Agapanthus




「へ?中総体男子バレーボール競技にですか?」
お昼休み
いきなり大地さんが教室に来たと思えば、中学生のバレー大会を観に行かないかというお誘いだった
中総体男子バレーボール競技といえば、私を再びバレーボールの魅力に気づかせてくれた大事な大会
徹くんが連れていってくれた大会であり、そこで試合をした誰かが烏野に来る可能性もある、中学集大成の大会
「スガと田中も一緒だが……来るか?」
「!い、行きます!行かせてください!」
いや、断じて違う、孝支先輩がいるからっていう理由じゃない、純粋にバレーが観たかっただけである
落ち着け自分の心


「よし!じゃあ明後日家で準備して待っとけー」
「え?家でいいんですか?」
普通学校か体育館だと思ってたんだけど……
「行く途中に柚葵の家があるからな、どうせなら途中合流でいいだろう?」
「あっなるほど!そう言うことなら…すみません助かります!」
流石大地さん優しい心の持ち主!


当日―……
そういえば、北一のバレーを久々に見るのか……
うーん、噂で聞くと王様がいるらしいから相当見応えあるのかなあ?
そうぼんやりと考えながら玄関で待機していたら、玄関に丁度人影が写った
「おはよーございまーす!」
「!!」
チャイムが鳴る前に出てやろうと扉をあけた瞬間そこにいたのは

「こ、孝支先輩!!?」
「おはよう柚葵!朝から元気だなー」
いつもの素敵爽やか笑顔をまとった
孝支先輩こと菅原孝支先輩がいらっしゃいました
「な、ななな!孝支先輩わざわざすみません!!」
「いいのいいの、俺が行きたいって大地に言ったんだから」
「でも………」
「ほら、試合始まるし行くべー」
そう言って孝支先輩は私のエナメルを持って行った
「孝支先輩!大丈夫です!私自分で持つのでエナメルを」
「女の子の荷物位持てるよ」
「いや、あの、」
そういう問題では無いのだけれど…引き下がりそうもない孝支先輩
これはこちらが折れないと続くやつかもしれない
「………お、お願いします」
「うん」
ニコニコしてる孝支先輩にはやっぱり勝てなかった

「おはようございます、大地さん、龍!」
「おはよう」
「おーっス」
「相変わらず眠そうだな田中は」
4人で市民体育館まで歩く
歩きながら見たい試合に目星をつけて時間も確認する
残念ながら4人だけなので見れる試合も限られてしまう
そんな中で効率のいい見方を考えながら目的地に到着
「よし、着いた」
「なーんか元気っすね」
「龍おじさんみたいだよ…あ、試合観る前にお手洗い行ってきてもいいですか?」
言うのはちょっと恥ずかしかったけど仕方がない
女は私だけだし
「場所分かる?」
「あ、はい!前に来た事あるんで」
孝支先輩が一緒に来てくれようとしたけど恥ずかしいから断り、急いでトイレに向かった

「ふー」
スッキリと用を足し、一息つく
なんだか落ち着かないこの雰囲気
中学まではプレイヤーとしてこの雰囲気を楽しんでたけど、今は違う
サポートするようになって、プレイヤーの時より緊張する
この雰囲気はいつまで経っても慣れない
「しかも今日は自分の所の試合とかじゃないし、なんだか落ち着かない……」
「ううぅー」
「?」
トイレから出た瞬間、横からうめき声が聞こえた
ふと横を見てみると、オレンジ頭の私と背が同じくらいな子がお腹を抑えていた
ただ事じゃなさそうだ
「……君、大丈夫?」
「!」
勢い良く上げられた顔はどことなく潤んでいて、それでいて真っ直ぐな瞳だった
そしてなによりかわいい
多分緊張がお腹に来るタイプの子だろうなぁ
わかる、わかる
たしか、もしもの時用に痛み止めがあったはず……あ、あった
「はい」
「え、わわゎわ!!?」
「お腹が痛いならこの薬飲んだら治るかも。よかったらどうぞ?」
オレンジくんの(名前わからないから)手に薬を握らすと、顔を真っ赤にさせてオドオドし始めた
あ、この子手…
「…この手汗、私も初めての試合の時、こんな汗のかきかたしたなぁ………」
「え?」
テニスを始めて、初めての公式戦
コートには私だけ
初めての緊張感でグリップを握る前から緊張で、手汗をかいた
それからは、慣れたのか試合でワクワクするものをみたときにかくようになった

「誰だって試合前は緊張するよね…君はお腹が痛くなるようだけど、人それぞれ違うもの。私もお腹いたくなったり、手汗がでてくるしね。それに恥じることもないし、隠すこともないわ」
「……初めての、試合なんです」
「…そうなんだ、なら余計に緊張するね」
「最後の試合なんです」
「!そう……なら、最初で最後の試合、余計にその薬飲まなきゃね?試合出れなかったら元も子もないでしょ?応援してるから、自分のできることやり尽くして次に繋げよ?まだ頑張るなら………高校でもやれるから」
「っ!はい!あの!!俺!日向翔陽って言います!!!お姉さんは」


「只試合を見に来た、烏野高校バレー部のマネージャーてわす。及川柚葵って言います。また会えるの楽しみにしてるね、翔ちゃん」
「!はい!!」
君が何処の高校へ行くのか分からないけど、将来が楽しみな子だし

「とりあえずかわいかったなぁ…翔ちゃん」
かわいいのは反則だわ
後ろからなんだか知った声が翔ちゃんと話しているのが聞こえるけど、これ以上遅くなっては困る
私は3人の元へと急いだ



『おねがいしあース!!!』
「おっ、丁度始まりますよ!大地さん!スガさん!柚葵!」
「おう」
「おー元気なの居るな」
「あ、あれは…」
先程知り合った翔ちゃんが北一と戦うんだ
あ、飛雄ちゃん
徹くんが(悪い意味で)可愛がってた後輩だから面識ある
あの頃の徹くん荒れてたなぁ……思い出しただけでも鳥肌が立つ

「ん?柚葵どした?」
「あ、いえ。なんでもありません」
孝支先輩が覗き込んできたけど、なんとか平然を保って目の前のコートを眺めた
心配してきた顔が可愛くて子犬みたいだったなんて言えない…!
反則ですよ、孝支先輩……
そして始まった試合
飛雄ちゃんのセットアップは素人からみても綺麗
徹くん曰く飛雄ちゃんは天才セッターで、二番目にぶっ潰したい相手だと言っていた
「でも何で中坊の試合なんか…」
周りで私達が珍しいのか、高校生?高校生?と見られていたなか、龍が大地さんに訊ねた
「"王様"を見に来たんだよ、"コート上の王様"!」
「王様?」
そうだ、王様も目的に入ってた……というかメインかな?
「ホラ、北川第一の2番…セッターの影山だよ」
「!」
電話で徹くんが言ってた
飛雄ちゃんがコート上の王様だって
王様って言う意味も教えてもらった
「鋭いトス回しに加えて、ブロックやサーブでもガンガン点を稼ぎ、抜群の身体能力とバレーセンスでコートに君臨する"王様"!来年戦う事になるかもだろ?」
「へーっなんか感じ悪っ」
「柚葵は影山のこと知ってる?」
「まあ、幼馴染(従兄妹)とよく絡んでいたのでそのときに」
今は、悪い意味で王様というのは秘密にしておこう
あと徹くんにちょっかい出されてたことも
『(幼馴染がいたんだ)』
「まぁ、ただの噂だし"王様"の名の由来もよく知らないけどね…」
「……」
「…それにしても…"王様"の相手はどこだぁ!?高校生対小学生みたいな身長差だなァ」
確かに身長は全然違う
しかもこの学年特にタッパがある子達がいるって徹くんが言ってたから
翔ちゃんとかは不利なんじゃないかと思うけど…

「行けえ翔ちゃん!!!」
グンッと飛び上がった身体
「!」
『うおっ!?』
ジャンプ一つでそんなに飛べるのってレベル…!
ただ、翔ちゃんのアタックが相手コートに落ちることはなかった
「あチャー…捕まったか!」
高い壁、ブロックが既にそこに存在した
「でも…凄えとんだな」
孝支先輩の言った通り、驚異のジャンプ力を翔ちゃんは見せてくれた
けど、きっとそれが彼の武器
バネはあるけど、コースの打ち分けもパワーも今のままでは北一に勝てない

北川第一 22-07 雪ヶ丘

1セット目は北一があっさり取った
2セット目もこの点数差
その中で見えてきたのは、翔ちゃんに全てのボールが集まっている
初心者の子達がいっぱいな中翔ちゃんは一人で動き回っている
私が、私が最も苦手としていた
責任と期待
を翔ちゃんはあの小さな身体で受け止めている
「あいたーっまた捕まったーっ!!でも、あの1番ギュンギュンよく動くなァ!!色々ヘタクソけど!あれで身長があればなぁぁ!」
「うん、後は…雪ヶ丘中にちゃんとしたセッターが居たなら、あの1番ももっと活きるんだろうけどなあ」
「うん…でも、初心者寄せ集めみたいなメンバーをよく一人で支えてるよあの1番」
「逆に、飛雄ちゃんは周りの恵まれているメンバーに気づいていないですね。飛雄ちゃん一人の力は申し分無いくらいの能力なのに、一人で戦っているみたいですよね。バレーは一人じゃできないのに…個人競技なら圧勝ですけど」
『(影山のことちゃん呼ばわりできる柚葵って一体何者……)』
3人が何か聞きたそうにこっちを見てくるけど、今は試合に集中し、無視することを決めた
そして、北川第一のサーブ
雪ヶ丘の子のレシーブミスで誰もが北川第一の得点になると思っていた
けど小さな小さな雛鳥は諦めていなかった
大きな1点をもったそのボールを落とさまいと壁に激突してまで飛び込んだ
「っ!!」
思わず身体に力が入った
孝支先輩には気づかれてしまったようで…
そして北川第一があと1ポイントで試合終了のマッチポイント
ふと、翔ちゃんが気になり見てみると
「!!!!」
なんと言っていいのかわからないけど、恐ろしいと感じた
怖いと感じた
そんなオーラがみえた
「柚葵大丈夫?寒い??」
腕をさすっていたら、孝支先輩が心配してきてくれた
「あ……大丈夫です」
「我慢したら駄目だべ?」
そして、運命のボールが放たれた
「…すごい」
徹ちゃんの試合をみたときのドキドキ感がよみがえってきた
繋げて繋げてつなげる
「チャンスボールだ!泉さん!!」
「よっしゃ!」
つなげたボールがセッターの子にかえる
「翔ちゃん頼ーー…」
その時、セッターの子が指先を滑らせ、トスをミスしボールが後ろに飛んだ
そこには誰にもいない
なのに、そこには反対にいたはずの
翔ちゃんが現れていた
「右から左…!?」
そして翔ちゃんはベンチに激突した
「マジか!!打ったよアイツ…!」
「驚いたな…」
「あんなムチャブリトスを…!」
だけど、そのスパイクは惜しくもアウトだった
ピピーッと鳴るホイッスル
「うわーーっ最後のは惜しかったなーーっ」
「あぁ…でも見てみろよ」
「北川第一は大差で勝った顔じゃないですね」
あのスパイクに反応できなかった北一の皆は晴れ晴れした表情ではなかった
雪ヶ丘中は敗北したが、すこしの爪痕を残した

そして数か月が経ち――…
「清水先輩!!」
「柚葵…」
「入部届って届いてますか?」
「ええ、数枚は…、」
「よかった…!強い子入ってくるといいですね!」
「……」
なぜか清水先輩に頭を撫でられた
でも安心するからそのまま身を任せる

「柚葵」
「はい!どうしました?清水先輩!」
「いつになったら…潔子って呼んでくれる?」
「!」
清水先輩にそんなことを言われる日が来るとは…!
頬がちょっと赤くなってる清水先輩が可愛すぎて龍と夕に自慢したくなった
「じゃ、じゃあ潔子先輩!」
「先輩はいや」
「!じゃ、じゃあ潔子さんでどうでしょうか…?」
「…………」
なんか不満そうな顔をしている潔子さんだけど、これ以上の名では私は呼べない、厚かましくて呼べない!

「…………………今は、それでいい」
潔子さんは一応は納得してくれたらしくて、また頭を撫でてもらった
私、今日から潔子さんの猫になる
「澤村」
「!」
その時丁度大地さんと孝支先輩と龍が目の前を通りかかった
「コレ、今んとこの入部届け」
「少ないな…昔は多かった筈なのに…」
「こっから増えるって大地!」
「そうですよ大地さん!」
「潔子さん今日も美しいっス!柚葵も今日も可愛いな!」
「…………………………」
龍の言葉に潔子さんは反応なし
私も今日は潔子さんの猫状態だから反応しない事にしよ…
「ガン無視興奮するっス!」
おお…流石龍だわ……メンタル強男
「ん…あれ…?」
大地さんはペラペラと紙をめくっていたけど、1枚の紙で手が止まった
「っ!コイツってもしかして……!?」
『?』
大地さんだけ驚いて私達は何が何なのかわからないのであった





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