「俺たちにはね愛を伝える方法が他の人より一つ多いんだよ」




そう言って笑うあいつの顔には、普段あまり人に見せることのない子供っぽい純粋さが含まれていた。





「一つ、言葉にする。二つ、身体で伝える。さぁ、三つ目はなんでしょう?」





ピンと伸ばした人差し指を唇に押し当ててこちらを見上げる臨也は至極楽しそうに言葉を紡ぐ。


「簡単だ。ほら、答えをどうぞ。いーち、にーい、さーん」という間延びした声に時間制限があることを悟るが、しかし、その十秒なのか三十秒なのか分からないタイムリミットを気に掛けるよりもまず、俺の視線は臨也に釘付けになっていた。








(喧嘩中だっつーのに、いきなりどうしたんだこいつは。しかもなんだ、その仕草。狙ってるのか、このヤロウ……)








唇に手を当て、喋るたびに動く喉元。こちらを少し見上げるその形。日焼けのしていない薄い肌に包まれた真っ白な手に、Vネックでは隠せない浮き出た鎖骨がやたらと目につく。


野郎がしても気持ち悪いだけのその仕草が、なぜだかノミ蟲がするとすんなりと可愛いと受け入れられるのは、惚れた弱みというやつなのか、それとも眼精疲労の類なのだろうか。



そんなことを考えながら、一先ず臨也から目を逸らすために目頭を押さえてみる。









「ふふふふ。ねぇ分かんないの?分かんないの??」






と、ぐにぐにと目を解すこちらの気なども知らずに、きゃっきゃと騒ぐ暢気なノミ蟲は、「じゃあ正解したら何でも言うことを聞いてあげる」と艶めいた声でそう付け加えてきた。





――正解したら、何でも、言うことを聞いてあげる――。





その言葉を火種に、俺の脳ミソでは、真昼の、しかも公共では考えてはならないような良からぬ想像が次から次へと浮かび上がっては消えていった。



もちろん肝心の答えなど俺にはミジンコほどにも思い当たらない。



ただ言い訳をさせてもらうと、四捨五入すれば三十路とはいえ、俺はまだまだ若いのだ。ヤりたいことなど多いし、もちろん好きなやつに対する欲求など底無しだ。魅力的な褒美をちらつかされて黙って見過ごすほど枯れてない。



だから、たとえ答えが見つからず臨也を好きにすることなど出来ないとしても、一度始まった妄想は挑発するように俺の煩悩を掻き乱していく。爪の先程もないない理性が瞬く間にキシキシと音を立てて崩れ出す。




我慢だ、我慢。そう自分に言い聞かすその一方で、ナース、警官、教師とちらつくコスプレ衣装が俺を誘惑していく。



色んな意味で必死に理性を掻き集めようと標識を握っていた手に力を入れれてみれば、ふと瞼の裏にメイド服を着た臨也がご奉仕をしてくれている姿が思い浮かんでいった。


ご奉仕します、旦那さま。そんなフレーズに一瞬にして頭が沸騰しだす。







(――メイド服、ご奉仕、上等じゃねぇか)







力を入れ過ぎた標識はパキンと悲鳴を上げ、呆気なくも折れてしまった。







(―――よし、やっぱ力ずくでも犯す!!!)








崩れ去った理性に、男は即物的なのだと割り切り、瞼を押し上げる。答えが分からなくても力でねじ伏せて言うことを聞かせたらいいだけの話。ただそれだけの問題だ。



しかし、そんな俺に待ってましたかと言わんばかりに口端を吊り上げた臨也が両手をパチンと鳴らす。







「三つ目は簡単!」







臨也が口を開いた瞬間に俺の頬を滑っていったある物に一瞬で身体が硬直した。それは一定の距離まで飛んでいってカランと金属音を響かせて大人しくなる。ちらり、視線を送れば目新しくないナイフが地面に転がっていた。


たらり、と頬に生温い何かが伝っていく。








「俺たちにはね、喧嘩でも愛を表現出来るんだっ!」







爽やかな、それでいてやはり子供のような無邪気さの含んだ嬉しそうな声が響き渡る。


楽しいと言わんばかりに両手を広げクルクルとその場で回りだす臨也を見て、治まっていた怒りの感情が急激に沸き上がった。




答えを言うのが早ぇんだよ、つーかナイフを投げるこの仕打ちは何なんだ。




言いたいことはたくさんあったが声にはならない。代わりにこめかみに浮いた血管のいくつかからは勢いよく血が吹き出していった。







「――テメェ…」



「鬼さんこちら、手のなる方へ!」








そういって駆け出す臨也を慌てて追い掛ける。毎度の如くこの小悪魔みたいな野郎に振り回される俺はなぜこうも学習しないんだろうか。こいつは例え恋人であったとしても、ノミ蟲で、あの折原臨也なのだ。




スピードを付けて走るにつれ、あれこれと振り切られていく溢れ返っていた妄想たち。すでに俺の頭の中にはメイド服の臨也は消え去っていた。今網膜に焼き付いているのはクソ生意気な笑みを貼りつけたノミ蟲野郎で――。







(――あぁ、クソ。なんだこれ、)













こんなやりとりが楽しいと思うだなんて、どうかしているのかもしれない。いや、きっとおかしいに違いない。


緩みそうになる頬を奥歯を噛み締めて、俺はただひたすらに楽しそうに走り去ろうとする背中を追い掛ける。






「待ちやがれ、いーざーやぁぁぁぁっ!!!」

















――今日もまたいつもの一日が始まる。


































(可愛さ余って憎さ100倍)
















-------------

ハッピーバースデーnoaさま!!

お誕生日ということで駄文ながらもピュア0同士としてシズイザ話を送りますーっ!


これからも萌ッターでの萌発言楽しみにしています〜vV





11,02,28(mon)佐久間 シオン


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -