Agapanthus




こちらのセットポイント…徹くんのサーブ
その時の集中力が異常だったからだろうか?
あの時を思い出した、徹くんが空回りしていたあの頃を

ーー…

「バレー部負けたらしいよ、白鳥沢学園に」
「え…」
中学の時、テニス部だった私は友達からバレー部の状況を聞いていた
昔から徹くんと岩ちゃんがいれば最強と疑っていなかった私は、その言葉をあまり信じられなかった
だって
「1セットも取れなかった………?」
そんな事、ありえないと思いたかった
徹くんに話を聞こうにもその時は私も大会などがあり、徹くん達の居る体育館に足を運べなかった
徹くんも昔なら私を引き抜こうと部活の休憩時間と帰りの時間でこっちまで来ていたのに、今は全く来ていない
代わりに私が帰るときに体育館から光が放ち始めた
そして時が経ち、私は中学2年生になった
徹くんは相変わらず学校で会ったらしつこくバレーに誘ってくるけど、やっぱり部活時間の休憩時間や帰る時に来ることは無くなった
それと同時に徹くんの顔から余裕がなくなってきていた
常に焦っているように
「及川さんどうしたんだろ?」
「体調悪いのかな?」
「?」
私……ではないよね?
部活の休憩時間にバレー部の練習試合を見に行っていた同級生が話していた会話が気になり、少しその話に集中してみた
「練習試合だからいいけど、ミス連発だったよね」
「うん、コンビネーションが全然って感じだった!」
「!?」
短時間の間に徹くんがコンビネーションミス…!?
「代わりに入った影山くん?だったっけ?可愛かったし上手かったよね」
「えー及川さんじゃなくなっちゃうの!?」
「それは分かんないけど…ありえるかもね」
「っ!」
あの表情は焦ってただけじゃなく助けてのサイン……!
なんで気づかなかったんだろ…!
子供の時から徹くんも私も助けて欲しい時素直に言えず、自分だけ焦って空回りして………私自身それでトラウマになった訳なのになんで気付けなかった…!
間に合えばいいけど…!
「お疲れ様でした!!」
すぐに徹くんの元へと駆け出したかったけど、部活があるため直ぐには向かえず、かと言って抜けるわけにもいかないのでちゃんと終わらして部室を飛び出る
間に合え間に合え……!!手遅れになる前に!!!
全力で走り、見えた体育館
っ!?まだ明かりついてる…!
「まさか…!!」
「柚葵…!?」
「っ!?岩ちゃ…!」
岩ちゃんがジャージに荷物を持っているってことは………
「やっぱり徹くんオーバーワークしてる!!?」
「ああ」
「もしかして白鳥沢学園と戦って以降?」
「!知ってたのか」
「予想はしてたけど…!なにがあったの?」
「……超えられない壁がある事に加えて、背後に天才が現れた」
「っ!それであの焦り……今日の練習試合の話も聞いた」
「…………」
「そろそろ、限界なんじゃない?」
丁度体育館に着き、扉を開けた岩ちゃんの後ろから体育館の中を見てみた
「!!」
そこには我武者羅にコートにサーブを打ち続ける徹くんの姿
「とお」「及川さん」
『!』
私が徹くんに声をかけようとしたその時、かぶされる形で違う声が徹くんの名を呼んだ
あれが影山くん?
「やべぇな」
「え?」
岩ちゃんが珍しく焦りながら二人を見つめている

「サーブ教えて下さい」
少し間が空いた瞬間徹くんの左腕が影山くんの方へと勢い良く振り上げられる
「徹くん!!」
「落ちつけこのボゲッ!!!!」
徹くんの腕を掴んだ岩ちゃんに、影山くんを後ろに少し突き飛ばし、庇う形で前に立つ私
間一髪間に合った
「ーーー………………ごめん」
その言葉を聞き、岩ちゃんは徹くんの腕を離す
「ー影山悪いけど今日は終わりだ」
「あ…はい」
岩ちゃんの言葉を聞いた影山くんは体育館から出ていった
「ー今日の交替はおめーの頭冷やす為だろうがよ、ちょっとは余裕持て」
「今の俺じゃ白鳥沢に勝てないのに余裕なんかあるわけない!!俺は勝って全国に行きたいんだ、勝つ為に俺はもっと」
「"俺が俺が"ってウルセェェエ!!!」
「ンガーッ!?」
「岩ちゃん!!?徹くん!!!」
い、いきなり頭突きをするかな!?徹くん鼻血でてるし!!
「!?!!!?」
「てめえ一人で戦ってるつもりか、冗談じゃねーぞボゲェッ!!!てめーの出来が=チームの出来なんて思い上がってんならぶん殴るぞ!」
「もう殴ってるよ!!」
「1対1で牛島に勝てる奴なんか北一には居ねえよ!!けど!」
牛島……?その人が徹くんの原因の元…?
「バレーはコートに6人だべや!!相手が天才1年だろうが牛島だろうが"6人"で強い方が強よいんだろうがボゲが!!!」
「っ」
団体競技ならではの言葉
岩ちゃんは息を切らしながら徹くんに訴えかけた
「ーー………"6人で強い方が強い"……ふ………ふ…ふふふ……あーーーー……」
「スマン強く頭突きすぎたか大丈夫か!?」
「はァー…うん…何かなんだろうなコレ……俄然無敵な気分」
「!」
なんか徹くん吹っ切れた感じだ………もう大丈夫そうかな…?
なんで及川家の人間って一人で抱え込んじゃうんだろ…しかも、徹くんは私には言うだけ言って自分のときは言わないんだ……涙出てきた……
「ていうか岩ちゃん悪口"ボゲ"しか言えないの?」
「右からも鼻血出してやろうか」
「ヤメテよ!!!んぁ!?柚葵大丈夫!?なんで泣いてるの!!?」
「!柚葵どうした!?」
ぶわっと泣き出した私に気付いた徹くんが慌てだし、岩ちゃんも続けてあたふたしだした
「と、徹くんの馬鹿!!!」
「え"!!」
「徹くん私に無理しないで、とか、言ってたのに!なんで!自分は無理しちゃうの!!」
「えっと……」
「徹くんの側には岩ちゃんがいる!!私も!いるの!!!一人で空回りして一人で自滅するなんてさせないから!!!」
「っ!!」
「私が昔した思い!徹くんにはして欲しくないんだよ!!オーバーワークで怪我なんてして欲しくない!!バレーをやめて欲しくない!!」
「柚葵…」
「壁になる奴なんて天才なんてザラにいるし、化物だっている!」
「おい、」
「けど!それを乗り越えてこそ、乗り越えようとするのが及川徹でしょ!?余裕があるのが及川徹でしょ!!私はそんな及川徹が好きだよ!!!?」
「!!」
「もうこれからは絶対無茶しないで!っうぐ、」
「柚葵!」
そこからはあまり覚えていない
泣きわめきながら叫ぶなんてこと体力がいるんだなぁと思いながら、そのまま感情が抑えられず泣いた
徹くんも岩ちゃんもびっくりしながらも、私を抱きしめてくれた
その時私の両肩に冷たいものを感じた
2人が静かに泣いている
3人で泣きながら約束した
"一人で抱え込まない"
ただ、この約束を真っ先に破ってしまったのは私かもしれない


なんで今思い出したのかは分からない
けど、徹くんがサーブを打つ前
昔の顔とかぶっていたからなんだろう
きっと徹くんが凹ましたい相手その2がいる
飛雄がコートにいるからだろう
確実に
「勝負してくる…!」
そして、ドッと凄い音を立てながら放たれた勢いにのったボールは、サイドラインギリギリ…!!
それを上げるのは
「西谷ァァァアアア!!!!」
大地さんの呼びかけに答える形で拾った夕
だけど、そのままボールは青城へと返ってしまう
徹くんは誰で来るんだろう…
「チャンスボール!」
レシーブは綺麗に徹くんにかえった
「!」
「?」
そんな時、飛雄がツッキーの服触ってる……まさか
「!!」
「…………」
ピッピピーッ
「うおっしゃあああぁ」
飛雄が、飛雄が徹くんの先手を読んだ
それも完璧に
終盤、追い込まれた青城、阿吽の信頼関係………総合的な判断をしてツッキーと共に岩ちゃんへのブロックに飛んだ
そしてドシャット………今までそんなことあんまり信頼関係のことを考えなかった飛雄が考えてる
「……柚葵さん、なんか俺に言いたいことあるんっすか?」
「え"!?」
「タオル、渡してくれないんで」
「あ、いやー」
流石に"飛雄が信頼関係を考える事があったなんて…!"なんていえないし…
「よく、徹くんが岩ちゃんに上げるって読んだね……」
「心理…を読むっていうんですか?菅原さんに本能だけで動くより少しは相手を見てみろって」
「!」
「及川さんと岩泉さんの場合はよく知ってたんで読めた気がしたんです」
「そっか…飛雄ちゃん」
「………なんっスか」
「ただの独裁の王様が考える王様、マトモな王様になろうとしてるね?」
「?」
「そのまま進化して徹くんをぎゃふんって言わせてしまえ!」
「!はい」
ー……

「くっそがァァア!!スマン!!」
「ドンマイ次次」
「は は は」
「何笑ってんだぶん殴るぞ!!」
「すぐ殴るって言うのやめなよ、岩ちゃん」
「安心しろ、おめーにしか言わねーし殴んねーよ!」
「…今のは、センターからの速攻がベターな攻撃だった」
「あ?」
「でも恐らく飛雄は今、俺がレフトに上げると読んでいた……この意味わかる?今までみたいに機械的に考えるだけじゃなく、終盤・こっちの劣勢っていう状況・岩ちゃんと俺の超絶信頼関係」
「あってたまるかそんなもの」
「そういう総合的な判断をしてきたって事…!あの"爽やか君"は柚葵絡みで警戒してたけどそれ以上、俺が思ってたより深刻だった。"爽やか君"は飛雄に何を教えた?ただの独裁の王様がマトモな王様になろうとしている」
柚葵も俺と同じように気づいているはずだ
飛雄が進化してきている事を
「なんだこれ、すごいムシャクシャしてんのにこの感じ……!!」


「っ!」
このハッと息がつまりそうなプレッシャー…
「徹くん…!」
「はやく早くやろう最終セット!!!」
その後タイミングよく最終セットが始まる笛がなった
このセットを落としてしまうと………終わる
試合も何もかもが…
「いーぞォーいーぞォー青城ッ」
「いーぞいーぞ青城!!押せ押せ青城!!」
さあ、この応援に負けず最終セット最初からエンジンかけて
「柚葵」
「潔子さん」
せーのっ
『行ってらっしゃい』
後悔しないよう戦い抜いて
最終セットどうしても"行ってらっしゃい"って言いたかった
私たちもいるんだよ、一緒に戦っているんだ
頑張ってる人に頑張れって言えないから、行ってらっしゃいの中に頑張れという意味を込めて笑顔で送りだしたかったんだ
潔子さんと一緒に言えてよかった
あとは皆が悔いの残らないプレーをすることを祈るだけ……
「花巻ナイスレシーブ!」
最終セットが始まってここまでラリーがすごく続いている
どっちも繋いで繋いでボールを落とさないようにと必死に食らいついている
「レフトレフト!」
「3枚!!」
だけど
「っシ!!!」
3枚ブロックと真っ向勝負で挑んだ岩ちゃんは、ツッキーの指先を狙ってブロックアウトで点を入れた
…やっぱりうまい
この終盤……どうしても地力の差が出てくるかな
そして岩ちゃんのサーブ
きっちりと返ったレシーブ
追いつき追いこされの攻防戦だけど…………
大丈夫だ、みんな己の力を出して戦えてる
けれどなかなかそれだけで決まる簡単なものではなく、ラリーが長々と続く
総合的にブロックや守備は青城が上だけど、こっちは夕が飛び抜けて守備力が高い
「ノヤさんナイスレシーブー!!!」
ただ気になるのが烏養くんが考え込んでいること……引っかかるポイントがあるんだろうか……
「旭さん!!」
旭さんの打ったスパイクはブロックにワンタッチを取らせてしまい、そのボールを徹くんがレシーブした
ということは徹くんがファーストタッチ…!
トスを上げることができない!!攻撃が単調になってブロックのチャンス
と思いたいけど徹くんがバックアタック……のスパイクモーションにリベロのオーバーハンド…?
……まさかあのリベロ
少し前ふたりから言われたことを思い出した

ーー…

「柚葵」
「?なに、徹くんまた来たの?」
「トス上げてくんない?」
「ん?トス?」
いきなり家に来るのは慣れているのだけど、いきなりトス上げてと言われても訳が分からない
「柚葵も今日部活休みなんでしょ?」
「……何で知ってんの。…彼女にでも聞いたの?」
「違うよ!!何でそうなんのさ!!」
「いや、だって徹くんだし」
「ひどい!!柚葵のお母さんから聞いただけなのに……」
「マザーキラー」
「やめて!」
「おい、及川いい加減ウザい泣き真似やめろ」
『岩ちゃん!』
「息ぴったりじゃねーか」
「岩ちゃんまで来たの?二人とも暇なの?」
「いや、バレーしてたんだがこいつが」
「スパイク打ちたくなってきた!!」
「ってことだ」
「……………」
だからって何で私が巻き添えなの
なんで岩ちゃんまで賛同してくるの、なに、この人たち暇なの?(2回目)
「何で私がって思ってるでしょー!」
「あぐっ…」
バレてるー…
「だって岩ちゃんトスヘタなんだもん!」
「あぁ!!?普通だボゲェ!!」
「いったぁー!!!」
「コントするなら帰って」
「…岩ちゃん、柚葵がひどい」
「お前がウザいからだろがボゲェ!」
「岩ちゃんもひどい!」
「はぁー柚葵、なんでもこいつは贅沢なことに安定なトスが欲しいんだと。柚葵は烏野だから俺たちと敵になるのは分かってる。だけどこの時間だけでも昔のように俺たちとバレーしてほしい。そういった意味でも及川は思いっきり打てるようにセッターのような安定した柚葵のトスがいるんだとっ!」
「何で今叩くの岩ちゃん!!?」
「俺のトスに文句言うからだべや!」
「………私セッターじゃないのに」
「ふふふ、柚葵俺まだ黙って烏野のマネージャーになったこと根にもってるからね?」
ゾクッ
あ、これまじなやつだ………
その後徹くんや岩ちゃんのバックアタック練習を、夕御飯まで付き合わされた

ということはこのリベロ………
「渡っち!!!」
「ハイ!!!」
「!!」
「リベロのトス……!」
ちゃんとラインを跨ずに飛んでの空中トス
「レェフトォオ!!!」
『!』
岩ちゃんが叫ぶけどそっちじゃない
助走をつけれるまで下がった徹くんに
「!?大王様のバックアタック!!?」
上がるボールだ……!
意表をつかれた烏野はブロックが間に合わず、青城2点差を許してしまった
これか、青城隠し玉
リベロのトスの上手さ
安定したボールに対して打てる徹くんの強烈なバックアタック
「青城のDVD見てて………ここまでのプレーは無かったから"もしかして"くらいに思ってたんだがー1セット目の時と言い…青城のリベロ元々セッターだったのかもしれない…若しくはそれに近い練習を積んでいるか……トスの技術が並じゃない…」
「それだけでなく、アタックラインのギリギリ後ろで踏み切って空中でトスを上げた………この場面で咄嗟にやれてる」
「……だな」
さすが強豪青葉城西高校………
リベロもセッター兼ねてできれば強いチームになる
そしてこの場面で徹くんのサーブ……
思いっきり放たれたボールは大地さんが綺麗に上げ、旭さんに託されたけど相手チームにレシーブされてしまった
だけどそのボールはネットを越えそう……押し込める
「ふぐっ」
「!!」
徹くんが触った……………!?
「オラッ」
と思ったら既に飛んでいた岩ちゃんへとトスが上がった
そしてそのボールは烏野のコートへと叩き込まれた
……まさに……阿吽の呼吸…

「先生!」
「ハイ!」
「!」
「柚葵タオルお願いできる!?」
ここで烏養くんがタイムアウトをとる
「タオルっ!分かりました!」
「お願い…!」
「よし、チャント戦えてるぞ!落ちついてけよ!」
『オス!』
「中に切り込む攻撃は向こうも慣れて来てる様だから、攻撃はできるだけコートの横幅めいっぱい使ってけ!」
『ハイ!!』
青城は攻撃の穴がない
誰がどういう状況でも臨機応変に対応し攻撃へと繋げる
烏野は今ある力を全力で出せている
孝支先輩が入ってから崩れていたものを立て直したし
なら、この焦りはチームとしての自力の差が目に見えているということ……
「越えられない壁……越えなくてはならない壁………それが青城」
烏野が弱い訳ではないが、やはりこれが経験の差……
「……きっと100%の実力を出した時、チームとして強いのは青城なんでしょう」
「!」
「でも、それが70%に落ちたりはたまた120%に跳ね上がったり、勝負ってそういうものじゃないですか?」
「何が起こるか、何を起こせるかがわからないのが勝負……」
「及川さんの言うとおり。そして烏野には、皆の攻撃力を120%にする為の"最強の囮"が居ます」
最強の囮
日向翔陽が烏野にはいるんだ
口を開けてただチャンスをまっているだけじゃ勝負には勝てない
チャンスを掴むため挑んでいかないと勝負はみえてこない
その為にも
ウォームアップゾーンでフラストレーション(欲求不満)を溜めた
「小さなケモノ」
烏野が勝つために必要不可欠なのがこのケモノでもある雛烏だ
そしてその小さなケモノは
フラストレーションを発散するため
コートへと向かった
烏野にあと一歩をくれるのは変人コンビの飛雄と翔ちゃんだけ…
そしてその鍵となるのは、コートの端から端を駆け抜けるこの
空気を切り裂く
ピッ
『なっナイスキー日向ァァアアァ』
「翔陽ーッ」
ワイド移動攻撃!
ブロックを完全に置き去りにしたこの攻撃
きっと徹くんは焦っているはず
「?柚葵どうしたの?手が痛いの?」
「………大丈夫です、痛いわけではないです。ただ」
及川家の血なのだろうか
手汗が出てきてる……徹くんが焦ってきているのが分かる
無理もないか…練習試合の時最後に見せたこの移動攻撃……
その時からこの攻撃には警戒していたはず
「勝つ希望を前に焦ってるのかもしれません」
「?どういうこと?」
「この攻撃は有効的。だけど、ここで出してよかったのか……と」
きっと青城は攻略してくるはず
ならばもう少し終盤で見せても良かったのかもしれないという私の焦り
選手ではないけど焦りを感じれてるのは一緒に戦えている証だろうか…?
「10番また走ってる!3連続で移動攻撃!?」
「………」
考えている間にも試合は進む
何度もコートの端から端に走る翔ちゃん
なかなか落ないボール
そして今こそ、コートの横幅めいっぱい
「ラァッ!!」
翔ちゃんの逆に飛んでいた龍がブロックに当てながらスパイクを決めた
ここまで翔ちゃんは休まずにコートの中を走り回る
囮で跳びブロックで跳びスパイクで跳ぶ
バレーは重力との戦いなのだろう
そして
「西谷ナイスカバー!!」
「戻れ戻れ!!もう一回もう一回!!」
ラリーが続けばまた繰り返す重力との戦い
短いスパンで何度も何度も繰り返し、息をつく暇も無い
確かにテニスも息をつく暇も無いが、重力との戦いはない
だからこそ重力と戦いながらのバレーボール
苦しくなるにつれ思考は鈍っていく
ブロックも囮もサボりたくなるだろう
だけど、うちの烏野の最強の囮は

「持って来ォォオい!!!」
サボるなんて事は一切頭に無い
ひたすら跳ぶことだけを頭に入れている雛鳥だ
「!」
「っフリーで打たしてったまるかっ!!!」
そして翔ちゃんに集まるブロック……
いま、コートの横幅めいっぱいの後の中央突破!!
「ブロック1枚!!」
翔ちゃんに集まったブロックを交わすかのように、バックアタックで旭さんが強烈なスパイクを決めた
「パイプ貫通成功っ!」
『ナァイスキー!!』
「日向が打つと思った……」
「うちの最強の囮は優秀ですね。潔子さんまでもそう思ったって事は」
「……面白い子」
「……潔子さん、翔ちゃんに言ったらだめですよ。気絶しちゃう」
「?」
そんな綺麗な顔で言われたら誰だってキャパオーバーです……
「烏野追いついた!!同点だ!!」
「青城これで余裕無くなった!!」
ピーーッ
たまらず青城はタイムアウトを要求した
「柚葵、今度はドリンクお願い!」
「はい!」
「柚葵!清水!手伝うことある!?」
「大丈夫!」
「孝支先輩は飛雄ちゃんにアドバイスしてあげてください!」
「お、おう…」









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