Agapanthus




「ナイッサー」
翔ちゃんのフェイントに意識を持っていかれていたけど、音駒だって負けてない
「ッ!フェイントッ!」
こちらのコートは翔ちゃんと同じようにフェイントをしても、そう簡単にはコートに落とさせてはくれない
各々のレシーブレベルが高すぎる
ほぼ全員が大地さんレベル……と言えるくらいかもしれない
「ッシャア!」
そして、脳は働く
研磨の悟らせないセットアップで音駒はじわじわと点を稼いでいく
「おおおっしゃあああ!!!」
「っ!?」
そんな時だった
隣のコートからの叫び声に猫又監督と共に振り返る
「見た!?赤葦、今の俺の超インナースパイク見た!?」
「木兎うるせーな」
「まぐれだけど!!!わははははは!!!」
「ぼ、木兎さんは絶好調みたいですね……」
「ホッホッホ、実に楽しみ」

その後順調に点を重ねた音駒は相手のタイムアウトによりこちらに帰ってくる
「はい、ドリンク」
「あ、ありがとうございます…!?」
「…………」
未だに慣れてくれないのは流石に傷つくぞ……
「おい、柚葵」
「なに?」
「なんか、これいつもより酸いんだけど」
「?そうですか?俺のは普通ですけど!」
「エッ!リエーフのは普通なの?」
「……おれのもいつも通りだけど」
「まさか」
「当たり」
「おま、ほんとうに」
「あの会話の前に実は、レモン入れといたの。100%はさすがに無理だったけどね。今までありがとうって意味で…いつ最後になるか分からないし今の間に仕返しさせてもらった!クエン酸たっぷりとって元気だしてね」
「………」
一気に死んだ目のクロは置いておいて、このタイミングで烏野を見学させてもらう
研磨も丁度気になるようだし…
それにしても今日の烏野の動きがいい
合宿の成果が出てきているのだろうか?
地に足があまり取られてないようにもみえるし、無駄な動きが少ない
「これがいつもできるようになれば」
「?」
全国でも通用していくのではなかろうか
「…研磨から見た今の烏野はどう思う?」
「……レベルが上がったんじゃない?」
合宿様々だなぁ
「ノヤっさんナイスレシーブ!!」
「きれいにセッターに返った!」
その時だった
「!」
「翔ちゃんが飛び出た」
ボールと同じように移動を開始した翔ちゃん
まさか新しい速攻をする気で

その瞬間はあっという間だった

誰もいないネット際、そこには翔ちゃんとボールだけ
阻まれるものはなにもなく、翔ちゃんの手によってボールは梟谷のコートに落とされた
少しの間コートは静けさに覆われた…が
「ーって、ふざけんな!やるなら先に言っとけ!」
「だって"今イケル!!"って感じしたろ!?したろ!!?」
変人コンビの騒ぎによって音が戻った
にしてもぶっつけ本番でしたんだね……飛雄
やっぱり彼の才能は凄い
「や…やったヤッター!!」
「っしゃあ!!」
仁花ちゃんも烏養くんもすごく嬉しそうにしている
二人ともこの速攻を誰よりも楽しみに、誰よりも待ち遠しく、誰よりも協力してきた
喜びは私たちよりも倍だろうなぁ……
「でもスゲーな!スゲー!目の前で止まったぞ!?こう"シュルン"て!!今回は絶対"来る"って感じしたけど、実際目の前で止まるとビビるな!?やっぱりお前スゲーな!!!」
「……飛雄の顔が見たこともない顔になってる」
「あのセッターあんな顔するんだな」
「あ、クロ…復活したの?」
「さっきまであのセッターくんみたくなってたけどな」
「ごめんごめん」
「もう一回ッ!!!」
そう言って今まで我慢して封印した武器を再び持った翔ちゃんは、嬉しそうに打った手を握りしめ喜びを全身で表現していた
「クソ羨ましい〜!!俺にも決めさせろォ〜!!!」
「負けてらんねぇ!続くぜェーッ!!!」
「ヘイヘイヘーイ!!呑まれるんじゃねえぜお前ら〜!!」
うおおお!!!と対抗する翔ちゃんと、いつも通りな木兎さん
「…………翔陽は…」
「?」
「いつも新しいね」
「!」
研磨も同じ事を思ってたみたいだ
本当に翔ちゃんと仲が良くてよかった
「…もしチビちゃんが音駒に居たらお前も、もう少しヤル気出すのかね」
「翔陽と一緒のチームはムリ」
「?なんで」
「常に新しくなっていかなくちゃ翔陽にはついて行けなくなる。おれがどんなに上手にサボっても多分、翔陽にはバレる。あの天才1年セッターでさえ、一瞬立ち止まっただけで見抜かれた……そんなの疲れるじゃん」
「…ふーん?じゃあチビちゃんが敵として練習相手に居てくれたら、お前もヤル気出すのにな?」
「?なんで??」
「だってお前、チビちゃんの試合見てる時、買って来た新しいゲーム始める時みたいな顔してるよ?」
「!」
「ふふ…そろそろ試合再開するから準備してね」
確かに研磨は分かりやすいかも
すごく目が生き生きとしているのが分かるもん
「…別にしてないし、ていうかソレどんな顔」
「わくわく顔」
「なにソレ、意味わかんない。してないし」
「してる」
「してない」
「………してる」「してない」
時々思うけどこの二人のテンポって独特だよなぁ
徹くんと岩ちゃんの感じと違うけど、なかなか息があってるんだよね
それがプレーに出てるのが凄いと思う
男子ならではの話だろうけど
逆にそんな絆がない烏野は色々と不利な状態なのかもしれないけど、バレー大好き人間達の集合体である
心配はしてもしなくても護りに入るということを知らない連中であることは確か
新しい武器を持つことに抵抗はないのだ
絆で勝負してくるなら、それより強い武器を揃えるだけ
それが一番大変だけど、それを妥協するメンバーは誰1人としていないのが烏野だと思うから
私ができることは、全てにおいて
「待つのみ」
プレイヤーじゃないってこんなにももどかしいんだとと改めて気づかされた

その後は音駒も勝利を納め、私は長い期間のお役目を終えた
音駒のメンバーからは感謝をのべられ、前回みたくあまり仕事をできずに烏野ばっかり見ていた私でも助かったと言ってくれる音駒メンバーから離れるのが惜しくなった
もしかしたらこのメンバーで来れるのも最後になるかもしれないし、音駒のメンバーも変わってるかもしれない……少し俯きかけた
その時、クロはいつも通り「いつでも来りゃいいじゃねえか!一次予選勝てたら来れるわけだしぃ〜?烏野はどうなるかわかんねぇ程に惨敗だけど!」と無責任なことを言うので、お腹に一発お見舞いしてあげた
でも、やっぱりそうやってナチュラルに空気を戻すところに長けてる人だなと改めて感じた
次に会うのは 8月末の音駒高校で!と一足先に区切りをつけた
勿論、この後には楽しいバーベキューが待っているのでお別れはまた伝えなきゃいけないけど

烏野と梟谷の試合は、音駒が終わって、区切りをつけてもまだ行っていた
白熱した戦いが繰り広げられ、烏野の急激な成長が明らかとなったのだが、やはりそこは強豪校の梟谷
エースを崩しただけでは易々と倒してくれず、むしろリードをひっくり返された挙げ句に
「やっぱり俺最強ーーッヘイヘイヘーーイ」
不調であったエースの木兎さんに最後の点を取られて負けてしまった
木兎さんも木兎さんだけど、やっぱり京治くんはすごい
皆の意識が木兎さん以外に向いた瞬間に木兎さんに攻撃をさせてから調子をあげさせる
頭脳では確実に飛雄の上をいくプレイヤー
完全に上手だった

少し距離をとって見ていた対戦
やっぱり今までに見たより全体が見えるからか、よく観察できる気がした
今度の春高予選、ベンチと観客席どちらがいいだろう
わたしの立場はマネージャーではなくトレーナー
ベンチにいてもいなくても変わらないのは変わらないかもしれないけど、やっぱり選手の状態は近くでみておきたいのもあるし、観察するなら観客席もありだから迷うところ
うーん…と唸りながら烏養くんのところに来たからだろうか
「…老けたか?」
なんてデリカシーがない大人なのか
「至ってピチピチなのでご心配ご無用です」
そうしてにっこりと笑ってあげたら一気に顔をあおざめてたけど、後の祭りってこういうことを言うんだよ烏養くん
「…それにしても正直……木兎君さえ止められればあるいは…と思っていたんですが、甘かったですね…」
「木兎が意識してるかは置いといて、あれだけ自由且つ我が儘で居られるのは仲間へのぜったいてき信頼があってこそだろうな。木兎を放置する仲間もまた、エースは復活すると疑わないからそうできる」
木兎さんはオチるの早いけど上がるのも早いからなぁ
ここにもバレー大好き単細胞がいる
「烏野はまだズケズケと我が儘言える程の仲じゃないからな。1・2年が多いってのもあるだろうけど」
「バラバラに見えて梟谷のチームワークはウチの数段上だったって事ですか…」
「流石は全国5本の指に入る強豪校ですね。只ウチも今までとは違うので大丈夫だと思いますよ」
「?」
「んがーっ!!」
『!!?』
び、びっくりした…!
烏養くんも武ちゃんも肩揺らしてたから相当な衝撃…
「すまんっ」
大きな声の正体は、どうやら旭さんらしい
そしてその姿は懺悔している
「最後のサーブん時ビビって"どうぞ攻撃して下さい"ってサーブ打っちまった…!!」
「ーーそれが自分でわかったんなら上出来だ」
「!」
「あの場面で、どれだけ攻められるかが勝ち上がって行けるかどうかを左右する。ビビるのはわかるけどな。誰だって自分のミスで試合終わらしたくなんかねぇし」
あと一点で相手の勝利…となると安全の方を選んでしまうと言うのが普通の人間の心理
だけど、それじゃダメなんだ
「でも"勝ちに行くサーブ"打とうとする奴を避難する奴なんかチームには居ねぇよ」
「!ハイ」
「…でもま〜終わってみればみごとな負けっぷりなワケだが…1つだけハッキリしてる」


「お前達の攻撃は"全国"相手に通じる」


この言葉がどれだけ心強いか、烏養くん自身が知ってる
「ーー今、君達はサービスもコンビネーションも他のチームに敵わない。後から始めたのだから当然ですね。でも、止めてはいけません。"自分の力はこのくらい"と思ってはいけません」
自分で自分を感じて制御してはならない
「"色"は混ぜると濁って汚くなって行きますよね。でも、混ざり合った最後は」


「どの色にも負けない黒です」
「"烏"らしく黒のチームになって下さい」


言葉選びが多才な武ちゃんの言葉を理解したのは誰なのか
それは私には分からないことだけど、きっと本能で理解し、このメンバーは黒のチームになる


「合宿長かったね〜」
「そうだね」
「柚葵ちゃんにとっては進展したようでしてない波乱な合宿だったよね」
「…ソウデスネ」
「柚葵」
「?」
「玉ねぎ、みじん切りになってる」
「へあ!?」
私としたことが…!
「はは!!動揺でみじん切りになるとかっ」
「柚葵ちゃん意外とドジっ子!」
「んぬぬ」
悔しいけど今は否定できない……
「ほらほら、皆柚葵ちゃん苛めないでバーベキューの用意しよ」
「真子さん……!!」
女神か

「仁花ちゃんと潔子ちゃんはお皿とかの設置頼める?」
「了解しました!」
「分かった」
「英里ちゃんと柚葵ちゃんはおにぎり頼める?」
「分かりました」
「さて、私たちは設置と野菜の用意」
「かおり」
「ん?」
「私もおにぎり班がいい」
「あんたはダメ!」
「ケチ〜」
着々とバーベキューの準備が進められる
監督やコーチ達も集まってきた
お肉は事前に切ってもらってるらしいから、私たちのお役目はない
潔子さんと仁花ちゃんは食べる用意のもの
私と英里ちゃんはおにぎりの準備
というのも、私がいろいろ作る予定だから必然的になったのだけど、雪絵さんはごはんをつまみ食いしたかったのか、かおりさんに異議を唱えたけどあっさり負けた
そしてー…
「ーオフンッ1週間の合宿お疲れ諸君!」
『したーッ!!』
「空腹こそウマいものは微笑む。ぞんぶんに筋肉を修復しなさい」
『いただきますっ!』
お、おお………開始早々お肉争奪戦が繰り広げられてるわ……
「ここは安全だろうか」
「時間の問題かもね〜」
私と英里ちゃんは1つだけお肉を焼いていない網で、焼おにぎりとバター焼きとアヒージョ風を作り中
まだ皆は目の前にあるお肉に夢中だから大丈夫だとは思うけど、目をつけられると非常に怖い
他のマネージャー達はお茶やおむすびを配りにいってしまっていないため、私たちは二人で死守せねばならない
負ける予感しかしないんですが………
「柚葵」
「!」
「あ」
孝支先輩がやって来た…!それもそれで困るんだけど……
「って!英里ちゃん!?」
「ごめん!柚葵ちゃん!ちょっとトイレ!」
に、逃げられた………
「何作ってんの?」
「あっと……」
「ん?」
ああ……もぐもぐと必死に口に頬張る孝支先輩かわいすぎか…
「焼おにぎりとバター焼きとアヒージョ風のもの作ってます…」
「アヒージョ…?」
「あー…簡単に言うと刻んだニンニクとオリーブオイルで煮詰める料理なんですけど、ニンニクは嫌なんでニンニク無しでアヒージョ風って言ってます」
「へえ!美味しそうだべ!」
「出来たら孝支先輩も食べます…?」
「いいの?」
「はい!あ、丁度バター焼きがいい状態になったんでどうです?」
「貰う!」
ん。と差し出されるお皿の上にアルミホイルで包まれたものを置く
そのまま孝支先輩はアルミホイルを開き、そのまま中にあった具材を口に頬張った
「!?何これ!うまっ!!」
「ほっ……美味しくできてよかったです」
「へー…これ柚葵が作ったんだ」
「あ、はい」
「柚葵って意外と家庭的だよな…」
「意外とは余計です!」
「ははは、ごめん!ただ、なんだか料理するというより美味しく食べるってイメージ強かったからギャップというか」
「?」
「なんか俺の方が益々やられてる気がする…」
「!?!!?」
ボンッと顔が沸騰したのがわかった
だって、あの時の瞳をするんだもん
「あ、これ作ってるから柚葵お肉食べてないだろ?ほら」
「…え」
「ん」
ナチュラルに箸で捕まれたお肉を差し出された
いや、まって???
これは俗に言う「あ〜ん」というやつではないか…?
え、まって、そもそも……間接キス…では
「だ、大丈夫です!ちゃんとお肉確保してますしっ!」
「でもお腹すくだろ?」
「い、いえ!大丈夫で」
グゥ〜
「……………」
「……………」
おい、こら、お腹
空気を読んで…!!!?何故このタイミングで鳴る!?
漫画か!?漫画なのか!?私本人がびっくりするんだけど!!
「ぷっはは」
「!」
「ほら、お腹すいてたんだろ?ちゃんと食べさせるから口開けろ〜」
ちょんっと口に当たったお肉
お肉に罪はない
罪はないのだけど、こいつを食べなければならないという試練を与えてくるお肉が憎い
「柚葵」
「!」
「あ〜ん?」
しんだ


「潔子ちゃん、あれ大丈夫…?」
「回収しなきゃやばくない?」
「あれで待ってろなんて……菅原くん鬼畜」

恥ずかしいから目を閉じて、大人しく口を開けてお肉を待っているけどなかなか口のなかにお肉が来ない
羞恥を覚悟でうっすら目を開けようとした瞬間
「うぐっ」
勢いよくお肉が来ない突撃してきた
ついでに箸も……だけど気にならないくらいに勢いがよくて
「反則だべや…」
よくわからないけど孝支先輩はそう呟くと箸を持った手をそのまま額に当てていた

「逆に菅原がダメージを被った」
「ウケる!!」
「柚葵ちゃん、可愛かったもんね……まるでちょっと危ない感じだったもん」
「これで付き合ってないとかふざけんな…!二人とも、もどかしすぎるんだけど!」
「まあまあ」

その後孝支先輩はアヒージョ風も食べて、上手い!と言ってくれたけど、そのまま素早く去っていった
何でかな?と思ったけど、入れ替わるようにしてマネージャーズが帰ってきたから察した
み ら れ て た !
「見てたなら助けてくださいよ…!」
「いやー……思いの外甘くて」
「菅原攻めたなぁって」
「うんうん何かこう」
『アオハルかよ』
「言うなら青春かよって言ってください…!」
その表現恥ずかしすぎる!
「そんなことより!色々出来たんで食べましょ!」
「わあ!おいしそ!」
「いただきますっ!」
何とか話題は回避できたけれど…恥ずかしすぎて穴に入りたい…
こんな時は雪絵さん様様である
「あれ?仁花ちゃんは………」
うん、きっと大丈夫だ
何か囲まれてたけど大丈夫、きっと大丈夫だと信じよう
旭さんもいたし…巨人の密林のなかにいるみたいだったけど生きて帰ってくるんだよ…
「そういえば、烏野の3年生てしっかりしてそうですよねー」
「そう??"下"に問題児が多いからかな…」
「異論ありません」
「まあ、エースはメンタル弱いけどね」
「エッ!?そうなの!?あんなにこわそうなのに」
「…英里ちゃん」
「でも、単細胞エースよりはいいと思うな…」
そう言ってかおりさんも雪絵さんも木兎さんの方へと向いた
ああ……ここでも苦労があるんだろうなぁ

「さて!後はスイカを配って片付けよう!」
私にとっての波乱であったバーベキューは、お腹と心を満たして終了した
そして、夏休み合宿遠征
「ーーじゃあ、またな」
「おう、また」
全日程終了
次も絶対
このメンバーで






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