Agapanthus




「柚葵ちゃん!こっちでヘアセットするから来てくれる!?」
「あい…」
「縁下!動くな!」
「…すみません」
あー…力の方が大変そうだなぁ
「あ!ふたりには午前中はほとんど接客出てもらうけど、呼子になってももらうからよろしくね」
「「聞いてない!!」」
「言ってないもん」
「晒し上げじゃん!」
「大丈夫、大丈夫〜」
「「ゆ、憂鬱すぎる」」

とは言ったもののなるようになるもので
「いらっしゃいませ、お嬢様方」
「キャー!」
「っえ、かっこいい」
我が童話カフェは大反響です
そろそろ私も慣れてきたところ…後もう少ししたら寸劇も始まるし、もう少しお客さんも入れても良さそうだな…
「次何人ですか?」
「えーっと、8人ですね」
「8人席作れる?」
「大丈夫!」
「おーけ!柚葵ちゃん!案内お願いできる?!」
「承知しました…お嬢様方ご注文が決まり次第お知らせくださいね」
「はい…」
力は力で友人に捕まって動けそうにないし、友ちゃんも運ぶので忙しそうだから、今回の新規ゲスト出迎えは私の担当らしい
はやく力も戦力になってほしいところなんだけど
「お待たせいたしました。ゲストの皆様、ご案内…」
いたしますという言葉が出てこなかった
顔をあげた瞬間居たのは
『及川徹!?』
「大王様…!……じゃない?」
「あ、柚葵」
「潔子さん……皆さんも来られたんですか…」
潔子さんに大知さん・旭さん・夕・龍・飛雄・翔ちゃん
それに孝支先輩だ
『柚葵!?』
「え、あ、はい。私ですけどどうしたんですか皆さん」
「テーマがシンデレラとはいってたけど」
「まさか…」
「王子だとは思わなかったぜ!今日の柚葵はかっこいいな!」
「あ、ありがとね夕」
「てっきりお姫様かと思ってたべ…」
「柚葵さんって男装したら及川さんそっくりですね」
「…飛雄ちゃん、それは誉め言葉ではないよ」
女子受けが良いのは認めるけど
「でも!大王様より優しい感じですしなんか違いますよ!」
「翔ちゃん〜ありがとう!」
「にしても、雰囲気と良い柚葵ちゃんってなんでもできちゃうタイプなんだね。似合ってるよ」
「ありがとうございます、旭さん」
「髪型は及川徹を真似てか?」
「ですね……うちのクラスに徹くんファンがいるのでウィッグ使ってされました……そしたらもうみんな及川徹だって騒いでて…徹くんって凄いんだなって実感しました」
あれだね…写真撮られることに平常心でいられるのすごすぎる
「にしても、従兄妹といえど似るもんだな…」
「本物を横にすると違うんですけどね…雰囲気は流石及川の血って感じです。どちらかというと、いまの私は徹くんより徹くんのお姉さんに似てますよ」
「どっちにしてもかっこいいと思うよ」
「き、潔子さんにそう言って貰えると嬉しいです…!」
「くそう!俺達も王子したかった!!」
「そしたら潔子さんに…!」
あ、多分きっと言われるのは無理だと思うから、やめておいた方がいいだろうなぁ
「んん!それより皆様をお席へご案内させていただきますね」
大人数で立ち話は目立つ
確保した席にバレー部の面々を座らせメニューを配った
そういえば力が居ない…?まさか隠れてるのか?
「っあ!お、王子様」
「…ん?ご用ですか?お嬢様」
「あっ!あの!メニュー決まりました…!」
「お伺いいたしますね」

「男として柚葵に負けた気分になるべ」
「だべ」

「オーダー入ります」
「了解ー!」
「柚葵、時間だよ」
「うえ、今…?」
「だって時間なんだもん」
「バレー部が帰ってからじゃダメ…?」
『ダ〜メ!』
「休憩ほしいならさっさと行く」
「うぅ…」
憂鬱すぎる…

「ご歓談中失礼致します……皆様、ようこそパーティーへ」
「おお、柚葵が王子様に成りきってる…」
「似合うな…」
「そういえば縁下何処にいるんだ?」
「あれ…?」
「もしかして力、あれじゃないですか?」
「え」
「今回のパーティー…我が愛しの姫を探すために開催させていただきました。このパンプスを残した姫を探すために、女性の皆様はご協力いただきますよう、よろしくお願い致します」
「キャー!」
「及川さん…!」
「え、凄い人気…」
「流石及川の血…」

「はい、では次はそこのお嬢様?こちらを履いていただけますか…?」
くそう!恥ずかしすぎる!
潔子さんに跪いてこの台詞…!
「柚葵、本物の王子様みたいだね」
「…光栄です、美しきお姫様」
ああああ!!穴があったら入りたい…
孝支先輩も大地さんも視線送りすぎです…!旭さんは生きてますか!?龍とか夕は何も言うまい……翔ちゃんと飛雄はキラキラした目で見てこないで…!
「…でも、残念です……貴女ではなかったようだ」
「これ、大きいね」
「そうなんですよ。なので、困っていましてね」
さて、私がこれだけ羞恥を受けたんだ
そろそろ観念してね?力…
「すみません、そこのお嬢様、こちらを履いていただいても?」
「……はい」
「おや?ピッタリ…!貴女が私が探していた姫で間違いない!お顔をあげてくださいませんか?」
「!」
所詮顎くいってやつだろうか?それをしてやった
「柚葵…」
「逃げて私に全部押し付けた仕返しよ」
自分達でしか聞こえない音量で話す
「ひゃっ!」
「及川さんにされたい…!」
「かっこいい…」
『縁下!?』
「まさか縁下が姫役とは思ってなかったなぁ」
そう、力はお姫様、主役のシンデレラだ
大丈夫、ちゃんとウィッグはしてるし、シンデレラだからあまり肌の露出が激しい衣裳ではない
顔を上げてもまじまじみないと力とは分かりにくい出来映えにはなってる
この童話カフェは逆転童話カフェである
男役を女が、女役を男がする一風変わったカフェなので面白いと話題になっているのだ
「さあ、私の愛しいお姫様、私と結婚してくださいますか?」
「…はい、よろこんで…王子様」
『キャー!』
…必殺及川家スマイルは女性に効果的だなぁと改めて実感させられたわ

「縁下にトスするのやめよ」
「おい、それはなかなかに理不尽だぞスガ」
「俺が姫になりたい…!」
「普通逆だよな」

「それでは今から撮影タイムです!」
「テーブル毎にシンデレラと王子様が回りますので、写真や会話など楽しんでくださいね!」
「ただし!シンデレラの継母が回ってきたら時間終了となりますので、そちらには注意してください」
この時間が一番の憂鬱である

「シンデレラ!貴女ここでなにしてるの!」
「えー!もう時間なの!?」
「及川さぁあん」
「ごめんね、お姫様たち」
「さあ、王子様…お母様来られたから行きますよ」
できればこのテーブルで終わりたかったけど、よりによって…
「おっ!きたきた!」
「待ちくたびれたべ!」
「力〜!写真撮ろうぜ!」
「縁下〜!よく似合ってんじゃねえか…っぶ!」
知らんぞ龍よ……力を敵に回すととんでもないぞ
まあ、もう遅いけど
「柚葵さんかっけーっす!」
「男姿でサーブ打つと完璧及川さんですね…今度やってみてください」
「柚葵、大丈夫?」
継母よ、はよ来てくれ


「っはぁ……」
「終わった……」
バレー部の時だけやけに時間が長かったんだけど…
まさか、あれか?8人テーブルだったからか…?
力も憔悴しきってる…
「ようやく休憩かぁ…」
「力は……化粧落とせないから文化祭回れないのか…」
「んだ……だけどその代わり」
「縁下様!こちら買ってきました!」
「他になにかいるものはありませんか!?」
「縁下様!」
「下僕がいるから大丈夫」
そこには龍と夕……まあ、でしょうねってところで
夕はきっと楽しそうだから着いてきたな?
「柚葵は一旦どこか行くのか?」
「あー…うん」
『(あ、まさか)』
「ちょっと、孝支先輩と……」
『(やっぱりか…)』
力に比べて私は、服を着替えてウィッグを外しただけで動ける
「じゃあ、私は行ってくるね」
「おう」
「楽しんでこいよ!」
「ありがとう!」


「孝支先輩…」
元気よく飛び出してきたのはいいものの、待ち合わせに行くと
「菅原!劇なかなかよかったよ〜」
「なんだか王子様かと思ったよね」
「わかる〜」
女子に囲まれてました
気持ちはわかる…十分には分かるのだけど、今捕り囲わないでほしかったかな!?
声をかけるのも勇気がいるんだよ…そもそも彼女じゃないし、声をかけて良いものかも考えものなのに…!
「あの…及川さん…ですか?」
「…はい?」
「っあ!やっぱり及川さんですよね」
「えーっと?」
見覚えのない女の子に私も捕まりました
「もしかして今お一人ですか!?」
「良ければうちのコスプレ館で写真なんてどうです!?」
「写真部と新聞部と家庭部で主催してる催しなんですけど!」
「是非是非いらしてください!」
「あ、えっと…私は約束が…」
「先輩に魅了される女子多数!これを記事に書かねば後悔すると思うんです!お願いします」
う"…かわいい後輩からのお願いに頷きそうになるけど、折角のこの文化祭…孝支先輩と楽しみたいし…
「ごめ」
「なになに?面白そうじゃん!」
「こっ孝支先輩!」
後ろにいた孝支先輩に驚く
さっきまで女の子に囲まれてたのに…!
「なかなか柚葵が来ないから心配したべや…女の子に囲まれてただけでよかった」
「す、すみません」
「あ、菅原先輩もご一緒ですか!?」
「え!ちょっと、これ最高な組み合わせでは!?」
「王子様と王子様…!いい…!」
「あ、やっぱりここでも王子様…」
及川の血を呪いそう…
でも、孝支先輩の王子様姿は私もみたい
凄く、もの凄くみたい
「あー…柚葵が王子様するなら俺はパスしようかな」
「え!?なんでですか!」
「菅原先輩の王子様姿幻だから皆みたいと思ってますよ!」
「え?そう?それは光栄だけど…」
「?」
ちらりと私を見る孝支先輩になんだか嫌な予感がした
「それなら柚葵のお姫様姿も幻じゃない?」
ひえ……
「確かに…!」
「でも及川さんの王子様は捨てがたい…!」
「柚葵がお姫様してくれるなら、俺は王子様になってもいいよ」
「え」
「「是非ともそれでいきましょう!!」」
納得早すぎるでしょ

「でかした!」
「今話題の二人が!」
「しかも同時に…!」
わぁああい!と楽しそうな人達に今更辞めますとも言い難く
「はい、柚葵こっちきてね〜メイクは後で直してあげるから今度はかわいくするよ〜」
しかも私のヘアメイク担当のクラスメイトが丁度店番だったみたいで、あれよあれよと真逆のメイクをされていく…
「まあ、あんまりメイク変えなくても柚葵は元々が出来上がってるからほんの少し弄るだけで完成なんだけどね…髪型は気合い入れるわ」
「ほ、ほどほどにお願いします…」
「だーめ!折角好きな人と思い出残せるならとことんやらなきゃ損よ」
小声で言われた言葉に顔が熱くなる
そうだ、これから孝支先輩と………
私がお姫様するなら王子様するって言った孝支先輩
それは前に話したことで…それを覚えてくれてたことに心が暖かく感じる
やっぱり好きだなぁ
「…うわ、分かってたけどやっぱりかわいいわあんた………」
「え?」
「鏡見てみな」
ずいっと出された鏡にビックリする
「誰!?」
「柚葵だよ」
「私……」
化粧というものをしてこようとも思わないくらいにスポーツに明け暮れていた
女の子の無限の可能性に気づけた瞬間だった
「まあ、柚葵は普段でも十分かわいいから安心しなよ」
「いや、そんなことな「ほれほれさっさっと着替える!」………」
ぐうの音も出ない

「こ、これは逆に恥ずかしいんだけど……」
「え、どこぞの姫??え?プリンセスすぎない?」
「それより、この衣裳ガチのやつじゃん……」
「よく分かったね!家庭部部長の力作よ!」
「グリッターをふんだんに使いつつオーガン生地はあまり使わないようシンプルに仕上げつつ…存在感の出したドレス……!私完璧だわ!」
「え、なに…?」
「先輩〜!及川さんが引いてしまってますよ」
「あ、いけない」
「ごめんね、柚葵。先輩被服の勉強してて将来ドレスのデザインから制作までするのが夢らしくて…」
「その記念すべき第一号に及川柚葵ちゃん!あなたに着てもらえてよかった!!私のドレスが生きてるって感じるわ!」
ガシッと力強く握られる手……ああ、なるほど…通りで奥から衣裳が引っ張り出されたわけだ
表に飾ってるのはきっと既製品のアレンジだろうなぁ…
これは1から作ってるのか……凄くない?
「せ、先輩の力作を着させてもらって光栄です…」
「私も満足よ!将来ブランド立ち上げたら柚葵ちゃん着てね!」
「え」
「着てね!!」
「あ、はい…?」
「よっしゃ!!菅原にもこのドレスに合う専用のタキシード着てもらってるし完璧…!菅原も将来巻き込んでやろ…」
勢いに負けて返事したけど間違っていたかもしれない
「ドンマイ」
「多分先輩本気ですよ…」
「え、まじで?」
「「まじです」」
判断早まったかもしれない……
「おーい!こっちは準備できてるぞー!まだかー」
仕切り越しで良く通る声が孝支先輩の準備が整っていることを知らせてくる
「おーけ!こっちも出来たよー!」
負けじとこちら側も知らせてるけど…
「ま、まって……心の準備ができてない…」
「うそでしょ」
「自信持って!柚葵ちゃんが一番輝いてるから!」
先輩のテンションにも着いていけそうにはない
「さあ、お姫様?行ってらっしゃい!」
「ひえっ!」
どんっと背中を押され、パニエに引っ掛かりそうになるところを何とか堪えた
「危ないよ!?」
「ぐずぐずしてるからよ!さっさと行け」
「…すみません」
この友人は岩ちゃんだろうか

「…お待たせしました」
しーんと静まり返る空間にやっぱり似合わなかったのでは!?と不安になる
一回引っ込もうかとドレスの裾を持とうとした瞬間
「お姫様だ!!お姫様がいる!?」
「え!やばくない!?想像以上なんだけど!?」
「ミス烏野じゃん!」
「なんで今年ミスコンないの!」
「えええ!王子様がお姫様になった!」
「いや、それ意味が可笑しくなるぞ!」
一気に騒ぎだした周りに安堵を覚える
よかった、可笑しくなくて…
それより私が気になるのは孝支先輩で
「………王子様?」
意外とすぐそばにいた孝支先輩はどこからどうみても王子様
白のタキシードを着て髪の毛を少し上げているからだろうか?どこか優しさをだしつつキリッとしているからかいつも以上にかっこよく感じて…
それになんだか
「なんか、結婚式みたいだべ…」
「!」
多分無意識であるだろう
小さく呟いた孝支先輩の言葉は今まさに私が思っていたことと同じで
「孝支先輩…」
「…柚葵」
思わず名前を呼んでしまって後悔した
言うことなんて何もないのに
上げていた視線を思わず床に落とす
視界の端には孝支先輩の靴が見える
どうしよう、嬉しいのにこの気持ちを言えないままなんて言えばいいのか私の頭では考えられない
「はいはーい!お二人さんこっちに来てね」
周りは私たちの内情などお構い無しに盛り上がるものだから困った
移動したいのに動かない足
それとは逆に視界の端にあった足はこちらに向かってくる
バクバクと高鳴る心臓の音が痛い
「柚葵…」
「!」
「キャー!!」
俯いていたのに孝支先輩の顔が見える
なんで…?
「本物のお姫様みたいだべ……出来れば独り占めしたかったな」
「っこ」
この人は!!
狡すぎる…!こっちの気持ちを知っててこうしてるんじゃないかって思ってしまう
Sか?ドSか???
「な?いつまでも恥ずかしがってないで行くべ」
俯いていた私に、カフェで私が潔子さんにしていたみたいに跪いて私の手を握った孝支先輩
狡い、狡すぎる
誘導してくれるのもスマートだし、ちゃんと歩幅合わせてくれる孝支先輩は本当に高校生なのか疑ってしまう
「スガ!これ握ってみろよ!」
「え!なにこれ!?カッケー!」
「だろ??この剣でも撮影してやるからな!」
「まじで!?後輩に自慢しよ〜!」
あ、うん
ちゃんと高校生だ


「烏野祭面白かったぜ」
「…よかったですね」
結局あの後話題になった二人が撮影している!と噂になったらしく、人が多くなりすぎた為退散することになった
まあ、あり得ないほどの枚数を撮られた後だったから逃げる口実になってよかったのだけど
その後繁盛したコスプレ館のメンバーにお礼として全データを後日渡しますと言われたので思い出作りとしては成功だった
渾身の一枚だけ直ぐにもらえたので、孝支先輩はすぐ待ち受けにしていたから止めるのに必死ではあったけど……(結局は負けた)
その後は皆のところに遊びに行き、出会った大地さん達に写真を自慢する孝支先輩を諦めて眺めるという文化祭の思い出を作った
その後はカフェに戻り王子様として奮闘した
途中烏養くんが嶋田さんたちをつれて来るものだから、力が落ち込んでいたのは言うまでもない
そんな濃い1日が終わり、今日は振り返り休日
普通なら休みだけど、春高予選が控えてる私たちに文化祭でできなかった分を取り戻す練習がないわけがなく、いつも通りの日常を取り戻していた
烏養くんに面白かったといわれてもこちらは大変だったんだぞ、と思いを込めて睨んであげた
「そう睨むなって!」
「ごめんね、こういう目で」
「今日はなかなかに荒れてんな…」
「…どうも厄介な人に王子様もお姫様も見られて質問攻めのオンパレードを過ごした一夜でしたので」
「………確認しなくても分かる人物か?」
「そうね、血は争えない相手です」
昨日の夜突入してきた徹くんの相手をしてたから今日は寝不足なんだ、寝させてくれ…
「お疲れ…」
「ありがと」
「の中悪ぃけど、初戦の相手の分析よろしく頼むな」
「鬼!」


そして後日でた学校新聞の一面が孝支先輩とのツーショットだったのは言うまでもない




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