そのまま、二限目以降の授業をすべて休み、臨也は静雄に手を引かれる形で帰宅することになった。どうせ休むのなら自宅へ帰る、と言い張る臨也に、


「それだとたぶん意味がないんだ」


と言って、静雄は頑なに腕を離さなかった。












 殺人的な日差しに皮膚を突き刺されながら、男二人が並んで駅まで歩く様は非常にビジュアル的にも体温的にも酷く暑苦しい。せめて手だけでも離してほしいと頼んではみるが、そんなことなど構いはしないと静雄はずんずんと歩を進めていく。


身長に然程差はないものの足の長さの差なのだろうか。臨也は小走りで静雄に付いていくのがやっとな状態だった。そのせいで二十分ほどかけて駅まで連れてこられた時にはすでに背中は汗だくになっていた。



 時刻は十時五十七分。次の電車が来るまで約八分。


 冷房の効いた待合室に向かおうと臨也が足を動かせば、入れないぞという制止の声をかけられた。静雄に言われた通り、ちらりと覗いた待合室はまるで満員電車のように混雑した状態だった。


仕方なく素直に諦める。あれでは冷房が効いてないも同然だろう。むしろ余計に暑いに違いないとそう確信する。


 大人しく三両目の二ドア目の立ち位置に並び、背に貼りつくシャツを乾かすように臨也は裾から何度も空気を送ることにした。そのたびに皮膚に触れる濡れた感覚に眉間の皺を深めながらも、臨也はせっせと手を動かし続けた。せめてタオルを持ってこれば良かったと思うも、今さらどうしようもない。大して効果は見込めないが少しでも早く汗が乾いてくれることを願うばかりだ。


 そんな臨也に対して、静雄は汗こそ浮かばせてはいるが、服を濡らすほどの汗はかいてはいなかった。どこか涼しげな顔をしたまま、ぼんやりと上りの線路を見つめている。



――何か見えるのだろうか。



 そう思い、臨也も手を忙しなく動かしながら覗きこむ。視線の先。両サイドをホームで囲まれたその先に広がるのは、長々と延びる線路と真っ青な空に一つだけ浮かぶ入道雲。周囲に聞こえる音はといえば埋め尽くさんばかりの蝉の鳴き声だけだった。


 絵描きや写真家が好みそうな構想をしている。



 しかし、別段何か珍しいものがある訳でもない。ありきたりなそんな風景でもあった。





「いい天気だ」





そんな静雄の呟きに、臨也は手にした携帯で時間を確認する。




――電車の中、涼しいといいな。












11,08,25(Thu)


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