Agapanthus




「……それって」
「もはや」
「告白では…?」
「………」
きゃー!なんて盛り上がる女子マネージャーの部屋
それもこれも全ては
「じゃあ、また明日な…柚葵」
「は、はい……」
頭をポンポンと叩かれ教室前でわかれたのはいいものの……
「み〜た〜ぞ〜」
という、かおりさんに捕獲され根掘り葉掘り聞かれたのだ
私も迂闊だったけど、孝支先輩も孝支先輩…!
「でも、春高予選終わるまで待ってて…かぁ」
「複雑だね」
「そう、ですね」
まあ、何が複雑かって孝支先輩が勘違いして、私が惚れてないと思ってるところなんだけど、あの惚れさせる発言でこれ以上アピールされても私が勢いよく告白しそうでやばい
いや、いっそのことしてしまおうか……あ、でも孝支先輩は春高予選に専念したいよね…今言われても戸惑うだけだよな
あっこれって
「だって、春高予選終わるまでは好きも言えないし言ってもらえないうえに、惚れさせます発言でしょ…?柚葵ちゃん大丈夫?」
「む、無理です……きつい」
「あー……潔子ちゃん」
「いつもギリギリだったからね…これ以上は柚葵が持ちそうにない」
「ドンマイ」
「頑張れ」
「………皆さん、諦めないで助けて下さい……」
これからどうしよう

と頭を巡らしていたら気づけば夕方になっていた
記憶がない
今日の記憶がない…!けど、スコアはちゃんと取ってるし、マネージャー業もちゃんとしてたらしい
誰と何を話したか覚えてないけどほんとに大丈夫なのだろうか…?
「は?今日の私変じゃなかった?って?」
「うん」
「いや、普通だったけど、若干意識飛んでるときがあった…って感じ」
「あー……やっぱり」
「なになに?なにか悩みごとデスカ〜?」
「クロには言わない」
「なんで!」
「言わないもんね!ほらほら、これから自主練だよ、体育館いくよ!」
ぐいぐいっとクロの大きな背中を押す
できるなら、孝支先輩が気がつく前に体育館へ行っておきたい……心臓がうるさくなるから


「そろそろ休憩にしましょう」
「おー」
昨日の続きからの試合は白熱したものとなってる
休憩の合図を送らないとずっと試合してそうなんだよなぁ…この人達
多分そうなるとツッキーが死んじゃう
「あ、ちなみにスパイカーと1対1の時は基本的に相手の"身体の正面"じゃなく"利き腕の正面"でブロックするといいぞ」
「おおーっ」
「…………あの…一応…僕ら試合になったら敵同士ですよね。どうしてアドバイスまでしてくれるんですか…?」
「僕がしんせつなのはいつものことです」
「ダウト」
「柚葵!?」
ほらみてみろ、ツッキーも翔ちゃんも信じられないって目で訴えてきてるぞ
「なにもそんな目で見なくても」
それが周りからの評価だと気がついたみたいだ
でも、しんせつというよりかクロは優しいよね
「………"ゴミ捨て場の決戦"ってやつをさ、何とか実現したいんだよね」
「!」
「ウチの監督の念願だし」
猫と烏の決戦…公式戦でのゴミ捨て場の決戦は出来ていない
それを実現するためにクロは教えてくれてるのだ
「けど、監督はあとどんくらい現役で居られるかわかんねーしさ、それには烏野にも勝ち上がって貰わなきゃなんねえだろ?……まぁ、俺の練習でもあるワケだし、細かいこときにすんなっつーの」
そうやって最後には悟らせないようにする
優しい以外になんていえばいいんだろう
「ホレ練習練習〜」


「ナイッサー!」
そろそろ私が本格的に要らなくなってきたような気がする
タイミング的に孝支先輩達のところに行きにくく、ここに留まらさせてもらってるが…
まあ、木兎さんから逃げ切れるかと聞かれれば無理と言えるので、結局ここにいる運命なんだけど
でも、やっぱり見ててバレーボールは面白い
木兎さんのコースの打ち分けも京治くんのトスワークもクロのブロックも全てが新鮮で、そんな中揉まれてる一年生達の足掻きようがみてて楽しい
こうやって成長していく力は育まれていくのだろう
「ホギャ!」
「くっ!」
「赤葦カバー!」
強烈なスパイクを翔ちゃんがレシーブするけど、そのボールは危うくネットを飛び越えそうになる
それを京治くんがカバーしたのはいいけど
「!スンマセン少し低い…!」
「囲い込め〜!壁の"面積"広げろ〜!」
只でさえ打ちにくいトスの上、190cm近いブロック2枚打てる所なんてほぼほぼない
「クッソ!今日もでけーな!1年のクセに!」
「!」
木兎さんはお構い無く打つ
ただ、力任せに打ったのではなく
「リバウンド…!」
わざとブロックに軽く当て、体制をたて直し、チャンスとする
「もう一回だ!いいトス寄越せよ赤葦ィ!」
そして体制が整ったエースは見事にブロックをくぐり抜け、ストレートへと決めて見せた
「キタァーッヘイヘイヘーーーーイ!!」
「いっ今のっ!ワザとですかっ!!?ブロックの手に軽く当てたやつ!」
「おう!リバウンドだ!」
「!!リバウンド……!!かっけえええ!!!」
あ、翔ちゃんの瞳がめちゃくちゃ輝いてる
私がサーブ打ったときと同じくらい光ってる
「!そうか!?そうか!!?」
「チビちゃんは天然煽て上手だな〜」
「確かに」
「あの目で見られたら堪ったもんじゃないよな」
「ええ、本当に」
「あれ……?もしかして柚葵」
「最初はよかったんだけど、後で地獄を見た」
天然なのがもはや新鮮すぎて、翔ちゃんは天然記念物に登録されてもいいと思っていた
「床に叩きつけるだけがスパイクじゃない。落ちついていれば戦い方は見えてくる」
「…………!」
大事なのはいかに相手のコートにボールを落とすか
どんな手でも構わない、相手のコートに落としていくシンプルなルールの世界
逆に言うとボールを落とさずにいれば勝利が見えてくる協力プレーが必要不可欠な世界

「見るだけでも凄く面白い球技」

きっかけは何にせよ、私はもう一度バレーボールにハマった
「くっ…!」
「赤葦ナァーイス!!」
「チビちゃんラスト頼んだ!」
「!ハイ!」
あ、クロが極悪人顔してる
レシーブするんじゃなくて、これブロックでいじめる気だ
「!あ"っお前らっよってたかって酷えぞ!!!」
190cmVS162.8cm
今後の試合でもあるかもしれない状況に、私は翔ちゃんがどう出るかが気になる
酷いかもしれないけど、これが練習だからこそ、この状況に感謝だ
長い腕が打つ場所を阻む
身長がない翔ちゃんには飛ぶしかないけど、それだけで打破できない大きな大きな壁……
「っえ!」
「ボガーッ!!」
着地に失敗した翔ちゃんだけど、それよりもビックリなのはどこにも打つ場所がなかったはずなのに、リエーフくんの指先にボールを当て、弾き飛ばした
「…今の…狙ったのか!?見事なブロックアウトじゃねーか!」
そう、ブロックアウト……今までの翔ちゃんにはなかった選択肢
ここに来てそれを使った
「あっ確かにリエーフの手の先っちょは狙ったけど」
「何っ!?」
「当たったのはマグレです。おれ、そんなに正確に打てない…」

"狙った"
烏養くん、やっぱり翔ちゃんには"見えてる"

「"190cmのブロック×3枚"だぞ!?しかもあんな打ち辛いトス!!よく打った、!俺は感動した!!!」
「うっへへ……」
うわ、ぐりぐりと翔ちゃんの頭が激しく動かされてる…痛そう
「2mの壁を相手に戦う小さな猛者に!!俺が」
「また大げさな…」
「190cmから2mになった」
「必殺技を授けよう!!!」
「必殺技…!!?」
「「!?」」
「いかにも翔ちゃんが好きそうなワードを……」
この二人ってやっぱり同類なのかな
そして、木兎さんが教えた必殺技は……誰もが知る必殺技だった
まあ、翔ちゃんは思いっきり撃ち抜くことにしか論点置いてないだろうし、新鮮な技だから必殺技でいいか……
「じゃあ、今日はここまでにしましょう」
「えっ!」
「翔ちゃん、試したいのは山々だろうけど食堂は待ってくれないよ?ご飯抜きでも大丈夫…?」
あ、葛藤してる……かわいすぎる…やっぱりかわいいは正義
ご飯食べたいけど、バレーもしたい、ご飯、バレーといった感じで悶々してるのが丸分かりだ
「翔ちゃん、今日が終われば明日が来る。明日もまだまだバレーができるよね?今日はしっかりご飯食べて寝て、筋肉を休ませる。見た限り脚の筋肉の張りがいつもより多いよ。筋肉を休ませる事も大事だし、なにより明日に備える。そうしたら明日も一杯バレーができるよ?」
「!うぃっス!!!」
「必殺技は明日してみようね」
最後の言葉は翔ちゃんにしか伝えないけど
「柚葵がお母さん」
「翔ちゃんのお母さんなら喜んでだなぁ」
「っえ!!」
「じゃあ、俺がお父さん?」
「クロがお父さんだと苦労しそう」
「……駄洒落?」
「駄洒落」
「じゃあ、俺がお父さんしますよ」
「京治くん…?」
「赤葦がお父さんなら俺はなんだ!?」
「………………」
「………………」
お、思い付かない………
「あ、そういえば…私には力お母さんというお母様がいたわ」
「力お母さんってだれだよ!」


「ふわぁ…」
「仁花ちゃんさすがに疲れたよね、大丈夫?」
「ハイ!スミマセン!」
「柚葵はまだ寝てる?」
「…イエ、オキテマス」
「「?」」
「朝から、怒濤の連絡が入ってて……ちょっと引いてます」
「……ああ、例の?」
「例?」
「主に徹くんからの連絡が…」
今回の合宿長いこと伝えてなかったからなぁ
風邪引いた後だし、岩ちゃんからの連絡もすごい……力がお母さんだから岩ちゃんはお父さん…?
過保護かよ……
「柚葵、目死んでる」
「いや、私って恵まれてますねー…」
「…そういう顔には見えないんだけど?」
わかっている……自分でも棒読みだったなって
「あ、そういえば今日って仕込みどうするんでしょうか?」
「仕込み…?」
「バーベキューのことかな?」
「あ…」
忘れていた

「お肉関係は先生達が用意してくれるらしいから、私たちは野菜切ったりお米炊いたりするくらいで良さそうだよ〜」
「あ、じゃあいつもとそんなに変わらないんですね」
「そうだね…おにぎり生産するくらい…?」
「おにぎり…!」
「……雪絵?」
おにぎりというワードに目を輝かせた雪絵さんは、胃袋が異常なのではないかと思うくらい大食いである
おにぎりなんてすぐにペロリと平らげてしまうかも
そんな雪絵さんに睨みをきかせるかおりさんはいつも被害にあってる被害者なんだろうなぁ…
「あ、そういえばアルミホイルあるのでバター焼きとか作っちゃいますか?」
「!?なにそれ!」
「えっと…アルミホイルにキノコとかジャガイモとかを入れて、バターと醤油を適量いれてから蒸したらできる簡単な料理なんですが…」
「そ、そんなおしゃれなことしたことない…!」
「おいしそ〜」
「スペースとかあったら作っちゃいますか?お肉だけだとちょっと物足りないですもんね」
「男達や雪絵はいいとしてね」
「なんだと」
「あ、じゃあオリーブオイルとか冷凍の海鮮系もありましたし、アヒージョ風のものとかも作ってしまいましょうか 」
「え、なに?柚葵ちゃん万能主婦?」
あれ、バーベキューってそんな感じで我が家はしてきたんだけど違うのかな…?
まあいいか……みんな楽しみにしてるって言ってくれたし
準備まではマネージャー業に専念しなきゃ

「うーん、梟谷相手にはなかなか勝ち越せねーなァ!」
「互角でよきライバルって感じがしますよね、梟谷と音駒って」
「おっ!柚葵さん、サンキュー」
梟谷との接戦が終わり、ドリンクを皆に配りながら試合を思い返すけど、本当にどちらが勝つか分からないくらい白熱した試合をこの2校は繰り広げる
公式戦で見たらきっと食い入るように見てしまうだろう

「先輩!今の戦績簡単にまとめてみました!」
「お、さすが芝山」
流石音駒…!普段から自分達でしてるから、私そんなに仕事ないんだよね!!
ドリンクとかタオルとか本当にそんな感じの事しかできなくて、自分用にデータは取らせてもらって伝えてるけど…
みんな練習に参加していいんだよ!?申し訳なくなる
ピピーーッ
そんななかどこかの試合が終わった笛が鳴る
「おっ生川と烏野終わった」
「フライング一ッ周ゥーッ!!」
「ウィース…」
おお……なんというか
「か、貫禄あるなぁ大地さん……」
「…罰を熟す姿に異様な貫禄…」
「前回の遠征も含めて他の何倍も罰やってるもんな…」
「でも、その罰が身になるから罰でも罰じゃないですよね」
「エッ!柚葵鬼畜……?」
「え、なんで」
「うお!烏野のチビちゃんがめっちゃフライング上手くなってる!」
「あ…ほんとだ………!翔ちゃんが顎擦らずに出きるようになるなんて…!成長を感じて嬉しすぎる…!ありがとう罰!!」
「……柚葵、お前まじで母親かよ」
「"チビちゃん"て!夜久さんと日向、あんま身長変わらないじゃないですかあ!」
あ………
「アグァッ」
「今のは擁護できない」
「今のはリエーフくんが悪い」
リエーフくんは、華麗なる夜久さんの蹴りを食らった
「夜久さんに身長の話は禁句だと言ったのにバカめ…」
「やっぱり身長は気になるのか…」
リベロなら大丈夫そうだけど、やっぱり腕や脚の長さが長いとリーチがあって拾いやすくなるのかな…?
「それにしてもあいつら日に日に点差縮めてきてんな」
「ふっふっふ〜そりゃ〜勿論!雑食ですからね!」
「言い方」
「なんせ皆強くなるために罰も頑張ってるんだから!」
『お肉肉肉お肉肉!合わせて肉肉お肉肉!お肉万歳元気百倍フゥッフゥーッ』
「…………………」
「なに?強くなるためにだって…?柚葵ちゃん?」
翔ちゃん、夕、龍、飛雄の四人が何やらへんな歌を歌いながら電車ごっこしてる
飛雄はよだれを滴ながら揺れてるだけだけど、他の3人はへんな、うたを、うたいながら電車………
『お肉神様〜お肉神様〜』
「……あれは烏野じゃないんだよ」
「おい、主力メンバーを除外すんな」
解せぬ

「ほら、あっちも気になるとこだがこっちも試合始まるぞ」
「んー……」
「なんだよ」
「いや、なんか今日の飛雄がいつもと違うような?」
「は?」
「なんというか…………ちょっと徹くんに似てるんだよなぁ」
試合のときの物静かさが……あの、ぞくっとなるようなあの目が
「チビちゃんの事じゃなかったのかよ」
「翔ちゃんは心配しなくてもいつも新しいから怖いよ」
「?」
「それに今日は必殺技するんだって意気込んでるんだよ?かわいい…」
「あー…」
今、梟谷と同点になってローテーションが周り、翔ちゃんが上がってきた
早速攻撃のチャンスが訪れた翔ちゃんの前には2枚の壁

ーー…
「いいか、この技はな、言うなれば"動"と"静"による揺さぶりだ」
「うお…うおお…!?」
「…また…カッコ良さげに言う…」
「お前何の事かわかんの?」
「予想がつきます」
熟知してそうな京治くんに苦笑しかできない
「この技はな、逃げる為に使うもんじゃねえ」
「…………」
「完璧なタイミング、完璧なトス、完璧なスパイクの体勢…"強烈なスパイクが来る"と誰もが思った時」
脳内で考えろ、人を騙してみろ

「何より自分が"強烈な一発が打てる!"と思った瞬間が好機!」
自分を感じて

「嘲笑うようにカマせ!!!」
…ーー

ふわっとしたボールが、梟谷の油断した誰もいない場所へと落ちる
「ア"ッ」
「………!」
「フェイントォー!?」
木兎さんの言葉通り行動した翔ちゃんは、必殺技であるフェイントをカマしてみせた
きっと今ごろ木兎さんの言う「今まで自分と同じかもっと上にあった目線が球にギリギリ届かず、こっちを見上げる瞬間が最高なんだよ」を実感している頃だろう
いままで無かった武器をもった烏はここからどう化けるだろうか
「…チビちゃんは使い方が分かってんなぁ……下手なりに」
「ふふ…そんなこと言ってると捕って喰われますよ黒尾さん」
「…ずいぶん楽しそうだねぇ、及川サン」
「レモン100%ウォーターがご希望かしら?」
「スンマセン……」
にしても木兎さん、まさか自分達にされるとは思ってなかっただろうなぁ……
京治くんが少し怒った顔してるし、梟谷のメンバーからも攻められてるのを見ると、教えたことばらされたんだろうな
それでも楽しそうなのはやっぱり

「バレー馬鹿達しかいないよね」






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