「実はね、ずっと前からシズちゃんのことが好きだったんだ」 なーんて嘘、いくら冗談とはいえつくんじゃなかった。 「本当か?!」 喧嘩途中だったというのに、俺の告白を聞いて、目をキラキラと輝かし、手に持った標識を俺に差し出す化け物に、俺の頬はひくりと引きつった。 ちょっと待って、予想とはだいぶ違う言動なんだけど。あれ、これ俺の計算間違いなの? おかしくなった名付けて静雄動揺作戦に、クルクルと頭を回転させながら修正を施そうとしてみるも一向に答えは見つからない。 それどころか、相手はなぜかこちらに突き出していた標識を俺の手に握らせて満足げに微笑みだした。 「臨也、俺も好きだ。手前のことずっと前から愛してた。なぁ、俺に一生ついて来てくれ。ぜってぇ幸せにするから」 あ、もしかしてこの標識花束の代りなの? というか、結婚指輪の変わりなわけ?? 標識一本の相場が一体どれほどのものかなんて俺には想像がつかない。 ただ分かるのは、手に持った標識がいつもの『止まれ』ではなく、怖い話でよく登場する誘拐現場をモチーフにされたらしいと噂される標識マークだってことくらいだ。 「よかった。今日こそはお前に告白しようって決めてたんだよな。その標識をわざわざ探すのも一苦労で昨日隣街まで行ったんだぜ?」 ニカリ、と笑うシズちゃんはそのまま俺を抱きしめる。それも抱き潰すことを目的とした力強いものではなく、何かを包み込むような優しさを持って。 あれ、あれ? おかしい。 こんな風に誰かを抱きしめるなんてこと、ただの怪力馬鹿な平和島静雄ができるはずないじゃないか。 変だ。おかしい。どうなっている? 「臨也。臨也。臨也――」 鼓膜に注がれる甘い呟きに、開いた口が塞がらない。 だっておかしいじゃないか。俺は平和島静雄の宿敵に当たる折原臨也で。酷く嫌われ続けてきたわけで。 それが、どうしてこんなことになっている? こんな声、俺は一度として聞いたことがない。こんな表情、俺は一度として見たことがない。 知らない。知らない。俺はこんなシズちゃんを、知らない。 「――しずちゃ、」 「愛してる。愛してる」 夢なら醒めてほしい。 それなのに、手に握り締めたナイフの歯は間違いなく俺の手に痛みを植え付えている。 頭がくらくらしているのは、きっとこのアメスピに混ざる変な匂いのせいだ。 そして、この身体を火照らせるのは繰り返されるこの変な呪文のせいだ。 こんなおかしな状況になったのも全部、全部、この化け物の存在のせい。 ――それしか考えられない。 「離せ、よ!」 「駄目だ。せっかく捕まえたのに離すなんてもったいねぇ」 「ちょ、やめ――」 愛されるだなんてありえない。 この俺が、化け物に? こんなのはおかしい。おかしすぎる。 「――愛してる。愛してる、愛してる」 ありえない。ありえない、ありえない。 顎を片手で掬い取られ、反対の手は後頭部に回される。そして何かが唇に触れた感覚。ドアップの顔。 なんて顔をしてるんだ、こいつは。 真っ白になった頭の中で唯一考えられるようなことはそんな陳腐なことばかり。 だって俺はこんな結末を知らない。予想すらしていない。 誰かが、俺を。こいつが、この俺を、愛するだなんて。 そんなこと、信じられるか。だって、 「俺は臨也を、」 俺はシズちゃんを、 「――愛してる」 手に握りしめたナイフが、カラン、という虚しい音を立ててコンクリートへと落ちていった。 溶けて消えてなくなりたい (君の愛に焼き尽くされる前に、) -------------- 免許を持っていないため標識の正式名称が分からなかったというカミングアウトをしつつ、以上が匿名さまのリクエストとなります! 臨也が愛というものに悩まされていたら可愛いなぁと、そんな妄想から出来た一品は如何でしたでしょうか? タイトル的に暗くしようかと悩んだのですが、好きな作品の欄に甘い話を選ばれていたので変更してみました。もしシリアスが良かった等ありましたらリテイクの方はいつでも受け付けていますので、お気軽にお申し付けくださいませ! それでは文末になりましたが、10万打企画に参加してくださいましてありがとうございました!!これからも当サイトをよろしくお願いしますっ! 11,04,04(MON) |