ある日突然、送り主不明の手紙が届いた。封筒に書かれた文字はなかなかの達筆で見ているこちら側もどこか清々しい。自分の字とはまるで違う。


ただ、その送り主に一言文句を言わせてもらうとしたら、いちいち文字の横に振り仮名を振る必要はないということだ。


なぜ俺自身の名前にまで振り仮名を振られないといけないのか。ここまでくれば、ただ単純に俺を馬鹿にしているとしか思えない。






「――、あ」







そんな考えに到達した瞬間。気が付いたら、グシャ、と白い封筒が音を立てていた。


その音に我に返り慌てて手の力を抜いてみたが、どうにもこうにもすでに手遅れのような気がする。自分の名前を中心に圧縮されたそれを、両手を使ってどうにか元に近い形に戻してみるが、深い皺が刻まれすぎてやはりなかなかに酷い有様だ。





――どうすっかな。人からもらった手紙だっつーのに。






まるで縋り付くように、辺りに視線を彷徨わす。そうすれば、テレビの横にあった鋏が目についた。






(そうだ、手紙はとりあえずまず中身が大切だろう)





そう思いたち、気持ちを少し落ち着かせながら、封を切ることに決めた。


ぞんざいに扱ってしまった手前、なるべく丁寧に切りこみを入れてみる。慎重にバージンカットを入れ、そのまま綺麗に端から端まで切り込みを入れれば、パチン、という音とともに切れ端が机の上に落ちた。それを見届けてから、中を覗く。







「……ん?」






目の淵のように開いた封口には、一枚の紙が、やはりしわくちゃの状態で入っていた。中の紙を慎重に引き出す。そこには――。






『丁寧に開けてくれたのは嬉しいが、手紙がぐちゃぐちゃになってしまったじゃないか。次は慎重に開けろよ、平和島静雄』






「は?」と声を出す間もなく、ピンポーンという軽快な音に意識が傾く。


次は慎重に、ってどういうことだ、と首を傾げながら玄関に向かえば、最近洒落たCMを流すようになった青と白の宅配便屋が立っていた。







「サイン、お願いします」




と、爽やかな笑顔を見せる青年の手に視線を遣れば、先程の封筒と全く同じ仕様のものが握られていた。


それに驚き、慌てて苗字を書き添える。しかし空白にしては狭い平和島という苗字。しかも、書くには少し画数が多くて時間がかかる。それが焦れったくて最後の『島』という字だけ平仮名にした。



「ご苦労さまです」と、それを無愛想に渡す。そうすれば、「毎度ありがとうございました」と返された。





去っていく青年の後ろ姿を見送りながら、手では封を切りはじめる。ビリ、ビリ、という細かい擦れた音が響いた。


ボコボコになった切り口を覗く。そこには今度は紙が二枚入っていた。








『今度は封筒が皺にならなかったようでよかった。しかし先程とは違い、手で開けるとは極端だな、お前は』








一枚目の文章に、なんで、どうして、という疑問が頭を生め尽くしていく。


タイミングのいい、宅配。俺の行動が事前に書き留められている、手紙。


偶然にしてはあまりにも出来すぎてやいないか。まるで俺を監視しているような、計算し尽くした差出人の存在に背筋がすぅっと冷たくなる。







『おいおい、なんて顔をしてるんだ。面白い奴だな。お前を監視したりなんてしないよ。なんせ俺が興味があるのは後にも先にもただ一人だけだ。――あぁ、そうそう。次は焦らずにちゃんと「島」という字を感じで書けよ。島だけ平仮名だと字を覚えたての子どもみたいだ』







読み終えた次の瞬間。まさかと思う間もなく、再びチャイムが鳴った。


目の前にあった扉を間髪開けず条件反射のように開けば、目を丸くした宅配業者と出くわした。







「――ッブ、ブ、ブラックキャット大和です。た、宅配物をお届けにあがりました!!」








おどけた声を耳に入れながら、素早く業者が先程の封筒と、そして今度は小さめの箱を手に持っていることを確認する。


気味の悪さと焦燥に駆られながら、今度は間違いなくきっちりサインを施し荷物を受け取った。


そして業者を残してまま、慌ててリビングに運び込む。









『今度はちゃんと名前を書けたようだな、偉いぞ平和島静雄』









箱よりも先に封を切れば、やはり達筆で書かれた文章が目に入った。


まるで行動が読まれている。


その気味悪さに肌が粟立つと同時に、自分だけしか知らないはずの秘密がバレてしまうような嫌な予感がして、全身から汗が吹き出した。



ドクンドクンと大きく鼓を打つ心臓に、落ち着けと言い聞かせるも意味はなさない。逆に酷くなっていく鼓動はまるで耳で鳴っているのではないかというほど、しっかりと聞こえてきて、手紙を握る手がアルコール中毒者のように大きく震えた。














『しかし、ちゃんと配達してくれた人間は敬え。そんな落ち着きのない男だと後々損をするからな。次からは気を付けろ』




『あぁ、そうだ。その箱の中身は俺からお前へのプレゼントだ。お返しなんてものは気にしないでくれ。お前がいると池袋が生き生きしていてな。これは俺からのほんのちょっとの感謝の気持ちだと思ってくれたらいい』







『きっと気に入る』











『――後生大事にするといい、盗撮マニアの平和島静雄くん』







最後の文章を合図に、勢いよく箱を引きちぎれば、やはりそこには、想像した通り、色んな姿で写された天敵の写真が無造作に詰めこまれていた。























親愛なる、写真でしか彼を愛でれない可哀想な君へ

















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ネット上ではなく未来予知並に手紙でも行動を指摘する九十九屋って気味悪くて面白いかなと書きはじめ…そのまま結局オチが付けられなくてゴミ箱行きになっていたものをリサイクルしてみました。


静雄氏は隠れ臨也コレクター。しかし九十九屋の方が上手で、静雄が持ってない写真ばかりを箱詰めでプレゼントするという話。もちろん九十九屋の一番の観察対象は言わずもがな…


11,06,21(Tue)


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