Agapanthus




夏休み合宿遠征が濃厚すぎて忘れていた

「おかえり柚葵」
「おかえり」
「……ただいま」
厄介な幼馴染みズを
「さぁて、柚葵?なんで連絡無視してたのかなぁ?」
「は?ちゃんと連絡来てただろ」
「……えっまって岩ちゃん、それどういうこと」
「どういうことも何も連絡は返ってきてたぞ」
あ、やべっ
「……………柚葵?」
絶対零度の笑顔ってこういうこと言うんだなぁ……改めて実感しました
「い、岩ちゃんは前風邪引いてたのもあるし、心配してきてくれたから返してたの!」
「俺だって心配してたべや!」
「徹くんはそれよりも"今なにしてんの!"とか"悪い男たちに襲われてない!?"とか"俺のこと忘れないでね!"とか"今○○してるけど柚葵は俺のこと考えてくれてるのかな?"とか意味のわからない連絡ばっかりだったじゃん!」
「……うわ」
「意味のわからない連絡じゃないよ!?」
「いやいやいや、岩ちゃんの反応みてみてよ!?」
「引いた」
「ほら!」
「なんで!」
「お前、うぜぇ彼氏かよ」
「ほんと、それ」
「ひどい!うぜぇは余計だよ!彼氏ならウェルカムだけど!」
「あ、お断りします」
「柚葵〜!?」

「ふ、ふふふふ」
「どうした?」
「柚葵?壊れちゃった?」
「なんか、こういうの久々だけどやっぱり安心するね」
「確かにね」
「……だな」
ここのところ色々ありすぎて日常がようやく帰ってきた!って感じがするなぁ
「あれっ!?俺の無視された件は!?」
「…………」
「…………」
「リアルの無視は流石に傷つく!!」
ーー…

「へえ…それは大変だったね」
「…友ちゃん…そう思ってないんじゃない?」
「あっバレた?面白すぎかよって思った」
「……ちょっとコート入れ」
「じょ、冗談だよ!?」
「そろそろ私のサーブとスマッシュ味わいたくなったからそう言ったんでしょ?」
「ち、ちがっ!」
「さぁ〜て急いで終わらせてバレー部行かせていただきます」
「いやぁああああ!!!」
「友ちゃんドンマイ」
『ドンマイ!』
「売られた…!」
遠征に行って不在だった為、久々に誘われたテニス部
バレー部は午後からだから、午前中の練習だけ参加することにした
ずっとサポートで身体を動かしたくて堪らなかったから、このお誘いには感謝しかない
久々に会った友人の友ちゃんにこの間からの出来事を話すと、すごく面白そうにニヤニヤしやがったのでスパルタで行かせてもらった
そして、なんとテニス部は県大会に出場できるらしい
テニスの大会は、地方大会と県大会と東北大会に勝利したその後に全国大会というバレーとはまた別の歩みをしていく
なかなか人数が多いためか振るいにかけられる気分になるのが特徴
県大会に出られるだけでも凄いこと
しかも、団体戦と個人戦とあるので試合数は半端ない
この波にのってバレー部も全国に出場できるように頑張るしかない
「県大会、がんばってね」
「そっちも優勝目指して頑張れ」


「明日の予選で2回勝てば10月の代表決定戦へ進出できます」
無事に午前中で終わることができ、バレー部の練習に間に合った
そして、既に組合せが出たようで武ちゃんからトーナメント用紙をもらった
「この一次予選を突破した8校に、更に強豪8校を加えて10月の代表決定戦となります」
「一次予選は2回しか試合できないんですかっ」
お、おお……翔ちゃん流石かな
「俺たちはIH予選でベスト16まで行ってるから、今回の一次予選一回戦は免除になってるんだよ」
「要はシードってやつだよ」
「フォオ!おれ達スゲーッ」
「今の君達なら必ず通過できます!!いつも通りやりましょう!!」
『っしゃあああ!!』
一気にコートへ向かう選手達の背中は頼もしい
「いよよいよいよ、こ…公式戦すか…きっきんちょ、緊張してきた…」
「仁花ちゃんには初めての大会だもんね」
「あっす…」
「私には最後だ」
「!」
「最後……」
震えてる仁花ちゃん
あれ?なんだか仁花ちゃんが歪んで…
「!!ゴメンゴメン涙目にならないで」
「な…なってないっス!蚊が入っただけっス…!」
「蚊が!?」
そうか……IH予選でも思ったけど、これが正真正銘の潔子さん達3年生の最後の試合……
勿論孝支先輩にとっても最後で…
「柚葵!?」
「柚葵さん!?」
「っへ」
「ゴメン!そんなつもりで言ったんじゃないのに」
「柚葵さんも蚊ですか!?」
「え?何言って」
ぽた、ぽた……地面が濡れてる…?
あれ……?なんで私…泣いてるの?
「えっえ!?」
「!」
「なんで私泣いてるんですか!?」
「ええ!?」
「ちょっちょっと柚葵大丈夫!?」
「わっ分かんないです…!」
感情と涙が比例せずに流れていってる気分で
「し、深呼吸しろよ!」
「柚葵〜!」
皆に心配されて…………ああ、このメンバーが大好きすぎるからだな
だから、あの言葉で私の涙腺がおかしくなったんだと思った
ごしごしと涙をぬぐってもまだひたすらに目から流れていく水分
「へーい!」
「!」
そんな時、思いっきりびしっと頭に孝支先輩からチョップを食らった
「その涙はまだまだとっておけよ〜!」
力強い孝支先輩の手はまだ頭にある
この手に烏野の多彩な攻撃が繰り出されてるのだ
それがこんなことで私の頭にあっては勿体ない
「…すみません、そうですよね」
一気に涙が引っ込んだ
「ご心配おかけしました!もう大丈夫です!」
「…だべ!」
「よし!今日は明日に備えて早く帰んべ」
「はい」
飛雄と翔ちゃんが練習しすぎないように大地さんに睨まれていたのは言うまでもない

そして、始まる運命の刻

春の高校バレー
宮城代表決定戦 一次予選
第4・5組試合会場 加持高等学校


一試合一試合が重く、ずっしりと重荷になってくる
そんなはずはないけれど、そんな気がしてしまう
1回でも負けたら終わりのゲーム
今、対戦相手になる学校が決まった
ウチとの相性が悪いわけではないけれど、どんな試合にだって落とし穴があるかもしれない
見たところは"勝ち"にこだわるチームではなかったけれど
「柚葵、どうだ?」
「あっ烏養くん……多分いつも通りいけば大丈夫だとは思うんだけど、変人速攻はいざというときの切り札に取ってて良いと思う」
「なるほど……そしたら普通の奇襲で十分か」
「一応データ上は……だけどね」
「大丈夫だ、お前のそれには助けてもらってっから」
「ならいいんだけど…」
烏養くんと見ていた場所から移動して、烏野の集まりへと帰りながら戦略をたてる
「…大丈夫か?」
「ん?大丈夫。ワクワクしてるよ!ほらみてこの手汗やばくない?」
「…それは健在なんだな」
なんとか誤魔化せれたけど、実際はそこまで余裕はない
信じてないわけではないけど、私はサポートしかできない
選手ではないからこその緊張を味わっている
「おー柚葵!お疲れ様」
「孝支先輩!」
「どうだった?」
「普段通りいけば大丈夫だとは思います」
「普段通りなら…」
そう、普段通りいつも通りならいけるはずなのだけど…
「ひ、日向大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫、来る途中で吐いたしスッキリした。お腹空っぽだけど…」
「朝からカツ丼食べて来るとかウケる。そら酔うわ」
翔ちゃんが絶不調なのである
リバースしたためか、げっそりとした表情が痛々しい…
「このボゲ日向くそボゲエッ!」
「影山のボキャブラリーは"ボゲ"だけだなぁ」
「!!がっがんばって増やします?」
「勝負の日はカツ食うだろ普通!」
「普通とは一体」
「チューチューするやつあるよー」
「おー!!ありがとう!!」
「翔ちゃん、腹痛用の薬があるからウィダーチューチューしたら飲みなよ〜」
「あ、あざっす!!柚葵さん!!」
「…柚葵、それは反則だべや」
「え?」
なぜか孝支先輩が額に手をおいて俯いてる
よく分からないけど、何が反則なのだろうか
「ひ…日向のゲロ思い出したら貰いゲロしそう…」
「!?早くトイレ行きなよ!」
「お…俺も緊張と相まって…ウッ」
「集中してんなと思ったらゲロ我慢してたのかよ!?」
「翔陽!バスでゲロるの2回目ってほんとか!!」
「他人の股間にリバースせず、バスが止まるまで我慢するなんて成長したな日向」
そう言って夕と龍は豪快に笑いだした
このふたりは何処に行っても平常心だからある意味助かるけど、周りから変な目で見られていることを自覚してほしいとも思う
そもそも烏野が目立ってしまうくらい騒いでるから意味はないか……

ピピーッ
「前の試合終わった…行くぞ」
その合図に勢いよく飛び出す
WUの為のボールは1年生に任せて、私達はボトルを分担して持つ
「扇南ってヤンキーみたいな奴ばっかっスね」
「お前が言うか…その顔ヤメロ」
ヤンキーに喧嘩を吹っ掛けそうになる龍を孝支先輩が止める
あれはもう習慣なので止めても無駄に思ってしまいがちだけど、孝支先輩はとりあえず止めてくれるのでありがたい
そしてWU開始早々
「…参ります。よろしくお願い致します」
龍が菩薩顔と合掌をしたと思ったら
「ヨイショコラアァア!!」
「田中ナイスキー!」
今までにないくらいにキレッキレのコースと声出しで周りを驚かせていた
張り合ってどうするのかって思うけど、これもこれで牽制してたりするから無意識って怖い
ピーーーッ
『お願いしアース!!』
さあ、烏野高校初戦の始まり
「向こうは既に3年が抜けてるが、元々3年は一人だけでIHの時から2年が主力のチームだ。今回の1回戦もストレートで勝ち上がって来てる。レフトの一番に注意だ」
「烏養くんの言った通りだけど"いつも通り"これを忘れなければきっと勝てる。ただ、これがなかなか出来ない事が多いです。だけど、皆なら出来ると私達は信じて気持ちで一緒に戦います」
「…柚葵に同じ」
「ーー…IH予選が終わってからここまで、慣れないことに挑戦し始め、噛み合わず…関東の強豪を相手に練習試合、通算約70敗!」
『…………』
おお、皆さんなんとも言えない顔してる…
「でも、最初失敗ばかりだった新しい武器は今、形になりつつあります。今までの悔しさに見合うだけの勝利を手にして下さい」
『オオッシャアアア』
「烏野ファイ」
『オース』

絶対勝てない勝負もないし
絶対勝てる勝負もない
挑み続けろ
いつまでも挑戦者であれ


「旭さんナイッサー!!」
そして旭さんから始まったサーブは、リベロとの間に大きな音をたてながら地面に叩きつけられていた
「始めからノータッチエース…!」
「ーさぁ、いくぜ」
そして、試合は思ったよりスムーズに進んでいく
今日の皆を見る限り調子が良いのか、合宿の成果か分からないけど動きがすごく良い
大地さんは相手のフェイントに待っていたみたいにレシーブを綺麗に返してみたり、ツッキーは流石烏野の頭脳
データが頭にあるように相手の攻撃パターンを読みドシャットを喰らわしたりしている
いつも通りが出来ているチームだ
「なんと言うか…皆、以前より動きに迷いが無い気がしますね…」
「合宿行って新しい技だけを練習して来た訳じゃないからな。関東のタイプの違う強豪とミッチリ連戦して来たんだ」
惨敗だったあの合宿は、惨敗だったからこその価値も見えてきた
倒されて倒されて倒されて……新しい武器も持ったけど、なにより
「サーブの威力、スパイクの威力、攻撃の多彩さ、守備力…全てのハイレベルさに……前よりずっと慣れたんだよ」
烏養くんの言うとおり
今まで練習試合もあまり無く、皆の記憶から消えかけていた烏野高校
それが今では強豪犇めく関東の中でも名のあるチームと戦うことができた
負けても、そこには何よりもの自信に繋がるものを掴めた
名を、もう一度知らせるために

ピピーッ
第一セットが終了した
最後は翔ちゃんがブロックを無視するように斜めに飛び、ブロック不在で点を稼いだ
「…柚葵の言った通り、変人速攻は封印してて正解っぽいな」
「だね…あれで驚いてるから十分奇襲にはなるね」
「柚葵、タオルお願い」
「了解しました!」
タオルを配りながら皆の様子をみているけど、問題はなさそうだ
「"本気"も"必死"も"一生懸命"も格好悪くない!!!」
そんな中だった
相手コート側の応援席からそんな言葉が聞こえてきたのは
確か、引退した唯一の3年だったはず
なんだか、先輩が偉大すぎると、思ってしまった
「烏野倒す!!一次予選突破!!打倒白鳥沢!!!」
そして、その言葉は後輩に確かに届いて響いていた
「柚葵さん、タオルありがとうございました」
「あ、飛雄…」
「大丈夫っす"いつも通り"は届いてますんで」
「!」

「受けて立ァーつ!!」
飛雄にまさか気を使われるとは…成長を感じてじんっときてしまった
勝ちを自覚したチームになった扇南だけど、今から意識しても少し遅かった
勝ち負けは決まっているわけではないけど、意識していたチームと意識したチームとでは差が出てくるのは必然だったのかもしれない
飛雄のサービスエースでマッチポイントまできた
笛の合図で放たれたサーブで相手のレシーブが乱れる
吹っ飛ばされたボールに決まったか…と思った瞬間
「んだらあああ!!ラスト繋げえええ!!!」
主将が根性のレシーブを見せ、次に繋げた
ラリーが続く中、最後を決めたのは
「日向ナイスキー!!」
誰よりも小さな雛烏だった
「っシ!」
「初戦突破ですね…!!」
勝者 烏野高校

片付けを終わらせ、次の相手を夕と大地さんと孝支先輩と体育館上で見に来ていたら、皆も下で見ているようだった
何より、次の相手になる人物は身長が凶器
2mの持ち主だ
「ただ、今は身長だけが凶器な気がしますね…」
「?どういうこと?」
「まだ少ししか見えてないんですけど、打つコースが身体の方向に絞られている気がして…コースの打ちわけができてないと思うんです」
「身体の方向……」
「テニスでも始めたばかりの子は強打を打つとき、身体が打つ方向に向いちゃうんです。それと同じな気がして」
「バレーでも同じかも…」
「ですよね…見たところレシーブもあまり…なところを見ると初心者なのかもしれません。ただ確信は持ててません。まだ数本しか見えていないので」
「いや、十分だ。俺もそう思うから、柚葵が言うなら可能性が高い。これは戦ってみてから確信を得るとは思うが」
「俺に任せとけよ!柚葵!」
「うん、期待してるよ夕」
試合が終わったので、下にいる皆と合流するため移動する
「いつも柚葵はこうやって見て教えてくれたんだよなぁ」
「ああ、助かったな」
「1年の時は隠れながらやってたの器用すぎる」
「それが今となってはこんなに堂々と…」
「おどおどしながらこっちの様子を伺って発言してたりな…成長をひしひしと感じてる…」
「俺もだ…」
「…お二人とも過去振り替えるの早すぎません?!」
「スガさんも大地さんもまだまだっスからね!?」
『す、すまん』
「まだまだ私に対戦相手のデータ取らせさせてくださいね!」
「俺もまだまだレシーブしてえっスから!」
皆とあんまり詳しく話したりだとか対戦相手を一緒に見たりだとかしていなかった為か、少し二人がしんみりとしてしまった
「これからは一緒に見ましょうね」
「…だな」
"これから"はまだまだ続けていくんだ
「それにしても田中……バナナ似合うな」
「確かに!飛雄もバナナ食べてるのに龍の方が似合う…!」
というか、飛雄…さっきウィダー食べてなかった…?

「次の試合を勝てば、一次予選突破で、10月の代表決定戦へ進める。絶対突破するぞ」
『ウス…!』
これを勝てれば代表決定戦に駒を進められる
「うヒェッ!?」
試合を終えた角川学園が翔ちゃんの横を通りすぎた
2m……実際、目の前に現れると圧倒される
「高っ」
「ううぅ…2mでっけえなあ」
「201cmと162cmか…」
「!四捨五入すればおれは163cmです!」
「201cmと162cm…約40cm差か…」
「聞けよ!」
「よっ40cmなんてキーテイちゃんと同じサイズだよ!そんなに大きくないよっ」
「それはフォローなの?」
「テカチュウも確か40cm」
「フジクジラも」
「なにそれ!」
「サメの一種」
「おおおっ…!」
「ツッキー博識!」
い、1年生がかわいすぎるっ!
「おーい柚葵〜帰ってこーい」
「意識飛んでるじゃん」
「時々フリーズするよな、柚葵って」
「縁下どうにかして」
「無茶言うなよ」
「聞こえてるよ!久志も一仁もひどいけど、力ひどい!」
「だって俺がピンチになんじゃん」
「?」
「柚葵は分からんでいい」
なんだと言うんだ私の扱いよ
「おれ…フジクジラと合体したい…」
「は?」
「フジクジラと合体すればおれは2mだから…」
「おい、何を言っている………お前、本気でビビってんのか?」
ああ、また飛雄は分かりにくい奴だ
そんな遠回しに励まさなくても……いや、励ましてるのかどうかさえ怪しいけど、翔ちゃんを信じて疑ってないことは分かった

「行くぞ」
そして始まる烏野高校の2回戦
コートに入ってしまえば弱音なんて吐かない
それが我がチームだ
「ー影山君は今日とても調子が良さそうですね?先程の扇南戦もサーブで凄かったですし、それに何だかー静かだ。合宿最終日梟谷戦のあの時に似ている」
「…先生がそう思うなら違いねえな……な?柚葵」
「うん。武ちゃんがそう言うならここで出して大丈夫なんじゃないかな?」
「っえ!?ぼ、僕はそんなつもりじゃ…!」
「武ちゃん」
「先生」
『信用してます/るぜ』
「ー!」

試合開始だ





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