Agapanthus




「お疲れ様」
『柚葵/さん!!』
「…3年生以外は全員集合してるんだね」
「あぁ」
「3年生来ねえな……」
皆それぞれそわそわし始める
時間も経ち、部活を始めようと声をかけようとした瞬間
ガタタ
「やばいやばい早く!」
「!」
『!?』
直後大きな音をたてて体育館へと入ってきた3年生
身に付けているものはちゃんと烏野ジャージ
ということは!
「行くぞ、春高」
『おっしゃああぁ!!』
みんな呆然とするなか孝支先輩から放たれたその言葉に確信した
3年生は春高まで残る!
まだバレーを一緒にできる!
みんな雄叫びをあげながら喜んだ

「よし、皆集まれ」
あの後みんなで喜び、旭さんはみんなに追い出されなくてよかったーなんて言って、それを聞いた夕に背中を叩かれ、何言ってんですか旭さんが居ないと!と言われた旭さんは泣きそうになっていた
そんなことを烏養くんが体育館に入ってくるまでしていた
そしてある程度方がついた瞬間、烏養くんは皆を集めた
「俺達は、優劣を決める試合で負けた。青城は強かった。俺達はそれに劣った。それは現時点の結果で事実だ。ーで、今日のIH予選決勝、優勝は白鳥沢。準優勝は青城だ」
『!』
烏養くんのその言葉に皆の表情は固まった
仕方ないか……あれだけ接戦した青城が負けたんだ
「県内でさえあの青城より上が居る。強くなるしか無え。ー次の目標はもうわかってると思うが」
そう、見たことの無い景色を見に
「春高だ」
あの舞台へ
「高校バレーの大会ではIHと並んでデカイ大会だ。春高が1月開催になって3年も出られる様になってからは、出場する3年にとっては文字通り"最後の戦い"だな。俺達は3月開催だったから3年は出らんなかったんだよ、クソ羨ましい」
烏養くん…よっぽど出たかったんだなぁ
「じゃあ、とりあえずここは主将に一発気合入れてもらおうか」
「………………昔烏野が一度だけ行った舞台だ。もう一度あそこへ行く」
『……』
「東京、オレンジコートだ」
「うおっ」
『しゃあああ!!』
気合は十分!
後は経験が必要かな……今のままだと進化なんて出来ない
徹くんに喧嘩を吹っ掛けた分、皆には進化してもらいたい
今のままだと多分また負ける
だから、とくに1年生たちに期待したいのだけど……
バァンッ
『!?』
体育館の扉が勢いよく開いたかとおもうと、そのまま地面に人が倒れこんだ
「武ちゃん!?」
「先生!?」
「大丈夫か!?」
その正体は武ちゃんだった
だ、大丈夫かな?
「い…行きますよね!?」
「!?どこに!?」
「鼻血出てます!」
「ティッシュ!」
眼鏡は無事みたいだけど、そんなに慌ててどうし
「東京!!」
たんだろ…?って
東京!?
「東京!?東京ってもしかして」
まさか
「音駒ですか!?」
「練習試合っスか?」
その言葉にこくりと頷く武ちゃん
これはいいときに舞い込んできた好敵手との練習の知らせ…!
「でも、今回は音駒だけじゃないんだ」
「??」
「梟谷学園グループ、音駒を含む関東の数校でできているグループで、普段から練習試合などを盛んに行っているそうなんですが、今回音駒の猫又監督の計らいでその合同練習試合に烏野も参加させて貰えることになりました!!」
『うおぉお!!』
「そういうグループは昔から積み上げた関係性みたいなモンでできてるから、ツテ無しではなかなか入れるモンじゃないんだが…猫又監督に感謝だな。あと、またしつこく頼んでくれたであろう先生にもな」
「いや、僕はそんな!烏養監督のお名前あってこそで」
『アザース!!!』
皆が頭を下げたことによりあたふたしていた武ちゃんだったけど、次の瞬間には真剣な表情で前を見据えた
「この数年で県内で昔、懇意にしていた学校とも疎遠になってしまった。当時の烏養監督と親しかった指導者が変わってしまった学校も少なくないです。このチャンス、活かさない手は無いです!!」
『おおーっ!!』
これで進み続けることが出きる…!
「あのセットアップ…また間近で見れんのか」
わぁ………飛雄悪い顔してるわ………ほら、翔ちゃんが引いちゃってるし
「今度は俺が護り勝ァァつ!!」
「うぉおお!!シティーボーイ連合に殴り込みじゃあああ!!!」
夕と龍は本気でうるさい
「シティーボーイ…」
「連合…!!」
「そうだよねーシティーボーイ連合とか、笑えるんだけど」
「月島!山口!お前ら笑うんじゃねえ!柚葵は真顔で言わないでお願いだから……!心傷つく…!」
いや、だってシティーボーイ連合………………
「ただ向こうはIH予選が今週末からなので、すぐってわけではないです」
あ、そうだ
そんな話をクロから聞いた気がする
「あと、まだ"お誘い"を頂いている段階でして……色々、承諾貰わないといけない事など細かい事はまた後でお話ししますね。取り敢えず皆の意思はー」
「勿論!」
『行きます!!』
こんな機会滅多にない!
忙しくなりそうだ……!!

「あ"っおっじゃあ僕、これから職員会議なので行きますね!今は取り急ぎその報告だけ!烏養君あと宜しくお願いします!」
「おう」
あ、そうだ烏養くんと潔子さんには言っておかないといけない事があるんだった!
「烏養くん!ちょっと話があるからこっち来てくれる?」
「あ?」
少し皆と距離をおくため、烏養くんを体育館の端へと誘った
「私ちょっと部活来る時間遅らせてもいい?」
「?委員会の関係とかか?」
「いや……あの、テニス部に」
「おい、まさか!テニス部入部する気じゃねーだろうな!?」
「いや!違うから!!声押さえて!」
他の人に聞こえたらどうするんだ……!何のために距離をとったと思ってるの!?
「もともとテニス部からしつこく勧誘は来てたんだけど、当時のキャプテンに勝負挑まれて……キャプテンがワンセットでも取れれば入部、取れなければもう勧誘はしないし、入部しなくていいって条件で試合して」
「予想はついてたが…………ストレート勝ちしたのか」
「まぁ…そういうこと。だから私は自分の意思でここに入部したから、途中で投げ出したりしない。ただ、テニス部は優秀な先輩が引退してこれからどうしていけばいいのか分からないらしくて………昼休みと部活前にコーチみたいなことをしてほしいって頼まれただけなんだけど……いいかな?」
「いいもなにもお前が決めればいい。お前が今まで通りここに居んなら、俺は構わない」
「…ふふ」
「……なに笑ってんだ」
「烏養くんにそう言われると嬉しいような恥ずかしいような変な気分」
「あ"ぁ!?」
「部活に支障ないようにするから」
「!あぁ」
さて、烏養くんの許可は取れた
今度は潔子さんと大地さん……

「いいと思う」
「ほっ!?」
「テニス部も柚葵を必要としてるわけだし、私も柚葵がテニスをしてる姿が少しでも見えるのは嬉しい」
部活後の更衣室
二人っきりになった瞬間聞いてみたのだけど、すごくあっさりとしていて変な声が出てしまった
「潔子さん……!!」
「こっちは任せて。柚葵は柚葵の出きることを頑張って。私も協力する」
「潔子さん!一生ついていきます!」
もう幸せ……!
幸せな時間が続けばいいな……
あ、ちなみに大地さんには無理すんなよってことと秘密事はなしね?と笑顔で言われたから多分許可取れたはず
こわかった

翌日ーー…
「柚葵ー行くよー」
「了解!」
ラケットもシューズもある!
完璧!
「お昼向こうでご飯食べるから持って行くよ」
「うん!」


「あれ…」
「ん?スガ?」
「あそこにいるのって…」
「?」
俺が指した先にはテニスコートを駆け抜ける、恋い焦がれてしかたない子の姿
昼休みだし、体育の時間って訳でもなさそうだし……
「…あぁ、スガに言ってなかったな」
「え?」
もしかして、大地は柚葵があそこにいる理由を知っている?
「なんでも、テニス部が柚葵にコーチを頼んだんだ」
「へー……。………!?」
コーチって…コーチ!?
「柚葵がテニス選手って聞いて、あの後元テニス部のクラスメイトの奴に聞いたら、"この時代、テニス界で及川柚葵って選手を知らない奴はいない!"ってほどに騒がれてたらしい。どういう理由か知らんが、うちに入部してマネージャーになっていたために、後から柚葵が烏野だと気づいたテニス部のやつらが俺を睨んできてたよ…………」
「そんな…」
ああ、確かにテニス部の子達俺達に対して冷たかったかも……?
「でだ、うちのテニス部もなんだかんだで優秀。そんな先輩の後釜になる2年生が、このままのレベルだと勝てなくなると感じて柚葵にコーチをお願いしたらしい。で、柚葵も柚葵で必要としてくれてる面々を見て断るのも忍びなく、縁下の言葉で手伝うことを決めたらしい」
「柚葵らしいといえばらしいけど…」
「まあ、部活に支障をきたさないことが条件だし大丈夫だろ。楽しそうだしな……」
「…………」
「スガ?」
「……俺はなにも知らないな…」
柚葵のことを何も知らない
何だっていい。好きなものとか嫌いなものとか
清水に聞いても面白がって言ってくれないし
知れる方法があるなら俺は
ーー…

「っすみません!遅れました!」
「大丈夫。水分は取った?」
「あ、大丈夫です!」
思ったよりテニス部のレベルは高く、私なんて要らないんじゃないかとも思ったのだけど、確かにまだまだ足りないことはたくさんあって
やめるにやめれなくなってこの時間…
あそこで目を光らせてる夕と翔ちゃんは見なかったことにしたい
きっとサーブを打てと言ってるんだろうけど
「みんな、ちょっといいかな?」
ふーと一呼吸おいて、やりますかと腰をあげた瞬間
いつもよりどことなく教師の雰囲気を出している武ちゃんが入ってきたため、再びその腰を下ろすはめになった
「えーオホン!取り敢えず当面のスケジュールを伝えます。確定したら表にして配りますね」
あれ?なんだか武ちゃんよそよそしくないか?
あ、皆も武ちゃんの様子がおかしい事に気づいたみたい……
「まずは再来週末、県内の日山高校と練習試合が決まっています」
『おおーっ』
「で、例の東京遠征ですが、向こうのIH予選は昨日言った通り今週末からです。宮城は3日連続で決勝まで行われましたが、向こうは3週に渡って日曜に試合が行われます……ですので、合同練習は予選の後になりますね」
あ、それもクロが言っていたような気もする
「遠征の場合、親御さんの了承も必要だからこれも後で書類を配るね。学校からの承諾も基本的には大丈夫」
あれ……?なんだか武ちゃんの言葉にトゲがあるような?
「費用も取り敢えず目処はついてる」
「ただー」
『??』
そういいながら一呼吸おく武ちゃん
なんだか不味いことでもある………あれ?
3週先と言うことは来月だよね……あ、武ちゃんがおかしくなった理由分かったかも
「この県内に僕らと同等、またはそれ以上のチームはあるワケで。そこを敢えて県外まで行こうとしてるワケだね。チャンスだからね」
『………?』
「ーで、来月になったら」
『ーー!』
あ、目死んでる………
「期末テストあるの、わかるよね?」

わかるよね?

言葉と表情を失った4人に武ちゃんは再び呼びかける
だけどよほど考えたくないのか、武ちゃんから一斉に目を逸らす
逸らしてもテストが逃れるわけじゃないのに………
「テスト期間は向こうともだいたい一緒らしいので、合同練習はそれの後という事です。で、予想ついてるかもしれないけど、赤点で補習になる教科がある場合」
"補習は週末だよ?場合によっては夏休みにも入る。遠征は物理的にむりじゃないかな"
『!!!』
武ちゃんが教頭の言葉をそのまま伝えた瞬間、2年のおバカ2人は一斉に駆け出した
「田中!西谷!ドコ行く!?どこにも逃げられないぞ!!縁下捕まえろ!!」
「は!」
「あかっ赤点って!!何点ですかっ!!?」
「そっから!?」
「影山が息してません!」
はははは、なんだろうこの絵面………
やばいんだろうけど、おかしくて笑いが出てきた
「俺達も部活と勉強両立するって言ったからには、それなりの成績ださないとな」
「赤点は無いデショ」
「無いね」
あ、力がおバカ2人捕まえてる………
「俺はちょっとがんばらないと心配かな〜」
「俺もだな〜」
おお、山口くん飛雄のためにAED持ってきてる……!!!
いい子!!
「きょっ教頭先生に一生懸命頼めばきっと…!」
「まずは一生懸命赤点を避けなよ」
「教頭先生の承諾を貰えても、補習になった場合補習が優先だよ…!」
「!!!」
どれだけ切羽詰ってるんだろ………
「コーチッ」
「!!!」
「ま…まぁ、学生である以上避けては通れんよな…」
「そんな…!」
「根性だ!!気持ちが大事だぞ!」
「精神論!!」
だめだよ翔ちゃん
烏養くんも翔ちゃんのような感じだもの……返しがダメだ、何も伝わらない………
「潔子さん、うちの部員達は大丈夫でしょうか…………」
「………言葉が見つからない」
「………ですよね」
「日向、そこまで思い詰めなくても多分大丈夫だよ」
「!!おれ高校入ってから60点満点の小テスト……2ケタ以上の点数殆どとったことないけど大丈夫ですか!?」
「えっ」
「えっ」
ちーん
「おいお前ら菩薩顔ヤメロ!!諦めてんじゃねぇよ!」
龍と夕が手を合わせて諦めているのを見た孝支先輩は、鋭いツッコミ……
「孝支先輩的を得てる……」
「確かに」
なんだか私達マネージャーは蚊帳の外のような感じだなぁ
「やればできるダイジョウブダイジョウブ」
「先生もしっかりしろ」
「あはは阿鼻叫喚〜」
「…ツッキー相変わらず性格で…」
「狼狽えるな!!!テストまでまだ時間はあるんだ…このバカ4人抜きで烏野のMAXが発揮できるか!?いや、できない!!」
「うれしいような悲しいような」
「やってやる…全員で…東京行ってやる…!」
だ、大地さん…
「こ、怖い…大地さん怖い」
「目ぇ据わってる!!」
「こわい!!」
いや、本気でなんとかしようとしてるんだろうけど……皆死なないかな?大丈夫かな………?


「うわぁあ…」
「どうしたの?」
「いや、ちょっと右肩が」
「!あかい…」
「肩自体は大丈夫なんですけど、最近になってよく使うようになってしまったので急な運動についていけてないのかも……」
「……無理はしないでね…」
あー……少しだけ潔子さんの為にもセーブしよう……
「じゃあ、私はこっちだから。今日一人だけど大丈夫?」
「大丈夫ですよ!最近になって送ってもらうようになりましたし…前に戻っただけです」
「そう…それじゃ気をつけてね」
「はい!」
そうか、一人で帰るなんて久々だな
最近は孝支先輩か2年で帰ってたから…
まあ、今頃みんなで勉強してるんだろうなぁ
面白そうだから行きたかったんだけど……
「柚葵は疲れてるんだから早く帰って寝る!」
って孝支先輩に言われたら行くに行けなくなった
あれ、でも……
「孝支先輩なんで私が疲れてるって思ったんだろ……」
孝支先輩にはテニス部手伝っていること伝えてないはず……なのに疲れてると思われた
そんなに顔に出てた?いや、でも他の人は私に対してそんなこと言わなかったし、むしろ夕からはサーブのキレがいいと言われた………
なんでだろう?
孝支先輩が何を思っているのか…私は何も知らない
知りたいけれど…
告白もできな小心者のわたしにはそんな資格はない






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