*薄暗い話。ちょっとだけグロい表現があるので、無理っぽいなと思ったらバックしてください。



















折原臨也は不死なのだ。――と言えば、大概の者はどことなく『あぁ、ありえるな』と納得する。それは元来彼自身が持ち合している浮世離れした容姿だとか。どこか演技じみた仕草だとか。そんなものが一因となっているのかもしれないし、今まで平和島静雄と殺し合いをしても死ぬことはなく、況してや傷跡一つ残していないという辺りがその想像を引き立てる更なる要素となっているからだろうと、少なくとも僕はそう思っている。
しかし実際のところ、臨也は不老不死なのではなく、むしろ不死を探すためにあれこれと現在進行形で画策をしている側の人間だ。なので、間違いなく、臨也は生の人間であると結論付けられる。


「どちらかといえば新羅の方が魔法使いみたいだけどね」

「そんなこと言っても治療費は割り引いてなんかやらないよ」


そんな彼は、今日も今日とて静雄との喧嘩の果てに、傷を負って僕の家にやってきた。右手には、手首から二の腕上層にかけてまで一直線に鋭いもので抉られた跡があった。もちろん今も血がダラダラと滴り落ちているあたり相当深いところまで抉れてしまったのだろう。すぐさま臨也自身を椅子に座らせ、治療を開始したのは少し前のことだ。


「別におだててるわけじゃないさ。お前の腕がそれだけ凄いって認めているだけだ」

「――白々しい」

「嘘はついてないよ」


痛み止めの注射を気持ち程度打ち、暫くの準備を経て慎重に縫い始めた腕は、血が足らないらしく、いつにもまして肌が青白いように感じられる。それがなんとなく気分的に苦しい。無意識に傷口ばかりを見つめていた。赤い中から時折覗く白は、やはり酷い。けれども、もっと酷いのは臨也を傷つけたあいつに違いない。


「…………ねぇ、」

「………………」

「………………痛い、かい?」

「――――――いた、くない」

「…………そっか」


分かりきった返答に、僕も臨也は苦く笑う。傷つけても臨也が平気だと思っているあいつがまずムカつく。そして、こうして傷跡を残さないように慎重に治療を施すしか出来ない自分にすごくムカつく。
いつだって、傷をつけるのはあいつで僕ではない。治せるけれども、彼の中のある特定の部分を傷つけるのは僕ではなくてあいつでしかない。臨也は、きっとこうやって視覚的に傷つけられて、精神的に傷ついて行くのだろう。そんな彼を守ってあげる術を俺は残念ながら持っていない。どうやっても、何をやっても僕は彼に適わないのだ。

もわもわとした気持ちを抱いて、一本一本丁寧に針を肌に通していく。その手つきにブレはないのは、早くこんな無意味な繰り返しがなくなればいい、と静かに願っているからだ。

臨也は生身の人間ではある。――が、しかし。人間という括りからは少し逸脱していた。不死ではない。けれども、純な人間でもない。性格と同じように少し拗れた身体を持った人間。爪を剥がれようが、腕を鋭い何かで抉られようが、ハンマーみたいな拳で殴られようが、意味はない。悲しいことに臨也にとって、傷は傷として存在するだけでそれに伴った痛みに関して全くの感覚を持ちえなかった。そして、僕が思うに身体の傷よりも、痛みのないまるで仮初の不死めいた感覚こそが、臨也に絶望だとか虚無感心を抱かせているに違いなかった。


「君はやっぱり痛みを感じないんだね。きっとそんなんだから反吐みたいな人間になるんだよ」


臨也の茶化すように踊る笑い声が少し気に障って、思いっきり傷口に脱脂面を押しつけてやる。普通の人間なら痛みで呻く場面だというのに、しかし臨也はやっぱり平然とした顔で僕の顔を見つめていた。


「まぁ、違いない。でもこの身体でいいなって思うことはあるんだよ。人間観察を深いところまで出来る。それももっとディープなところまで」

「自虐的だよ、君は」

「今さら気付いたのかい?……そうだ、ねぇ、新羅。お前は不死になりたいとねがったことはあるかい?」


人は大人になっていくにつれて学習して、そして痛みを忌み嫌って怪我なんてしなくなる。そうやって痛覚から遠ざかることが来たのなら、臨也はもっともっと人間らしい感情を持ちえたのかもしれない。けれども臨也は他の誰よりも大怪我をする可能性は高いし、現に今も怪我を負っている。可哀相な、臨也。その痛覚がないだなんて僕には想像がつかないけれど、それはきっと何も見えない闇の中を一人ひたすらに歩き回るような不確かで覚束ないものなのだろう。


「不死になりたいとは思わないね。全てが朧げになる感覚にきっと僕は耐えられないよ。君と違って」

「お前はやっぱり賢いよ」


そういって笑う臨也に、僕もつられて笑ってやる。

不死が素晴らしい?
そんなことを思っているのは、現実を知らない馬鹿なものたちばかりさ!!










12,03,15(THU)


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