人生はほんのちょっとのスパイスで楽しいものとなる。

そう言ったのは果たしてどこの誰だっただろうか。テレビでの宣伝だったかもしれない。もしかしたら映画の宣伝文句や、はたまた雑誌や小説といった類だったかもしれない。ぼんやりと頭に残るそれは、あくまでそんな文章が存在したというところに留まり、一向に明確な答えを思い出させてはくれない。


けれどもやっぱり、その一文だけはしっかりと頭に残っていて厭になる。誰が言ったのか。どんな流れでそう言ったのか。今はそれが気になる。スパイスは何でもいいのか。たとえ自分を混沌に貶めるような傍迷惑なものでもいいのか。人生はそう簡単には楽しくなんてならない。なるのはうんと高い障害を乗り越えてからだ。そこでようやく楽しみがやってくることを俺は知っている。







「んで、おれはどうしたらいいんだよ」







ことの発端はちょっとした偶然だった。しかし偶然の割にその出来事は大きな影響を俺に与えた。


手に持っているのはぐしゃぐしゃになったポスター。言い訳をさせてもらうとグラビアアイドルなんてかわいらしいものでもない。ロマンはないし、むしろその逆だ。これはデジカメを延ばしに延ばして作られた手製のポスター。その写真に写るのはやっぱり可愛らしい女の子ではなくて、小憎たらしい笑みを浮かべた男だった。







「はぁ――…」







ため息は重い。重くなる理由もわかる。俺は間違いなく今、現在進行形で頭がおかしくなりつつある。捨てればいいとわかりきった答えに悩み、手にポスターを握りしめて寝室の壁の前に佇んでいる。


どうしてこんなことになったんだろうか。そんなことを考えたって仕方がない。たまたま仕事で踏み込んだ集金先の馬鹿がこんなポスターを貼っていたのが悪い。しかも、タイミングが悪いことにトムさんが風邪で倒れて俺一人だったということがさらに最悪だ。もし、トムさんがいたら俺は間違いなく、たとえ動揺をしていたとしてもポスターをはがしてまで持ち帰ったりはしなかった。






「はぁ――…」






ため息をつくと幸せが逃げると言ったのは誰だったか。今日はことごとく何もうまく思い出せない。思い出せるのは忌々しいことにあのノミ蟲の顔と、そして今手に持っているポスターの微笑み。思い出したくないのだけれども思い出してしまうのは、ただ単純にあいつが俺の中でムカつくほど最低なクソ野郎だからだと信じたい。







「開けんのか、開けんのかよ、俺……」








言葉とは裏腹に、くしゃくしゃになったポスターをゆっくりと開けていく自分が実に情けない。人間は欲求に素直だと改めて思う。特に、俺はどうやら我慢というか、理性が乏しいらしい。喧嘩っ早いし、腹が減ったらすぐ何かを食べたくなるし。それにアレの時だっていつもあいつを――。











「だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」









なぜこんなものを見る必要があるのだろうか。それでも開こうとしてしまう自分の脳みそは果たして何を求めているのか。笑顔か。笑顔なのか。叫ぶ声に反応して外でカラスたちが鳴き叫ぶ。







「ありえねぇ、ありえねぇ!!」








泣きたいのはこっちの方だ。嫌いで嫌いで仕方がなかった相手に俺は、なにを、求めているのか。


カサカサと音を立てて開いたポスターにはやはりきれいな笑顔でこちらに微笑みかける臨也がいる。夕日に照らされて頬が赤く染まっている。その笑顔の横には誰がいるのだろうか。誰か答えてくれ。もやもやとする気持ちは皺のポスターのようにまるで奇麗にハれない。













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……最後のオチが書きたかっただけなんですすいません。

どれだけシズちゃんを変態にしたら私は気が済むのか…。



11,10,14(Fri)


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