好きな人に好きな人がいる
そんなとき貴方ならどうしますか?








キュッキュッと体育館の床が鳴る
まるで青春の音
学校生活で一番聴いてる音
いつもより早く鳴っているということは、また負けたな

三年に上がり、私の所属する烏野高校男子バレーボール部は瞬く間に成長を遂げた
一年生の凄腕セッターが入ってきたと思えば、文字通り"飛ぶ"小さな男の子が入ってきて通常ではあり得ない攻撃の仕方で色んな人を翻弄していく
変人コンビと名付けられた一年生
そんな二人は誰よりも練習をし、努力を劣らない
マネージャーである私はいままで朝練も放課後も一番に来て準備などを率先して行ってきたけど、変人コンビの二人が来てからは一番を取られてしまった
この一番は特別な時間のためだったのだけど……もう味わえそうにもない
良いことなんだけど、寂しいな

「ーー好きです」
「!」
部室にいくために近道である体育館裏の小道を進もうとした時、人影が見えた
あんまり普段人が通らない道であるから驚いた
それに加え告白場面に遭遇してしまった
当事者達から見えていないことが救いであったため、脇にある倉庫へと隠れる
そんなところ通れないし、下手に引き返すとバレてしまう危険性も高まる
それに、申し訳ないし何より結末が気になるのだ
だって

「大地くんが好きです、付き合ってください」

私の片思い相手が告白されてるのだ

気にならない乙女なんているか?いないよね………
大地はどう答えるんだろう
私が一番に行く理由の一つに大地が誰よりも早く部活に来ていたからというのもある
昔から要領が悪い私は人一倍時間をかけなくてはならなかった
一緒にマネージャーになった潔子は直ぐに動けるようになっていたけど、私は全くできなくて……悔しくて
自分には足りないものばかり…それを補うために時間をかけるようになった
誰よりも早く来て誰よりも遅く残って誰よりも動く
そうして私はようやく皆と並べた
そんな中気にかけてくれた人物……それが澤村大地だった

「名字さん、いつもありがとう」
「…へ?」
いつも通り一番に来て掃除を始めた頃、大地が来て早々に言ってきた
「……何を?」
「準備とか俺が来るまえには終わらせてくれてるだろ?俺もまあまあ早めに来てるんだけど名字さんには負けてるから…ちゃんと皆感謝してるけどなかなか言える機会なかったから今日は言っておこうと思って」
その時に思った
大地はちゃんと私を見てくれて、恥ずかしい年頃のはずなのにちゃんと感謝を伝えられる人だと
そこから彼に惹かれるには時間がかからなかった
クラスが一緒で、お昼にはバスケ部の子と子供のように食べ物で争ってみたり、授業中にバレないように寝てたのがバレて当てられてビビってたり、体育でバレーボールだったときには素人相手にスパイクをしたり全てをレシーブしてみたり……それで孝支に大人げない!って怒られてたり
普通の高校生男子のはずなのに部活で見せてくる姿はちゃんと真面目で、周りをよく見ている主将で
彼がいなかったらここまでチームが保たれていないのではないかと思う
そのギャップにやられるまではそんなに時間はいらない
あれよあれよと惚れてしまい、朝練の前、放課後の部活の前の二人きりが凄く嬉しく楽しかった
このままの関係で満足できると思っていた

「ごめん……俺、好きな人いるから」

その言葉を聞くまでは


正直、このままの関係で本当に満足した?と聞かれればノーと返す
私だって大地とずっと一緒にいたいし、キスだってそれ以上だってしたい
ずっと隣で歩いていきたい
でも、彼は?
せっかくここまでの地位を築いてきて彼はどう思ってる?
きっと女友達だと思ってるに違いない
彼の思い人はきっと道宮さんだ
中学から同じで、同じスポーツ、同じ主将
共通点がありすぎる上に、苦労も同じだろう
そんな彼女に私が勝る部分なんてある?
ない
はっきりとわかる……ない
人の告白を見て自分はってなってる私に彼を好きになる資格なんてありもしないのだ
でも、私は彼のために努力はした
少しぐらい彼らが付き合うまではあの時を過ごせたらと思ったけれど

「運命は残酷だなぁ…」
頬に冷たい感触があるのを無視して、そのまま通りすぎた二人を見送り、大地とは違う方向へと走った


「…あれ?名前は?」
「そういえば名字さんまだ来てないっスね」
「いつも俺より先に来てるのにな……」


思いの外目元の腫れが引くのに時間がかかってしまった…
部活もう本格的に始まってるかな…行きたくないな
でも行かない選択肢はない

「烏養さんすみません、遅れました」
「…おお、珍しいな」
「ちょっと先生に呼ばれてまして…」
まあ、嘘だけれど
「潔子、ごめんね」
「…こっちはいいけど、名前大丈夫?」
「え…?」
まさか涙の跡が残ってる……?
「成績」
「………」
「先生に呼ばれたって成績なんじゃない…?」
「大丈夫、間に合ってるよ!」
心配して損した!まあ、これで安心できたけど


「お疲れっしたー」
「お疲れ様〜」
「自主練はほどほどにしとけよ〜」
「特に人一倍動いた奴ら」
「「う、うっす」」
いつも通りの会話に笑いながら片付けを進める
まだまだボールは地面に転がってる
みんな元気だなぁ
私はボトルをもって洗い場へと進む
コレが終わったらモップ掛けできるかな…変人コンビ早めに終わらせてくれるかな
「名前」
「!」
後ろから聞こえた声にぴくりと反応してしまった
あー明らか様だったかなぁ
「どうしたの?」
「なんか今日変じゃないか?」
「そんなことないよ」
皆して〜と茶化しながら作業を再開した……と思ったのに
「どうして隠すんだ」
きゅっと音がしたと思うと、水が止まった
水を受け止めていたボトルが居場所を失い落ちる
ガコンッと大きな音をたてて落ちたボトルに気をとられる暇はない
何故か背中には人の体温
誰の……と言わずとも分かる
大地の体温……何故私はナチュラルに捕獲されてるんだ
「だ、大地…?」
「何で目合わさない…?」
「!」
目を合わさない…?
「え……」
「…?気がついてなかったのか……?」
そういえば、今日大地の顔見てない気がする
「気が、ついてなかった……」
言われてみて気がついた
大地に言われなければ思い返すこともなかったのに……
あれ?でもなんで?
「大地が何でそんなこと気にするの…?」
「っ!」
もしかして……?なんてそんなに期待させるような事はないだろうけど…
「とりあえず退けてもらってもいいかな…?ちょっとドキドキして心臓に悪いんだけど」
本音としては凄く心臓が動いてるけどね…!!
「…ちょっとか……」
「なにかいったぁああ!?」
えっなになになに!!?ぐわんっと視界が回った
「ぎゃっ」
「ははは!なんだよぎゃって!色気ないやつだな」
水道の縁にお尻が乗っかり、両側には大地の腕に、目の前には大地の顔
色気うんぬんかんぬん言われるけど気にしてるほど余裕はない
ぼぼぼっと顔があつくなってくるのが分かる
「……真っ赤だな」
「……ほっといて!」
「ドキドキした?」
「っ!」
なんだ、なんなんだ、誰なんだこの人は
私の知っている澤村大地か…?
「俺を意識してる?」
「し、してるしてる!!だからこんな悪ふざけやめよう!?ね!?ほら!こんなところ好きな人にでも見られたら大地困っちゃうでしょ!?」
「…なんで好きなやついんの知ってんの」
「あ」
ば、馬鹿だなぁ私!!!
何言ってるのよ!!これじゃあ自分の首絞めるだけなのに…!
でも、ここは開き直るしかない
「見てて分かるよ」
「っえ」
あ、大地もこんな顔するんだ……真っ赤とはいかないけどほんのり頬が赤くなってる
そんな顔するのも道宮さんのおかげなのかな
「じゃあ、俺の気持ちって」
「知ってる」
「!!おま!小悪魔かよ!!」
「え?なんで私が小悪魔にならないといけないのさ」
「え、だってお前…」
「上手くいくといいね」
「…………………ちょっと待て、なんか勘違いしてないか?」
「え?」
勘違いってなんのことよ
しかも人を小悪魔扱いして……今日の大地本当に失礼だわ
「勘違いも何も、大地の好きな人って……道宮さん、でしょ?」
あ、やばい……声が震えそう
「ね?分かったなら退けて。ここ彼女達も利用するんだよ?こんなところ見られたら大地だって」
まずいでしょ?の言葉は音にならずに消えた
目の前には睫毛、唇には暖かい温度
あ、キスされてる
「っん」
好きな人からのまさかの出来事に心地よく抵抗するのを忘れていた頃、ふと脳裏に道宮さんの顔が横切った
もがいて抵抗をしたところすんなり離してくれた
「なっなにするの!」
「何って…キス、だけど」
「なんで!!」
「名前の勘違いを直したかったのとちょっと腹立った」
「は…?」
「俺が好きなの、名前だから」
「………………?」
今、なんと
「嫌だったよな…ごめん。まだ部活もあるのにこんな自分勝手な主将に幻滅したよな…でも、名前に無視されて我慢できなかった。俺を見ろよって」
「え、まって…」
「…泣くほど嫌だったよな」
泣く?……あ、これ、嬉し泣きだ
大地勘違いしてる
「違う!」
「!」
「大地は本当に、私が好きなの?」
「名前が好きだよ」
「み、道宮さんじゃなくて…?」
「………俺を怒らせたい?」
あ、大地の威圧感のある笑顔に涙が引っ込んだ気がした
「イ、イエ……スミマセン」
「…で?何が違うんだ?」
「だ、大地が勘違いしてるから」
「?」
「私も大地が好きだよ」
「!」
「多分、大地が好きになってくれた時よりも早いと思うよ」
「嫌!それはない!」
「えっ!なんで!?私は大地がありがとうって言ってくれたときくらいから好きだよ!」
「俺は入学した時からだ!」
「え」
なんでせっかく両思いになったのに変な言い争いをしなきゃいけないんだろう
というか、衝撃的な事実に言葉を失う
「自己紹介の時から気になってたんだ……」
自己紹介…………あ、そういえば

「名字名前です。春高を見て烏野に来ました。男目当てと言われようが男子バレーボール部のマネージャーになって、もう一度オレンジコートで羽ばたく烏野を近くで見たいと思ってます。よろしくお願いします」
なんて言った気がする……


「俺と同じ目標で部活も一生懸命な名前に一目惚れしたんだ。きっとこの子なら俺を支えてくれるって…思った通り支えてもらってばっかだった」
「そんなこと、ないのに」
「朝も放課後もいつも俺より早く来てくれてありがとな。それだけで救われたんだ…応援してくれるやつがいるって」
「それも、下心あったけどね」
「どっちにしても俺の為だろ…?」
「…分かってるのに聞いてくるの狡い」
「嬉しくてな……こういう性格ってのも名前は分かってるだろ?」
「そうだね」
「なあ、俺たち付き合えるんだよな」
「う、うん」
「じゃあ、もう一回いいよな」
「っへ!?ちょっ」


夕焼けに写る影が一つに繋がった


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