れただとか、後退的で怠惰的な関係に落ちただとかそういうマイナス面での変化ではない。一山越えた先にあったのは「もっと、もっと」という飢えのような感情で、触れば触るほど離したくなくなるし、どこかしこも自分のものだと所有物の証を刻みつけたくなるといった独占欲が多く混じっていた。同じように元来のSっ気が禍して嗜虐心も強い俺は、最近じわじわと臨也を色んな意味で可愛がるのがマイブームとなっていた。


 そんなむくむくと膨れ上がりはじめた熱い熱い欲望は、今まさに臨也を抱き潰してしまおうと俺の脳みそを沸騰させている。






「しず、ちゃん」



「なんだ?」



「激しくしたら殺す」



「…………え、っと…」







 沈黙は肯定の意を示すんだ、と言われたのは果たして誰からだっただろうか。そんな古びた記憶を巻き戻しながら臨也に掛ける言葉を探してみるも、出てくるのは、「俺の思考はそんなにも分かりやすいか」、といった率直な感想だった。





「分かりやすい以前の問題だし」





 腕の中でギロリと睨みつけられてしまえば、こちらも苦笑いを溢さずには居られない。誤魔化すようにどうにか視線を逸らしてみるが、しかし、それを許さないとばかりに今度はライオンのぬいぐるみと視線が混じり合った。ぼっさぼさのくたびれたそんなぬいぐるみと見つめ合うのは、何も一度や二度のことではない。確か、抱き始めてから幾度となく、というか毎回のようにこいつと目が合う。もちろんベッドにいるのだからふとした拍子に見てしまうのも仕方がないことだとは思うが、それにしたってエロいことをしている最中、それもガンガンにバックから攻めている時とかにこいつと目が合う時の気まずさと言ったら、まず、ない。






「…………え、っと……」



『…………』







 ちらちらと円らな瞳でこちらを見つめるライオンの表情は普通に見ればまぁそこそこ可愛らしい顔をしているとは思う。が、しかし。その瞳や軽く弧を描いた口元が、ヤッている最中や、こうして臨也に責められている時には、やたらと俺のことを蔑んで笑っているようにしか見えなくて非常に居た堪れなくなる。もちろん、ただのぬいぐるみなのだからオブジェとしてスルーすればいいところを律儀に毎回毎回意識してしまう俺も悪いのかもしれないが、そのせいで攻めきれずに遠慮してしまうことが多いのもまた事実なわけで――。














「――なぁ、」



 臨也の肩に顔を埋めこんで、首筋に頬を擦り付けながら、自分にしては甘ったるい声を出してみる。ぬいぐるみに遠慮している自分が情けないと思うが、しかし、諦め切れるほど臨也を欲していない訳でもない。こうしてぬいぐるみからも臨也からも視線を逸らせば、少しは何かが自分の思い描く通りに進むと思ったのは、俺の浅はかな期待。本当は気まずいからヤる時くらいはこのぬいぐるみを退けて欲しいと思うのだけれども、本心を言ったところで臨也は聞いてはくれないのだろうし、逆にこれ幸いとばかりにぬいぐるみを更に追加してきそうな気もして、言うに言いきれないというのが現状でもある。だからこそ、俺は今日も密やかに足掻くしか出来ない。





「ダメ、か……?」



「明日仕事あるって言わなかったっけ?」



「だから、えーっと、今日は優しく、する」



「…………、ホントに?」



『…………』



「……た、ぶん」



「たぶんじゃ却下ね。どいて、今すぐにそこからどいて」















11,11,28(MON)


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