"きっかけ"というものは始まりの原点を意味している
そのきっかけは人それぞれであり、決められたものではない
私的には自分自身で意思を持ったという意味でもある気がしてる
何が言いたいかというと、今の私がここまで来れたのはいろんなきっかけがあったからだと思う
普通なら受験会場で過去を振り返りながらこんなこと考える暇無いはずだけど、私の馬鹿な頭は随分お気楽のようだ
まあ、緊張のしすぎとも言えるかな
「あ」
「?」
そんな私の耳に小さな呟きの音が聞こえた
音の正体は横にいる
ちらりとそちらに目を向けてみれば……まあそれはそれは顔の整った男の子
癖でイケメンはチェック済みだけど、パワフルな女の子みたいにかっこいい!と追いかけまわしたりはしない
いや…実際追いかける事もあるけど、それはキャストさんだけで十分だ
そんな現実逃避をしかけた私の耳に入ってきた音に現実へと戻された
「消しゴム忘れた…」
……うわぁ…絶望的だな、それ
そしてベタな展開だわ
「なんでこんな時アイツらと離されるんやろ…」
どうやら相当お困りのようだ
さあ、女子達よ!今こそ出番だぞ!イケメンに消しゴムを渡してあげて!
と思ったのだけど、周りはこの呟きは聞こえてないみたいで………
え、これは私が貸してあげなきゃいけないパターンでは?
確か筆箱に予備の消しゴムがあったはず
ゴソゴソと筆箱に手をツッコミ探すと手に確かな感触
あ、あった
ちゃんとした17×43×11mmの消しゴムだけど、そのパッケージは某有名メーカーのロゴではなくて、キャラクターがプリントされているもの
関西では有名なテーマパークのキャラクターでもあるから大丈夫だろう
自分の使ってる消しゴムもそれだし交換してあげること出来ないけど許してくれ
新品をあげるんだ…文句はないだろう
「あの」
「は?」
勇気を振り絞って声をかけたら、こちらを必然的に見てくる彼なんだけど…
え、なんでしかめっ面なの
こいつなんなんだ…イケメンだからと何でも許されると思うなよ!印象最悪だわ!
「消しゴム、無いんですよね?お困りのようでしたらこれ、どうぞ」
でも私の方が大人だから困ってたら助けてあげるけどね!
ずいっと差し出した手に反応がないから無理矢理机の上に置いてあげた
なんなんだこいつ!
「……あんたのは?」
「普通にあるし大丈夫です。それ新品なんであげますよ」
「……………おおきに」
なにやら頭の中で葛藤しながら結論は出たみたいだ
そう、素直に受け取っておいた方が君のためだぞ
「一応聞くけど、見返りとか求めてへんよな?」
「は?消しゴムごときで求めてたら人間性疑うわ」
なんだ、こいつ……私がそんな奴だと思ったのか?
イケメンだからって誰からもモテはやされると思ったら大間違いだかんな!失礼なやつ!思いっきり敬語とれたけど、後悔はない
失礼なこと聞くやつに敬意なんて必要はない
「そうか…ならありがたく使わせてもらうわな」
最初からその言葉を言っておけと思ったのは仕方ない

「終わった……」
筆記試験をして、お昼ご飯を食べてから面接という地獄が終わった
面接をした人から順に帰宅してもらって大丈夫ですと言われたので、さっさと帰る
それにしても隣の彼は私の消しゴムに助けられていたなぁ
消しカスがえらいことなってて心の中で笑った
…と、思い返していれば目の前にいる
踞ってるところを見ると面談で失敗したのかな?
それにしても、帰宅通路が一緒なのは神様のイタズラでしょうか
周りに誰もいないし、また私が声をかけないといけない状態を作り出された…最悪だ
「ねえ、大丈夫?」
「……った」
「え?」
なんかよく分からんけどぼそぼそと言ってる
「なんて?」
「腹…減った」
「……………」
消しゴムの次は食べ物を請求されると思ってもなかったわ
もうあれか?顔だけ知ってる知り合いみたいな立ち位置に君の中ではおるんか、私は
でもここにずっといるわけにもいかないし、またこいつにあげなければ駄目なのか…
幸い緊張で食べれなかったおにぎりあるけど、口に合うかは分からない
まあ、家に帰ってもご飯あるだろうし
「ほら、これ。私が握ってるから味は保証しないし、おにぎりだけど。これでよかったらあげる」
「…え、まじ?」
「まじまじ。今日ここであったのもさっきのも何かの縁だし……大丈夫、見返りはさっきも言ったけど求めてないから」
「?」
きょとんとした顔をされたけど、君、さっきと反応違いすぎないかい?
「ありがと」
「ん。じゃあ、今度こそさよなら」
「あ…」
何か言いかけてたみたいだけど、1日で2回助けるとは思ってなかったからさっさとその場から離れた
これ以上一緒にいたらまた助けなければならなくなるかもしれん
それだけは勘弁だ
それに、合格したらまた会えるだろうし


「よし!完璧だ!」
鏡を見て最終チェックは合格
そして受験にも合格した私は今日から晴れて高校生
「ほら、早くせんと遅れる!」
「は〜い」
お母さんにどやされたけど仕方ない
制服が可愛すぎるからそれ似合わせたヘアセットは大変なんだよ
出発時間のギリギリに出来たから急かされたけど、時間内にはできてるから誉めてほしいものだけどなぁ
「えーっと、クラスは…」
浮き足立つ生徒達と一緒に校門をくくり抜けて、表へ堂々と貼り出されているクラス表を見る
「1組か……」
1年1組って何だかすごくエースっぽいわ
「1年1組ってエースぽいやん!」
「!」
後ろから思ったことをそのまま言われて振り返る
全く同じこと思った…なんだ?思考回路一緒?
「それで騒ぐとか子供やん」
「なんやと!?」
「え」
振り返った先には受験の時に会った人物……なのだけど
「同じ顔が2つ…?」
まさかの双子?
「あ、あれ!宮ツインズやん!?」
「え!同じ学校やったんや…」
少しざわつきだした一部ギャラリーに、なんも気にしてない二人はまだ言い争ってる
というか有名人だったんだな、あの二人…
部活動が盛んな強豪校の稲荷崎
ということはどこかの部活の推薦だったんだろうなぁ
消しゴム貸さなくてもよかったか?
…なんて思っちゃった私はなんて醜いんだろう
「ん?あれ……」
じっと見すぎたかもしれない
周りに紛れて見てたけど片方と目があってしまった
向こうは覚えてないかもしれないけど、こっちはいろいろあったんだ
関わらない方が身のため…
「なあ!自分!消しゴムの子やろ!?」
回避不可能でした
めっちゃ道をズカズカ歩いてきたと思ったらこっちくるやん!?
「な、ナンノコトデスカ?」
「え、なんで片言なん」
さっさと居なくなろ!と思った瞬間に捕まった私の肩
なんでそんなに反応早いんですか
「結局ちゃんとお礼言えんかったしな」
「あ、見返り求めてないんで大丈夫です」
「…なんや自分、根にもっとん?」
「いや、印象最悪やったんで覚えてるだけですよ」
「…………それが根に持ってるって言うんやけど」
そうか、印象最悪なんか……といってしょぼんとしてるこの人に何て声をかけるのが正解やろか
まあ、声かけないけど
「あ、でもおにぎりの時はちゃんとお礼いってくれてたじゃないですか」
「は?おにぎり?」
「え?あげましたよね?私が握ったおにぎり…まさかお腹壊して記憶にないとか…?」
「おにぎりなんて貰ろうてないけど」
「え」
「あ、それ俺や」
「!」
も、もう片方も来てしまった
「おにぎりの子やんな?」
「え、あ…はい…多分」
「あん時はありがと。塩加減絶妙でめっちゃ旨かったで」
「それならよかったです」
「おい、サム…どういうことや!」
「どういうこともなにもあらへん。俺らが探してた人物が同一人物だっただけや」
「はあ!?……おい、まさか!」
「ここでも競い合わなあかんなぁ…ツム」
「?」
同じ顔が言い合ってるのって凄いなぁ
でも
「見た目はほぼ同じやけど、中身は違うんやなぁ」
『!?』
あ、やべ
口に出してしまってた
「ご、ごめんなさい!嫌な気分にさせたかな…?深い意味じゃなくて!その…」
なんて説明したらええのか分からんけど
「…いや、ええねん」
「ますます燃えるわ」
「は?」
「印象が最悪やろうと、それを変える快感を味合わえるなんて燃えるに決まっとるやろ?」
「俺、飯食うのめっちゃ好きやからあのおむすび毎日でも食いたいけん」
「……ちょっと待って?どういうこと?」
話の展開が読めなさすぎるんだけど
『覚悟しててな』
「意味がわからないんですけど…?」
私の平和な学校生活に終わりを告げられた気がする
「そういえば」
「あかん……」

『名前聞いてへんかった』

ああ……教えない方が身のためなのかな?





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