Agapanthus




久々に一人での帰り道をぼんやりと歩く
要らぬことを考えてしまいそうで頭を降る
大丈夫、大丈夫…そう自分に言い聞かせて、今日の晩御飯は何かな?と楽しく考えようと
……あ………そうだ
お母さんからお使い頼まれてたの忘れてた
丁度坂ノ下商店の前を通りがかった時に思い出してよかった
「烏養くーん!」
「うわっ!おま!どっから入ってきた!?」
「え?烏養くんのお母様が家から入れてくださったけど?」
「お袋め…!」
「あ、それでなんだけど、お母さんから頼まれて牛乳買いに来たんだけど…牛乳頂戴!」
「……営業時間終了しましたー」
「…いや、まだ閉店間際じゃん……へー…でもいいのかな?意地悪するんだったら、試合分析するのやめるけど?」
「………冗談だろ?」
「うん。烏養くんがいじめてくるから」
「……ほらよ」
「ありがとー」
「はーほら、遅いし送って」
「勉強をォォォオ!!!」
『!!?』
な、なんなんだ!?飛雄の声!?
あ、烏養くん飛び出した
「教えて下さいゴラァァア!!!」
「わあ!!?」
「うるせえぞお前ら!!近所迷惑だ!!」
「いや、烏養くんも近所迷惑」
『柚葵さん!』
「あれ?飛雄に翔ちゃん……勉強は?」
そう、外にいたのは1年生達
今頃勉強してると思ったんだけど
「いやーあのーその」
「……僕たちは帰るから」
そう言い残してツッキー達は帰っていく
「あ"!まだ返事聞いてねぇ!行くぞ影山!柚葵さんお気をつけて!」
「あ、うん」
翔ちゃんと飛雄はツッキー達を急いで追いかけていった
「…うーん、嵐?」
「…確かにな」

ーー…

今日も無事部活は終わり、みんな赤点が危ない4人の勉強を見るため、後片付けは全部潔子さんと2人でする事にした
2人だけで片付けをしたから(力仕事は烏養くんに任せた)時間はやっぱりかかってはしまったけど
「柚葵、今日帰りは?」
「あ、2年メンバーで送っていってくれるらしいです」
「……最近よく帰ってるけど…菅原とは?」
「!」
結局あの発言を聞いた後、孝支先輩とはなんだかギクシャクしている気がする
「さ、最近なんだか孝支先輩も忙しいみたいですし…」
「それは柚葵も同じだと思うんだけど、2人とも前より話してるところを見てないから………何かあった?」
「……何かあった方が良かったかもしれないです」
「え?」
「柚葵ー!!」
『!』
潔子さんがこちらを向いた瞬間ここまで届いた声の正体は夕
もう勉強が終わったんだなぁ
この話を切り上げるにはナイスタイミングだった
「では、潔子さんお疲れ様でした!」
「…うん、気をつけてね」
潔子さんは何か言おうとしていたけど、踏みとどまり笑顔で送り出してくれた
相談…したほうがよかったのだろうか…?

「おお!柚葵!片付けありがとうな!!」
「いえいえー!夕はちゃんと勉強できたの?」
「うぐっ…す、スガさんに教えてもらったから大丈夫だ!………多分」
「多分って」
それ大丈夫じゃないよね………
「あ、そうだ柚葵」
「ん?」
「土曜部活終わった後空いてるか?」
「え、あ、うん。基本部活の日はあけてるけど……」
『勉強教えてください!!!!』
ガバッと音がなりそうなくらい勢い良く頭を下げてきた夕と龍
な、なんなんだ!?
「え、いや、なんでそんな必死!?」
「だって柚葵成績上位だろ!?」
「俺たちに勉強を教えてくれよ!!」
土下座の体勢から必死で訴える2人は怖い
「駄目か!?」
「駄目なのか…!!」
「も、もちろん教えれたら教えるよ!?そんなに必死にならなくても…!」
『め、女神………!!!!』
「お、大袈裟だなぁ」
うん、必死なのは分かった
そして女神は潔子さんである
私ではないぞ……
「でも、教えるの上手いかは分かんないよ」
『いい!』
「……厳しいかもよ」
『えっ』

ーー…

土曜日
「柚葵」
「!」
こ、孝支先輩っ
「今日送ってくべ?」
「あ、えっと……」
「?」
「今日…この後2年で勉強会なんです………」
なんでこのタイミングなのだろうか……
「!」
「すいません……」
「そっか……」
何とも言えない空気が流れてしまう……なんだろう、なんで最近こんなにギクシャクしちゃってるんだろうか……
「……じゃあさ、今度送る。最近会話してないなーって思ってたし!」
「!…はい!」
よかった……孝支先輩からそう言ってくれると助かった
「柚葵ー行くよー」
「あ、力」
「じゃあ、気をつけて」
「はい!お疲れ様でした!」
「おつかれー」

「……………フラれたな」
「そもそもまだ告白してないべ!!」
「……誰も告白だとは言ってないぞ」
「!!!」
大地さんと孝支先輩がそんな会話をしてるとは知らずに龍の家を目指した

ーー…
田中家は想像通りというか、なんというか…純和なお家で龍に合ってるなと思ってしまった
『おじゃましまーす…』
「おう!部屋はノヤっさんが分かるから先に行っといてくれ!」
「任せろ!」
ほう、ここが龍の部屋か…
私が入っても平気なのか?
女性として羨ましい身体を惜しまなく披露してるお姉様のポスターがみえるけど……
気にしたら負けか
「よし、まずは西谷が一番苦手なの現文だよね?昨日の小テスト出して」
「おやーつ」
「あ、ありがとう龍」
夕が恐る恐る小テストを差し出した瞬間、両手にお菓子を持ち、足で襖を開けた龍が戻ってきた
…言ってくれたら開けたのに……龍らしいか…
「国語は基本的に文章の中に答えがあるから、よく読めばわかるハズでー」
「?」
答案用紙を見た力が黙って固まってしまった
どうしたんだろ?私も答案用紙を見てみた

"問三
「紀男」の矛盾した二つの気持ちを、最も良く表している一文を文中から抜き出しなさい"
【もっと男らしく生きろ!!!紀男!!!】
こ、これは…
「"文中から抜き出せ"って書いてあんじゃん!!問題も紀男も無視すんなよ!!!」
「ノヤっさんかっけえぜ…」
「すごい……どこから突っ込んでいいのやら……」
「あっ暗記ならイケるだろ西谷!?漢字とか四字熟語とかで点は稼げるからー」
「四字熟語任せろ!!」
どん!と三点倒立と書かれたTシャツを見せて、どうだと言いたげな夕
これは………大変な道のりな気がする
「それは試験に出るヤツじゃないから!!!」
「できれば漢字を覚えて欲しいかな……?」

「ゲッ!アンタ勉強してんの!?大丈夫!?」
「"大丈夫"って何だよ!」
「姐さんチーーッス!!!」
「おお夕!今日も格好良いなぁ!」
「あザーッス!!」
力とほぼお手上げ状態になっていた時、入口から女性の声が聞こえてきた
声の方へ視線を送ると、そこにはどことなく龍に似たような女の人が立っていた
………なるほど龍のお姉さん……納得してしまうのは龍とめちゃくちゃ似ているからだろうなぁ
「お…お邪魔してます…」
「どーぞどーぞ!どらー姉ちゃんが教えてやろうかオラー」
「うっせーな、脳ミソの出来は一緒なんだから無駄だろ!」
「おい現役女子大生ナメんなよ!!」
「バイトと練習しかしてねえだろ!」
女子大生……!か、かっこいいなぁ!
「後で泣きついてもしんないかんな!」
「ちょっと龍!お姉さんがせっかく」
「女子!!?」
「っへ!?」
龍のお姉さんが龍の言葉に気分を悪くして、部屋から出ようとした
思わず引き止めなくてはと思った私が声を発した瞬間、私の姿を捉えたお姉さんが急いでこちらに戻ってきた
「龍の彼女!?」
「あぁぁあああ…!」
お姉さんに肩を掴まれたと思ったら、前後に揺さぶられて……うん、気持ち悪い……
「お、おおおい!!放せって!柚葵が死んじまう!!」
「龍!あんたよくやった!!こんな可愛い子!!!」
「ちげーよ!!!柚葵は確かに可愛いけど妹みてーなもん!!つかスガさんが怖くて近づけねえよ!!!」
「え、彼女じゃないの!?……ちぇー」
「…あれ…………力が3人いる??はろー…」
「柚葵、俺は1人だよ」
龍とお姉さんが言い合いしてた内容は良く分からないけど、お姉さんが落ち着いてくれたおかげで脳内シェイクが収まった
よかったけど、目の前に現れるものが全部増えて見える………
「それに!柚葵には好きな人もいるしな!」
「!龍じゃダメなの…!?」
「うぁぁう」
また脳内シェイク…!!

ーー…

「なるほどね………その"孝支先輩"って人が好きなんだね」
「…はい」
あの後、結局お姉さんの部屋に連れていかれ、全ての事を打ち明けさせられてしまった
だってお姉さんの迫力すごいんだもの…
「でも最近は柚葵…ちゃん…いや、ちゃん付けじゃなく呼び捨てでいいか?」
「あ、はい」
「ん!そんで柚葵とその"孝支先輩"は最近気まづい空気が流れてしまうと」
「そうなんです……」
思わず俯いてしまうくらい落ち込んでるのが分かる…
「っ!子犬みたい!」
「!?」
「かっかわいいー!!」
「むぐっ!!」
お胸!!!顔に柔らかい胸が押し付けられてる……!!何事!!?
「なにこの小動物!!かわいすぎんだけど!!!こんな妹欲しかったんだよねー!!」
「り、りゅ…う」
助けてくれ
誰でもいいから助けてくれ
「私のことは冴子姉とお呼び!」
「さ、冴子姉…さん…?」
「さんはなくていいよ!もうかわいい!!」
その後なかなか戻らない私を心配して来た龍は、酸欠状態になりかけの私を発見し保護してくれた
死ぬかと思った……
さえ姉とは(結局この呼び名になった)連絡先を交換し、みんなと勉強に打ち込む
そうして時は経っていった……
自分にはないあの胸になるには、どうすればいいのだろうか……と考えてしまい、力に心配されたのは言うまでもない

ーー…

「お疲れ様ー!今日もありがと柚葵ちゃん!」
「あんまり時間とれないないけど……そんなに喜んでもらえるんだったたら、私も協力できてうれしいよ」
「……なんていい子なの…!」
最近日課になってきたテニス部の手伝い
本業はバレー部マネージャーだからあんまり時間はかけれないけど、皆吸収するのが早くて助かる
烏養くんもコーチする時こんな気分味わってるのかなーとか思ったりする日々も悪くない

ーー…

「お疲れ様です!」
「おおー柚葵来たか!」
「もうちょっとタイミング早かったら良かったのにな!」
「…?どういうこと?」
体育館に入ると皆なぜかウォーミングアップもしておらず、私に気づいた龍と夕が話しかけるまで何やら会話をしていた様子……練習はどうしたんだろ
「潔子さんが新しいマネージャーを連れてきたんだ!」
「!新しい…………マネージャー?」
マネージャーだなんていつの間に勧誘してたんだろうか
「私…何も聞いてない……」
「?何か言ったか?」
「えっ!いや、なんでもないよ!」
どうしてだろう
確かに私もマネージャーは、最近潔子さんに任せっきりのようなものだし、私以外にもう一人欲しいと思ってた
正直嬉しいし助かった
けど、一人で抱えるんじゃなくて私にも相談して欲しかった
マネージャーを探してたなんて……気づけなかった自分を棚に上げて何言ってんだって話だろう
けれど、もやもやと、すっきりしない靄がかかって晴れそうにない
「龍と夕」
『?』
「どんな子だった?」
「んーなんていうか」
「小動物みたいな感じだったかな」
小動物…可愛いんだろうなぁ
けれど…どうしてかな………?
なんで私、小動物で可愛い子に弱く好きなはずなのに気分が上がらないんだろうか………
この靄を取り除けばなんとかなるんだと思うんだけど、除く方法は分からない

ーー…

「お疲れ様です」
「おお!柚葵」
「あ、大地さん」
「お疲れ様、今日も頼むぞ」
「はい!」
じーーーーっと背中に突き刺さる何かを感じ取る
「?」
「どうかしたか?」
「いえ、なんだか視線感じるんですけど…夕でも翔ちゃんでもなさそうだからどこから感じるのかと……」
あのふたりは今ローリングサンダーの練習してるし……?
「ああ、正体は後ろだ」
「やっぱり後ろですか…?」
「見てみろ」
大地さんにいわれ振り向いた瞬間
「……………」
「だ、大地さん」
「ん?」
「…私何かしましたかね…………?」
なにか見てはいけないものを見てしまった気分なのですが……
「気にするな」
「え、えっと……」
「気にするな」
「あ、ハイ」
気にするなと言われる方が気になるのだけど………
「柚葵」
「は、はい!!」
にょきっと効果音が出そうな勢いで後ろに現れたのは
「こ、孝支先輩」
今まで無言でこちらに視線を向けていた先輩だった
いきなり現れると心臓に悪いです先輩…………
あっ!待って…!大地さん置いていかないでください!!
………なんて言えなくて、心のなかで叫ぶ
それもむなしく、大地さんは旭さんの元へと行ってしまった
う、裏切られた気分…!
「柚葵、今日家まで送るから」
「っへ?」
「送るから」
じゃ、体育館前で
と言い残し、孝支先輩も大地さん達の元へと行ってしまった
「………初めて拒否権がなかった」
一人立ち尽くす私を置いて

ーー…

なんとなく気まずさがある(私だけで潔子さんには悪いのだけど…)更衣室を抜け、体育館前で待つであろう孝支先輩の元へと急ぐ
こんなに強引なようで拒否権がないような発言を孝支先輩がするとは思わなく、今も頭が混乱しているのだが帰り道大丈夫だろうか………
いや、無理だ
「……」
「………」
「………」
そんなわけで
二人が無理なら………
三人になってしまえばよくない?
という悪知恵の元、おいしい肉まんを生け贄に

飛雄を召喚しました
「柚葵さんどういうことっすか」
「う…私が買った肉まん食べたでしょ!?助けて!」
「………いや、あれはそもそも柚葵さんが」
「なに二人でこそこそ話てんの?」
「「!」」
飛雄が不自然にこそこそと話してくるから孝支先輩にバレちゃったじゃないか!
しかも黒いオーラが見えるんだけど!?こわい!
「そもそも影山が珍しく着いてきてるし……何か用事?」
「あ、あの……徹くんに"あのバレーバカな飛雄ちゃんと話があるから今日連れて帰って来てよね!じゃないと柚葵の部屋に転がり込んでやる!"と言われまして……」
ごめんなさい、嘘です
「……俺帰っていいっすか」
「だめ」
「(聞いてないっすよ)」
「(嘘だから大丈夫)」
「……はー(よかった…)」
「影山も大変だなぁ」
そう言いながら飛雄の肩に手をぽんと置く孝支先輩
う……なんだか凄い罪悪感を感じる……
でも、まだ二人っきりなる勇気はない
許してください孝支先輩
でも、飛雄が居ても、ちゃんと送ってくれるんだ……
目の前でセッター同士で話が盛り上がるのか、最初の沈黙が嘘のよう
なんだかこの二人に送ってもらえるなんて贅沢だなぁ…
両手に我が校が誇るセッター様だ
レギュラーを争う二人だけど、険悪なムードではないのは孝支先輩の人間性なんだろうな
そういうところも、好きになったきっかけで…
直接言える時が来たらいいのにな…
勇気がでない私は、孝支先輩の背中に声に出さず伝えることしかできない
いつか、いつか声にのせて伝えれる日がくればいいな
「じゃ、俺は帰るべ」
「ありがとうございました!」
「ん」
「?」
んじゃ!っと言った孝支先輩がそのまま変えるかと思いきや、私の方まで歩み寄って来た
そのまま飛雄には背を向けて私の頭に近づいてきて
「っ!」
「今度は二人っきりで」
耳元でそう呟いた
そのままとろけるのではないか……と錯覚を起こしそうになる真っ赤な私を見て
「また明日な!」
と満足した笑顔で帰っていった
「しぬ」
「…俺帰ってもいいですか」






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