夏のあつい時にとても見たくなる物がある
夏とかただあつい
身体の中からあつい
夏はじめじめ熱を発散させるためにアイスを食べたりひんやりとしたものを飲むけどそれでもあつい
そしてお金がかかる
そんな中、あまりお金をかけず体の芯から冷えるものといったら
「…なんで一人で見えないのにみようとするんです?」
「あ!けーじ敬語!!」
「………」
「癖なのわかるけど同い年!同級生!幼馴染み!!敬語だめ!!」
「わかった、わかったから近づくな」
「!ひどい」
「で?なんでホラー映画?」
「みたくなった」
「……今の季節わかってる?」
「冬」
「…………」
「…………」
そう、夏の醍醐味であるホラー映画
体の芯から一番よく冷えて、逆に寒くなるものだ
夏に見るのは分かるけど冬に見るのは分からない
良く言われる
けど、私はホラー映画が大好きだ
無性に見たくなる
一人で見えないのが難点だけど
「はぁ、いつも呼ばれるこっちの身にもなれよ」
「…けーじ口悪い」
「名前だけだよ」
「おふ」
嬉しいのか嬉しくないのか分からない答えだことで
「だって皆見たくないって言うんだもん。見るとしたら彼氏と見るって言われるし……」
「だからってなんで俺…」
「けーじは幼馴染みだし呼んだらすぐ来てくれるから!」
「………」
こんな時間にも来てくれる人は京治しかいない
だって22時だよ、みんなドラマの時間だよ
LINEだってみんな既読無視だよ
そんな中来てくれるのは京治しかいない
優しいにも程があるってものだけど
「とりあえず見ないの?」
「!み、みるよ!」
ディスクに今話題のホラー映画をセットし、京治の横に座り抱き枕を抱き準備オッケー
リモコンは京治の綺麗にケアされてる手の中にあるため、その長い指で押されるのを待っている
思えば私がホラー映画好きになったのも一人で見えないのも京治が原因だ
京治はいつからか子供の遊びではなくバレーボールというものに夢中になっていた
昔から無気力な京治だけど、バレーにだけは周りの人に気付かれないくらい積極的だった
きっと家族と私くらいじゃないかな、あの変化に気がついたのは
そんな京治と遊ぶことが出来なくなった私
子供ながらに京治がしたいことを優先させたいという気持ちがあったのだろう
だんだんと京治から離れていった
「………赤葦くん」
「…なんですか」
「…なんでもない、ごめんね気にしないで」
中学の時、何気なしに呼んでみた名字
君はなにも言わなかった、受け入れていた
ああ、もう君とは遊べないし喋ることもなくなったんだ
そう、思っていた
「名前」
「!!け、…あ、赤葦くん…」
いきなり私の部屋に入ってきた京治は無言で私のディスクに何かを入れ、リモコンを使い再生しだした
「!!」
「怖いなら腕にぎっててもいいですから」
映し出されたのは独特なメロディーがバックに流れながら女の人が不気味な動きをしているものだった
「ほ、ホラー映画…」
「見たかったって言ってたやつでしょ?」
「え、なんで知って…」
「会話、丸聞こえなんですよ」
「でも、なんで?」
そんな時、画面から大きな音と共にグロテスクな女の人が男の人を追いかけ始めた
ひっ!と声をあげた私は、しがみつくように京治の腕に抱きついた
「……名前が俺を名字で呼ぶからですよ」
「へ?」
「なに距離置いてんだよ、意味わからないから」
「だっだって」
「だってじゃない。いきなり離れられても困る」
「あ、赤葦くんは迷惑じゃないの?」
「それ」
「あ」
「なんで京治って呼ばないの?なんでけーじって呼んでくれないんだよ!」
こんな京治くんは始めてみた
そんなことが頭をよぎり、ホラーどころじゃない
なんで泣きそうな顔をするの?
「そ、れは」
「何も理由がないなら昔に戻って」
「え?」
「俺は名前と笑ってたい」
「……けーじあまり笑わないじゃん」
「名前は分かるでしょ」
「……そうだけど」
「じゃあ問題はない」
納得はいかなかったけど、綺麗に微笑んだ京治に安心した
昔に戻れた
仲直りができた
バックミュージックは色気もムードもなにもないホラー映画だけど、こうしてなにもなく君に触れることができる
もう、ホラー映画が好きになった
京治がもっと好きになった
簡単に触れていいよ、俺のそばにいてもいいよって言われてる気がする
単純だけどそんな理由で一人で見えない
正しくは京治としか見れない
そして、恋しくてホラー映画が見たくなるんだ
「…名前、風邪ひく」
「ん、」
「開始早々寝るとか……」
なんだか懐かしい夢を見た気がする
「あ、起きた?俺帰るけどベット行ける?」
「………」
「言ったそばから寝るなよ…」
「……けーじ?」
「ん?」
「あのね…」
なんだか京治の顔見た瞬間、なにかの鎖が解けた気がする
歯止めがきかない
くそう、寝起きだとだめだな…
このまま、このままでも充分幸せだけどもっともっと幸せが
「好き」
欲しくなった
I miss you so much.
あなたが恋しくてたまらない
遠くなる意識の中で
「起きたら覚えとけよ」
と心地よい声が届いた
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