【十月三十一日 PM.14:45】





トイックオアトリート。そんな素敵な呪文と共に、人と人とが楽しみ合うそんなイベントが好きだった。俺は正直な話嫌われ者だし、イベントごとに縁はない。そもそも、誰も俺に好んで構ってくれないしね。鍋パーティーとか忘年会とか。そんなのとも無縁だ。俺は一人ぼっちのクールな情報屋さん。もちろん、ぼっちというのもこの数年でもうすっかり慣れてしまった。




「なーんていうのは嘘だけど」





目の前に余り余るほどの手作りのカボチャクッキーやカボチャのマフィンなどを見つめて呟く俺は、それはそれは酷く哀れだ。俺がこんなこと言うのもなんなんだけど、これはちょっと死にたい。






「なんで今年に限って誰も来ないんだよ……、馬鹿」






部屋の中にぽつりと響く沈みきった声が自分の現状を更に虚しくさせる。はぁ、と零した溜息もやたらと重い。それはどんな重機でも表現できないほどうっそりとしたもので、とてつもなく俺が見てきた自殺志願者の吐く息とそっくりだった。泣けるのなら泣いてしまいたい。


どうしてこんな状況になってしまったんだっけ。と、自分で作ったカボチャクッキーを口に中に放り込みながらこれまでのことを思い返せば、今まで当然のように行われてきたハロウィン限定での俺に対する数々の仕打ちが記憶に蘇って来る。



始めてこのイベントが発生したのは確か一昨年くらい前のことだ。それもあまりいい思い出ではない。イベントと縁遠い生活をしていた俺はお菓子を用意していなくって、あの呪文を唱えられるたびにそれはそれは酷い悪戯を受けた。

天敵ですらここぞとばかりに便乗してきて、俺を標識で殴ってきたし、波江なんかは得体のしれない薬を吹っ掛けてきて暫くの間頭に猫耳が生えていた。そして去年はその経験を踏まえてお菓子を用意したものの、やっぱり来良の子だとかが俺の元にやってきて、次々にお菓子を持ち帰っていったせいで、肝心の天敵と新羅、そしてあの妹たちが訪れた時にお菓子がなくなっていて、またしてもとんでもない目にあったのだ。思い出しただけでも吐き気がする。



と、まぁそんな感じでこれでもここ数年、ハロウィンに限ってだけはここぞとばかりで、俺の元にイタズラ目的で訪問してくる人間がいたわけだ。イベントとは無縁な俺だけど、目的はなんであれ構ってもらえることに悪い気はしていなかったというのもある。やっぱり一人は寂しいし、周りが盛り上がっている時こそその厄介な感情は募るものだ。クリスマスや、初詣、あとはそうだね、なんだろうか。みんなで騒げるようなイベントが思いつかないんだけど、それでもこうやってみんなと一つのことに騒げるというのは凄く嬉しい。年々俺の元に訪れてくれる人間は増えて行くし、作ったお菓子を驚きながらも美味しいと言って食べてくれるその姿を見るのも好きだった。だからこそ、今年は去年の倍くらいのお菓子を作ってみただけなんだ。人間は学習するし、期待もする生き物だ。二年連続と人が増えていったら誰だって期待するものだろう。だから、何もこうなったのは俺が悪いわけじゃない。悪いのは、あの妹たちや来良の生徒、それに新羅の奴らが今年に限って誰一人来ないというありえない行動を起こしたせいだ。一体なぜ今年なんだ。せめて去年にしてくれたらよかったのにと愚痴らずにはいられない。そうすればまだ傷は浅かったし、こんなにもお菓子が余ることはなかった。虚しさや寂しさだなんて余計な感情もふくらまなかっただろうし、なにより、そう、なにより酷過ぎる。期待させるだけさせといて、やっぱ俺のことをハミらせるだなんて最悪な奴らだと思わないだろうか。外道だ。外道。あいつらはきっと人間じゃない。





「…――ほんと、最悪」






サクサクと噛みしめるクッキーも美味しいし、もちろんマフィンだって同じように美味しい。けど、美味しく出来たはずなのにどことなく味気なく感じるのはなぜだろうか。






「こんなことになるなら始めっから作らなきゃよかった」





元から料理は好きだけど、お菓子に関してだけはあの波江さんを唸らせるくらいには評価が高いはずだった。でもそんな出来栄えのお菓子も誰も食べてくれないのだったら意味はない。無駄に机の上に積み重なっているだけだと、もはやただのゴミだ。








11,11,11(FRI)


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -