最近、無性に溜まり溜まった不満がある。それを君たち愛する人間に聞かせなければならないくらい腹が立つだなんて本当に俺としては珍しい。とにかく聞いてくれ。お願いだから黙って聞いてくれ。波江に逃げられ、紀田くんには蔑まれ罵倒され、愚痴の一つどころか要らぬ不満まで抱え込んでしまった俺の身となって、そうだ、静かに聞いてほしい。いや、静かって言葉自体に虫唾が走る。静、しず、シズ。あの馬鹿は本当にどうしてこうも俺の心を分かってくれないのだろうか。あぁ、ムカつく。

そこまで喋り折原臨也は荒だたしく陶器のティーカップを机に叩きつけた。その音に反応して私たち、折原臨也でいうところの愛する人間数名が、肩をびくりと揺らした。時折ヒステリックな振舞いを見せる彼を見ると、何処までも完璧に出来た人間のように見えてもやはり彼もまた人の子であり、私たちのように誰かに恋する乙女なのだと理解する。肩に掛かった髪の裾を撫でてやりながら言葉の先を促せば、男のくせにそれはそれは美しい顔がくしゃりと歪み、目は潤みだした。ほろりと落ちたしずくは果たして私たちが流す涙と本当に同じものなのか。あまりにも綺麗過ぎて言葉を失ってしまう。
困ったな、泣かせちゃった。そういって私の背中の方からくいっと身を乗り出して折原の頭を抱きかかえた青髪の少女は本当に心の底から困ったような声を出す。君が泣いたら私も悲しい。次々に聞こえる声は同じく心から折原を同情し、慰めるためのもの。男が女に、なんて誰かは言うかもしれない。それでも私たちは折原臨也のこういった弱さも共に愛しいと思ってしまっている。不思議な関係。彼の愛などこちらには向けられることのないのに。それでもそうと知った後でも私たちの意志は変わらなかった。傍に居て支えてあげたい。ここまで彼女たちの心を鷲掴み離さないカリスマ性は折原臨也特有のアビリティーだと私は思う。
様々な女たちに抱きつかれ宥められる姿を見て、私も同じように折原臨也の頭を胸の方へと抱え込む。私も折原臨也のことが彼女たち同様、好きだ。愛している。それでも彼のことを心から愛しているから慰めはしてもそれ以上のことはしない。折原臨也は好きな人がいるのだ。それもずっと前から、私たちに出会う前から好きな人がいるのだ。


「シズちゃんはさ、釣った魚には餌をやらないタイプなんだよ。改めて付き合うってなった日からまるで逆行さ。デートも少なくなって電話もメールもしなくなった。久しぶりに会えたかと思ったら途切れた会話あたりで携帯を取り出してさぁ……。まるで俺と居ても楽しくないみたいじゃないか。なんだかそう思うと会うのも嫌になってきてさ。所詮俺たちはどこまでいっても相容れないんじゃないかって。俺じゃない他の人といる方がいいんじゃないのかって……。あぁ、考えただけで悲しくなってきた。ねぇ、泣いていい?泣いていい?」


花に埋もれ眠った白雪姫と違い、柔らかい肌で埋もれた折原臨也はぐずぐずと泣きだした。
日頃は絶対に誰にも見せないその姿を私たちは知っている。それがどれだけ特別なのかということも知っている。人を愛してると言う折原臨也の、心の中に眠る人間性を私たちは知っている。誰も知らない、私たちだけの花園。そうやって彼が知らず知らずと特別な振舞いをするから愛おしくて、愛が目覚めてしまうのだ。
しかし、だからこそ諭しはしない。彼を愛しているから教えてなどやらない。
その恋を諦めてもっといい人を見つければいいなんて言えない。
なぜなら私たちは彼を愛しているのだから。
だから、そんなことは言わない。
だれにもこれを壊させはしない。


「泣いてもいいよ。悲しかったら泣いてもいいよ」


ただそうとだけ声を掛け、私たちは彼を抱きしめる。
悲しい時には心音がいいという。彼の心は池袋の怪物に囚われたままだけれども、それでも私たちの心の音で彼が少しでも安らいで眠ってくれたらいいと思う。



「おやすみなさい。泣いて起きたらきっとすっきりしているからね」


「今はゆっくりおやすみなさい」











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リハビリ兼胃腸炎で三日間も休んでるのでその暇潰しに。



13,02,18(mon)


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