Agapanthus




第2回戦、伊達工業との試合が
『お願いしァース!!』
今 始まる
「伊達工コールさっそく響いてますね」
「ええ、完全にアウェー状態ね」
潔子さんも感じていたらしい
ミーティングの声が聞こえにくい
あの烏養くんの声でさえも
そんな中、孝支先輩がみんなにアドバイスしているけど、その声もこちらにはあまり届かない
聞こえにくいけど一生懸命さは分かるからいつも以上に見てしまう自分がいる
「"鉄壁"を切り崩してやれ」
「烏野ファイッ」
『オォッス!』
その気合の声はコールに負けないくらい大きな声で叫んでいた
この調子で試合に挑めばきっといける

「最初の攻撃、翔ちゃんうまくかわしましたね」
「うん、といっても精一杯って感じだけど」
最初の一球目はレシーブ
大地さんが綺麗に返して飛雄は翔ちゃんへふんわりとしたトスをあげた
いわゆる変人ではなく普通の
相手のブロックは当然のように翔ちゃんのところへ飛んできた
なんとか翔ちゃんはブロックをかわして得点したけど、多分今度は捕まる
「はああ!向こうのブロック一歩遅れたと思ったんですけどねぇえ!あれがリードブロックですか…?トスを見てから飛ぶっていう…」
「おう。今までの対戦校は"コミットブロック"つうトスをある程度予測して跳ぶ、ブロックが多かったけど、伊達工は徹底したリードブロック。トスがどこに上がるか見てから飛ぶってことは、囮にはなかなか引っ掛かってくれないつーことだ。その分一歩出遅れるって事だけど、あの7番、それを一気に詰めてきやがる…デカイ上に速ぇ」
「こっ恐いですね…」
リスクはあるにしても、経験を積んでる伊達工の一番の武器
この武器にうちのエースはあの時やられた
「行け!殺人サーブ!」
次は飛雄のサーブ
相変わらずコントロールが下手くそらしく、私にコツを教えてと聞いてきたけど、私も私で無意識のうちに狙ってるからコツがわからない
と言ったら、みんなにすごい目で見られた
でも、それもコントロールできてないのと同じに思えるから下手なんだよなぁ
そしてそのコントロールができてない殺人サーブは、相手のリベロの元へといってしまった
あ、飛雄悔しそう
「スマンカバー!龍頼む!!」
「よっしゃ!」
「バック!!」
「!」
伊達工の攻撃をしのんだ烏野は、体制が崩れたけど、旭さんが自らトスを呼んだ
「旭さん!」
龍のトスで打った旭さんだったけど
「くそっ…!」
相手のブロックに捕まってしまった
「しょうがねぇしょうがねぇ!切り替えろ!」
「旭さんすんません!次は拾います!」
「おう、頼む。でも次は決める!!」
「旭さん……」
どうやら夕と旭さんは吹っ切れてるようで安心した

それから両者共に一歩も譲らない形で試合が進んでいく
でも、今ギリギリブロックを逃れてる烏野は、連続でブロックに捕まってしまえば一気に流れを伊達工に持っていかれる
最強で最速の防御の攻撃、ブロック
そんな中、ついに翔ちゃんの普通の速攻が止められてしまった
「ああ!捕まった」
「大丈夫だよ」
「え?」
山口くんが何やら不安そうだったけど、それについては大丈夫だ
「飛雄のあの顔は、変人コンビで行く時の自信のある顔。あの変人トス&スパイクが久々に復活する」
「!」
「だべー」
山口くんの隣にいた孝支先輩も笑顔を浮かべながら2人を見た
「田中!」
「よっしゃ!」
「ナイスレシーブ!」
龍の返したレシーブは綺麗に飛雄のところへ返った
その瞬間、ボールは直ぐに翔ちゃんのスパイクにより、伊達工のコートへと落ちた
静まり返るコート
変人コンビの速攻攻撃が始まる
『なんだ今のオオォ!!!?』
「っしゃあああ!!!」
「っシ!!」
気持ちよさそうだなぁ翔ちゃん
なかなか気持ちよく最近打ってないもんなぁ
飛雄も飛雄で嬉しそう!
あれ?徹くんが烏野を…飛雄をみてる
あー、あの顔はいいように思ってない顔だなぁ
ん?こっち見た?なになに?
き ょ う も か わ い い ね ?
こんなところでそんなこと言ってウインクするの本当に辞めてほしい
試合に集中しなきゃいけないのに、なんて余裕なのだ
勝たねばならぬと某テニス名門校の常勝チームの副主将のようにピリピリさせてるのに!
「ん?柚葵どうかした?」
「あ、いえ…ちょっとムズ痒いだけです」
「?」
不思議そうに私を見た孝支先輩には悪いけど、そう返す他なかった
そうこうしてるうちに、飛雄とツッキーに何かあったらしく龍が止めに入っていた
おお、大地さん怖い

その後も順調に烏野ペースで試合が進んだ
とってとられての繰り返し一進一退だ
でも、飛雄と翔ちゃんの変人コンビのコンビネーションが使われれば、離される点数差
流石の伊達工も対処方法を考えるべく、一回目のタイムアウトを取ってきた
「柚葵」
「はい!潔子さん」
「柚葵、手伝うべ」
いつも通り潔子さんがタオルを
私と孝支先輩がボトルを持ってみんなに配る
「翔ちゃんナイスだね!」
「あっあザース!!」
翔ちゃんに声をかけると嬉しそうにお辞儀をしてきた
うん、かわいい
「飛雄もナイス!ただサーブのコントロールが……ね?」
「それをいうならサーブトスのコツ教えてくださいよ」
「いやー…無理でしょ」
「……」
なんだかすごい目で見られるけど気にしない気にしない
そして、タイムアウトがあけた
なんだか伊達工の人達の目が翔ちゃんに向いてる
ということは
翔ちゃんが光っているということ
翔ちゃんが光れば光るほどこちらの思い通り
相手のブロックは目がくらみ、エースや他の皆がマークされにくい
最強の囮
文字通りになってきた
思った通り、ブロックが翔ちゃんについてきた
そうなってくると龍も旭さんも決めやすくなり、とうとう16-13となった
けど、よろこんでる場合でもなさそうで
「7番くんが翔ちゃんについてきましたね」
「うん、あの変人トス&スパイクに触れた」
「トスくれーっ」
翔ちゃんがそう叫んだ
と言うことは普通の速攻
「!」
「あっ!」
相手のブロックは翔ちゃんの飛ぶ前に飛んだ
けど、翔ちゃんの普通の速攻にはそれは効かない
珍しくリードブロックではなくコミットブロックをしてきた伊達工
よっぽど変人コンビの速攻を警戒してるのがわかる
このままの烏野ペースで
ここで一気に
「呑まれない!!こっちの攻撃だってちゃんと決まってる!確かにあの10番にはびっくりしたけど、お前達は今まで色んなスパイカーをねじ伏せて来た!烏野のエースもだ!今回だって止めてやろう!」
……離せるかと思ったけど一筋縄では行かないようだなぁ
「旭さん!」
「ナイスレシーブ!」
翔ちゃんがブロックを躱したと思ったら、飛んでいた7番は直ぐに着地しもう一度翔ちゃん目掛けて飛んだ
「!!」
「おおおっ」
「しゃあああっ」
そして、とうとう変人速攻が止められた
「うわああ!2回飛んだ…!あんなに大きいと少しのジャンプでも、ネットから手が出てしまうんですね…」
「…身長に加えて腕の長さと肩幅の広さも強力な武器だ…でも、体格だけじゃない。視野の狭くならない冷静さと"絶対に止める"という執念。両方を併せ持ってるからこそのブロックだ」
このブロックの重要さは私でもわかる
変人速攻が止められたということは、このままズルズルといってしまえば、伊達工が波に乗っていまい、一気に伊達工の流れになる
「………………」
「落ち着いて切ってこー!!」
『一本!』
隣にいた孝支先輩が叫んだ
その叫びは旭さんと被っていて…
孝支先輩も一緒に戦ってる……
「!」
伊達工のサーブは弱まることを知らず、思いっきり来た
それをレシーブしたのは大地さんだけど、あの大地さんが珍しくレシーブを乱した
「スマンカバー!!」
「龍!」
「オーライ」
「センター!!」
翔ちゃんがトスを呼ぶ
「日向頼んだ!」
「ハイ!!」
「少しネットに近い…!翔ちゃん!」
なんとかネットに近かったボールを打ったけど、ブロックにつかまった
「!!」
けどそこには
「!?夕!!」
『西谷ァァァ!!』
既にボールの落ちる場所に夕がいた
かっこよすぎる
孝支先輩も思わず目を輝かせて叫んでる
翔ちゃんは翔ちゃんでもう戻って次の体制に入ってる
「影山!!」
「ハイ!」
大地さん、龍、翔ちゃんが一斉に飛び出す
「持って来ォォい!!」
そう叫ぶ翔ちゃんに
「10番!!!」
ブロックが付き、一緒に跳ぶ
エースの前の道を開くそれは囮
後ろには旭さんがいて
ブロックもなく、伊達工のコートにボールは跳ねた
「よァっ」
『しゃあああ!!!』
「やったぁあ!」
私も思わず立ち上がり叫んだ
横にいた孝支先輩も両腕をあげて喜んでる
潔子さんは何故か拍手しててなんだかお祭り騒ぎだった
けど、はしゃいでいた孝支先輩が一気に静かに立たずんでいたのをみて、孝支先輩を見つめていると
「………っし…!!」
「………」
なにか噛み締めたように拳を握り締めて小さく叫んだ
その瞬間、私の中になんとも言えない思いが心の中、身体中をかけ巡った
きっときっと孝支先輩が一番嬉しくて一番悔しいはずだ
この瞬間を誰より待ち遠しくて、誰より成し遂げたかったはず
そう思うと泣きそうになるけど、私が泣いたって変わらない
烏野が勝ててるんだし、ここで泣いたら不思議に思われるのは目に見えてる
それに、孝支先輩が泣いてないのに私が泣いてたらおかしいし
けど、もどかしいこの気持ちをどうすればいい?
「柚葵」
「!」
「今は試合に集中。後でその事は解決すればいいんじゃないかな」
「………潔子さん、私口に出してました?」
「ううん、でも、柚葵の顔みてたらなんとなくわかる」
「え、」
「だって、大切な後輩だもの」
「潔子さん…!」
貴女にどこまでもついて行きたいです
「さあ、こっちの手持ちの武器はこれで全部晒した。こっからが正念場だぞ」
潔子さんのおかげでもやもやともどかしい気持ちも消え、試合に集中できそう
そうだ、私は皆が勝てるようにサポートしていかないといけないんだ
その事を忘れて私情を優先させようとしていた自分が恥ずかしい
もう大丈夫
烏野バレー部マネージャー
及川柚葵
応援に専念します

このままとってとられての繰り返しだと、順調に1セット目がとれる
けど、突き放すには
「ふぐっ」
小さい雛カラスの頑張りが必要となる
ワンタッチをとった翔ちゃんは、素早く走り出す
「カウンタァァァァ!!!」
「チャンスボール!」
変人速攻が決まったけど、喜ぶに喜べない状況になってきた
「ナイス日向!」
「わああ…日向君達のあの早い速攻に、ブロックが2枚もついて来たの初めてですね…」
「影山ナイストス!」
「あぁ…すげぇな…」
このままだと翔ちゃんの武器が完全に止められてしまうまで、時間の問題のようだ
そして、セットポイント
相手の強烈なスパイクを大地さんが繋ぎ
翔ちゃんが跳んで囮になり
後ろから旭さんのバックアタックが決まる
『うおおっしゃああ』
烏野が1セットをとった

コート交換に入る
と共に潔子さんといつものように皆に配り歩く
みんなすごい汗だ
「ーーという事で2セット目はローテーションを2つ回してスタートだ」
「!」
「?」
武ちゃんは分かってないようだけど、これが試合を決める大きな決め手になると思う
「1セット目は日向とあの"眉無し"の7番ががっつりマッチアップするローテだったから、そこをローテ2つ分ズラしてスタートする」
「おお…なるほど…!そうすれば日向君は1セット目程、あの7番君にピッタリマークされることがないってことですね!」
「まあ、伊達工が1セット目と変えずにくる事前提でだけどな。でも全く当たらないワケじゃない。いくらか分散させるって感じだな。それに日向をマークしなくなった分はー当たり前だけど他の奴をマークするってことだ」
『………………』
「…日向に頼ってばかりもいられないです。日向が活きててこそ俺達も活きる。ちゃんと"エース"らしい働きしてみせます」
『おお…!育ったなあ旭…!』
あれ?大地さんと孝支先輩が旭さんの両親にみえる
「親戚か」
うん、流石の旭さんもつっこんだなぁ
「おれも…!あっおれは…!!旭さんみたいにバックアタックとかできないから、前に居る間に沢山点取ります!そんで"最強の囮"やります!!」
「おう、頼んだ!こっちも任せろ!」
「あっそれとなァ、伊達工のブロッカーん中でとくにあの7番が、凄いってだけで他の連中も十分ヤバイ奴ばっかだかんな。忘れんなよ」
『オス!!』

その直後2セット目開始の笛の音が鳴り響く
やはり両者一歩も譲らぬ展開
だけど
「!」
翔ちゃんの囮に引っかかっていた7番が、旭さんのスパイクについてきた
早い、そして判断が的確
翔ちゃんがベンチに下がってきてからも両者一歩も譲らず4-4
ここで翔ちゃんが前衛へと戻る
今のローテーションだと7番がいないから変人速攻を使えるチャンス
「上がったナイス!影山カバー!」
「持って来ォォい!」
今のところ、変人速攻は慣れなければ触ることができない
またも点をたたきだした翔ちゃんと飛雄
「ガンガン行くぞ!!」
「オア!!」
そんな2人に感化され、相手のブロックが翔ちゃんに集中してきた
それを最強の囮というのなら、翔ちゃんは十分に活躍している
そのおかげで、旭さんも龍も点を稼げている
そんななか、伊達工がタイムアウトをとってきた
「相手の監督……」
「相当焦ってきてますね」
「だべ」
「顔に似合わずですけど」
「……柚葵意外と毒舌?」
「…ツッキーほどじゃないですよー」
こんな短い時間でも孝支先輩と喋っている時は心が落ち着く
特に面白い事とか言ってるわけじゃないけど
「二口さんナイッサ!」
「うおっスマン影山カバー!」
「オーライ」
タイムアウトがあけた一球目
この一球がいつも怖く感じる
アドバイスがどう生かされてくるか……
敵も味方も同じ事
「オープン!!」
「東峰さん!」
エースがトスを呼んだ
ちゃんといいところにボールはきたと思うけど
「!?」
「ああ!!」
7番の策略により阻まれてしまった
このプレッシャー
期待
責任感
押しつぶされてしまいそうなくらいのこの感じ
私の嫌いなこの感覚
横目で孝支先輩をみると、旭さんを心配そうに見ている
また、あの出来事が繰り返されるんじゃないかと不安になるけど
きっと今の烏野なら大丈夫
いまのエースなら
きっと
凌いでくれるはず

その後も鉄壁のブロックに阻まれる
だけど、確かに伊達工のブロックに比べてブロックポイントは少ないけど、こっちにだって壁はある
止められたら止めたらいい
旭さんとツッキーにより今度は相手のスパイクを止めた
長身二人だと安心感があるな
そして、鉄壁の要である7番が後ろに下がった
ブロックはすごいけど、そのほかは翔ちゃんと同じくらいだからなんとかそこで点をとっておきたい
「っしゃあ!」
「頼んだぜ!」
夕と交替で翔ちゃんが入る
後6点取れば勝てる
翔ちゃんが前衛にいる間に決めて欲しい
最強の囮で点を
「上がった!影山カバー!」
「持って来ォォイ!!」
変人速攻が炸裂する
相手も相手で流石取り返してくる
そんな時に最強の囮の出番
翔ちゃんにブロックがついてきたけど、ボールは旭さんの元にいき凄い音がして得点していた
「ナイスキー!!」
「もう一本!あと1点でマッチポイント…!」
「…潔子さん、伊達工応援団がなんだか静かで不気味なんですけど」
「それだけ見入ってるんだと思う。柚葵もウズウズしてるしね」
「!」
「そういえば、落ち着いてると思ってたけど、身体は忙しくさせてるべ」
「な、なんで潔子さんも考支先輩私のこと見てるんです!?」
試合に集中して私なんて周り見えてないのに!!
「も、もう1点!もう1点行け…!」
「柚葵、水分補給しといてね」
「…話そらされた……」
でも、今は試合に集中
潔子さんからもらったペットボトルのキャップをあけ、スコアブックを書きながらコートを眺める
けど、この大切な時に青城の試合が気になってしまう
きっとこの時間試合が始まっているはず
徹くんのセッターで青城がどんなチームなのか今はまだ分からない
データ収集したいのは山々だけど、今は昔と違って選手と同じコートに居る
まだ、一緒に戦ってる
勝ったわけじゃない、まだ試合は続いてる
ボールが繋がってる
目の前の試合に集中できなかったらそこで終わりだ
勝つまでは私も一緒にちゃんと戦うんだ
このメンバーで
「フザけんな!!"鉄壁"は俺達全員で!!」
「!」
「鉄壁だ!!」
その言葉通り警戒していた7番だけでなく、他のメンバーが旭さんのスパイクを止めた
「くっそ…!」
『伊達工!伊達工!』
「……またうるさくなった」
「この空気にのまれないといいですけど……」
「スマン!」
「次一本!」
「あっ…!ここであの7番君が前衛のターン…!」
「大丈夫だ、まだ変人速攻は効く」
けど、時間の問題……だと思う
現にいま変人速攻したけど、7番は着いてきたし、ブロックを吸い込んだけど触ってきた
そのおかげでこちらのマッチポイント
でも翔ちゃんは後衛に下がる
ということは、変人速攻は使えない
「日向ナイッサ」
「アウトアウト!」
翔ちゃんが打ったサーブはアウトになってしまった
「!!…スッスミマセン!スミマセン…!」
「気にすんな!」
「日向ボゲへたくそボゲェ!」
「ヤメロバカ」
飛雄がなんだか騒いでるけど龍が止めてくれたみたいで、ちゃんと先輩してる
「一瞬反省したら後は引き摺らなくて良し!」
「ハ…ハイッ…!」
「次次!」
「ドンマイ!」
「翔ちゃん惜しかったよ」
「あ、あざーす!」
選手待機のところへ帰ってきた翔ちゃんに一声かける
大丈夫、このローテーションだと高い二人が前衛だからなんとかなるはず
「伊達工の7番スゴイな…」
「…うん…さっきのは止められたかと思った。でも、今前衛に旭さん居るし大丈夫」
「!」
「東峰さん!!」
「オオ!!」
「一回倒したスパイカー一人止めらんなくて"鉄壁"なんて名乗れねえ!!」
「旭さんに3枚ブロック…!!」
「旭!!」
「ふぐっ!」
「茂庭さんナイスブロック!」
「!」
旭さんのスパイクを弾いたボールは威力をなくしながら後ろへ飛んでいく
「まずい!!後ろはガラ空き」
「夕!!」
ボールが落ちる先に誰もいないと思われたところへ、夕が滑り込んでボールを繋いだ
「上がったァアア!」
「カバー頼む」
「レフト!もう一本!!」
「っ!東峰さん!」
「ナイスカバー!」
飛雄がアンダーで上げたトスがネットに向かう
「ほぼ真後ろからのトス…!打つの難しいぞ旭…!」
「!トスがネットに近い!!押し合い…!」
流石の飛雄もこのトスはうまくいかなかったようで、ネットで旭さんとブロッカーの押し合いが続いてる
「!」
けど、旭さんは押し返されボールは烏野コートへと落ちてきた
間 に 合 わ な い
誰もがそう思った
瞬間
「足っ!!?」
『足ィーーーッ!!』
夕がなんと足で反応し、ボールを上へと上げた
「夕ナイス!!」
夕がリベロをしたい理由……それが今まさにに行われた
「ーーー…ーなんて奴…」
「西谷ナイスフォロー!」
「!戻るの速いっ!」
「影山カバー!」
「ハイ!」
この状況、飛雄は誰を使う?
この大切な大切な1点
多分迷ってる
けど、隣の考支先輩が一歩出たことで私は確信した
きっときっと
『もう一回!!!』
みんな旭さんに託すんだ
「もう一回!!!」
『"決まるまで"だ!!!』
考支先輩と旭さんの声が被る
その瞬間にとてつもなく目が熱くなった
エースが考支先輩が
一緒に戦ってる…!!
「!」
「飛雄!!」
飛雄はネットから少し離した高めのトスを上げた
旭さんの得意な
「あれっ……」
「いいんだ」
「えっ」
「これが今のベストだ先生」
「行け!旭!!行け!!!」
「ブチ抜け旭!!」
考支先輩と大地さんに背中を押された旭さんは、ブロックに真っ向勝負で挑んだ
昔は止められるだけのブロック
今、そのブロックの手を弾いたスパイクは、ネットに当たり伊達工側へと吸い込んでいった
そのまま落ちるボールにくらいつく人がいたけど、ボールは地面へと落ちた
ピピーッ
試合終了
勝者 烏野高校

「オオオオオオ」
『っしゃあああ!!』
「潔子さん!!」
「ええ!」
思わず潔子さんに抱きつき、抱き返されながらこの勝利を喜んだ
最後に烏野の二人のセッターから託されたトスで、自分自身の手によってリベンジしたこの試合は大きな前進へと繋がった
『ありがとうございましたーッ』
「柚葵」
「はい」
試合がおわったら次が直ぐに始まるため場所を動かなければいけない
試合中動いていた選手と違い、試合中一応大人しく応援していただけだったから少し足が軋む
運動不足だな、これは……
「……俺はエースだけど」
「?」
「お前らはヒーローだな」
「うおおっヒーロー…!」
「いいっスねソレ!!」
片付けを終え、みんなの元へ行くと、丁度旭さんが皆にお礼を言っていた
それぞれ笑顔が溢れていて、本当に良かった
私も潔子さんと顔を合わせ笑った
「潔子さん、それ持ちますよ」
「ありがとう」
「清水、柚葵行くぞ」
「はい、大地さん」
コートから出る大地さんと考支先輩の元へと向かった
少し無言で歩くこの空気が何とも言えない
けど、そんななか考支先輩が口を開いた
「…やったな」
「ああ」
「リベンジできたな」
「……おお」
「……………」
「……………」
その言葉の意味をどう考えたらいい?
いい方に捉えていいのか、悪い方に捉えるのかわからなくて、この空気に不安になる
潔子さんも同じらしく、私の荷物を持ってる手の上に手を重ねて頷いてる
うん、多分大丈夫だ
不思議とそう思えた
「…でも、もちろん」
ほら
「自分のトスで勝てたら良かったと思うよ」
優しいだけの考支先輩じゃない
負けてなかった、負けず嫌いだった
「……………」
「わ、悪い。やっと勝ったトコなのに、今のはココだけの話でー」
「お前がまだ戦うつもりで居て」
「?」
「よかった」
「!」
「明日も試合だ、勝ち残るぞ」
「ーーー…おお」
男の会話に入るつもりもなかったけど、この二人の信頼関係に何も言えない
二人ともかっこよくて輝いて見えた

『わああっキャ〜〜〜ッ』
「!」
「!?」
そんな時、会場に合わない黄色い声援が聞こえる方へと顔を向けると、丁度通りかかったコートで
「…青葉城西の初戦か」
「しかも、徹くんのサーブ……」
「……"王者"も"ダークホース"も全部食って全国に行くのは青城だよ」
そのサーブで何点稼ぐのか、その武器でどこまで行くのか





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