Agapanthus




「ところで柚葵、文化祭いつ?」
長かった遠征合宿も終わってしまった
宮城にいても気を緩めることなく、部活に励み、時に文化祭の用意に本腰をいれた頃
恐れていたことが起こった
そう、我が従兄が文化祭の存在に気がついた
「えーっと…この日」
「…うわ、丁度行けないじゃん」
よ、よかったぁあああ!!!
これで徹くんは来ないし安全が保たれた…!
「そしたら仕方ないね」
「っちぇー!牽制しておきたかったのに」
「……なにを?」
「こっちの話だよーだ!」
よく分からないけど気にせずにおこう
「んで?出し物は何なのさ!」
「童話カフェ」
「童話カフェ?」
「童話に出てくる人物とかのコスプレしてちょっとした寸劇するカフェ」
「なにそれ、面白そう!」
「今のこの大切な時期にされるから困ってるんだけどねぇ…」
「え?柚葵何すんの?」
「…………」
やばい
「そこまで言うって事は何かするんだよね?何するの?ねえ?」
なんで口を滑らしたかなぁ…私
「シンデレラの……」
「…え!?」


「柚葵ちゃーん!試着してもらいたいからこっち来て〜」
「…うぃっす」
「力〜!お前も試着するからこっち来い」
「お前らで大丈夫かよ…」
「大丈夫だ!女子も居るから!」
「それもそれで恥ずかしんだけど!!」
「しょうがない!」
とうとう文化祭前々日
衣裳合わせという名の晒し上げだ
「きゃー!!!柚葵ちゃん最高!!」
「こっち見て微笑んで…!」
「っあ、だめ……柚葵ちゃんに惚れた」
「これはだめだ…」
「おーい!そっちも盛り上がってると思うけど、こっちもやべえぞ」
「力?無事?」
「無事だけど…」
現れた脱力しきった力の姿に同情したのは無理もないだろう
「似合ってるよ……がんばろうね」
「……おう」


ーー…
「そういえば皆は文化祭の準備しなくて大丈夫なの?」
体育館に来てみると3年生以外は勢揃いしていた
3年生はリハーサルとかあるからなかなか抜けれないみたいだけど、それでも早くに切り上げて来てくれる
「俺は簡単だからな前日がやべえ」
「俺のとこも一緒」
「1年生は何するんだっけ?」
「日向のとこが何だっけ?」
「お化け屋敷ッス!」
「あ、そこも前日がヤバイとこだね」
「月島達は?」
「普通に喫茶店です。ケーキとか作るの上手い子いるんで」
「へぇーうちとライバルだね」
「逆に柚葵さん達は準備とか大丈夫なんですか?」
「…あー……私達は当日接客するから準備はほぼほぼ免除なんだ」
「その代わり成田が頑張ってくれてるよ」
「あ、だから成田いないのか」
「そう。まあ、私たちの苦しみに比べたら…」
「楽なもんだよな……」
『?』
「おーっす…ってどうしたこの空気」
「あ、烏養さんちーっす!」
「明日練習できねんだから、すぐ始めっぞ!ちなみに烏野祭、行けたら俺らも行くからな」
「「うちにだけは来ないでください…!」」
「?どうしたんだ縁下と柚葵」
「烏養くん…ふれないでくれると助かる……」
「?」
「来るなと言われると」
「行きたくなるのが男だぜ!」
あ、厄介なのが釣れてしまった…

文化祭当日
通称烏野祭と言われる文化祭の日程は2日に分かれる
1日目は午後から3年生の劇
午前中は1.2年生は教室の準備を進めて、3年生は最終リハーサルをする
なんでも3年生は最後の文化祭、丸1日楽しめよ!ってことで2日間に分かれてるらしい
それに文化部にとっては、ここが最後の戦いでもあるから、準備の時間もとってあげたいってところだと思う
久々にバレーの朝練が無く、私は有志で集まっていたテニス部に来ていた
普通だったらバレー部もするところだろうけど、生憎文化祭だから体育館を使われる
練習場所が外に限られてしまうと、バレー部はすることが限られて練習をすることが叶わない
そう考えると体育館を使う部活って学校行事では不利だよなぁと思っちゃう
天候に左右されるテニスもテニスなんだけど…最悪体育館使えるし…そう考えるといろいろ出来ちゃうんだよなぁ
時間になり着替えをしていた最中、一人の子が烏野祭のパンフレットを広げて盛り上がっていた
「ねえ、2年4組の説明欄めっちゃ気になるんだけど、友ちゃんも柚葵ちゃんも何するの!?」
「えー…っと」
「なになに?気になる……"童話世界のパーティーに迷い混んだあなた。ひと味違う童話に驚くこと間違いなし!"…何これめっちゃ面白そう!」
「「あははは……」」
キャッチフレーズ考えた人凄すぎない…?
「なるべく来ていただきたくはないかな」
「なんで!?」
なんででもである


「あ、柚葵〜」
「!こ、孝支先輩!?」
体育館近くの倉庫に布を取りに来たのは良いものの、そこには先客がいて
「どうしたんですか…?」
「あー…ちょっと布がたりなくなって取りに来た」
「大丈夫ですか?」
「…大丈夫、大丈夫!そんなに大したことないから」
「そうなんですか…?」
そういえば孝支先輩の劇ってなんだったっけ…?
「孝支先輩達の劇って何するんですか?」
「っあー…まあ、あれだド定番のやつ」
「?」
「見てからのお楽しみだべ」
「そうですね…楽しみにしてます」
きっと素敵なんだろうなぁ
「じゃなくて!」
「!?」
いきなり大きな声を出す孝支先輩にビックリした
「柚葵!」
「ひ、ひゃい!」
噛んだ…!
「明日、俺と烏野祭回らない…?」
「っへ」
文化祭回らない?だれと?孝支先輩と…?え、え
「ま、回ってくれるんですか…!?」
「おー…柚葵が良ければだけどな」
「てっきり孝支先輩は仲の良い人と回るものだと…」
「…その感じはもしかしてもう誰かと約束しちゃった?」
「あっ!いえ!そういうわけでは…!せっかく最後の文化祭ですし、思い出としても大事だとは思うんで…私なんかで良いんですか?」
「最後だからこそ柚葵と回りたい」
「!」
「俺のお願いになっちゃうけど」
「…それは、是非とも…とは言いたいんですけど、私あんまり自由時間とれないんですけどいいですか?」
「大丈夫!それまでは大地達と回るし、柚葵達のところに行く予定だべ」
「え!?私たちがいないときにしてくださいよ!」
「そうはいかない!こんなん書かれてたら気になるに決まってんべや!」
憎きパンフレットめ…
「だったら私の休憩中に行きましょ!」
「そしたら柚葵も縁下も居ないべ!それじゃ意味ないし!」
「んぐぐ…」
「それはいいとして…どうする?回ってくれる?これでも俺緊張してるんだぞ〜」
「…回り、たいです」
「……ん」
「ご、午後からなら、少し空いてます…」
「分かった!じゃあ、約束!それと今日の劇、俺の事見ててな!」
そう言って孝支先輩は私の肩を叩いて笑顔で去っていった
「……あれ?孝支先輩何も持ってなかった…?」
何しに来たんだろ…?


「大地…!誘えた!柚葵誘えた…!」
「なんで誘うのにこんなに時間がかかるのか…」
「ヘタレ?菅原意外とヘタレ?」
「そう思うだろ?でも、こうみえて狡いやつなんだよ」
「どういう事だよ?」
「告白予約済み」
「はぁ?」
「……大地なんて違う意味で狡いやつだけどな!」
「?」
「分かってないところが罪深い!!」
「ずっと誘えずに縁下から連絡来て倉庫で待ち合わせてたお前にだけは言われたくないな」


「先輩達の劇楽しみだね」
「うん」
ぶっちゃけると、孝支先輩からのお誘いに胸の鼓動がいそがしい…
集中できるか分からないけど、私達は体育館へと集められた
隣は勿論友ちゃんと…
「明日のこと考えると胃が痛い…」
「縁下がここまでなるとは思ってなかった…」
反対側には力と一仁がいる
力の顔が本当に優れなさそう

「それでは烏野祭!開幕です!!」
うわぁああと盛り上がる体育館
3年生の劇の後は、有志によるステージが控えてる
漫才だったり、バンドだったり…
盛りだくさんである1日が開幕した
「3年4組による劇"とある国の白雪姫"です」
トップバッターは孝支先輩と大地さんのクラス
確かに王道中の王道だった
「昔々、とっても美しいけれど、心の醜いお妃様がいました。お妃様は魔法のカガミを持っていて、いつも魔法のカガミにたずねます」
アナウンスから舞台に光が当てられた
そこに居たのは
「カガミよカガミよ、この世で一番美しいのはだれ?」
体つきが素晴らしいお妃様と顔だけ出ている鏡の人…
どっちも男の人だな…?お妃様も男の人って面白い
下級生達は既に笑って見てる
中には先輩やばすぎだろっ!と言ってるラグビー部の子がいるから、あのお妃様はラグビー部の人なんだろうなぁ
通りで体格が良いわけだ
「お妃様は、カガミがいつものように「あなたが一番美しいです」と、答えるのを待ちました。しかしカガミは、」
「あなたの娘、白雪姫に決まってるじゃん」
「と、答えたのです」
やけにフランクなカガミだな?
オリジナルで面白いから良いけど
「お妃様は、白雪姫の2度目のお母さんです。お妃様は激しく腹を立て、白雪姫を猟師に殺させようとしました」
「猟師!猟師を呼んでちょうだい!!」
野太いお妃様の声に、執事役であろう人が出てきた
「猟師とはどの猟師でしょうか?」
「猟師がそんなにいっぱいいるわけないでしょ!?」
「いえ、我が国では猟師は5人従えております。そんな事もお忘れですか」
あれ…?みんなお妃様に当たり強くない?
「ええい!分かってるわよ!なら、菅原猟師を呼んでちょうだい!」
「!」
「あ、柚葵の思い人の登場だ」
「スガさん猟師なんだな」
「なんかあってる気がする…」
「お呼びでしょうか?お妃様」
舞台袖から出てきた孝支先輩は、いつもの雰囲気で出てきてにこやかに答えた
「え、もはや王子様じゃん…」
「…確かに」
格好はちゃんと猟師だけど、立ち姿とかどう見ても私には王子様にしか見えなかったけど、友ちゃんも同意してきた
ということは
「え?かっこよくない!?」
「あの人菅原さんって言うんだ…」
「いいなぁ」
そう思ったのは私だけでない
心の中にあるモヤモヤの正体は知っていても、今の私にそれを自覚する資格はない
もう分かっているとしても、まだ私と孝支先輩の間は"先輩と後輩"なんだ
「よく来たわね。あなたに命令よ。白雪姫を殺しなさい」
「拒否権は?」
「ないわよ!」
「…分かりました」
そこで周りが暗くなり、場面が孝支先輩と白雪姫になった
「白雪姫、お妃様からあなたを殺すように言われて参りました」
「そ、そんな!」
…あれ?
「でも、俺は貴女を殺したくなんかない。なので貴女はこの森の中で生きてください。そうしたら殺されない筈だから」
「でも、貴方は?」
「俺は大丈夫です。貴女も……ここで生きていける能力は身に付けていますよね?」
「はい」
「なら、大丈夫だ。またお会いしましょう」
「ありがとうございます……師匠」
おおう……やっぱり白雪姫も男だった……
その上なんだか分からないけど、孝支先輩が師匠らしい…白雪姫何者?
「心のやさしい猟師は、白雪姫をそっと森の中にかくして、お妃様には白雪姫を殺したと嘘をついたのです」
「お妃様、白雪姫を殺してきました」
「ご苦労様…なにか褒美をやろうではないか」
「なら……俺はここから立ち去りたいです。その許可を」
「それだけでいいの?」
「はい」
「では、許可します。とっとと出ていってね」
「はい」
「我が儘で横暴なお妃様から解放されたかった心優しき猟師は自由を手にし、森へと去っていきました」
「…これで孝支先輩の出番は終わりかな?」
「わかんないよ…私たちが知ってる白雪姫じゃなさ過ぎるから展開が読めない…」
「その頃、白雪姫は…」
「こんにちはーお久しぶりです」
「あれ?白雪姫?」
「どうしたんだよ」
「遊びに来たのかい?」
「城から追い出されました」
「まじか」
「あの妃もよくわからんな」
「殺されそうになったところ、運よく師匠に助けられたんです」
「おお!スガがか!」
「よかったな!」

「七人の小人の中に大地さんがいる」
「だな」
「…というか、これ…七人の小人じゃなくて、七人の巨人じゃないか?」
「確かに!みんなでかい!」
みんな大きい上に体格よすぎるでしょ3年4組
「白雪姫は、森に住む七人の巨人と暮らすことになりました。そして七人の巨人が山に働きに入っている間、掃除や洗濯や針仕事をしたり、ごはんを作ったりして、毎日を楽しくすごしました」
ほんとに七人の巨人だった
「うーっす」
「あ、師匠!」
「おお!スガじゃねえか!」
「お前も来たのかー!」
「白雪姫は師匠と再会して嬉しそうです。そして七人の巨人と猟師と白雪姫という暮らしが始まりました。そして、白雪姫以外が食料を調達して誰もいなくなる日は皆「白雪姫、俺達が仕事にいっている間、誰もも家に入れちゃいけないよ。あのお妃に、ここが知られてしまうからね」と、忠告しました。ところがある日…」
「カガミよカガミよ、この世で一番美しいのはだれ?」
「と、お妃がカガミに聞くと」
「山を越えたその向こう、七人の巨人の家にいる白雪姫に決まってんだろ。当たり前のこと聞くなよ」
「と、答えたのです」
「なんですって!!やはり菅原猟師、裏切ったのね!よし、こうなれば」
お妃様の人が全力疾走で走って舞台袖にあっという間に消えた
めちゃくちゃ早いし迫力ありすぎでしょ
「自分で白雪姫を殺そうと考えたお妃は、物売りのおばあさんに化けると、毒リンゴを手に七つの山をこえて、巨人の家に行きました」
その瞬間、後ろの扉が開いて黒い衣に身を包んだお妃様が入ってきた
「おーほっほっほ!!美しいのはこの私よ!!白雪姫?あんな小娘に負けてたまるもんですか!」
え、はやい、早すぎない?体育館まあまあな大きさあるのに凄い
その上…めちゃくちゃ演技派過ぎません…?
真ん中の通路を堂々と歩いていくお妃様の姿は女優にも見えてきた
「すごっ」
「ね!」
「あら?そこのあなたに良いものをあげるわ」
そういいながら飴をあげていくお妃様に笑いもおきていた
「巨人の家にたどり着いたお妃様。そして、まどをたたいて言いました」
「美しい娘さんに、おくりものだよ」
「まあ、何てきれいなリンゴ。でもいらないわ」
「何を言うんだい?折角美しいの娘さんのために持ってきたというのに…」
「だって怪しいもの」
「何でだい?」
「こんな山奥に態々来る人なんていないし、態々きてどうするの?……貴女お妃様でしょ?」
「正体がバレてはしょうがないわね!そうよ!貴女を殺しに来たのよ!覚悟なさい!」
「そう言ってお妃様は白雪姫にリンゴ振りかざしました。その瞬間」
『白雪姫!伏せろ!』
「あらゆる方向からお妃様に向かってボールが飛んできました」
「スガ!」
「大地!」
そう、本当にあらゆる方向からお妃様に向かってボールが放たれた
しかも豪速球が
ちなみに孝支先輩と大地は、孝支先輩がトスをして大地さんがスパイクを打つという本気のやつをお見舞いしてた
大地さんのスパイクは旭さんには及ばないものの当たると滅茶苦茶痛い
それを知ってる翔ちゃんは顔を青くしていた
…なるほど、だからお妃様はあの体格の上ラグビー部でないといけなかったのか
よくタックルされるからなれてるし
「先輩かっこいい!」
「健在だ!」
「バレー部狡くね!?」
「うまっ!」
と、まあ反応はそれぞれだけど各所で楽しめていた
「あああ!!!白雪姫!!この恨み!!」
「息が絶えきる前にお妃様は白雪姫にリンゴを投げました。そのリンゴは白雪姫のパンチにより砕かれましたが…」
『白雪姫!』
「飛び散ったリンゴの欠片を口に含んでしまい、バタリとたおれて、二度と目をひらきませんでした」
あれだ、白雪姫はボクシング部だ
あのパンチと体格はきっとそうだ
「白雪姫が死んだことを知った小人たちは悲しみ、せめて美しい白雪姫がいつでも見られるようにと、ガラスの棺の中に白雪姫を寝かせて、森の中に置きました。そしてある日、1人の王子が森で、白雪姫の棺を見つけたのです」
棺とその周りに170cm以上の男達…どんな巨人の密林だとツッコミをいれたくなる
「何て綺麗なな姫なんだ。まるで眠っているようだ」
そして、出てきた王子様は……
「なんであの人が白雪姫やらなかったんだろう」
「…ね。まあ、面白さを追求するなら今のままが一番だよね」
「確かに…」
小柄な王子様で顔もどちらかというと翔ちゃんみたいなかわいい感じの男の人だった
まあ、逆にお姫様をしてしまうと別の意味で危なくなりそうだから王子様でよかったのかもしれない
見映えはバーベキューのときに巨人に囲まれていた仁花ちゃんみたいだけど
「王子は思わず、棺の中の白雪姫にキスをしました。するとキスしたはずみで、毒リンゴの欠片が白雪姫ののどから飛び出したのです。目を開けた白雪姫は王子と結婚し、七人の巨人と師匠とずっと幸せに暮らしました。めでたしめでたし」

「やべえ……おもしろかった」
「3年生レベル高すぎない?」
受けは上々で、笑いありの白雪姫は大成功に終わっていた
みんなが最高の味を出してた
男しか出ない舞台っていうのもうけた要因だろうなぁ
その次の旭さんのクラスはヤクザなお話で
「ボス!もう間に合わねえです!」
「このままじゃ…!」
「…お前らは先に行ってろ」
「しかしボス…!」
「大丈夫、俺は負けねえよ」
まさかの、ボスの役が旭さんだった
めちゃくちゃ似合ったのは言うまでもないであろう

潔子さんはその美声を活用していて
「こうしてロミオとジュリエットはー…」
ナレーションとして活躍されていた
美しいのに表舞台にたってないところには疑問が残ったけど、もともとそういうのは苦手と言っていたので、これがベストなのだろう

こうして1日目の烏野祭は終了し、運命の日がやって来たのだった


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