Agapanthus




『お願いしァース!』
「烏野ファイ!」
『オース!!』
サーブはツッキーから…相手にきちんとレシーブをされ、攻撃が来る
相手のスパイカーは2m
「ブロック3枚!!」
2mの9番くんが角川のエース、それは分かっていたこと
ちゃんとブロック3枚で対応したのだけど
「上から…!」
「百沢ナイスキー!!」
完全にブロックを無視した状態で上から打たれた
その後もブロックが意味をなしていない…と思うほどに上から打たれ、更には
「スマン、カバー!」
「センターッ」
「日向ラスト頼む!」
2mの壁に打ち勝てるパワーは翔ちゃんにはない
そう自分でも分かっていた翔ちゃんは、フェイントに切り替えたのだけど
「手…!」
腕や指のリーチには勝てず、逆に打ち落とされてしまった
「なんという高さ…!」
「…普通なら今のは、ブロックの上越えていく筈なんだけどな…」
「才能があっても身長は生まれつきだからどうも出来ないですよね…」
「……そうだね」
「身長が大事になるバレーボールってなかなか厳しい世界って実感させられてしまいますね…」
改めて思わさせられてしまう
恵まれてるってこういうことを言うんだなって
「確かにそうだが……真っ向勝負でなければどうだ?」
「…可能性はある」
「柚葵が一番分かってるだろ?」
「うん」
だからこそ、この2mに翔ちゃんをマッチアップさせたんだ
最強の武器をもっている翔ちゃんに託したんだ
「飛雄の指先の調子が良さそう…このままいけるかも。それに…」
スパイクを打つ2mの攻略が見えてきた
きっと彼らも気づいた
「ーー…先生」
「ハイッ」
頷いた夕と大地さんを見た烏養くんはタイムアウトを要求した
「潔子さん」
「大丈夫、こっちは任せて」
「お願いします」
「柚葵!」
「夕…思った通り?」
「ああ!ビンゴだった!」
「俺も間近でも見たから間違いないと思う」
「お二人もそう思ったなら確実だと思います。私も外から見てそう思いました」
「う、上から打たれるの一体どうすれば…!?」
現在やられっぱなしの翔ちゃんは不安になりつつある
「まぁ、落ちつけ」
「そうだぞ!空中戦だけがバレーボールじゃないぜ、翔陽」
「こっちには心強い守護神がいるからね」
「任せろ!」
「前の試合、アップ、そんで今。ここまで見て来た感じでは角川の9番は恐らく、コースの打ち分けが出来ない」
「身体の向きそのままのクロス方向にだけ打ってくる」
「練習見た感じもあの9番はまだ、バレー始めて間もないと思う。音駒のリエーフみたいな感じだな」
「だけど、リエーフくんみたいな器用さやスピード、センスはそこまでまだまだ無い」
「あいつは元々身体能力とかセンスが凄いらしいです!腹立つ!!」
「うん、そうだね。合宿で音駒居た時に、リエーフくんはまだまだ発展途上!って感じだったけど、そつなく器用にこなしていってた…レシーブは今一で怒られてたけどね!それ以外のセンスは確実にあった」
毎回夜久さんに怒られていたのは記憶に新しい
「逆に言えば角川の9番はそれだけで他を圧倒できる身長だって事だけどな」
「ーよし、じゃああの9番が打って来る時は、ストレート捨てよう」
そして再開して早々に角川のチャンスボール
スパイカーは勿論9番
宣言通りレシーバーをクロスに寄せ…
「ダッシャアアイ!!!」
夕は目の前に来たスパイクを完璧にレシーブしてみせた
こちらの攻撃は翔ちゃんが斜めに飛び、ブロックがいきなり出てきたところを、なんとかフェイントのような形で点を決めた
「うわっ9番君あんまりジャンプしてないのに…!」
「立ってるだけでもネットから手ェ出るもんなあ」
リーチ長いって狡い……
と、ふと目に入った飛雄がワキワキと指を動かしているのが見えた
今日調子は良いと思ったけど、本当に良く動く指だな……
「田中サーブ!」
「ー今日はなんかイイ」
「は!?」
あ、これは次にはあれが来るな……
翔ちゃんの顔がめちゃくちゃに嬉しそうにしてるし……
「犬みたいでかわいい」
「?」
わしゃわしゃしたいなぁ…!と感じさせる顔に、きっと飛雄が速攻やる事宣言したんだろう
思った通り、烏野コートにボールが帰ってきた瞬間の烏野の攻撃は、公式戦久々に見せる変人速攻だった
「うおおお!!出た!IH予選でやってた"超速攻"!!」
周りの反応は上々である
驚きのどよめきがあることがわかる
いまはこれだけで十分の奇襲だろうけど、まだまだ……新生烏野はここから
「また10番の速攻!!何本目だ!?」
今日の飛雄はまあまあミスもあるものの絶好調
うおおおと盛り上がる2年組は大地さんに怒られているけど、その盛り上がりたい気持ちは分かる
「よしっ!速攻が決まるようになればいつもの烏野だ!」
「いやいや先生、それは"少し前までの烏野"だぜ」
「……烏養くんが極悪人みたいな顔してる」
「うっせ!」
「まあ、それは置いといて…やっぱり9番くんはレシーブさせない方向だね」
「ああ」
攻撃のためだと普通なら思うかもしれないけど、きっと9番くんの場合はレシーブに参加させないというより出来ないんではないかと思った
きっと他の事はまださせていないのだろう
始めたばかりでレシーブはスパイクみたいに上手くならない
みんなで守っている
「9番君が後衛へ下がると、正直少しホッとしますね…」
武ちゃんがそういった瞬間、9番くんが動き
「バックアタック!!」
「ホギャ!!」
「ひいっ!デスヨネ!!」
後ろから来た強いスパイクを翔ちゃんがボディーでレシーブ
「返ってくる!ダイレクトで叩け!」
「あの9番は守備とか打ち分けより"高く上がった球は全部打つ"って事を徹底して練習したんだろうな。とは言え9番が後衛に下がっている間、ネット際の空中戦は」
ダイレクトで叩かれたボールはツッキーがブロック
「こっちが上だぜ」
逆にコートへ叩きつきかえした
そして、セットポイント最後の攻撃は
「うえええ!!10番が止まんねぇーッ」
変人速攻で決まった
「タオルいく」
「ドリンクいきます!」
潔子さんとお互いの役割を呟き頷き合う
「手伝うべ」
「ありがとうございます」
孝支先輩に手伝ってもらいながら、私はスクイズボトルを渡しながら皆の状態をみる
うん、大丈夫いつも通り皆元気だ
「ナイスゲームです」
「あざーっす」
「このまま同じ戦略で攻めて大丈夫ですが、きっとパワーには勝てないので油断は禁物です」
「だな」
「分かってる!」
きっとこっちが攻略したなら、向こうはパワーで勝負してくるだろう
なんたってまだ技術はないのだから
「ーなあ、試合前お前が"本気でビビってんのか?"って言ったのは、今日速攻が上手く行くってわかってたからか?」
そんな時、翔ちゃんが飛雄に疑問をぶつけていた
「?いや?…まぁ、いつもより調子がいいなとは思ってたけど」
「じゃあ、なんでだよ?」
「だってお前、東京で梟谷の主将とかロシアの奴とかとみっちり練習したんだろ?速攻以外の事」
「!」
「まぁ、最初のフェイントは止められてたけどな」
「うっせーなっ!」
飛雄ももう少し素直になれば良いのに
翔ちゃんが自分にとっての良きライバルであり、良き相棒だということに薄々気がついているんではなかろうか
ピーッと試合再開の合図が響く
やはり思った通り角川の9番は力を込めてきた
夕はコースには居たけどボールを捕らえることはできなかった
「おおよそのコースが読めているとは言え、必ず真正面に打って来る訳じゃねえからな…奴が"大砲"である事に変わり無い」
「じゃあ、向こうが一人の大砲ならこっちは多数の銃か槍?」
「…だな」
直後のシンクロ攻撃
ブロックはついてこれず、ボールは阻むもの無くコートへと叩きつけられていた
そこからは攻防戦が繰り広げられる
「角川の9番…体力も相当だな…元々も運動部と見た」
「?」
「…なんとなく言いたいことは分かる気がする」
「スパイク本数はダントツ多いし、ブロックはMBがいる筈のセンター位置で跳んでる。エース兼ブロックの要なんだろうな…相当消耗しているハズなのにー迫力は増す一方だ」
「テニスでも稀にいたタイプ…試合後半になるにつれて強打が威力増してくるやつ…トッププロにみられる頭角を表してくる感じって精神的にくるよね」
「…お前がそうだった気がするけどな」
「そんなことないよ…上には上がいる。限りはないし、実際優勝はできなかったわけだしね。私にはその頭角は無かったよ」
この身をもって知ったこと
「続けてきたものは呆気なく終わるけど、そこに意味がない訳じゃない」
「…潔子さん?」
「大丈夫、皆ちゃんとそれがなくても強い。私たちは選手だった時代に出来なかった信じて待つことが強さに、いいサポートに繋がる。今は過去を振り返ってる余裕はない」
「…その通りだな」
「はい…すみません」
潔子さんからの厳しい指摘に気持ちを入れ換える
活を入れてもらった気がして、いつもより視界がクリアになった…気がする
点は烏野にどんどん入っていく
2mにも負けない点取り合戦
2mをそのまま止めることは難しいかもしれない
だけど、それなら止めなければ良いこと
ソフトブロックに切り替え、ワンタッチを取ることで攻撃のチャンスをもぎ取る
「日向!ラスト!」
「ハイ!」
繋いだボールはルール上三回までに相手コートに返さなければならない
三回目を託された翔ちゃんの前には2m
待ち構えられた3枚のブロックに打つところが無いと思われた

"床に叩きつけるだけがスパイクじゃない"

目の前の光景に木兎さんの言葉が思い出させられた
翔ちゃんはブロックの指先を狙い、ブロックアウトで点を取った
マグレかもしれないけど、翔ちゃんは"見える"
きっと狙っていった
「ーうおっしゃあああああ!!!!」
そしてこの点により、烏野高校の勝利が決まったのと
「一次予選突破だ!!!」
代表決定戦進出確定だ


「これで荷物の搬入終わりましたかね…?」
「うん」
「「潔子さん荷物お持ちしますっっ」」
龍と夕が全力で来たけど一歩遅かったな…
「もう大体持ってもらったから」
「「……………」」
残念そうにしてるけど、もう少し早かったらお願いされたのにね…
「ドンマイ」
「「柚葵…」」
「おーい行くぞー」
「私、最後に忘れ物が無いか見てから行くから、柚葵と仁花ちゃんも先行ってて」
「あっ忘れ物なら私が見ますよ?」
「大丈夫、私が行くから」
「…分かりました」
まあ、忘れ物チェックで二人もいらないよな…申し訳ないけどお言葉に甘えよ
「ほら、行くぞ」
ぼーとしてた為か、力に背中を押されてしまった
つ、強い…
「攻撃が達者になってもレシーブは相変わらずクソだなおめーはよ」
お、おお…階段を降りていたら、飛雄がなかなか辛辣な言葉を放っておる
「"ホギャ"って何だ"ホギャ"って」
「いっ一応上がっただろっ」
「ホギャッ」
「ホギャッ」
「!!」
あ、龍と夕が楽しそうに翔ちゃんの真似をし始めた
調子に乗らない方がいいと思うんだけど
「そういえばお前ら、夏休みの課題は大丈夫なんだよな?」
「「ホギャア!!」」
言わんこっちゃない…
「助けないからって言ったの覚えてるよな?な?」
有無も言わせない疑問が怖いよ、力
「縁下さんつええ〜」
後輩にも恐れられてる…
「「柚葵!」」
「え、無理」
「「っ!」」
この世の終わりみたいな顔されても、私だって力が怖いんだよ
「?日向どうかした?」
「これでやっと大王様とかウシワカジャパンと同じ土俵だ…!!」
振るいにかけられ生き残った私達がようやくたどり着く同じ舞台
この何とも言えない棘の道に、現役時代を思い出すけど
今、私の背中にプリントされてる文字は烏野排球部なんだなと改めて実感させられる
「ハアッ!!」
「ヘェッ!?」
「ひっ!?」
翔ちゃんがいきなり大きな声を出すからビックリした
「弁当ば忘れたっ」
そのままぴょぴょーんと階段をかけ上がっていった
「忘れ物あったんだ…」
潔子さん、ありがとうございます

「おー柚葵、烏養さんが今日中にノート見せてっていってたべ」
「ゲッ」
「?」
「走り書きしたんで清書まだなんですよね…」
ぐっちゃぐちゃな字を見て肩が落ちる
「どれどれ…?」
「あ"っ!孝支先輩だめです!!」
「んー?そんな走り書きでもないんじゃね?」
「い、いえ、ミミズです…」
不覚…!どうせ見られるなら綺麗な字が良いのに…!好きな人にはこんなの見られたく
「こういう焦った感じのかわいい字好きなのになぁ」
無いのになんでそんなこと言うんですかぁあ!!
「孝支先輩狡い」
「?」
「同感」
「大地さんが味方で心強いです…」
「なんの話!?」
「「天然恐ろしい」」
「柚葵も大地もどうした!?」
自覚がないって罪ですね、神様…
「それにしても潔子さん遅くねえかっ」
「見に行くか!」
確かに潔子さんも翔ちゃんもまだ揃ってない…
龍と夕が今にも行きそうになるのを見てると、入り口からぞろぞろと人が出てきた
うわぁ、じろじろとこっちを見てきてる……ってまあ、うちもうちで
「んぬぁに見てんだこの」
「ん"オ"フン"ッ」
睨みをきかせてた二人がいるから仕方がないんだけど…
大地さんは急かさず二人に睨みをきかせて辞めさせていた
「…柚葵、こっちゃき」
「っへ」
唐突に孝支先輩に腕を引っ張られ、孝支先輩の背中に隠された
プラスで何故か力も孝支先輩の横に立ってる
ん??壁か何かかな…
「孝支先輩…?」
「………」
何故か無言な孝支先輩の顔を見るために少し顔を出す
あ……この人達って
「あっこら、柚葵、めっ!」
「!?」
顔を出したことに気がついた孝支先輩がむぎゅっと抱き締めてきた

意味わからん
「……………しぬ…」
「生きて」
え、無理ですけど!?
「お待たせしましたーっ」
「遅えボゲェッ」
その瞬間、ぱっと離してもらえた
い、一体なんだったんだ!?
「「潔子さんご無事で何よりっ」」
「柚葵も気を付けてな」
「?はい?」
「及川徹みたいな奴には特に」
「徹くん…ですか?」
どういう意味だろう?
チャラ男には気を付けろと言う意味だったんだろうか

「へっぶしょーい!!」
「風邪引いてんならブッ飛ばすぞ」
「……いや、これは違うね!きっと柚葵が俺の事考えてんべ」
「……………脳内花畑でもはっ倒すぞ」
「流石に理不尽!!」






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