九十九屋真一の場合





誕生日を迎えた平和島静雄に素敵なプレゼントをやろうじゃないか。そんな面白半分に、俺は仕掛けた盗撮カメラから選りすぐりの折原の写真を一冊の雑誌にしてあいつに送りつけてやった。どれもこれも自分で言うのもなんだが、素晴らしい出来だ。以前ダンボールで送りつけてやったものなんかとは比べ物になんかならないそれは、恐らく写真を見れば池袋の誰もが折原に夢中になるであろうくらいの高クオリティを誇っていると思う。
寝ている時のあどけない顔や、子供のようにふてくされているものはもちろん、入浴最中や、料理中の風景。あとはトイレや階段から落ちた後に涙ぐんでいるドジっ子な面といった誰もが見ることの出来ない極めて神聖な折原の日常生活を中心に、それなりのおかずにもなるような写真ばかりを選り好んでみた。それも何千枚とある写真の中から厳選に厳選を重ねてさせてもらったおかげで、男が喜ぶ様々なシチュエーション関してはモーラしたつもりでもある。エプロン姿からの腰チラ、シャワーシーン特有の泡まみれのせいで見えそうで見えないあそこや突起物、Vネックを脱ぐ時のあの丸まった背中ライン。首を傾げた時に見える鎖骨。加えて、猫のようにもふもふと布団に埋もれている折原の寝巻がまくれ上がっているものは俺の一押しだ。あどけないかわいい寝顔につられて襲ってしまいたくなるのは男の性と言っても仕方がないと思う。(実際この写真で何回抜いたかだなんて覚えていない。)
とまぁ、そんなこんなで、ストイックすぎる折原のせいで一人エッチこそ撮れなかったがそれすらも目を瞑れるくらいには良い雑誌が出来たと俺は自負していた。だからこそ俺は平和島宅にも仕掛けていた盗撮カメラで奴の様子を一人でニヤニヤしながら窺っていたし、これならばあのむっつりで変態な男も喜ぶだろうと高を括って届いたプレゼントに対するリアクションを想像もしていた。プレゼントを見た瞬間の反応を思うと酷く楽しくて意図もせず上がる口角にどうすることもできなかったのはそれこそ数十分前の出来事だ。
残念なことに今の俺はあまりの腹立たしさに口角は上がるどころか平坦さを維持し続けている。
――というのも、実際俺からプレゼントが届いたと同時にあの馬鹿は俺の雑誌を何度も何度も見直していたくせにこの俺の好意の塊に向かってぼそりと、『……んだよこんな程度かよ、使えねぇな』とか言ったのだ。何が使えないのか。雑誌としては完璧だったはずだ。ならば、アレのおかずとしては不完全だったということなのか。俺が選びに選んだあれが? そんなことありえない。
「なにが不満だったんだ、平和島静雄」
あまりの腹立たしさにテーブルに置いてあったティーセットを腕全体を使って床にぶちまけた。一際鋭い音が鳴り響いたがそんなことはどうでもいい。俺の中には完璧以外の文字は許されない。目下必要なのは、平和島静雄がなぜあの雑誌に不満を持ったのか。その理由だった。
「あぁ、お前が悪いんじゃないよ、折原。全部あいつが悪いんだ。お前の魅力を分かろうとしないあいつがね」
ハッと目線を上げた先に捉えた折原のポスターの一つに思わず駆寄る。子供のように寝ているというのに起こしてしまっては可哀相だ。労わるようにポスターを撫でて慰めてあげれば、なんだかポスターの中の折原も擦り寄ってきてくれているように感じて愛おしくなる。可愛い折原。俺の折原。間接的といえども折原に囲まれていることが幸せだ。そして生の折原の傍に未だにネット上といえども関わっていられることも幸せだ。俺はたったそんなことでも心から満たされる、折原さえいれば。そんな思いを胸に、俺はポスターの折原の額に感謝のキスを一つ落とす。
「こんなにもかわいいのに、どうしてだ。どうしてなんだ平和島静雄……」
考えれば考えるほど平和島に対してやはり苛立ちが募ってしまう。どう考えても折原は可愛い。そんなことは同じ盗撮マニアのあいつだって分かっていたことだと思っていた。それなのに、どうして。
「リアル世界で会ってるからっていって何を図に乗っているんだ。折原は神聖なんだ。どんな奴だろうがあいつに触っていいわけがないのに」
貪欲になっていく人間の思考回路は許されるものではない。そして同じく折原のあの姿に満足しなくなった平和島の愚かさは許されるものではない。ただでさえ、池袋では折原のあの綺麗な肌に触れては傷つけるということを繰り返すというのに。そんなこと。そんなこと許されてはいけない。
「あのリア充の化け物め。絶対に目にも見せてやるからな!!」
野性は野性らしくしていろ。そんな罵倒と共にある決意を秘め、俺はまた折原の写真ばかりが保存されている専用のパソコンへと向き合った。
「次こそは目にものみせてくれる!」






12,03,26(mon)


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