"たとえば"

よく現実とは違った想像をした時に使う言葉だ
そして、よく女子が好む言葉



たとえば○○くんと付き合ったらー
たとえばあの教師が生徒だったらー



とか妄想で使える
けど、私が使う"たとえば"は


あなたを振り向かせたいからだって言ったらどうするだろう














「あー…寝癖治んねえ」
「その爆発的な寝癖は一生治らないんじゃないの」
「うっせ」
「仮にも女の子にむかってその言葉はないんじゃない?」
「…お前がいまさら女に見えるかよ」
「……………」






そんなこと分かりきってる
小さい頃、それはもう小さい頃から一緒にいる鉄朗はきっと私を幼なじみとしかみていない
女という分類にすら入れない
良くて妹だろう
こうして朝一緒に歩くのもお互いまだ特別な人がいないからであって、鉄朗が彼女作ったらこうして部活にも一緒に行けないのだと思うと涙が出そうになる



「そんなこと分かってるよ」
「………」




わかってる、わかってるこそこの距離が痛い




「けどさ、たとえばだよ鉄朗」
「ん?」
「私を好きになったとしてどこに魅力を感じると思う?」
「…………………は?」





あ、
鉄朗の細い目が丸くクリクリな目になった
凄い驚きようだ




「……なに」
「昨日告白された」
「誰に」
「夜久くん」





その瞬間、鉄朗の動きが止まった
私は鉄朗を追い越し、数歩歩いたところで止まった





「………冗談だろ」
「冗談でこんなこと主将のあんたに言わない」
「あいつ……」






鉄朗が静かに怒ってるのがわかる
大事なIH前だというのに恋に浮かれてるんじゃないって思うんでしょ?






「レギュラー外すか」





ほら、やっぱりね





「大丈夫、夜久くんは気持ちだけ今の内に伝えたかっただけで返事は引退してからって言われてるから」
「…………その間お前らはどーすんだ、仮にもマネと選手だぞ」
「そこはきっちりとさせていただくつもりなので鉄朗には迷惑かけません。それに、」




迷惑以前に興味がないと思うけど








「たとえば私が夜久くんと付き合ったとしても」




あれ、なんだ
勝手に口が動く




「たとえば鉄朗に彼女ができたにしても」







やだやだ






止まれ止まれ





とまって!































「私たち、ただの幼なじみ何だから関係ないでしょ?」



















いってしまった…
一番言いたくないことを
この口で
このタイミングで言ってしまった








後ろで鉄朗が息をつまらせたのがわかった
声が震えたのがバレたかもしれない

たとえばだよたとえば!
っていつもみたいに言えたらいいのに

じょーだんだよ!
っていつもみたいに笑ったらいいのに



それすらできない






もう、だめだ





地面がゆれてきた
おかしいな、身体は揺れてないけど視界だけ揺れてる



この関係を崩したくない
けど崩したかった
その結果、一番しちゃいけないことをしてしまった



鉄朗が何も言ってこないこの時間は前の時間を取り戻せないってことを語ってる気がした



















「…………バカだな、俺も…………名前も」
「!」




いつの間にか俯いていた私の揺れた視界に、黒い靴が見えた
そして、頭に鉄朗の手が置かれた




「この距離が好きで嫌いで、意地っ張りでどこか素直で」
「……な………に…」
「お互い遠回りが好きだからな」
「……は?」





まって、鉄朗が言いたいことがわからない
なにがいいたいの








「他の奴に俺のものを取られるくらいなら、この後のことなんて関係ねえ。俺は……」
「?」


「名前、お前が好きだ」








(言葉で)
(あなたを振り向かせること)
(できたかな?)







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