*プチ小説ですが、ついったーでお世話になってるひら様へ!! 「ついに来た。やっと、来た。来た――…」 嬉しさのあまりに自然と漏れていた言葉は、思いの外大きかったのかもしれない。 擦れ違う人の誰しもが、俺の方を向いて気味が悪そうにする。 けれども、今はそんなことどうだっていい。それよりも、何よりも、俺は真っすぐに行かなければいけないところがある。 道草なんてしてられない。どうでもいい奴の相手なんてしてられない。 「まずは、押し掛けて、そんで慰めてやって。あぁ、そうだ。慰める前に俺に刃物を向けてくるだろうからまずそれを折って……」 臨也と門田が別れた。そんな朗報はまさに俺の心を弾ませるには十分なものだった。 三年付き合ってきたあの二人が別れただなんて、未だに少し信じられない。 けれども、新羅から直接聞いたことだ。また暫く荒れるかもしれないから君も気を付けた方がいいよ、という助言は、まさしく別離の事実を示しているとしか思えない。 革靴を軽快に鳴り響かしながら、駅の階段を上る。 いつもなら気になる人の多さも気にならない。肩にぶつかろうがなんだろうが、とりあえずこっちから謝ってやる。 今はそれだけ機嫌がいい。 「いっぱい怒鳴らしてやろう。そうすりゃ少しはすっきりするだろ。それで怒りを吐き出して、吐きだして。空っぽになったあいつはきっと泣きだすに違いない。そうやって泣いてるあいつを、優しく、優しく、慰めて胸を貸してやればいい。この胸に抱きしめて、それから――、」 ずっと、それは高校の時からずっと、臨也のことが好きだった。一目ぼれというよりも直感的なものに近かったと思う。 初対面から関係こそ崩れたが、俺は明確な意志をもってあいつと付き合ってきたし、それと同時に、変な奴がひっつかないように目を離していないつもりだった。いつだって、俺が一番あいつの近くにいるとも自負していた。 ――そんな高校生時代。 それなのに、俺の可愛い臨也は高校を卒業してあんな男に捕まってしまった。 あの時の絶望はもう言葉なんかでは表現できない。 真っ赤と真っ黒にチカチカと点滅する視界に、頭を鳴り響く激しい鐘の音。それに抗うように、手当たり次第暴れまくった時もある。 そして、自分のものにならないならいっそ。そう思い、俺の邪魔をした奴も、俺にこんなにも好かれているのに気付かないあのノミ蟲も、殺してしまおうと考えたこともあった。 けれども、そんな中でも俺は耐えた。臨也のことが本当に好きだからあいつが幸せなら仕方がないと、どうにか自分に言い聞かせて耐えてきた。 ――もちろん、完全に臨也を諦めたわけではない。 臨也を好きなのは変わらなかったし、門田が臨也を泣かしたり、不幸にしたら、絶対に横から掻っ攫ってやると決めていた。 そうやって機会を窺い続けた数年間。報われないかもしれないけれど耐え忍んだ数年間。 そして、そんな中でようやくやってきた好機。 あの時の俺の決断は正しかった。そう過去の自分を褒め称えてやりたい。 「落ち着いてきたら飯を作ってやろう。こういう時は何がいいんだろうな。ホッとするもの。そうだ、ホッとするものって――」 これからのことを考えるのが楽しい。 見知らぬ人間に泣いた後には何が食べたくなりますか、と訊ねるくらいに俺は、今、浮かれている。 初めからあんな奴、やめとけばよかったんだ。 あんな奴のために、お前が、涙を流す必要はない。 そう思えば思う程上がっていく口端に、さらにおかしさが募っていって、もうどうしようもない。 「それで夜はきっと寂しいだろうから一緒にいてやろう。嫌がっても離してやんねぇ。俺の体温に慣れて、俺の腕に安堵を覚えるまで、絶対に」 待ちに待ったこの機会を逃してなるものか。俺は、ずっと、ずっと待っていた。手放したのはあいつ。だからもう容赦はしない。 だってもうあいつは、俺の――。 こうして世界は廻るのです (君を悲しみから開放するのは、俺) 11,05,30(mon) |