Agapanthus




「及川さんいる!?」
の一言に私にとって、どれだけのパワーワードがあっただろうか
この場に及川徹がいたならそれはそれでおわるのだけど……この場に及川は私しかいない
及川"柚葵"だけ
というか、こんな状況前にもあったような…?
そして疑問なのは、なんで梟谷の大エース様が私の名前を知っているんだろう?
そんなに目立つ存在ではなかったはず…
強いていうなら……烏野のマネージャーだけど、臨時音駒のマネージャーってだけなんですけど?
「おい!こら木兎先先行くな!柚葵が困ってんだろうが!」
「犯人はお前だな?黒尾」
「っえ、なに?柚葵チャンなにかあった…?」
あっさりと謎が解けた
梟谷の大エース様に名前が知れていたのはクロのせいでした
解決はしたけど、別の意味では解決になってない
なんで大エース様は私に用があったのだろうか

とりあえず癒しの皆には悪いから先に行ってもらう
去り際に木兎と黒尾になんかされたらすぐに言って言われたけど……どれだけ信用ないの?
「で?癒しの時間を削ってまで何か用?」
二人の後ろを着いていき、たどり着いた先は体育館
の中にはもう一人いる?
「いやー悪ぃ…自主練しようと思って木兎と、この…」
「初めまして…梟谷2年の赤葦京治っていいます」
「あ、烏野2年の及川柚葵です」
お、おお…礼儀正しいから逆にビックリするな
最近みんな唐突だから新鮮
赤葦くんは表情を崩さず手を差しのべてきた
これは握手でいいのかな…?と思って手を出したらその手を優しく握られた
「柚葵って呼んでいいですか」
「っへ?」
「ちなみに同い年だしタメでいきませんか?」
な、なんだ……この感じ?
その上、初めて最初から名前で呼んでいい?って言われた
「あ、うん…大丈夫だけど」
「ありがとう、ちなみに俺の事は京治でいいから」
「う、うん?」
「おいこら!赤葦!お前何言い出して…!」
「何言い出して?俺からしたら貴方達が冷静でいられる事がすごいと思いますね…あの及川柚葵ですよ?テニスで見せたあのフォーム、あのサーブ…どれを見ても完璧で綺麗な柚葵を前にして普通にしてられませんよ。雑誌だけで見ても綺麗としか言いようがないフォームで納得した記憶がありますから。いいトスは完璧なフォームから…と気づかされました」
「なるほどな…お前のあの綺麗なトスフォームは柚葵の影響もあるんだな」
「赤葦、そのわりにぐいぐいいってるよな…?しかも今日試合以外ん時は意識が及川さんの方に」
「木兎さんは黙っててください」
なるほど?あんまりこのバレー界では知られないだろう、テニスの事を知っているんだ
そこから私を見つけたってこと?
あれ?でも雑誌ならなんで知ってるんだ?
私が載ってたのってテニスだけの雑誌なんだけど
「なんで京治くんはテニスの雑誌知ってたの?」
「ああ…仙台の青葉城西の及川徹を調べてた時、柚葵にたどり着いたんだ」
「な、なるほど」
徹くんを調べてたら出てきそうだよなぁ私…
徹くん普通にインタビューで私の事言ってらしいし
あれ?そう思うとなんで烏野の皆知らなかったんだろう?(※及川のインタビューはムカつくが故にあまりみてなかったからである)
「及川徹のサーブの秘訣を知りたかったんだけど、その話はあんまり書かれてなくて…よく及川徹の話で名前が出てた柚葵の事を調べたら、テニスで活躍してるって知って。テニスのフォームでは、俺が見た中で一番綺麗でなにより人を引き付けるのに納得な強さ…フォームだけで引き込まれる…すごい選手が同年代にいていい刺激になって憧れた。なにより及川徹がバレーはしないけど、俺よりサーブは凄いと思うことがあるって言ってたのが印象的だった」
「そんな言われるような選手じゃないよ…」
テニスを始めたのもあまりよくない理由だったし…
そんな小声で言った言葉も京治くんには聞こえてた
「いや、始まりがどうであれ努力しなきゃあんなにフォームをきれいに作れない…きっとその時はそんなに努力したって思ってなくても今とは感じてることは違うんじゃない?」
「!」
はじめてだ
初対面で認めてくれる人は
赤葦京治という男は恐ろしいかもしれない
なんていうか
「その洞察力…?観察力?探偵とかに向いてそうだよね」
「そう…?初めて言われたけど」
そ ん な 馬 鹿 な
「ん"ん"っ!盛り上がってるとこ悪いんだが本題にはいってもいいか?」
「あ、クロまだいたの」
「まじで完全に二人の世界に行ってたの!?」
「冗談だよ…今日は何時にもましておかしいね?」
「お前らの空気がおかしいよな?!」
クロがヒートアップしてる間に隣の二人はウォーミングアップし始めたけど大丈夫かな?
「最初に戻るが、柚葵」
「ん?」
「試合形式は相変わらず無理か…?」
「試合……」
なるほど…私が呼ばれた理由が分かったぞ
ここにいる3人は自主練しようと思って集まった
だけど、3人でやることなんて知れてる
他のメンバーを集めるのも良いけど、最もイレギュラー克つ最強の武器を持った人が身近に現れた

それが、及川柚葵

サーブは及川徹とほぼ同等といって良いほど
バレーにおいて最大の武器を、最強の武器を持った人物
だけど、その人物は…
「"団体競技"が苦手……は治ってねぇか?」
「んー…どうだろ……前よりは気持ちに違いがあるのは分かってるよ。それにこの人数だとペアでしょ?多分大丈夫」
「ほぉ」
今までは怖かった
だけど、烏野に居て思った
「"仲間"に託すのも大事なことだって気づいたから」
「!」
「今なら、今の私ならもう怖くはないよ。苦手…というか、う〜んまだまだ慣れないかな?」
"負けたくないことに理由って要る?"翔ちゃんのあの言葉と青城戦での事……そして何より仲間を絶対的に信じている孝支先輩が私に変化をもたらしたのだと思う
「…ならいい。お前を変化させた奴が気にはなるけどな」
そういいながらクロは私の頭を何度か優しく叩いた
「ってことは!」
「柚葵が参加してくれるってことでいいんですよね?じゃあ、俺とペアでお願いします」
「あかーし!!?」
「だーめ!最初は何もわからんだろうが!柚葵は俺と組むの!幼なじみの特権だ!」
「…まあ、トータルバランスで考えると京治くんと私だと身長も攻撃バランスもおかしくなっちゃうもんね…」
「そこは俺がカバーする」
「まてまて赤葦!俺と組むのがそんなに嫌か!?」
「柚葵と組みたいです」
「赤葦ぃいい!!」
「はぁ……赤葦、お前柚葵のサーブに憧れてたんだよな?」
「?はい」
「一緒のチームより敵対する方がその威力と…なんならフォームの綺麗さ…分かるぞ?」
「!」
おお、京治くんの目が分かりやすいほどに輝いたぞ?
表情なかなか変わらないと思ったけど目は語るなぁ…
「早くやりましょう!行きますよ木兎さん!」
「えっ!ちょ、赤葦!いたいいたい!!」
京治くんが木兎さんの襟を掴んで反対側のコートに向かってる……あれは首がしまってるな
「ってなわけだ」
「クロとバレー久々だから不安」
「俺としてはめちゃくちゃ楽しみなんだが、柚葵の腕が落ちてないか心配〜」
「…は?もういっぺん言ってみろ黒尾」
「 し ん ぱ い 」
「後頭部にご注意下さいね!」
何だかんだで挑発してくるクロだけど、これは私のために言ってる事がわかってるから心地良い
さて、時間も少ないことだし明日もあるし早く済ませよう


結論
あの3人は化け物だった
時間が限られてるのにも関わらず、私のサーブを受けたいとこぞって言うものだから私の腕が壊れないか心配したレベルだ
試合形式が終わったあとは1対3みたいでなんだかいじめられてる気分になった
解放されたのは女神(マネージャー)達が帰ってこない私を心配して回収しに来てくれた時
来てくれなかったらきっと今日私はこの場には居ないことであろう
流石、レギュラー且つチームの軸として活躍してる三人だわ
「柚葵」
「…あ、京治くん…おはよう」
「おはよう、昨日はごめん。ちょっと調子に乗りすぎたみたいで…俺が止めないといけなかったんだけど」
京治くん律儀!クロなんて「今日も頼むわ!」なんて言ってこっちの事なんて気にしてもなかったのに…!なんならニヒルな笑み付きだったから蹴り飛ばしてやりたかったのに…!
「京治くんのせいじゃないよ!私も自分から断れなかったのが悪いんだし」
「でも、ごめん」
「こうやって謝ってくれるだけでも嬉しいよ。クロなんて今日も頼むとか言って当然のように思ってるから!」
「それは…流石に」
「ひどいよね!だから、気にしなくてもいいよ。むしろ気にかけてくれてありがとう」
あ、京治くんがちょっと笑みを浮かべてる
「うん、今日は暴走しないからまたよろしく」
「よろしく!」
京治くんと笑いあってる所をまさか

「……………」
「菅原さん…?」
孝支先輩に険しい表情で見られているなんて

試合が始まるとコートの中の状況が目まぐるしく変わる
「上がった!研磨カバー!!」
「レフトレフト!」
木兎さんのスパイクに福永さんが反応し、それを研磨がカバーしに行く
ちょっとやそっとで音駒はコートにボールを落とさせてはくれない
「俺に寄越せェェェ!!」
「!?」
更に武器が増えた音駒には決める手段も大いに増えた
「タメ口すんません。調子こきました」
「そういうのいいっていつも言ってんじゃん。それより移動攻撃なんて突然言われても困る」
それをすんなり出来る研磨もやっぱり凄いんだよねぇ…
徹くんとか飛雄は目立つセッター
だけど、研磨は目立たないセッターだから気づきにくいけど、1番怖いタイプだ
「今のブロードって言うんスか!カッケー!!でも、できたじゃないスか」
そして、リエーフくんも怖いものを知らない
「音駒も型にハマるだけじゃない」
日々進化してる
そうこうしているうちに梟谷との試合が終わり、次は
「烏野とか…」
昨日からしているとはいえ、すごくむずむずする
まさかこんな日が来るとは思ってはなかったし
徹くんや岩ちゃんの時にはならないのは、私が本当に烏野のメンバーに入れたと言うことなのだろうけど
嬉しいんだか、複雑なんだか
「及川さん…」
「谷地さん??」
次の試合用のドリンクを用意していると、既に懐かしく感じる黒いジャージに身をまとっている谷地さんに声をかけられた
「どうかした?なにか分からないところでもあった?」
「あっ!いえ、そう言うわけではないのですが…」
「?」
谷地さんが何故かモジモジし始めた?
可愛い……
「あ、それと、その及川って言うのやめてほしいかな?」
「え?」
「できれば柚葵って呼んでほしいな?」
「え!?えっと、それは」
「お願い」
「わ、わかりました…!あ、あの…柚葵さんは、えっと…」
「うん…?」
「…っよし!…す、菅原さんが好きなんですよ…ね?」
…………………………………え
「やややややややや谷地さん!?」
い、今何と!?
「柚葵さんが菅原さんの事を好きなんですよね?…と聞きました」
「や、谷地さん…?」
ま、まさか谷地さんも…?
「あっ!!けっ!決して私が好きとかではなくてですね!!全く恋愛感情というものはありませんから…!!」
「あ…」
ほっと、ほっとしてしまった…
何だかんだで谷地さんを受け入れ難かった理由に孝支先輩が絡んでいたのは事実で
何だかんだで入ったばかりの谷地さんに孝支先輩は気にかけていて……単純な嫉妬なわけだけど
ひどい先輩だな、私は
谷地さんの方に感情がないと知って一安心してしまうなんて
「柚葵さんを見てて気づいてたんですけど、黙ってた方がいいのかどうしようかと迷ったのですが」
ん?まって
「"見てて"気づいた?」
「?はい」
「まさか」
孝支先輩にも知られているのでは!!!?
余程私がひどい顔をしていたのか谷地さんは
「だ、大丈夫です!多分菅原さんには気づかれてないですし、一部の人だけ?だと思います」
「な、ならよかった……」
万事休すかと思った
「うん、谷地さんの言うとおり……私は孝支先輩が好き」
あ、今こんなにすんなり言えるんだってびっくりした
すとんと心が落ち着いてくる…こんなにも私は孝支先輩が好きだったんだ
「それにしても、入ってきて間もない谷地さんにまでバレるとは」
「す、すみません……黙っておこうとは思ったんですけど、今日の柚葵さん見てたら分からなくなって…拗れる前に確認しておきたかったんです」
「拗れる前に?」
「はい……今日の朝…梟谷のセッターの方と雰囲気が良かったもので…柚葵さんの気持ち確かめておいた方がスッキリすることに気がついたので」
ん?雰囲気が良かった?
「え、そんなに、思うほど良い雰囲気だった…?」
「はい。なんだかほわほわした感じでしたので、梟谷の人が好きなのかと思っちゃいました」
「ほわほわ……」
ほわほわってなんだ?
「(その光景に菅原さんが分かりやすい顔をしていました…なんてこれは二人の問題だから私からは言えないけど……私も清水先輩と一緒に二人を応援したいから)」
「谷地さん、なんだかもやもやさせてごめんね?あと、ごめんなさい」
「??なんで柚葵さんが謝るんです?」
「ちょっとね…?今まであんまりお話しできてなかったし、ちょっと距離置いちゃってたかなって思っちゃって」
「い、いえ!柚葵さんは私なんかより忙しいですし!」
「こら!なんかなんていっちゃダメだよ?谷地さんは烏野にいなきゃならない存在なんだから」
今後の事も考えたら、サポートができるのは谷地さんだけになってしまうだろうし…私より影の仕事が多くなってくるから申し訳ない
「…それは柚葵さんもですよ」
「え…?」
「柚葵さんは烏野に絶対!絶対!!必要なひとなので!!そこだけは覚えておいてください…!」
「おーい柚葵〜!試合始まるぞ」
「あ、クロ…」
「そ、そそそれでは私もこの辺で…!」
ぴゃーっと俊足かと思うほど谷地さんは黒の集団へと戻っていった
「あの子どうしたんだ?」
「ん?……良い子すぎて……お節介好きの可愛い後輩…かな?」
「あ?どういうことだよ」
「さーて、今日からまた頑張るぞ!」
絶対必要な"人"か
うん、悪くない

「(とりあえず清水先輩に報告しなきゃ!心配はいらなかったです!って)」






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