Agapanthus




昔から身体を動かすことは大好きで、尚且つ球技系のスポーツは自慢って訳ではないけど、どれも得意だった
幼い頃から色んなボールが私の周りに転がっていた

そして球技と言っても一つじゃない
団体戦でチームとして戦うものもあるし、二人でペアで戦うもの、一人だけで戦っていくものがある

一概に楽しいスポーツといえばみんなで戦う競技を思い浮かべると思う
バスケとかサッカーとかハンドボールなど…

でも、私はひとりで戦いたかった
だから個人競技を選んだ
コートにみんなで入ってみんなで得点へ繋げて行くことに不安とトラウマが植え付けられたから
責任や期待なんて言葉は苦手だった
だから、どの競技よりも人との繋がり、チームの繋がりが重要で、個人が強いよりもチームとして強い方が勝利する、バレーが最も苦手になった


苦手というか嫌いだったバレーボール
それがあの日で変わったんだ



北川第一…

「だからね?私、バレー部マネージャーはやらないって!てかもう徹くん引退でしょ?」
「だって!!入学前からマネージャーにさそってんのに、柚葵ってばお兄ちゃんに内緒でテニス部入るんだもん!!お兄ちゃんなくよ!!?」
昼休み、フ○ンタを買いに行こうと思ったところで思わぬ人物たちと出会ってしまった
及川徹と岩泉一
北川第一では言わずと知れた幼馴染コンビである
バレーボール部でセッターとアタッカーな二人は、名コンビとして活躍している
まあ、私も幼馴染である
岩ちゃんは私のお兄ちゃん的存在だからいいけど、従兄妹である徹くんがめんどくさい
非常にめんどくさい
岩ちゃんが従兄妹だったらよかったのにと何度思ったことか…

「いや、徹くんお兄ちゃんじゃないし」
「え!!?じゃあ彼氏!!?」

「黙れクソ川」
「……岩ちゃん、それ私も言われてるみたいで傷つく」
同じ苗字なのがこれまたややこしい

「すまん柚葵、許せ。お前のことは生涯名前で呼ぶから気にするな」
岩ちゃんの手が私の頭に触れた
「…いいよー岩ちゃん私のお兄ちゃんだから許すー!」
うん、岩ちゃんの手は本当に安心する手だなあ…
と思ってたらいきなり後ろへ引っ張られた

「どぅわ!!!!」
「こら、柚葵ちゃん?岩ちゃんでもそれくらいにしてないとさすがに怒るよ?」
犯人はやはり徹か
でも、なにが機嫌を損ねた原因かは分からないけど、私をちゃん付けをする徹くんはすでに怒ってる
話題を変えなければこの後の私の時間がなくなってしまう
それぐらい怒るとめんどくさい、危ない

「…徹くん、本題を忘れているようだけど…マネは無理だよ」
「…なら、引退試合来てくれる?」
「へ?」
予想外だ、またここでマネージャーになれって言われるのかと思ったんだけど…
「よくよく考えてみたら、柚葵ももうテニス部エース的になってるし」
いや、それ分かってるんだったらしつこく誘わないでいただきたかった
「考えてみれば、もう俺も引退だし……マネージャーは高校でしてもらうとして」
「いや、諦めてなかったんかい」
「……」
やってしまった
機嫌治りそうだったのに心の声が思わず!
なんか後ろに魔王が見える気がするよ!?

「みみみ、観に行く!観に行くから!!徹くんのこと応援しに行くね!!」
「やったー!約束だよー柚葵!!席は取らせておくからね!!」
「誰にとらせる気だよ」
それだけ言うと徹くんは走って行ってしまった
あれ?魔王消えた??

てか
「何時にどこよ」
「あいつバカだからな。これに書いてある」
そういって岩ちゃんはプリントを渡してきた
「…日にち的に日曜日しかいけないんじゃないかな……決勝にしか行けないんじゃないかな私」
「決勝まで残るって意気込みだ。そこんとこ分かってやってくれ。おれも待ってるからな。んじゃ、日曜日な」
決勝まで残れるのかと思うけど、徹くんなら行けそうな気がする

何着ていこうかな



正直言ってバレーをちゃんと向き合っていなかったのかもしれない
そういえば、バスケやサッカーもあまりちゃんと見てなかった
協力することに怯えていた
お前が必要、お前がいないと勝てない…そんな言葉に押し潰され、お前じゃないお前を求めてないって言われるのが怖かった
団体が怖かっただけで向き合っていなかった

確かに最近、個人で戦うことにも寂しさが芽生えていた
けど、もちろんテニスは好きだし、コートを自由に駆け抜けれるし、なにより自分のやりたいことが思いのままだ
だけど、そこでミスをしたら終わり
誰も助けてくれない助けれない


けど、バレーはテニスと違う

コートを同じ仲間が

一緒に守ってるんだ…



「……………すごい」
自分が想像していたのとそれは、はるかに違っていた
両手がびしょびしょだ
「(こんなにワクワクして汗かくのいつぶりだろうか)」
久しぶりの感覚に心がざわついた
徹くんもすごく楽しそうだ
あぁ、これがバレーか
これが皆を虜にしたスポーツか
なんだ
なんだ


「ばかはわたしか」
責任もなにもかも恐れていた自分がバカでカッコ悪くてなにもかも………大馬鹿者で
試合を見なくてはいけないのに泣きそうな顔を下に向けるのに精一杯だった
でも、ひとつだけ確かなことはある
こんなに心が動かされたけれど、私はあのコートには立つことは出来ないのだ
立つことを許されない
一度、逃げてしまっているから


「徹くん、お疲れ様」
試合が終って寂しそうに、悔しそうに一直線でこちらに来る従兄妹
惜しくも敗れた徹くんにタオルを渡しながら声をかける
「……徹くんは!」
「!」
「高校に入っても、どんな相手だろうとそのままの徹くんでいてね」
自分でも何を言っているのか分からないけど、どうしても伝えたかった
徹くんが私にとってはすごく眩しいよって事を

「うん、ありがとう柚葵」
その時の徹くんの笑顔を私は忘れないと思う

そんな私の中学時代
中途半端のままじゃ終われない…いままで培ってきたものを出しきったテニス
部活を引退し、そのままテニスを続ける気はなかった私は勉強を始めた
普通の強化は勿論、バレーボールや身体のことなど沢山習得した

中学を卒業した私は、徹くんに内緒で烏野高校に入学した
青葉城西でもよかったけど、なんだか反抗してみたくなった
眩しい徹くんに別の場所で追いつきたかった
このまま二人にすがり付く私ではいたくなかった
確かに寂しい思いもある
けど、後悔してない
だって
いまの私のいる場所は


「烏野高校バレー部のマネージャーの及川柚葵です」

ここなのだから

刻が始まる
やりたいこととやるべきこと

いっつも振り回されてたから
今度は私の番だよ




back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -