Agapanthus




あ、このローテーションでクロが上がってきた…
「20cm以上の身長差で犬岡と互角以上に戦うなんて、すげーなチビちゃん」
「こらクロ悪口ダメ!」
「!」
チビちゃんとか罵るこというから怒ったら、なにか意味ありげにクロに見られた
なんだというんだ……
「チビって言う方がチビなんだぞコラァ!」
「それは違うだろ」
「……」
翔ちゃんの言葉は聞いてないのか、クロは飛雄を見つめていた
それに危機を感じたのか、飛雄は翔ちゃんを引きつけてなにか話し合っている
流石飛雄、クロの危険性に気がついた…?
「犬岡ナイッサ」
サーブレシーブがきっちりされ、飛雄のトス
翔ちゃんが何も見ず走り出した
ということは
「!」
変人速攻だ
バシッと音を立ててそれは音駒のコートに落ちた
クロは、間近でみるスピードに驚いたらしく反応できなかったようだ
珍しい…あんな顔久々に見た
「……良い判断なんじゃねえかな」
「エ?」
「今はあの3年MBには"変人速攻"の方が有効だと思う」
「経験積んで手練れのMBなら普通の速攻方が止めやすいですもんね」
「ああ、そういうことだ」
今の翔ちゃんの普通の速攻なら、クロはやすやすと止めてしまうのだろう
そう思って再びクロを見ると
「っ!」
ゾクッと身体が震えた
あれはあの笑みは、イタズラされる前にしてた表情だ
まだ反射的に反応してしまう
ってことは何かやるつもりだな……
「日向ナイッサー!」
「ナイスレシーブ!」
レシーブがきっちりセッターの研磨に返った
誰を使う?
と思った瞬間、前衛が一斉に走り出した
「!?うわあ!!何やら入り乱れて……!?」
研磨が後衛なはずだから、攻撃できる前衛は3人………
待てよ、後衛にも打てる人は1人いる
ってことは!
「前衛は囮…!!」
見事に引っかかってしまった
今のブロッカーはうちでは高さが一番あるブロック
だけど、前衛と合わせて皆が飛んでしまったため…
「バックアタック…!!」
ブロックが完全にない状態で打たれてしまった
それは翔ちゃんに向かっていき
「ホギャアッ」
「なっナイスレシーブ日向っ」
レシーブとはいい難いけど、ぶつかってレシーブしたそのボールはダイレクトに音駒へ奇跡的に返った
レシーブが研磨の頭上へと返り、また全員走り出した
「また全員来るぞ今度は誰をーー」
みんなが構え考えてる
その時クロが打ち込んだ
……久々に見た研磨とクロの速攻
「してやられた」
クロを見ながら小さく言った
その瞬間、クロがこちらを見てまたあの笑みを浮かべた
「柚葵、今からすることよく見とけよ」
「…へ?どういうーー」
「山本ナイッサー」
試合中だというのに何故か私に向かってそう叫んできた
よく見とけよって見てるんだけど、それは音駒の攻撃の時、クロをずっと見ろってことなのだろうか?
「!ヤベッスマン!」
龍がレシーブを乱し、そのボールが飛雄に返ることはなく、隣の夕の方向へ飛んだ
レシーブが乱れ、尚且つ夕がボールを上げるということは
「オープン!!」
「旭さん!!」
エースに託される
ブロックをはじき飛ばした旭さんのスパイクは、音駒のリベロに拾われてしまった
…旭さんのスパイクをきっちり返すなんてすごい
「リベロの真正面か…」
クロの動きを見ないといけないんだった
次見とけよってことはクロがなにかするってことだから
案の定、クロが動き出し飛ぼうとしている
それに合わせて旭さんとツッキーが飛んだ
「!!」
「!」
あれ?、この動きって…

ーー…
「そァッ」
「……」
「…………研磨、クロなにしてんの?」
「……一人時間差の練習らしいけど」
「一人時間差って?」
「よくぞ聞いた!」
久々にお婆ちゃん家に来た私は、クロと研磨がバレーをするって聞いたからついて行った
けど、クロと研磨の何時ものスパイク練習かと思えば、クロが何故か変な動きをし出したので、研磨に聞くと一人時間差というものらしい
どんなものかが分からなかったから研磨に聞いたのだけど、反応してきたのはクロだった

「こう、ジャンプすると見せかけて一回止まってブロックにフェイントかけてから打つ!」
「なるほど?普通はブロックが飛ぶ前にスパイカーが飛ぶけど、それを逆にしてブロックを飛ばせてからスパイカーが飛んで打つ。そうすればブロックは低い状態で打ち込める」
「そういうことだ、研磨より理解能力やっぱたけえな!」
「テレビで試合見る度、新しい技やろうとすんのやめて欲しいんだけど」
「何言ってんだ!今から沢山練習してなァ、他の奴らにできないこと俺達が一番にできるようになるんだ!」
「出来たら私にも見せて欲しいな!」
「あたりまえだ!柚葵は俺達のなかに入ってるんだからな!柚葵も練習手伝えよ!」
「!うん!」
いつも一緒にいるわけでもないのに、この地に常に居れないのにそう言ってくれるクロが大好きだった
恋愛じゃないと思う、親友として
「今使えない攻撃技だって今から沢山練習してれば、高校生くらいにはきっと、俺達の立派な必殺技のひとつになってるぜ!」
「……高校生かぁ」
「柚葵はこっちに帰ってきた時に存分に見せてやるから、そん時はぜってぇ帰ってこいよ!」
「分かった!」
「それか俺達がそっちに行くかもな!どこかわかんねーけど!」

ーー…

思い出した
これはクロの一人時間差の動き…
飛んだブロッカーをみてクロは一度止まり、フェイントと見せかけて
研磨からのトスで飛ぶ
そして、クロが放ったボールはブロックがない状態で烏野のコートへと落ちた
「クロっ」
思わず喜んでしまった
だってそれはちゃんと2人の必殺技になっていたから
ということは、私の必殺技ともなるわけで
Aクイックの直後にするあたり流石だなぁ
「言ったろ、見せてやるって」
「!」
クロと研磨はこちらを見てはいないけど、そう叫んだ
その言葉が私に向いてるのはわかってる
チラリと見てきた2人に何度も頷いてみせた
その頷きを見て、クロと研磨は満足そうに笑った
誰も気づいてないのをいいことに、私は2人にピースをしてみせた
「音駒が20点台に乗った!」
喜んでいるうちにも烏野がピンチの状態
どう動くだろう?
守りに入る?攻めに入る?
「音駒は立派な"大人ネコ"烏野は生まれたての"雛カラス"…ですか」
流石武ちゃん、例えが上手い
烏野は1年がスタメンの半数、それに加えてメンバーがこの前揃ったばかりの烏野のレベルは1だとすると、黒率いる音駒のチームのレベルは、20くらい上
雛カラスと大人ネコがしっくりくる

「ああ〜ソレ、そんな感じだ。守備力とか攻撃の多彩さでは今はどう足掻いたって勝ち目はない……今はまだーーな」
「?」
「だったらー我武者羅に食らいつくのみ!!」
「ノヤっさんナイスレシーブ!」
「ッシャア!」
夕のレーブはきっちりと返った
飛雄はだれを
「パワーとスピードでガンガン攻めろ!!」
「!」
いきなり烏養くんが叫ぶものだからびっくりして思考が停止したよ!?
ほらみんなも驚いてるし!
「力でねじ伏せろってコトだなァ!?」
「龍、顔怖い」
「なんかソレ悪役っぽい……」
「いいじゃねーか"悪役"!"カラス"っつーのも何か悪役っぽいしよォ!」
「烏養くんも顔怖い」
なぜこの2人は悪役のような怖い顔が似合うのだろうか
気にしてもないようだしなぁ
「へたくそな速攻もレシーブもそこを力技でなんとかする、粗削りで不格好な今のお前らの武器だ!!」
確かに……
「今、持ってるお前らの武器ありったけで、攻めて攻めて攻めまくれ!!!」
烏養くんの言葉で今までの空気が変わった………
烏養くんの言葉によりエンジンが再びかかった烏野
7番の子の攻撃をツッキーが見事にブロックした
「おおっし!ナイスブロック月島!!」
「ツッギーナイスー!!」
これで烏野も20点台にのった
22-20
まだどうなるかわからない
そんな時、音駒が一回目のタイムアウトをとった
「潔子さん!」
「柚葵はタオルをお願い」
「わかりました!」
試合に集中しすぎてマネージャーの仕事がおろそかになりそうになる
それくらい夢中になる試合だし……
それから怒涛に追いかけていった烏野
音駒との点差を縮めていき
「よしっ!あと1点で同点!」
「がんばれっ」
23-22
あと1点で追いつく
「落ちついて一本止めんぞ!」
「ハイッ」
その瞬間、研磨がツーアタックをしてきた
スパイクがくると構えていたものだから、夕も反応はしたけどとれず、コートに落ちた
「あぁーーっ忘れた頃にやってくるっ…!」
流石洞察力に優れた研磨
よくみてたなぁっていっつも思う
「音駒のマッチポイントだ…!」
「あと1点!!」
「焦ったりしねーのかよ…さすがは"大人ネコ"か…」
「大丈夫です!!」
「?」
「皆、まだギラギラしてますから」
武ちゃんの言った通りみんなの目はまだまだやる気だ
弱気にならないところが烏野の魅力だと思う
まだみんな諦めてない
「ナイスレシーブ!」
「同点モギ獲ったらァァ!!Aェェェ!!」
「通さねえぞオラァァ!!」
翔ちゃんはブロックのいないところへ
龍は叫びながら突っ込んでいく
それぞれ1人のブロックがついて行く
けど、飛雄は目立つ2人ではなく大地さんにトスをあげた
「っシ!!」
「っシャァア!!」
ブロックが1枚ついてきたけど、大地さんは見事に決めてくれた
24-23
ここで旭さんが前衛へ上がってきた
きっとこれが今の烏野最強のローテーション
このローテーションで逆転できるチャンスになる…
「ピンチだけど……ここで一点獲れれば…デュースですね!あっデュースっていうのはー」
「知ってますよ!2点差がつくまでは試合は続くんだよね!」
テニスでもあったデュース
時間制限がないだけに、続くといつ終わるか分からない
昔デュースでいい思いをしたことがないから、デュースっていうのは嫌いだ
プレイしてるときも見てる時も
焦りが出てくる
「ナイスレシーブ!」
最後になるかもしれない大事な一球
飛雄はその大事な場面、旭さんへとボールを託した
「行けっっ」
だけど、音駒のリベロに拾われてしまった
「ああっ拾われたっ」
「!でもーー返ってくる…!チャンスボールだ!」
ふわりとしたボールが烏野へと落ちてくる
ここは
「東峰ダイレクトだ!」
「叩け!旭!!」
そのまま叩くのが効率的!
「おおっ」
そのままダイレクトに返した旭さんだったけど、向こうのMSに拾われてしまった
けど、こちらのチャンスボール
「チャンスボォォル!!」
そのまま龍が飛雄に返し、飛雄は飛んでた翔ちゃんの手に当たるようトスを持っていった
変人速攻じゃないから、翔ちゃんの瞳は開けられており、7番の子のブロックを躱して打ち込んだ
決まったと思ったけど、リベロの人が拾いネットに当たり、それをなんとか近くに居た人が上げて、最後に床に落ちそうになったボールを研磨が勢い良く上げた
まずい、皆前に出てしまってる
「!!ヤバイ!下がれ下がれ!!」
気づいた孝支先輩も叫んだけど反応が遅かった
追いかけた龍の手にも当たらず、ボールはラインギリギリで烏野のコートへ落ちてしまった
……これが"繋ぐ"ってことなんだ
ここで笛を鳴らし試合の終わりを告げた
「…完敗…だな、うちにしてはミスも少なかったし、ウチの強力な武器はキッチリ機能してた。でも勝てなかった。あれが"個人"じゃなく"チーム"として鍛えられたチームなんだろうな」
「おいもう終わ」
「もう一回!!」
「!」
さて、終わりかなって思った瞬間、翔ちゃんが叫び出した
もう一回する元気があるとは……男子の体力おそるべし!
「おう、そのつもりだ!"もう一回"がありえるのか練習試合だからな」
そうなんだけど……ちゃんと休憩は取ってくれるよね?
みんなの体力が心配だ

ーー…

「もう一回!!」
現在3試合目が終わったところ
それはもう接戦だった
デュースにいくほどに
それを見てるこちらが疲れてるのに、翔ちゃんはまだ大丈夫なようでもう一回とせがまってる
翔ちゃん、周りを見てみよ
みんなヘタリ過ぎてて中には倒れてる人までいるんだよ!?
あれ…!なんでクロは倒れてないの!?面白くない!!
「うぬっ!?なんだなんだ!目茶苦茶動いてるだろ!?体力底なしか!」
ほら、向こうの監督までそう言ってるよ!
「コラコラコラ!だめだ!新幹線の時間があるんだ!」
「〜〜っ」
流石烏養くん…止めてくれた
新幹線の時間は前もって教えてもらってるけど、本当に新幹線までの時間がない
クロが帰りにって言ってたけどその時間があるかも微妙なところなわけで………
「また音駒とやりたいなら、公式戦だ。ー全国の舞台、沢山の観客の前で数多の感情渦巻くばしょで、ピカッピカキラッキラのでっかい体育館で"ゴミ捨て場の決戦"最高の勝負やろうや」
『ーーハイッ!』
まとまったところでそろそろ集合がかかるかな?
その前に私は音駒のチームの元へと急ぐ
「クロ!」
「っうぉ!」
「…なんで話しかけただけなのにそんなに驚くの」
「…んでもねーよ」
気のせいか音駒のチームの人達がこちらを見てニヤついてる
いったいなんだというんだ
「……まあ、いいや。ねえクロ、良かったらみんなのボトル洗って、帰りにスポドリで良かったら用意しとくけど」
「!………」
「なによ」
じーっと見つめられると黒猫に見られてるみたいで変な気分になる
しかも、珍しく目を丸めてるものだから余計に
「いや、ちゃんとマネージャーしてんだなーってな」
「失礼な」
「高校入って、てっきりテニスしてるって思ったのに、バレー部マネージャーしててビビった俺の気持ちがわかるか?」
「うぅ」
「そしたらすっげぇ気きかせて、んな事まで言ってくるとは俺も思わなかった」
あぁ、だからあんなに驚いたのね
失礼だわ
「選手側の気持ちも分かるからそうしてあげようって思っただけ!」
「……ふーん」
「なによ」
「いーや」
「?」
ニヤニヤしながらこちらを見つつ、だけど私を越したところをみてるクロは何を考えてるかわからない


「スガに清水、ボトル潰れてる」
「ん?あ、ごめん」
ボコッ
「さらに潰れたぁあ!?」
「旭うるさい」
「…スミマセン」
「…あの黒いの、柚葵に近づきすぎだと思う」
「あー?やっぱり?おれも思ったんだよねぇー!こっちみてなにニヤニヤしてんだろーってね」
アハハハと笑うスガは怖かった(旭談)

「潔子さんその顔も美しいっス!」
「ああ、凛々しい!!」
「……え」
俺の横でそう騒いでいた西谷と田中に思いっきり引いてた月島
俺も今日は同感だ
主将としてスガと清水を注意したが、何分聞いていないようで今は手に負えない
……早く帰って来い柚葵


「!?」
何やら背中がぞわぞわとした
烏野側からなんだけど…向きたくないな
『(なんか、向こうの主将にスッゲー見られてる)』
「と、とりあえず皆さんボトル貸して下さい…」 「あ、ありがとうございます」
「好みとかあります?濃い方がいいとか薄い方がいいとか」
「俺はー」
「クロは濃いいやつにする」
「………」
みんなそれぞれの好みを聞き、かごの中へとボトルを収める
名前も聞いたしメモったしバッチリだ
「帰るまでには渡せよ」
「わかってるわ!」
戻るときにクロにそんなことを言われたから、意地になって素で叫んだ

「あの人たちとは壁はないんだ…」
それを聞いて潔子さんが悲しい顔をしているのも知らず
ーー…

「っくしゅん!」
「へくちっ」
ボトルを洗ってる最中の私と潔子さんは同時にくしゃみをした
おお!なんたる運命!
「潔子さん!くしゃみまでかわいいなんて!」
「柚葵もかわいかった」
「えへー」
潔子さんが頭を撫でてくれるの久々だなぁ…と思いつつ、その手に身を任せた


『友よ!また会おう!!!!』
うん、暑苦しい
みんなそれぞれ音駒と打ち解けたらしく、チラホラと話してるところをみる
けど、龍と山本くんは異常で、涙と鼻水を垂らしなら握手を交わしていた
うん、暑苦しい
クロも気にしていないらしく、携帯を眺めてる
そんな彼らを見つつ、機嫌が悪い孝支先輩と夜久さんの側に居させられる私
なぜかって?主将命令だ
「次は負けません!」
「次も負けません!」
うわぁ……大地さんもクロもすっごく笑顔だけどすっごく怖い
なぜか時折2人が私を見ながら笑顔浮かべてくるから本当に怖い
ぎちぎち音たってるよ手から
『恐い恐い恐いから!』
孝支先輩と夜久さんがはもって注意した
「次、戦る時は今日みたいに行かねえかんな」
「ああ、そうしてくれないと練習になんないからな」
指導者同士も笑顔で争ってる
「こっちもか!」
「大人げない!!」
夜久さん……同感です

「挨拶!!」
『ありがとうございましたーーっ!!!』
「柚葵!」
「あ、クロ」
「話す時間はねえけど、連絡先くらいは教えろよな」
「……あれ?」
「あ?」
「研磨から聞いてない?」
「……は?」
「研磨に大分前に教えたはずだけど……?」
「…………はぁ!!?」
あれ?携帯買った年に研磨には連絡先は渡したはずだ
逆になんでクロが知らないのかが疑問だ
「研磨!どういうことだ?」
「だってクロ聞いてこなかった」
「聞いてこなかったじゃねえよ!!ただでさえ柚葵の消息も分かんなかったのにお前らはこそこそと!」
「消息って………」
心配症だなぁクロは
「ってか、そろそろ本当に遅れちゃうよ?……はい、これ番号だから」
「…おう。………また電話するわ…」
「はいはい、バイバイまたね」
「ああ」
そして長かった1日が終わり、音駒は帰っていった
うちから持ってきたもの等々、大荷物を持って皆で合宿所に戻る
「ーー今日のが公式戦だったら、1試合目負けたあの瞬間に、終わるんだ、ぜんぶ」
「……………知ってる」
「ーそーだわかってんじゃねーか。そんでその公式戦…IH予選はすぐ目の前だ。さっさと戻んぞ、今日の練習試合の反省と分析と、そんで練習だ」
あれ?この流れって烏養くんコーチ続行??
『あス!!!』



合宿が終わり、通常の日常が戻ってきた
今日も今日とて暑い
合宿が終わった後、武ちゃんに聞いた話、烏養くんはコーチを続行するということだったから、今も体育館が熱気で包まれている
うん、暑いよ皆
「ブロックフォローちゃんと入れ!見てんじゃねーぞ!"これが最後の一球!"常にそう思って喰らいつけ!!そうじゃなきゃ今、疎かにした一球が試合で泣く一球になるぞ!!」
もう、IH予選は来月6月2日から
宮城はチーム数が少ないからいきなり県大会
羨ましい、テニスは地区予選あったのに…
でも、全国へ行けるのは1チームのみ
一回負けたら道が途絶えるトーナメント式だ
多分、みんなの心は全国に行って音駒との再戦で燃えてるんだろうけど……
「烏養くん烏養くん」
「ああ?」
練習終わりに烏養くんにドリンクを差し出したら、すごい勢いで飲み干した
そんな烏養くんに実際のところ聞いてみる
「なんでコーチ続行しようと思ったの?」
「!」
「あんなに音駒との試合が終わるまでだー!って言ってたのに」
「……あいつらと全国行きてえって思っちまったんだよ、悪いか!?」
なんだか、照れくさそうにいう烏養くんが可愛くて笑いそうになる
「ぜーんぜん!…これからもよろしくお願いします、烏養コーチ」
「……お前にそう言われると気持ち悪い」
「…ほっんとに分かってないわ!烏養くん!」
「そっちの方がしっかりくるな」
「もー」
人がせっかく新たに呼んであげようとおもったのに……
まあ、烏養くんがそのままでいいならこのままにしておこう
そんな時、みんなのいるところから嫌な学校の名前が聞こえてきた
「コラコラ白鳥沢だけが強敵じゃねーぞ」
おおっと、やっぱりそこの話題だったんだ
あれ?なにやら翔ちゃんがなにか持ってる……
あ、あれ徹くんが載ってなかったバリボーだ
載ってないからってイジけて電話してくるんだもん、ほんと迷惑
「守りと連携に優れた"和久谷南"高さはそれ程でもないが、レシーブでとにかく拾って繋ぐ」
あ、烏養くんポケットから紙取り出して喋ってる……
「去年から主力だった中島猛が3年になって、チームの完成度が一段とましてる。ーあとは…今言った"和久南"とは別のタイプで守りの堅いチーム……"鉄壁"の一言に尽きるー"伊達工業"」
「!…………」
その言葉に反応したのはきっと旭さんだけじゃない
私も、潔子さんも反応した
旭さんの部活に来れなくなったトラウマなのだから
「どこよりも高いブロックを誇るチームだ。伊達工には柚葵に聞いたが、今年の3月の県民大で2-0で負けてるな」
みんなの顔色が変わった
特に孝支先輩と旭さんと夕

「伊達工は本来ならベスト4レベルのチームだが、去年は3回戦で優勝校の白鳥沢と当たってベスト16で終わってる。だから今年はシードじゃない…つまり」
「組合わせによっては1回戦で当たることも無きにしもあらずだ。この伊達工の入る区画は強豪が2校入ることになる。間違いなくそこは激戦区だな」
「…………」
ちょっとみんなの顔に焦りが見えてきた
「そんで次…ああ…こことは一回やってるか…セッターながら攻撃力でもチーム1」
ん?なんだか嫌な予感
「勿論セッターとしても優秀」
飛雄がチラチラとこちらを見てくる
あ、やっぱりあいつか
「恐らく総合力では県内トップ選手のー…」
「及川徹率いる青葉城西でしょ」
「ああ、確か………お前の兄貴がいるところだな」
「従兄妹です、ホントの兄だったら嫌ですから」
『(どれだけ嫌われてんだあの人)』
「青城は去年のベスト4だな。あとは言わずもがなー超高校級エース牛島若利擁する、王者白鳥沢」
牛島若利…徹くんがどうしても倒したい相手だ
「ま、こんな感じか。詳しいことはまたその内な」
『(烏養さんズボラっぽいのにちゃんと調べて…!ズボラっぽいのに…)』
「…………お前等今何か失礼な事考えてねえか」
烏養くんが孝支先輩と大地さんの方を見ていった
確かになんだか同じ抜けたような顔してる…
「そう言えば、俺と西谷が戻る前に青葉城西には勝ってるんだよな?」
「あの時は肝心の"及川徹"がほぼ居ない状態だったんだよ」
「足捻挫という馬鹿なことしてですけどね」
「そんで及川が入った途端に一気に追い詰められた」
『…………』
「お、まあこの辺が"俺的今年の4強"だ。と言ってみたものの"上"ばっか見てると、足掬われることになる。大会に出てくる以上負けに来るチームなんか居ねえ。全員勝ちに来るんだ。俺達が必死こいて練習してる間は、当然ほかの連中も必死こいて練習してる。弱小だろうが強豪だろうが、勝つつもりの奴等はな、それ忘れんなよ」
「オス」
「そんで、そいつらの誰にももう"飛べない烏"なんて呼ばせんな」
『あス!!』
烏養くんの言葉でもう一度覚悟を決めた


「ふわぁぁあ」
いけない、あくびが出てきてしまった
片付けも終わって、後は帰るだけー
「皆まだ居るー!?」
『!!』
そんな時、いきなり武ちゃんが扉を思いっきり開けたせいで、思いっきりビクついてしまった
武ちゃんもう少し静かに開けようよ……
「遅くなってゴメン!会議が長引いちゃって…それで出ました!!IH予選の組合せ!!!」
『!!』
そりゃー勢いよくあけるよね!ごめん武ちゃん…!
そーっと孝支先輩の後ろから大地さんの持っていた紙を見させてもらう
……え
「……1回戦勝てば、2回戦伊達工も勝ち上がって来れば当たりますね」
それだけじゃない……
私のピンチ
「ソレだけじゃないですよね、ウチの区画のシードに居るの青葉城西ですよ」
そう、そこが問題なわけで
なにが問題って
私のあの冗談な約束がもしかしたら………
って考えたら勝ってもらわないと困るわけで!!
「おい」
『!』
「さっき言ったこと忘れてねえよな」
「ー分かってます」
「目の前の一戦、絶対獲ります」
そうだ、まずは決戦まで戦えるように、目の前の試合を突破するのが第一!

ーー…翌日
「……あれ?」
「ん?どうしたんですか?潔子さん」
IH前に一度部室とかを掃除しておこうということになり、サーブレシーブ練習の後潔子さんと合流し、物を整理していた最中潔子さんが見慣れない物を発見した
「これって」
広げてみると、それは大きく黒い布で
真ん中に白い文字ででかでかと"飛べ"と書かれた応援幕だった
「すごい!こんなのあったんですね!!」
「うん、…これ……使えるかもしれないね」
「丁度IH前ですし、みんなを応援するのにいいですね!」
「ただ、ホコリっぽいし汚れてるみたい…」
「クリーニングに出すのはどうですか?手作業となると大作業になってしまいますし…」
「うん………あと、皆には秘密にしておきたい…」
「!」
潔子さんと私だけの秘密?
「はい!」
「それと…これと一緒に、皆に一言応援の言葉…言えるかな…」
俯いた潔子さんが今何か変わろうとしてる
あまりそう言う事が苦手だった潔子さん
そんな潔子さんが
「一言でも潔子さんから添えてもらえたら、皆きっときっと応えてくれます。心配しなくても大丈夫です」
「…柚葵は菅原に何か言わないの?」
「っえ!?」
思わぬ発言をしたので固まった私
「菅原は、柚葵の言葉を待ってる」
「えっ」
「柚葵も…自分に自信を持っていい」
「!」
潔子さんに勇気を頂いてしまった
けど、言うタイミングがなぁ
そんなこんなで、部活終わりに潔子さんと応援幕を帰りにクリーニングに出した
そこの方が元バレー部OBということもあってか、明日には仕上げてくれるらしい
という訳で、明日も必然的に潔子さんと帰ることに!
「では、私はこっちなので潔子さん気をつけて帰ってください!」
「柚葵も襲われないようにね」
「おそっ」
潔子さんはヘラっと笑って手を振り帰っていかれた
うん、どんな姿でも美しい

そして翌日の放課後
いつもなら居残り練習に付き合ってみんなと一緒に帰るけど、今日は潔子さんと練習終わった後すぐに着替えた
体育館前を通ると、丁度居残り練習が終ったみたい
「柚葵に清水〜」
「はい!」
いきなり孝支先輩が話しかけてきたので思いっきり反応した
潔子さんは平然としてたみたいだけど
「大地が肉まんオゴってくれるって言うんだけど……」
肉まん!!すっごく行きたいけど肉まんより潔子さんが大事だ!
「ゴメン…私と柚葵、やることあるから…」
「えっ」
「……なにか不満?」
「いや、柚葵と帰るなんて珍しいなって」
「あら、私だって柚葵を独占したいもの」
「!」
途中から潔子さんと孝支先輩の会話に付いていけなくなったけど、潔子さんの言葉にキュンときてしまった
惚れちゃいます……
「おつかれ」
「お、お疲れ様でした!」
「……おつかれー」
なんだか不満気な孝支先輩を残し、私達はクリーニングを取りに行った
出した前とは全然違い、すごく綺麗になった応援幕をみて、私と潔子さんは自然と笑顔になり、IH前日にお披露目しようと目のつかないところへ隠すことにした

ーIH予選 前日
「武ちゃん!」
「武田先生」
「ん?どうしたの?2人とも」
体育館前にいた武ちゃんを捕まえ、今日の練習後私と潔子さんからみんなに言いたいことがあると説明した
武ちゃんは快くOKしてくれ、なんとかタイミングをみてくれるとのこと
さすが武ちゃん!

「ー俺からは以上だ。今日はよく休めよ」
『ハイ!!』
「よし!じゃあ、これで」
「あっちょっと待って!もう一つ良いかな!?清水さんと及川さんから!」
「…………」
「はい」
「?」
「!!」
みんな何をするの?と言った表情を浮かべながら、私と潔子さんをみてきた
夕と龍は期待した目で見てるけど
「…激励とか…そういうの……得意じゃなくて……柚葵」
「はい!」
潔子さんと共に荷物を持ち、階段を上がる
潔子さんが後ろから私が持つよといってるけど、無視だ無視
「じゃあ、潔子さんはそっちですね」
「うん、柚葵はそのままで」
「なんだなんだ」
興味津々なみんなは2階に登った私達を見上げている
今がチャンス
「潔子さん!いきましょう!せーのっ」
『!?』
バサッと音を立てながら正体を現した"飛べ"と書かれた応援幕に皆驚いてる
上から見ると結構面白い

「こんなのあったんだ…!」
「掃除してたら見つけたからきれいにした」
「なかなかのものでしょー」
「うおおお!!燃えて来たァァ!!」
「さすが潔子さんに柚葵、良い仕事するっス!!」
2人がバカ喜びしてるけど、これだけじゃない
「よっしゃああ!!じゃあ気合入れてー」
夕と龍が何か言おうとしてたけど、大地さんが何か言ったらしく黙った
さすが大地さん、潔子さんがこれで終わらないと感じたのだろうか
「………が」
潔子さん後もう少し!

「がんばれ」

いただきましたぁぁあ!
ちゃんと私は録音したから勝ち組だい!!
もし夕と龍になにかあってもこれで元気づけれる!!=強気になる!=徹くんとの約束グッバイ!!
潔子さんは恥ずかしくなったらしく、私の後に隠れた
瞬間1年生以外のみんなの目から一斉に涙が出てきた
孝支先輩も大地さんもボロ泣きで、こんなの初めてみた
夕と龍は神様を間近で見たようになにも言葉を発していない
発せれないくらい感動して大人しくなっていた
収拾がつかないとツッキーが言ってるけど、その通りである
ほら、潔子さん
こんなにもみんな喜んでくれたんですよ
苦手が1つ薄まりましたか?
「1回戦絶対勝つぞ!!」
『うおおおス!!』
復活した大地さんが意気込みを新たに叫び、皆も同じように叫んだ
団体競技っていいな、とまた一つ改めて思えた


そして帰宅後
「うー緊張するなぁ」
私ができることは全部した
後は寝るだけだと思い、布団に潜り込んだ瞬間だった
〜〜♪
いやな着信音
でないと厄介なことになるのは目に見えてるので、電話にはでる
「……………なに」
「柚葵柚葵!起きてる!?」
「起きてるから出たんだけど」
「だよねー!」
「………………」
ねえ、切ってもいいかな
「いよいよ明日からだね!」
「そうだね」
「俺たちはシードだから実感わかないけど!」
「…………自慢?」
「うん!」
あ、もう切りたい
「ちなみに柚葵は組合せみた?」
「見た」
「ふっふっふー!俺たちのところまで来れるかな!?」
「絶対行くから安心して」
「ウチまでこなかったり、俺を楽しめなかったら結婚だもんねー!」
「はぁーなんか付け加えられてるけど無視していい?」
「なに!?俺は本気だかんね!?」
「はいはい」
「…………本気なんだからね」
なんだか段々と声が小さくなる徹くんが可愛く思えてきたので、今日は本当に疲れてるわ
「でも、徹くんが初戦で負けたら意味ないからね?頑張ってね」
「!」
「徹くんが負けたら私がここまでした意味ないから」
寝不足ながら睡魔と戦ってきたこの数日間の練習
私は忘れない
あのサーブレシーブ地獄を
「うん!柚葵の為に頑張るね!!」
「がんば」
「となると!早く寝ないとだね!また明日会おうね!!」
といって一方的に切られた
これは、明日会ったら一発殴ろうではないか
あと、岩ちゃんのスパイクをくらわす





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