Agapanthus




「ミスった…!!及川がサーブミスった……!!」
会場内は徹くんがサーブをミスしたことでギャラリーが騒いでいた
実際、あのサーブで今までミスをしなかった徹くんも徹くんでおかしいのだけど
今までサーブ練習に込めた思いや時間は相当なものなはずだ
天才ではなく努力家の彼ならば
そんな徹くんがこの終盤にサーブミスをしたのだ
焦りが出てきているといっても過言ではない
「また烏野がマッチポイント…!!」
「ショーヨーナイッサ!!」
「ハイッス!」
でも、徹くんがミスをしたからといって
「オラ!」
「!」
「これでチャラな、どっちだって同じ1点だ」
青城が抑えられるという訳ではなく、軽々と岩ちゃんに点を獲られた
だけど体力的な消耗は一緒でも精神的に追い込まれキツいのは青城の方なのだと思う
逃げきれ皆……!!

31-31
あの後から獲って獲られての攻防戦が続き、30点代まできてしまった
体力的にも烏野はギリギリで繋いできてる気がする
マッチポイントを握っていても青城は確実に取り返してくる
追い込まれた青城だけどここで
「及川くんナイッサーブー!!」
ローテが一周したことにより徹くんのサーブの番
またミスをする可能性は……
「!」
「っ!」
「一本で切る!!!」
「っス!!」
ないな
どこか吹っ切れた様子の徹くんは見るからに怖い
ぞくっとプレッシャーをかけてきているような顔でネット際にいた岩ちゃんを見つめている
きっと脳裏にちらついていたものが追い払われたのであろう
大地さんも気づいてる…今日一番のものがくる…!!
綺麗なトス
綺麗なジャンプ
綺麗なフォーム
「……ははっ」
どれも完璧…………!!
「っ!」
スパイクを打っているかのような、風を切り裂く音
そのボールは真っ直ぐに大地さんに向かっていった
大地さんの腕に当たったボールは大地さんを吹き飛ばすような威力で激しく肌にぶつかり、大きな音が会場内に響きわたる
「くそスマン!!」
「あんなの上がるだけで有難いっつーの!」
「返ってくる!チャンスボール!」
なんとか上がったボールはそのまま青城側のコートへと飛んでいく
このサーブ、今まで見たなかで最高のサーブだ
大事な場面……岩ちゃんで来るか、それともこの状況で意表を突くため違う選手へとあげるのか…

丁寧に上がったボールの先には
「!」
逆サイドのライト
国見くんがいた
確かこの子体力温存してるのかわからないけど、動きが他の人と比べて大きくなかった気がする……
ここぞという一番の時のための行動だとしたら………
「チャンスボール!!」
ツッキーと同じ頭脳派
一度強烈なスパイクが打たれ、なんとか飛雄がレシーブしたもののそのまま青城側へと返った
そして、そのボールは徹くんにより再び国見くんへとトスが上がる
そして
「!!」
烏野の理性が月島なら、青城の理性は国見くんなのかもしれない
ブロックの後ろががら空きだった烏野
そこにフェイントを決められ、青城がマッチポイントを握った
「青城っ…逆転し返したあああ!!!」
「青城またマッチポイント!!しかもサーブは及川!さすがに烏野もここまでって感じかーっ」
「いいぞいいぞアキラ!押せ押せアキラ!もう一本!」
確かこの子飛雄のチームメイトの一人だったはず
徹くんも一目おいていたし……警戒すべきだったかな……
だけど後悔しても遅い
みんな分かっているはず
なのに、飛雄はどうして既に絶望を感じている表情をしているの
「影山!影山!」
翔ちゃんが呼びかけているのに一人の世界に入ったまま………
今なにを考えてる?
「影山くん!影山さん!!」
「!?」
「おい、まさかビビってんのかダッセーーふがし!!」
翔ちゃんの呼びかけに気づいた飛雄は、そのあとに続いた言葉に反射的に手が出て翔ちゃんの頬を掴んだ
おお、痛そう………
「だっ"大王様"が"王様"より凄いなんて当然じゃんか!名前的にも!絶対お前より頭とか良さそうだし!」
その言葉に再び飛雄の手が出るけどなんなく翔ちゃんは避けていた
その言葉は私も同感かもしれない
バレーに関しては飛雄の方が天才であるけど
「スマン影山!次、絶対お前のトコへ球返してみせる。そしたらあとはいつも通りお前がベストだと思う攻撃をすればいい」
「影山ァー!!!迷ってんじゃ無えぞーっ」
「!!」
孝支先輩……………
「"うちの連中はァ!!!"」
そうだきっと飛雄は
「"ちゃんとみんな強い"」
孤独を感じていたんだ
そして孤独を打破できた今
飛雄はもう孤独な王様じゃない
孤独ではないけど
「まだまだ王様なのかな…」
「柚葵?」

そしてなんだろう
この落ち着かない感じ……
なんだかこの空気に合わないこのもやもや………
そして徹くんの表情
「っ!前ェェーー!!!」
強打で来ると思った徹くんのサーブ
皆が警戒しすぎて後ろに構えているのを嘲笑うかのように前に落ちるボール
なんとか大知さんが反応しあげることができたけど…
「速攻は使えない…!」
「っ!」
この場面でのフェイント……勝ちにこだわり、勝ちをもぎ取るための冷静さ
いつも通り変わらない、勝負が絡んでくるときの及川家の血は勝ちにこだわる
冷静に状況を読み有利にたてるようにする
「レフトォォオ!」
「センタァアア!!」
旭さんと翔ちゃんが同時にトスを呼ぶ
飛雄は
「レフト!」
「旭行けえぇえ!!」
旭さんを選び、ブロック三枚を吹き飛ばした
だけど
「ナイスカバー!!」
青城のリベロも負けてない
ブロックで飛ばされたボールを次へと繋げた
「繋げ繋げェ!!」
「岩ちゃん!」
「っ!青城もエース…!」
岩ちゃんに上がったボールはブロックの間を抜けて烏野へと勢いよく落ちる
「んぎっ」
「!!上がったア!」
「龍!」
なんとか龍がボールを上げた
だけど、そのままの勢いで青城へと返ってしまう
「やれ金田一!!」
その言葉のまま直接叩かれた
翔ちゃんが飛んだブロックは避けられたものの、後ろにいた夕によりボールは上がった
「オラアァァ!!!」
「ナイス!!」
「少し乱れた!セッターまで届かない!」
「また攻撃は単調にレフトか…!」
飛雄がボールの下まで走る
ここで何が来るか……………
っ!
「金田一、国見!」
『!ハイ!』
明らかに早くに飛び出している翔ちゃん
ここでまさか……
ーーー今 この位置、このタイミングで

この光景は……きっと忘れないものになる
どんなものでもどんなことでも無敵な人間がいるわけじゃない
誰にだって失敗や挫折を味わう時がある
そして、それを乗り越えた人こそ強く…強くなれる
それがいつなのか…………
それは人によって変わるもの……
そう、それが
今起こったとしても
不思議じゃない
ピッピピーーッ虚しく試合の終わりを知らせるホイッスルが鳴り響き
「おっしゃああああああああ」
勝者の雄叫びが木霊する
3回戦
勝者は青葉城西高校

最強の攻撃でも
決まらないことだってある
ミスだってある
だって仕方ないよ、人間だから
最後の攻撃、飛雄が誰に託すか薄々気づいていた
翔ちゃんがそこにいるから
信頼と仲間を知った飛雄はきっと変人速攻を選ぶはずだと
私が気づいていたならば徹くんもきっと気づいていたはずだ
そして翔ちゃんの前には大きな壁が三枚たち、そのまま跳ね返され烏野のコートへとボールは落ちてしまった
バレーボールはボールがコートに落ちた時点で負け
いかにみんなで繋げるかを競うスポーツ
その時点で烏野の敗北が決まった

きっと本人達が一番よく分かってるはずだ
蹲ったままそこから動こうとしない飛雄と翔陽
そして私もベンチから立とうに立てない
横を見てもあの潔子さんでさえ、立とうとしていない
全身から力が抜け落ちたように動けない
まだここにいたい
ここで戦っていたい
そう願っているかのように体は動いてはくれない
ようやく体に力が入り立てたのは、大地さんが二人に呼びかけに行った時だった
「……勝者と敗者…か」
自分がプレーヤーじゃないだけでもこんなに悔しいんだ
皆はどれだけ悔しいのだろう
後悔………しているのだろうか?
『ありがとうございました!』
私たちは青城側へと体を向け、青城の監督とコーチに向けお互いに挨拶
この瞬間、体の奥から込み上げるものが溢れてきそうになるのを必死にこらえた
まだ、まだだめだ
「整列!!ありがとうございました!」
『っしたーっ』
応援席へと大地さんの掛け声と共に挨拶をした皆に会場内から拍手が溢れる
この拍手にどんな思いが込められているのか……皆がどう感じるのか…それは私達にもわかる気がした
「お疲れ!!」
「いい試合だった!」
聞きたいのはその言葉ではないけれど、この状況ではその言葉しかきっと妥当な言葉はない
翔ちゃんは龍に頭を叩かれながら、飛雄は夕に背中を叩かれながらこちらに帰ってくる
けど、私たちがここにいれる時間はない
潔子さんと早々に片付けを始める
「泉石ファイ」
「オ"ェーイ」
選手たちを残し、私と潔子さんは邪魔にならぬようコートの外へと一足先に出た
「…………………」
「…………………」
いつもなら
二人でいるといろんなことを言い合ったり笑いあったりできるのに…
「……柚葵」
「!はい」

「がんばれてたよね…私達……ここまで」
"飛べない烏なんて呼ばせない"
入部当初、今までのことを潔子さんから全部聞いた
昔は強豪校だったけど最近ではあまり結果を残せていない……
周りからは皮肉な命名を付けられた
そして最後に潔子さんはいつも言っていた
いつの日か呼ばせないくらいまで強くなってみせると
「烏は空へ飛び立ってました」
私がそう言った瞬間、潔子さんの目から涙が頬を伝って地面を濡らした

ーー…

「それにしても…みんなクールダウン遅いですね…………」
「私たちも十分遅かったけどね」
あのあとひっそりと階段の影で時間をすごし、横断幕を回収するため急いで応援席へと向かった
けど、既に横断幕は片付けられていて嶋田さん達から手渡された
大人はやっぱりすごいなぁ……と思っていたところ、ミーティングまで時間がないことに気づき急いで烏養くんのところまで来たのだけど、そこに選手の姿はなかった
「ったく、あいつら」
「僕が呼んできましょうか?」
「あ、私がいきますよ」
「柚葵、私も行く」
「では手分けして呼びにいきましょうか。烏養くんは…………」
ーー…

みんなどこ行ったんだろ………
武ちゃんの指示により
烏養くんは3年生
潔子さんはツッキーと山口くん
武ちゃんは変人コンビ
私は
「力がいるにしても流石に2年は」
不安が押し寄せてるだろう
後悔…………しているであろう2年生を呼びに
「俺はここで立ち止まる気はねぇ!」
「!」
角を曲がろうとした瞬間夕の大きな声が耳に届いてきた
「後悔してねぇとはいわねぇ!けど!俺たちに立ち止まってる時間は!」
「ない」
「ないな」
「ないね」
「ねぇ!」
「っ」
夕の言葉に続くみんなの言葉
そうだ私達は上も下もいる
先輩として後輩として一番立ち止まる訳にはいかないんだ
「柚葵はどう思う!」
「!?うへっ!?」
俯いて考えていた瞬間、目の前に広がったのは夕の顔
「な、ななな、なんで」
角に隠れてたのに!夕気づいてたの!?
「気づくに決まってんだろ!柚葵も"俺たち"の中の入ってるし、来たのも俺たちを見て隠れたのも全部分かった!」
「や、野生の感?」
「いや、ノヤっさんには柚葵と潔子さんのセンサーがついてんだよ」
「い、一緒じゃ?」
「まあ、俺達も足音で気づいてたけど」
「力……………」
足音で気づくってそれも怖いよ
というわけで、皆に囲まれるような状況に早変わり……
「で!柚葵はどうなんだ?」
「……私は」
最初こそ不純な動機で入部した
徹くんをぎゃふんと言わせるため、団体競技に対する克服を期待するため………欲はなかった
だけど、今はっきりと言えるのは
「皆と戦い続けたい」
立ち止まる訳にはいかない
「皆と一緒にいたい」
頂の景色をみるために
「皆と優勝目指したい」
進むためにはその先を目指す
「案外大きく出たなぁ…」
「その方が頼もしいじゃねーか!」
「だな!」
2年で集まってこういうことが増えていくんだろうなぁ……
支えあっていた3年生のように…
なんだかんだ楽しいし共に戦ってきた仲間だから一緒にいたい

「あ!そういえばミーティングが始まるから呼びに来たんだった!」
「それをはやくいいなさい!」
「ごめんなさい!力お母さま!」
「……茶番してる間においてくぞー」
「力お母さま、柚葵を俺にください!」
「悪のりする間に走れ!」
あの試合後とは思えないくらい私達は騒ぎながら集合地へと走る
そのぐらいしないと
目から溢れそうになるものを抑えきれなくなる気がして

ーー…
2年組で集合地へと行った時には変人コンビと武ちゃん以外はそろっており、孝支先輩の顔をあまり見ることができなかった
少し経った後武ちゃんとどこかスッキリした表情の翔ちゃんと飛雄が帰って来てミーティングが始まった
「というわけだ。今はなんとも言いがたいしお前らも気持ち整理したいとは思うが…」
そしてミーティングは思いの外早く終わり、皆で青城を観るため再び体育館へと戻った
その道中あれだけ騒いでいた2年生も言葉を発することなく、ただ黒い集団は目的地を目指していた
「いいぞいいぞ青城押せ押せ青城もう一本!」
泉石対青葉城西
思い思いに試合を見届け、青城がストレート勝ちで次に駒へ進めたと同時に烏養くんが動き出した
「よし、じゃあ飯行くぞ」
もちろんオゴリだ
そう言って歩き出す烏養くんにみんな意図が分かず立ち止まったまま
「飯…スか…?いや、でも」
「いいから食うんだよ」
いつもより強引な烏養くんに皆戸惑いながらバスへと歩き出す

「おばちゃん悪い、開店前に」
「なぁんのお〜こんなの前はしょっちゅうだったじゃないの」
連れてこられたのは居酒屋"おすわり"
目の前には美味しそうな料理が並んでいる
「走ったりとか、跳んだりだとか、筋肉に負担がかかれば筋繊維が切れる。試合後の今なんか筋繊維ブッチブチだ。それを飯食って修復する。そうやって筋肉がつく。そうやって強くなる。だから食え。ちゃんとした飯をな」
「い……いただきます」
『いただきます』
「はーいどうぞー」
皆が箸をもちどんどん口に入れていく
それと比例するかのように涙を溜めて黙々と食べ続ける
泣きそうなのを我慢していた皆が涙をこぼしていく
この光景に青城に負けたことが悔しいとようやく私の目からも涙が出てきた
あぁ……あの人達に負けたんだ……あの二人が勝ったこと、昔みたいに喜べない
烏野が負けて悔しい悲しい勝ちたい
私もようやく今日
烏野高校のバレー部マネージャーになれた


あの後解散し、家に帰宅
徹くんの部屋の電気は付いておらず、なんとなく安心したと思ったのに
「……なんでいるの」
「邪魔してる」
「柚葵!」
今日私たちが負けた青城の阿吽コンビが私の部屋にいた
「………」
「あれ?柚葵泣いた?目が赤いけど」
「泣いた」
「…あーあ、柚葵が本当にそっち側に染まっちゃったか」
「え…?」
「泣いたってことはチームが負けて悔しかったんでしょ?」
「………」
図星だけども…
「なら俺たちは敵同士ってわけだ」
「ちょ、岩ちゃんそんな直球に!」
「そうなるね」
「え!?柚葵もそんな素直に!」
「でも、戦うとき以外は今まで通り幼なじみだ。忘れんなよ柚葵」
「…岩ちゃん」
「ちょっと!そこいい雰囲気にならないでよ!?岩ちゃんも俺の台詞取らないで!?」
「柚葵が本気になって俺達も楽しみが増えた」
「うん、私も阿吽にいつか参ったって言わせたい」
「無視!?」
本当は今日会うと気まづいかなって思ってたけど、なんだか前より距離が近づいた気もする
「で?試合はどうなったの?」
「あ、本当に無視なんだ」
「明日白鳥沢と決勝」
「そっか………見たかったなぁ」
「見に来れば?」
「……学校だから無理」
「ちょっと今考えたでしょ」
「し、しかたないでしょ?前見に行ったときのこと思い出したんだから……でもやめとく」
『?』
「やっぱ学生だから学業に専念しなきゃだし、やっぱり烏野マネージャーとして上から眺めるんじゃなく目の前でみたいから。二人は春高まで残るつもりでしょ?」
『!』
「私達は立ち止まらないから」
「……柚葵、強くなったね」
「だな」
「お兄ちゃん悲しいけど嬉しい!!」
「お兄ちゃんじゃないって………あ!」
『?』
「そういえば徹くん!飛雄と翔ちゃんに変なこといったでしょ!?」
そう、俺が勝ったら柚葵は……という話
試合後負けたことにより多分あの変人コンビは忘れているとは思うのだけど…
「あぁ!だって約束は事実でしょ?動揺させるのにも使えたし、本当のことだもん。現に俺烏野に勝ったし」
「いや、ちょっと待て。私と約束したのは"その代わり、一回戦とか二回戦で終わるチームになったら俺は柚葵を嫁に貰うから"だったからその約束は無効になったわけです」
「…あり?俺が勝ったら柚葵を嫁にもらうじゃなくて?」
「当初の約束はそんなんじゃないから嫁にはなりません」
「お前ら……」
そうだ、だから私はあの縛りから解放されたんだ…!私も徹くんが勝ったら…ってなってたような気がしたけど、そういえば最初はそうじゃなかった!
「俺は諦めないからね!」
いきなり立った徹くんの目はちょっぴり怖かった
「…明日も試合あるんだし、ゆっくり休んだら…?」
「そうするわ」
「………うん、また明日電話する」
「うん、待ってる……がんばってね」
『!』
「おう!」
「任せて!」
最後には笑顔で出ていった二人
嵐は過ぎ去ったけど…
「明日からどうなるんだろう………」
徹くんと岩ちゃんは春高まで残る
なら
大地さん 旭さん 潔子さん
孝支先輩は………?
「春高までいて欲しいな………」
居なくなってしまうのは…寂しい

ーー……

「柚葵ーご飯食べよー」
「……………」
「?柚葵ー」
「っ!あ、ごめん」
「………」
いけない、昨日の夜から3年生のことばかり考えて授業全然頭に入らなかった……
今日朝練なかったし……
「……柚葵、あのさ相談が」
「柚葵ー」
『!』
「ちょっと2-1に集合してって、あ、ごめん。話中だった?」
「あ、力」
「縁下か……いや、私の話は後でも大丈夫」
「友ちゃん?」
力が来る前親友の友子(ともこ)こと友ちゃんに何か言われてた気がするんだけど
「ってことは昼はそっち(バレー部)で食べるってことだね」
「あー、そうなるんだけど、大丈夫?」
「友ちゃんはどうするの?」
「ん?あたしは部活の面子と食べてくるから大丈夫よ」
「?そうなんだ…?」
「………」
「なら、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
友ちゃんがなんだかいつもと違う……?
ーー……

「大地さんは春高に行くって言った」
「確かに……"もう一度あそこへ行く"って言ってた」
2-1に行くと2年生全員が集まっていて、そのまま食事をし、本題に入った
やっぱり皆も同じ事を思ってたんだ
「春高…1次予選は8月だっけか…」
「俺達でって言ってた。敗戦に浸ってる余裕無えよ」
「…今まで出来なかったことを攻略していかないと青城には勝てないし、これからの相手には難しいかもしれない」
「あぁ」
「"もしも"のことも考えなくちゃいけないしね………」
『…………』
もし、もしも孝支先輩が、3年生が引退するのであれば…………
これから
「及川柚葵さんってここにいる!?」
『!?』
「ふぁ!?」
な、なんだ!?
「いたいた!ねえ!ちょっとお願いがあるんだけど!!」
「へ、あ、え??」
「部活始まる前か昼休みに軽くでいいからテニス部に来て欲しいの…!」
「…………………へ?」
「ちょ、説明はしょりすぎだから…!」
「と、友ちゃん!」
いきなり名前を呼ばれ、なんだと思ったらテニス部の面々で…その中に友ちゃんもいた
「部活勧誘は失敗したけどだけど、少しの間だけお願いしたいの!先輩がいなくなった今!頼れるのは全中で準優勝した及川柚葵さん、あなただけなの…!」
『…はぁああぁ!?』
「………あー」
バレた…バレたくなかった人達にバレた
隠してきたのは隠してきてたけど……タイミングが悪すぎるというかなんというか…
「全中って……」
「全国中学生テニス競技大会の略」
「それで準優勝の逸材がまさかここ(烏野)に来てるとは思わないし、ましてバレー部マネージャーしてるなんて知ったときは言葉を失ったわよ!」
「…アハハハハ」
「おま、大地さんに知られたらどうなることか…」
……うん、確実にお説教だわ
「ねえ、お願い…!」
「………」
「気分転換ってことでも駄目かな?」
「無理にとは言わないんだけど、こっちも先輩の後引き継ぐのにちょっと自信無いんだ。柚葵が少しでも協力してくれるなら私達も一歩踏み出せそうなんだけど……」
「友ちゃん…」
「……いいんじゃない?」
「力……?」
『縁下!?』
「柚葵ももともとプレーヤーだったんだから、最近試合見るだけだったら物足りなさあったんじゃない?」
「!」
確かに青城戦の後、身体の内側から血が駆け巡っていた
「でも、俺達も柚葵が絶対的に必要。だから昼休みの時間とか部活前なら誰も文句は言わないんじゃないかな?部活前はウォーミングアップになるし、いつもストレッチとかするだけだろ?放課後の準備も朝練終わった後全部仕込んでるし…少しだけなら烏養さんにも事情話せば大丈夫なんじゃないかな……?」
「おお!確かに昼休みなら自由だしな!部活前なら、コートの準備とかは俺らがするし!部活中柚葵のサーブが受けれるなら俺は問題ねえ!」
「そして柚葵のテニスしてる姿がもしかしたら見える!」
『皆特する!一石二鳥!』
……このお馬鹿二人はなにを言い出すのか…
まあ、でもこんなに私は思われているんだ…必要とされてる
幸せ以外の何物でもない…
「分かった。ただし、プレーヤーとしての及川柚葵はもういないから、うーん…コーチみたいな感じだと思ってくれれば、昼休みと……部活前は烏養く……コーチがオッケーだしたら…って事でいいかな?」
「ほんと!?ありがとう及川さん!!前キャプテンとの約束は約束は守るから!」
「ありがとう柚葵…」
友ちゃん達は頭を勢いよく下げてお礼を言って帰っていった
あ、これから練習するんだ…
思えば、久々に女の子達と話したなぁ……
「よかったじゃん」
「力……」
「女子高生なのに女友達少ないのなんでだろーって言ってたから友達作れるいい機会なんじゃない?」
「!お母さん……!」
「まあ、俺らと一緒にいたらあんま女子は近寄らんだろうしな」
「龍…!」
あれ、なんで龍も夕も泣いてんの…?
『(俺達が思うに外からみてる人間はこの中に入っていけない団結力みたいな絆があるんだよなぁ………。あとは柚葵が憧れの存在って感じなんだろう……バレー部強い)』
成田達が思っていることは四人には届かなかった

「そういえば俺らが入学してすぐの頃、噂で前テニス部キャプテンをストレート勝ちしたっていう新入生の噂を耳にしたんだけど…」
「会話の流れ的に柚葵……?」
『………え』
柚葵が教室に帰った後疑問に思っていた言葉を思い返し、行き着いた結論に皆頭を抱えるのであった
ーー……

〜〜♪
「!」
電話?わ、まずい!まだ学校終わった直後なのに!いったい誰だって……
「徹くん?」
なんとか教室を抜け出しトイレへと駆け込んだ
ギリギリセーフ…
「も、もしもし」
「……柚葵」
徹くん…?
なんだか様子が変…
泣いてないんだけどなんだか心が泣いてる…感じがする…
「バレーにおいて勝利までの過程なんて関係ないよね」
「!」
「コートに球を落とした方が負け。それがすべて」
あぁ、そっか……リベンジ出来なかったんだね………でも、きっと次に繋げることができる試合だったはずだ
「たしかに今までのことが通用しないのかもしれない。だけど、勝負ってそういうものでしょ?なにもなく勝ち続けたって楽しくない。けど、負けたことで人は強くなるし、かけがえの無い何かがわかるんじゃないかな?」
私にはそのかけがえの無いものはプレーヤーとしては感じれなかったけど……きっとマネージャーを続けたらわかる気がする
「どこが悪かったのかどこが違ったのか……そこを今日は考えてゆっくり休むのが一番だよ。明日からは今日のことを踏み台にしていけばいい」
「……ん。そうだね…なんだか落ち込むだけ落ち込んでたから、柚葵の言葉が聞けてよかった。柚葵には助けられてばっかだ…」
「いや、今の私がいるのは徹くんのおかげだよ」
「柚葵」
「ん?」
「今度は勝って全国にいってやる」
「残念」
「?」
「全国へは烏野が行く」
「!」
「だから、徹くんは烏野と当たるまで負けないようにもがいてね?」
「……嫌なところで及川の血筋が…」
「従兄妹だからね!今日はお疲れ様」
「うん」
ふーっとため息をつきながら通話が切れた携帯を鞄に入れ、更衣室へと急ぐ
そういえば潔子さんは残ってくれるのだろうか……
一応マネージャーである私だけど、最近マネージャー業は潔子さんに任せっきりな気がする
半分コーチみたいなこともしてるし、皆のメンテナンスもしてるからあんまりマネージャーしてるって気がしないんだよなぁ…
タオルとドリンクの準備は朝練が終わる前に仕込んではおくけど、途中入れ換えたりドリンクを作り直すのは潔子さんにしてもらってる
私、マネージャーじゃなくて烏養くんと共にコーチ……兼トレーナーなんじゃ…?
ふとした瞬間そう考える時も増えてきて、マネージャーしながら動くことが私に出来るんだろうか………
ちょっと厳しい気もしなくもない
「もう一人……マネージャーいたらよかったかな…?」
今の感じだったら、潔子さんに負担かけすぎてると思うし
そう考えているうちに更衣室についた
なかに入ってみると、そこに潔子さんの荷物はない
「………どっちだろ」
3年生は残ってくれるのだろうか
それとも引退…してしまうのだろうか
「昨日からそれしか考えてないや…」
体育館に行くにつれ、段々と不安は募っていく






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