*訂正なし
*10分練習用







ちゅんちゅん焼きって知ってるかい?ちなみに雀焼きを可愛く言ったわけじゃないからね。俺の家では鯵を揚げたものを甘酸っぱい出汁に漬けた料理をそういうわけだ。ちゅんちゅんって名前は、酢漬けに漬けたときに油がじゅっじゅって言うところから付いたらしい。まぁ、どこまでが本当なのか知らないけどね。とりあえず母親からはそう教わっていたんだよ俺は。
え、それは南蛮漬けって言うんじゃないかって?知ってるよ、知ってるさ。南蛮漬けってものがこの世にあるだなんてこと当の昔に気付いていたさ。給食にも出てくるくらいだからね。でも、不思議なことに俺はちゅんちゅん焼き=鯵、南蛮漬け=肉料理、だと思っていたんだ。無知って怖いよね。思い込みってすごく怖いよ。本当に本当に恥ずかしいくらいに怖いわけだ。
で、なんでこんな話をしてたんだっけ。あ、そうそう。そうだよ!今俺の目の前にその例のブツがあって、かつそれを作ってくれた人間がまさかのあのシズちゃんだっていうんだから驚きだよね。人を見掛けで判断するのよくない。実によくない。



「……ちゅんちゅん焼きってなんだ?これ普通に南蛮漬けだと思うんだが」


「え、あ、あぁ。…――今の忘れて?」


「ちゅんちゅん焼きって雀焼きだよな。お前、雀食うのか?食いたいのか……?」



恐る恐る様子を窺うように訊ねてきたシズちゃんは随分と戸惑っているようだ。差し出そうとしてくれていた南蛮漬けが、シズちゃんの手で支えられ、微妙に机から距離を取って浮かんでいる。器用なことをするなぁ、なんて他人事のように考えながら、まぁちゅんちゅん焼きという聞き慣れないワードに戸惑う気持ちも分からなくはない。
というか、南蛮漬けが出てきたと同時に、「わぁっ、ちゅんちゅん焼きだ懐かしいー!!」と叫んだ俺は本当に馬鹿だと思う。馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、やっぱり馬鹿らしい。大学生の時に新羅の前であれ程恥ずかしい思いをしておきながらまたこれか。あれ以来絶対に口に出すまいと決めてたのに、本当俺って本当に馬鹿。なんでここに来てまた同じ過ちを繰り返そうとする。



「す、雀なんか食べたくないよ。あ、でも京都の一部では食べるみたいだけどね。見掛けは雀ちゃんですって丸分かりだけど、味は普通に鶏肉で美味しいらしいよ。というわけで、この話題は終わり。ほら、冷めちゃうよ。せっかくシズちゃんが腕に寄りを掛けて作ってくれたんだから温かい内に食べようね」


「ちゅんちゅん焼きってなんだ?」


「しつこい男は嫌われるよ〜。さっぱりと、そうだねぇ、このちゅんちゅん焼きの出汁並みにさっぱ――…、」


「……また言ったな、ちゅんちゅん焼き」



死んでしまえ、俺の口!
まさかあのシズちゃんに揚げ足を取られるだなんて予想打にしていなかった俺は、もう居たたまれないくらいにカァァッと顔に血が上る。恥ずかしい。堪らなく恥ずかしい。チラリとシズちゃんの方を覗けば、何かを納得したように、「へぇ……」っと顎に手を当てて何かを考えていた。流石に鈍感と言われる超天然記念物も今ので気付いたらしい。にやにや、ニマニマしながら笑いを堪えているのが見え見えだ。もうやだ、こいつ。



「手前みてぇな奴がちゅんちゅんって言ってっと何か可愛いな。つーことで、おら、食えよちゅんちゅん焼き。臨也くん曰く懐かしいちゅんちゅん焼きですよー。ちゅんちゅん。オラ、ちゅんちゅん」



まるで雀に見立てて、シズちゃんはリズムよく、ドンドンとちゅんちゅん焼き、――ではなくて、南蛮漬けのお皿を押しつけてくる。ピシャピシャと出汁が机に跳ねるのも気にしない男の顔はもうドSチックだ。どうやら俺のちゅんちゅん焼き発言は何かしらこいつの琴線に触れたらしい。鯵の顔が例のごとく取り除かれている南蛮漬けは、ゆらゆらゆらゆらと出汁の上を揺らいでいてまるで生きてるようだ。



「食えよオラ、ちゅんちゅん焼き食べんだからよ、返事はにゃーんだぞ、臨也」


「意味分かんないよ!!」


「ちゅんちゅんといえば雀。雀といえば猫だ。ちなみに鯵イコール猫でもいけんだからな。手前は拒否権なくにゃーんって鳴けや。鳴かなかったら泣かす。むしろ啼かす」


「頼むから人間の言葉喋って!!」


「鳴け!!にゃーんが嫌だったらこの際ちゅんちゅんでいい!!」


「拒否!断固拒否!!」



勝ち誇った表情に対して、俺の頬は思いっきり引きつる。何が悲しくて三十手前の男がにゃーんって鳴かないといけないんだ。手に持っていたお茶碗と箸を慌てて置いて立ち上がる。こうなったら逃げる。逃げるったら逃げる。唯一の楽しみといえるシズちゃんのご飯を逃したとしても一食くらい我慢できるし。例え懐かしのちゅんちゅん焼き、――じゃなかった南蛮漬けが目の前にあったとしても。







食物連鎖クオリティ
(これから食べるお味は如何?)






「食事中に立つな!行儀が悪いだろうが!!」


「俺の行儀が悪い前に君が全部悪いんだろ!鯵や雀から猫に連想してにゃーんって意味が分かんないよ。てかちゅんちゅん焼きって言って何が悪いんだ!いいじゃないかちゅんちゅん焼き!!方言だと思えば可愛いもんじゃないか」


「だから別にキメェとは一言も言ってねぇーし!むしろ推奨してんだろうが。にゃーんもちゅんちゅんも手前なら可愛いっつーの。だからとっとと鳴け。その小せぇ口に鯵押し込められたくなかったらな」


「今日のシズちゃんはいつになくよく喋る!!」






12,08,06(mon)


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