*五万打リクエスト
└匿名さま『四木と四木に甘える臨也』

















「四木さんこれ買ってくれるんですか?!」


「あなたが煩いので仕方がなくですよ」


「やったぁ!!四木さん大好き!!」


「はいはい。鬱陶しいんであまりひっつかないでください」




目の前の光景を見て固まった。いや、影はもふっとヘルメットの隙間から溢れでたわけなんだが、これは一体どういうことなのか。

依頼で訪れたおもちゃ屋。そのぬいぐるみコーナーで見かけてしまった知り合い。もとい私の依頼主と新羅のお得意さん。

どう考えても繋がりはあるような感じの組み合わせだが、果たしておもちゃ屋という場所にいるものかと聞かれれば、まず自信を持って首を横に振ることが出来る。

例え、寄り道だとしても、なぜこの場所をチョイスしたのかは甚だ疑問だ。似合わなさすぎて、違和感を覚えるしかない。

しかも驚くべきことは会話の内容だ。四木は裏の世界の男で、臨也ももう二十を回っているというのに、まるでそのやりとりは親子のようだ。よく新羅が二人は似てるよね、と冗談ながらに言っていたが、こんな場面に出くわしてしまったらその信憑性も上がってしまう。



「ふわあああああ!!!この羊のぬいぐるみ可愛いなぁ可愛いなぁ可愛いなぁ」


「言っておきますけど、どれか一個しか買いませんからね」


「一つだけ…、一つだけ…。羊さんか、ペンギンさんか。あぁ、でもこの白くまさんも可愛いよなぁ……」





そんな四木の注意に対して、臨也も臨也でこくりこくりと素直に頷きながら、ぬいぐるみとぬいぐるみを見比べて吟味をしているという光景に、私の思考回路がついに悲鳴を上げた。なんて聞きわけのいい子供だろうかと思ってしまった自分の頭を、まず新羅に診てもらった方がいいかもしれない。

少なくとも、私の知る折原臨也はこんなキャラではない。趣味というだけで人を勝手気儘に引っ掻き回して崩壊させるような最低な男だ。特にぬいぐるみなんてものを見ようものなら、散々馬鹿にした挙げ句携帯と同様に踏み潰し、そして所詮は布と綿で作られたもんだろと元も子もないことを言って、子どもから夢を奪うと踏んでいた。それだけ臨也はどこまでいっても反吐の出るような奴なのだ。

というのに、そんなイメージの男が、しかし今回に限っては、全く逆の言動を取っているという現実。それに私は戸惑いを隠せない。

酔っているのか。はたまた記憶を失っているのか。そんな疑惑すら浮かび上がってきてしまうあたり、見なかったことにしてあっさりと自宅に帰るなんて流石に出来ない。なんせ私が個人的に嫌っているとはいえ、新羅がいうには友人らしいのだ。記憶がなくなったりしたことで、四木に扱き使われ、酷い目に遭うのは少し可哀相だと思う。……あくまで本当にほんの少しだけ。







「ほら、会食の時間までもうすぐですよ」


「待ってよ、四木さん! あともうちょっと……!」


「時間がないって言っているでしょう? もういい加減に向かわないといけないので、迷っているのは全部買ってきなさい」


「――え?」


「ほら、呆けている暇があったらさっさと行ってきなさい。私の気分が変わっても知りませんよ」


「でも、」


「……いいから、依頼料の一つとして素直に受け取れ」


「――あ、ありがとうございます!!」





そんな私の複雑な心境など露知らず。ぱぁぁっと満面の笑みを浮かべた臨也は、そのまま四木に抱きついたかと思うとレジの方へと走って行った。パタパタパタ、と遠ざかっていく足音がやたらと軽い。もちろん、その手には羊と白くまとペンギンのぬいぐるみが両手いっぱいに抱きこまれている。











「――おや、岸谷先生のところの」


『こ、こんにちは……!!』




なんだ、さっきの笑顔は。と、見たこともない臨也の表情に唖然としていたところに、四木に振りかえられて思わずたじろいでしまう。これでも気配は消していたつもりだったんだが、いつから気付いていたのだろうか。やはり、向こうの職は侮れない。






「そんなに動揺しなくても取って喰いやしませんよ」


『はははは……』




無表情がこちらを捉えて何とも居心地が悪い。PDAをそわそわと右手や左手に持ち替えながら、どうにかこの場を去るいい挨拶でもないものかと必死で探ってみたが、焦れば焦るほどいい言葉は出てこなくて、結局は失敗に終わってしまった。





『さっきの、臨也ですねよ……。いつもと雰囲気が違うことありませんか?』






少なくとも、苦し紛れの会話の一歩は、自分的には失敗だと思った。









「どうも小さい頃は親が海外転勤だとかで居ないわ、いざ帰ってきたかと思えば妹が居たとかで、うまく甘えられなかったみたいですよ」



「え、h」



「本で読みましたが、長男や長女にはよくある欠落みたいですね。甘え方が分からない。頼っていいのか分からない。不安だけども自分は一番上としてしっかりしないといけないから何事もない振りをしてみせる。そうやって弱みを見せまいと抱えこんでしまうらしいんです」






それなのに、そんな不安の中で、思いの外四木からすんなりと返ってきた反応。それに拍子抜けをしてしまう。『は?』と思わず打ってしまったのも仕方がないことだった。

新羅の家に来るときだって必要最低限、それと一種の脅しめいたものを語る時以外は、四木は無駄口を開かない。そんな割とノンフランクな男だと、私は少なくとも認識していた。それが、こちらが話を聞いていないのに一方的に話しかけてくる。それもあろうことかあの臨也についてだ。




「長男長女説を抜いても、あいつ自身が天性の天の邪鬼で捻くれものでしょう?甘えるだなんて素直に出来るわけがない。子どもながらに周りを見渡して、自分は誰かに頼らないと生きていけない弱い人間とは違うと言い聞かせていたようです。おかげで、あんな風に成長してしまったわけですよ、悲しいことに」


『はぁ……』


「感情を表に出してもらうようになるまでにはとてつもなく時間が掛かりました。出会った当初は感情の幅も狭かったですし、何より人として色んな物が今よりずっと欠けていたんです。そんなあいつが、あぁやって他人の行動に一喜一憂するようになったのは本当に良かったことだと思いますね。――まぁ、素直に甘えてくるようになったかと思えば、ぬいぐるみが好きだなんて言い出して驚かされましたけど。それもきっと寂しさを紛らわしたい心がどこかにあるんでしょうね」






この男と臨也の付き合いがどの程度なのかは分からない。けれども、話を聞く限りおそらく長い間付きあってきたのだろう。新羅のいうように、似ているかと聞かれれば似ているかもしれない二人。白と黒の対称色の服という点を除けば、雰囲気や人差し指を立てて物有り気に笑みを作る仕草もそっくりだ。もちろん、私にはどちらがどちらに似たのかはなんて分からない。けれども、癖が移ってしまうほどの長い間一緒に居たのだと思うと、なんだか微笑ましい気持ちになる。






「おや、少しおしゃべりが過ぎましたね」





なんとなく、色んな疑問がすっぽりと収まったところに、タイミング良く四木が口を開いた。その目はこちらを見るわけでもなく、じっとレジの方を窺っている。その視線の先では、店員がぬいぐるみたちを袋に入れていくのを臨也がそわそわとした様子で見つめていた。






「……あぁ、さっきのことは他言してもいいですが、くれぐれも事実相応のことをお伝えください。あと、あんな臨也を見たからといって物を買い与えないようにお願いしますよ。あれを甘やかし過ぎると良くないので」





















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遅くなりましたが以上が、匿名さまリクエスト『セルティから見た四木に甘える臨也でした』!


初セルティ視点に加えスランプ気味でかなり違和感がある状態なのが本当に申し訳ないです…っ


でも文章はなんであれ臨也は四木さんに甘えるのってすごく可愛いですよね!四木さんもどこか昔の自分とかを重ねて地味に臨也を甘やかしてるといいなと思います〜


本当に臨也の過去が気になります。むしろそれを想像すればするほど涙が出てきます…!



またちょこちょこと書き直すかもしれませんがお受け取りくださいませ〜!本当に遅くなってすいませんでした!!




12,02,10(FRI)


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