Agapanthus




「潔子さん、先に行ってますね!」
「ちょっと待って柚葵」
「?」
潔子さんと入部届けの整理やドリンクの準備をしてたら、部活時間が過ぎてしまっていた
入部届けのことをほとんど潔子さんにしてもらっていたため、潔子さんより先に行って仕事しておこうかと思ったけど、止められてしまった
「今日それ……スコート…?」
「あ、今日ズボン忘れたので代わりに」
中学の時に履いていたスパッツのついたスコートを、こんな時用に常に持っていたのでそれを今は履いている
それで潔子さんに呼び止められた訳だが不味かっただろうか…?

「かわいい、いつもそれのほうがいい」
「!!」
潔子さんのデレ…!!
これは皆さんに自慢しなければ!!
「けど、あんまり激しく動かないでね」
「了解しました!潔子さん!!」
と、言った直後から走っちゃった私
「柚葵………………」
潔子さんが心配そうにみていたのを私は知らないのである

ーー…

「そろそろ休憩ぐらいかなぁ…」
「バレーボール……やれるなら…!」
「?」
作ったドリンク片手に体育館にやって来たら、何やら元気な声が聞こえた
何処か聞いたことのある声な気がする
「ちょっとくらい嫌なことだっておれは我慢できる!お前がどんだけヤな奴でも!極力視界に入れないようにがんばる!!」
「俺の台詞だバカヤローッ!!」
どうやら新入生みたいだ
小豆色の体操着を着てるから、見学なのかな?
「君達1年………あ」
「「?」」
言い合っていた彼らに体育館の道を塞がれていたので声をかけてみたのだが、1人良く知ってる子と1人はあの日会ったオレンジ頭の

「翔ちゃんと飛雄ちゃん!?」
「及川さん!」
「柚葵さん!?」
「2人とも烏野に来たんだ………」
「っ俺!及川さんがあの時烏野って言ってたから会えると思ってました!!」
翔ちゃんは目をキラキラさせながら子犬のようにみてくる
っていうか……理由はどうあれ今言いたいことがある
「翔ちゃん、及川じゃなくて柚葵って呼んでくれる?じゃないとすごく変な感じなんだ」
「わかりました!柚葵さん!!」
「よし!いいこいいこ!」
思わず翔ちゃんの頭をなでてしまった
まあ、でも翔ちゃんも嬉しそうにしてるしいいか
子犬、かわいい、翔ちゃんは、正義

「柚葵さん!」
「あ、忘れるとこだった、久しぶり飛雄ちゃん」
「……その呼び方やめてもらってもいいですか?」
「えー、中学まではそんなこと言わなかったじゃん」
「……あの人思い出すんで嫌なんです」
うん、相当嫌われてるよ徹くん
「わかった、飛雄」
「!」
「ま、呼びなれてないからまた呼んじゃうかもだけど」
「べつに、時々ならいいっす。ところで柚葵さん、テニスは……」
「やめたよ」
「!?やめた…?」
「今はバレー部のマネージャー。だからこれから一緒だよ飛雄」
「あ、はい。よろしくお願いします…あれ?でもよくあの人が許しましたね、敵マネになること」
「ああ、隠してる」
「は?」
「隠してるの!バレたら辞めろってうるさいでしょ?終いにはうちでやれって言われそうだから秘密にしてるの」
「でも、今までよくバレなかったですね」
「バレないように隠れながらしてたし、公式戦は基本スコア記録してたから、影に隠れてたし!」
「とんだけ嫌なんスか」
「ん?飛雄的にわかり易くいうと、試合に出られなくなるくらい嫌」
「(どんだけしつこいんだあの人)」
思い出すだけでもしつこい徹くんはめんどくさい
「でも飛雄は強豪校に行くと思ったんだけど?」
「落ちました」
「…ああ……どんまい…でも、2人ともどうしたの?体育館前で…入部はまだじゃ」
「断られました!」
「へ?」
「……主将の怒りに触れました」
「大地さんの…」
ってことは相当なことしたなこの2人
「ま、じゃあなんとかがんばって入ってきてよ〜?2人のマネジメント頑張るからさ!」
「あざっす!!」
「俺もがんばります!!!」
本当は飛雄が入ることで孝支先輩が……なんて思ったりするけど、そこは本人達の問題だから私がどうにかできるはずもないし、どうにかしない
私ができることといえば、烏野が勝つために精一杯できることをするだけ
私は2人の強い目をみて体育館の扉をあけた


「お疲れ様でーす!」
「柚葵遅かっ…」
「ん?」
龍が私を見て固まり、他の皆も固まっている
そんな中大地さんが体育館の扉を勢い良くしめた
「え、どうしたんですか皆さん」
「ど、どうしたもこうしたも、柚葵」
何があったというのだ
『スカート!!!!?』
「おお!綺麗にみんなハモりましたね」
「え、柚葵どうしたんだいきなり」
「ズボン忘れちゃって!ちなみにこれはスコートです!あ、龍!私潔子さんにかわいいって言われちゃった!!」
「!」
あれ、なんだか孝支先輩が目を丸めて驚いてる
お、おかしかったかな、この格好………
「なにぃ!?潔子さんのデレか!?」
「うん!デレてもらえた!」
「あの清水がなぁ……うん、似合ってると思うぞ!」
「!ほんとですか!?大地さん!」
「ああ!今だにスガが固まってるぐらいだしな!!」
「!」
大地さんの言葉で後ろを振り返ると、大地さんの言った通りまだ固まったままの孝支先輩がいた
「え!あ、あの、えーっと……………かわいいと……思う」
「っ!!!」
今度は私が固まる番だった
頬を少し赤くする孝支先輩は反則だと思う
「(まあ、あんまり刺激的な格好はして欲しくはないなぁ……とは今更言えない)」
「とりあえずドリンク飲み終わったら練習再開するぞー!スガー元にもどれー」
「!」
そんなこんなで恥ずかしいし、寒いし皆の目に悪いのならスコートは極力履かないようにしようと決めた
ーー…

「お疲れした!!」
「したーっ!!」
今日の練習も無事に終わり、あとは片付けのみだ
翔ちゃんと飛雄ちゃ……危ない危ない、癖だ、許してくれ飛雄よ
飛雄は入部どーするんだろ

「"勝負して勝ったら入れて下さい!!!"とか言ってきそうじゃないっスか?アイツら」
「あり得る!頭冷やしてチョコッと反省の色でも見せれば良いだけなんだけどな」
「アイツらもそこまで単細胞じゃないだろ」
「…………1人は確実に単細胞ですよー…」
3人には聞こえないように言った
「でも、仮にそう来るとしたら、影山が自分の個人技で何とかしようとするんだろうな」
「……………」
「もしも影山が、自分個人の力だけで勝てるって思ってるとしたらー…影山は中学から成長してないってことだな。中学でそうだった様に、ある程度までは個人技で通用しても、更に上へは行けない」
そう、個人技で上に上がれるのは個人技だけ
チームで団体として挑むこのスポーツでは、一人だけの個性が光っていても上は目指せない
「……………………」
「キャプテン!!!」
「「!?」」
「わっ!?なになに??」
外から大きな声が体育館中に響いた
「何だっ」
「誰だっ」
「私が見に行きー…」
「だめだ、危ないから田中行け」
声から翔ちゃんと飛雄だとわかっているのだけど、なぜか大地さんに止められた

「…あれっお前らっ」
扉をあけた龍が驚いたように2人に話しかける
「ずっとそこに居たのかよ!?」
「勝負させてください!」
「おれ達対先輩達とで!!」
数時間少し肌寒い中、考えた結果がそれって…………
「!!プホッマジでかっ」
「………………」
まさかの事態に、孝支先輩なんて頭を抱えてる
「「せーのっ ちゃんと協力して戦えるって証明します!!!」」
「ビバ単細胞!!」
「"せーの"って聞こえたんだけど」
「……」
「でも俺こういう奴ら嫌いじゃないっスよ!」
「(よし、まずは声揃った…)」
「(少しは"仲間"っぽいだろ…"仲間の自覚"なんて証明しようがないけど、日向と共闘して試合に勝てるなら文句ないハズだ)」
「………………負けたら?」
「うっ」
「どんな罰でも受けます」
驚いた
きっぱりと言う飛雄に
「…………ふーーーーーん…丁度良いや。お前らの他に数人1年が入る予定なんだ…そいつらと3対3で試合やってもらおうか」
「(他の1年…3対3…)」
「毎年新入部員が入ってすぐ雰囲気見る為にやってる試合だ」
「えっでも3対3…ですか?おれ達側のもう一人は…」
「田中、お前当日…日向達の方入ってくれ」
「!?えェ!?俺スか!!?」
「こういう奴ら嫌いじゃないって言っただろ」
「「………………………」」
「関わるのは面倒臭いです!!」
「問題児を牛耳れんのは田中くらいだと思ったんだけどな………」
流石大地さん龍の扱いなれてる

「っしょぉぉがねぇなあああ!!やってやるよ!嬉しいか!?オイ!!」
「よし。で、お前らが負けた時だけど
少なくとも俺達3年が居る間、影山にセッターはやらせない。もちろん顧問の了承も得た上でな」
「え………」
大地さん…………?
「…は?」
「??それだけっ?ですかっ?」
「単なる罰じゃないぞ?個人技で勝負挑んで負ける自己中な奴が司令塔じゃ、チームが勝てないからな」
「ーー!」
大地さんのその言葉に飛雄はただでさえ怖い顔を更にこばめた
一番飛雄に効く言葉でもあるから
「…どうした?別に入部を認めないって言ってる訳じゃない。お前なら他のポジションだって余裕だろ?」
「俺は!!セッターです!!!」
「!?」
「勝てばいいだろ。自分一人の力で勝てると思ったから来たんだろ」
飛雄は図星のようで何も言い返せてない
大地さんも大地さんでなぜか今回は食い下がらない
それほどまでにこの二人に何かを賭けているのかな
とりあえず翔ちゃんが小声だがアピールしているのをとことん無視できる、この二人がすごい
私だったらかわいすぎて凝視する、というかしてる
「試合は土曜の午前、いいな」
「…………………」
孝支先輩はどこか後ろめいた表情を浮かべながら扉を閉めた

「いいのか?田中入れて、戦力になるだろ」
「有力な第三者が居る方が、あいつらが如何に連係できてないかが浮き彫りになるさ。…繋ぎが命のバレーボールでバラバラなチームは弱い」
繋げてフォローしあって助け合うのがこの競技だ
飛雄はどちらかというと私と一緒だ
「まして、まだまだ力不足の日向を抱えて、個人主義は致命的だ」
「……………なんかさーあいつらにキツいんじゃねー?大地ー主に影山に」
「確かにいつもより厳しいっスね大地さん」
「……………………」
「でも、大地さんには何か特別な理由があってこその厳しさだと私は思いますけど」
「………」
大地さんはなにか躊躇っていたが、少しづつ話始めた

ーー…

「ねえ、龍」
「?」
私は孝支先輩と大地さんに気づかれないように龍に話しかけた
「あの二人のチームに龍が入るってことは、負けず嫌いな龍は勝たねばならぬのです」
「?普通そうだぜ??」
「だけど、翔ちゃんは反射神経とバネはあるにしても、その他はぶっちゃけた話私より下手なのです」
「まあ…いえてるな」
「そこでだ!朝練の前にこの体育館で秘密の特訓しない?」
「!」
「体育館出禁の二人だけど、朝練の前なら…」
「誰にも気づかれずに済む!」
「そういうこと!」
「そうと決まれば!」
「?」
「う、オフンッ!」
ん?何をいう気だ龍くんよ
「明日も朝練は7時からですよねーっ!!」
「!?」
龍ー!!!
「え、うん、そうだけど、イキナリなんだよ」
龍の馬鹿!思いっっきり孝支先輩に怪しまれたよ!?
もっといい方法があったのに…!
「エッいやっあっきょっ教頭のヅラは無事だったんスかね!?」
「!?オイその話ヤメロ!!」
はぐらかし方も雑だけど、外でゴソゴソと動いてる二人には伝わったみたいだ
ちらっと横目で伺ってみると、お互い伝えあって別々に歩き出した
鍵は龍に任せて、私はおにぎりと味噌汁用意して備えとこう

早起きは三文の得とかいうけど、本当に得なことがあるのかな?と思いながら目覚ましの音で起きる
今日から秘密の特訓がはじまる
そんな彼らのために朝ごはんを持っていこうといつもより速めに時間をセットした
家族を起こさないように、昨日セットして炊いておいたお米を握り、味噌汁を水筒に入れて準備完了
あとは一番厄介な早朝ランニングしてる徹くんに、会わないように学校へ行くだけ

ーー…

ドガッと早朝、辺り一帯に鈍い音が響いた
寒いこの地に響きわたるこの音は、空気とともに震える
ここに着いた私も震えてる
なんとか徹くんに遭遇せずに来ることができた
そもそもこんな時間にランニングしてるのかは分からないけど、前は走ってたのを偶然見つけた(夢見が悪かったから起きただけだけど)ので、バレると面倒くさいと思いコソコソと来たから、時間かかってしまった

「龍ー」
『!?』
体育館の扉を開けると、既に中にいた3人に驚かれた
「柚葵さん!!」
「おー柚葵か……」
「…まさか…大地さんだと思ったの?」
肩が揺れたから確実に大地さんだと思ったんだなこの3人
「簡単だけど、おにぎりと味噌汁持ってきたから練習終わってよかつまたら食べてね」
「あざーっス!」
「ありがとうございます柚葵さん!」
「俺のはあるか!?」
「勿論!」
「うぉぉおぉっしゃ!女子からの差し入れだぁ!!やるぞ日向あぁあ!!!」
龍のテンションがあがったところで、練習が再開された
「ボェーーーッ」
のだけど、翔ちゃんがいきなり床にダイブした
見るだけで痛そう…!
とりあえず、飛雄の罵声が飛んでるけど、本当に翔ちゃんレシーブ苦手なんだなぁ
「…ひとつ言っておく」
『?』
いきなり龍が真顔で語り出す
ちょっとこわい
「…大地さんは普段優しいけど、怒るとすごく怖い…すごくだ」
『?知ってます』
「この早朝練がバレたらヤバい、俺がヤバい…別にビビってるとかじゃねえぞ…全然全く全然」
「…………………………」
明らかに怖がってるよ龍
ビビっちゃってるよ龍

「けど、とにかくこの早朝練を知ってるのは俺達4人だけだから、くれぐれも」
「おー!やっぱり早朝練かあ」
『(ホァァ!?)』
「っひ!」
この声は!?
「おース」
体育館の扉から顔を出したのは
「!?菅原さん!?なんで…!」
「孝支先輩!」
『(3年生だ…!)』
朝から癒される笑顔の孝支先輩だった
…早起きしてよかった!
「だってお前、昨日明らかにヘンだったじゃん。いつも遅刻ギリギリのくせに鍵の管理申し出ちゃったりしてさァ」
「えっ……!?あっ……!くっ………!」
あー…やっぱりバレてたよね
私が鍵の管理申し出たら良かったんだけど、前に朝早くから女の子が1人とか危ない!って大地さんに言われちゃったから申し出れなかったんだよなぁ…
「大丈夫大丈夫、大地には言わない!なーんか秘密特訓みたいでワクワクすんねー」
孝支先輩の言葉で3人は一安心した顔つきになった
「あ、孝支先輩!よかったら練習終わりにおにぎりと味噌汁もってきてるので食べてください」
お粗末かもしれないけど!
「!うん、ありがとう。もらうべ〜」
…………はにかんだように笑うのは反則だと思います孝支先輩
そして練習が再開され、飛雄は龍と
翔ちゃんは孝支先輩と組んで練習している
飛雄と龍ペアはスパイク中心に
翔ちゃんと孝支先輩ペアはレシーブ練習中心に行っており、翔ちゃんは羨ましそうに龍のことを見ていた
私的には孝支先輩とレシーブ練習できる翔ちゃんが羨ましい
あ、翔ちゃんよそ見しすぎて頭にボールが当たった
孝支先輩が怒ってるよ翔ちゃん!
「おれもスパイク打ちたい!おれにもトス上げてくれよ!お前トス大好きなんだろ!?じゃあ、おれにも上げてくれよ!」
「……」
「一本だけ!試しに一本!なっ?」
「………嫌だ」
「!!?」
『!!?』
「なんだよ!?」
「レシーブあってのトスと攻撃だ。レシーブがグズグズのくせに偉そうに言うな。土曜の3対3でもトスは極力田中さんに集める」
「!」
「攻撃は田中さんに任せて、お前は足を引っぱらない努力をしろよ」
飛雄がきつい言葉を翔ちゃんに投げかける
でも一理ある
レシーブがしっかりしてなければ、試合では勝てない
バレーボールなら尚更
「……お、おれが満足にレシーブできる様になったら、お前はおれにもトス上げんのか」
「"勝ち"に必要な奴になら誰にだってトスは上げる。試合中止むを得ずお前に上げることもあるかもな………でも今のお前が、"勝ち"に必要だとは思わない」
「――――!」
「…それにレシーブはそんな簡単に上達するモンじゃねーよ」
「感じ悪っっ」
「チョイチョイっと上げてやりゃあいいのに」
「―そろそろ時間だ、片づけけるぞ」
今朝の練習は終わった
4人はおいしそうにおにぎりを頬張ってくれた
まあ、翔ちゃんと飛雄の仲があまりよろしくないから、二人に話しかけづらかったけど
けど、孝支先輩がすごくおいしそうに食べてくれた
すごくうれしかった

そして、時は過ぎていき……

木曜日
午前5時30分

今日開始早々に、飛雄が打ったスパイクを翔ちゃんが拾った
「!(この強さの球…この前まではとれなかったのに…)」
「おいっ手加減すんなっ」
あ、飛雄むかついている
すっごくイラついた顔をしていらっしゃる
「上等だァ!!」

「柚葵…おはよう」
「あ、孝支先輩おはようございます」
「……なんか今日影山気合入ってない?」
「翔ちゃんのレシーブ進歩してるんですよ」
「そかそか!」
「これも孝支先輩のおかげですね!!」
「!」
その時、孝支先輩が頬を染めたことは私は知らない
ーー…

「〜〜角を曲がったら食パンくわえた美少女とドーーン☆つって」
龍が何やら歌いながらやって来た
体育館にいても分かるってすごい声量
遅れてきた上に、なにやらにやにやしてるから肘鉄したくなった
ま、しないけど
「え、」
そんな龍はこの光景を見て言葉がでてない
「え…コレどのくらいやってんスか」
「俺が来てからは15分経ってる」
「私がきてからは20分経ってる」
「連続スか?」
「うん」
「ゲッ」
拙い技術を補う
圧倒的運動センス
「そろそろ限界だろ!もうこのくらいで」
「まだっボールッ…!!落としてない!!!」
「!!」
「あ」
飛雄、意地悪したな
翔ちゃんの一言が気に触ったのか、遠くの方へボールを飛ばした
結構力も入ってるから落ちるスピードも早い
「うわっ影山性格悪っ」
「…日向の運動能力…中学ん時から凄いよな。…でも運動能力とは別に、日向には"勝利にしがみつく力"がある気がする」
「勝利にしがみつく力……」
恵まれた体格
優れた身体能力
そういうのとは別の武器
"苦しい。もう止まってしまいたい。"
そう思った瞬間からの

一歩

壁にぶつかりそうなボールに食らいついた翔ちゃんは、壁と床と思いっきしぶつかった
そのボールはゆるゆると上がった
「ぎっ」
「!!上がったっ…!!スゲーぞ日向ァ!」
「………」
あ…"飛雄がオーバーハンドパスの体勢にはいった
トスを上げる…!
『えっ』
フワッと山なりにボールが浮いた
「トス!?」
「影山がトスを上げた…!?」
「でも、翔ちゃんにスパイク打つ気力なんて…」
ない…と言おうとしたけど
「ハァゼェハァ!――――!」
『(えがお!!?)』
そこには子犬がいた
苦しく息をしているにも関わらず、嬉しそうに目を輝かせ、まるでフリスビーが来たといわんばかりに飛びつきに行く
尻尾が幻覚で見えそうになる

そして翔ちゃんは飛び上がった

コートに勢いよく落ちるボール
「相変わらずよく飛ぶなぁ〜!」
「あんな状態から打ちやがった…しかも、あんな嬉しそうに」
「すっごくキラキラした目で飛び込みましたからね 」
「−…セッターからのトスが上がるっていう…俺達にはごく普通のことが、日向にとっては特別なことなんだろうな」
とりあえず、瀕死状態の翔ちゃんにタオルと水を持っていく
「…………おい」
「?」
「!」
飛雄が翔ちゃんの前まできて何か言いたそうにしてる
「土曜日、勝つぞ」
驚いた
飛雄が翔ちゃんを認めたみたい
プライドの塊の飛雄にこんなに早く認めさせた翔ちゃん
きっと彼にとって飛雄は嫌なムカつくトラウマな最強の敵だっただろう
けど、その最強の敵が今は身近にいる
どれだけ嫌だとしてもその人と戦わずに済み、味方ってだけで心強い

最強の敵だったなら
今度は最強の味方……かな?

「あっゼェ、あたっハァ、当たり前どぅあォェェッ」
「翔ちゃーん!!」
無理しすぎて翔ちゃんはもどしてしまったのだった





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