Agapanthus




「なんで俺がここにいる?って顔してるね」
「い、いや、それはそうでしょ!?」
電話するって言ってたじゃない!?
「電話するのめんどくさくなったから来ちゃった!」
「………………」
来たちゃったじゃねえよ
「ヤメテそんな引いた顔してみるのヤメテ!!」
「あ、ごめん。本当にキモいって思ったから」
「柚葵ちゃん!!?」
「………マネージャーの件だけど」
「!」
「…先に謝るね、ごめんなさい。中学の時に何回も誘われたのに、高校で違うとこ行ってあれだけ言われて断り続けたバレー部のマネージャーして…」
「…………」
徹くんは真面目に聞いてくれてる
もう、恥ずかしいけど言った方が楽になる
「私が好きだったテニスを辞めたのも、違う高校に行ったのも、バレーが好きになったのも、全部全部徹くんがきっかけなんだよ」
「!?」
「徹くんの引退試合みて、責任とかそういうのが嫌で団体競技が苦手だった私が、バレーっていうものがすごく楽しくてすごく…絆があるものだって知った。まだ、私は団体競技で選手として立つ勇気はないけど、サポートしたいって思った」
「なら、なんで烏野に……?」
「徹くんが眩しかったから。その傍でサポートができないって思った。もちろん、徹くんに今まで振り回された分仕返ししてやろって思ったし」
「仕返しって……柚葵ひどい」
「徹くんを遠くから見守りたいって思ったそ、独り立ちしたかった」
「!」
「きっと青城行っても、徹くんにばっかり頼るし、岩ちゃんにも頼っちゃう。それじゃあ、私がダメになっちゃう。私は私のために烏野を選んだの」
「柚葵……」
「徹くんが飛雄ちゃんを潰したいのも知ってるからなんとも言えないけど、徹くんが烏野以外の相手と戦う時は全力で応援する。それは約束する。だから」
「……………」

「私から烏野バレー部を取らないで」

「…………ハァー…」
「!」
「そんなこと言われて辞めろっていえるわけないじゃん」
「じゃ、じゃあ!」
「その代わり、一回戦とか二回戦で終わるチームになったら俺は柚葵を」
「?」
「嫁に貰うから」
「……………………冗談もほどほどにしなよ?お兄ちゃん」
「!?冗談じゃないよ柚葵!俺は本気だから!」
従兄妹同士結婚出来るっちゃあ出来るけど……
徹くんの意図が見当たらない
けど
「いいよ」
「!」
「そのくらいのペナルティーがある方がやる気が上がる」
「………」
孝支先輩が好きな私が負けるわけにはいかない
「徹くんに当たってもすぐやられるようなチームにはならないように私も努力する」
「柚葵…」
「だから、徹くんも強くなって」
「………うん。分かった」
「じゃあ、この話は終わりね!ご飯食べよ!」
「そういえばさ、柚葵」
「?何?」

「この間送ってもらってた色素薄い爽やか君、柚葵の何?」

見られてた………
「先輩」
「へー…」
なんとか追求されないから、回避できたようだけど孝支先輩に目をつけちゃった……?
「ま、柚葵を変な奴から守って送ってくれるだけならいいか!」
目が笑ってないよお兄ちゃん


翌日
放課後
第二体育館

「あっ!潔子さん!!」
「柚葵」
「一緒に更衣室行きましょ!」
「ええ」
部活に行く途中、潔子さんと合流して更衣室に向かう
体育館がやけに騒がしいけど、翔ちゃんと飛雄だと思い無視して、潔子さんとおやつの話で盛り上がって通りすぎようとしたら

「潔子さぁ〜ん!!貴女に会いに来ました潔子さぁ〜ん!!!お!柚葵〜!!久しぶりだな!!相変わらず可愛いぞー!!!抱き着いていいか!!?」
『!?』
「あっ待てこんニャロッ」
「えっ夕!!?」
いきなり飛びつこうとしてきた夕こと西谷夕は、潔子さんの綺麗な平手打ちを食らった
「相変わらず嵐のようだな……柚葵に飛びつたら後ろからボールぶつけたのに」
「スガ!!?」
「なに?大地」
「あ、いや、なんでも」

「ゲリラ豪雨…」
「…………」
「ハ、ハハ…喧しいだろ!…でも、プレーはびっくりするくらいーー静か」
「柚葵、行こう」
「あ、はい!潔子さん!夕また後でね!」
「おう!」


「だからよーサッと行ってスッとやってポンだよ」
そういえば、私がいない間に色々とあったらしい
やっぱり旭さんがいない部活には来ないといったらしいが、翔ちゃんのお陰でレシーブを教えるだけという形で部に復帰するらしい
戻るわけではないとのこと
それが今なのだけど、説明が全くだ
「な?」
『?』
「…だめだ…"本能で動く系"の奴は何言ってんのかサッパリわからん」
「そうですか?俺なんとなくわかりましたけど」
「ちなみにお前がなにか説明するときも、周りは何言ってるかわかってねえからな!」
「え」
えってわかってなかったのか飛雄……
「…"リベロ"って確か特殊なポジションだよね?」
武ちゃんが眼鏡をキラリとさせながら問いかけてきた
リベロは守備専門選手でサーブ・スパイクといった攻撃ができず、ネットから高い位置の攻撃を禁じられてる
後衛の選手と入れ替わって守備を務める
レシーブが苦手な翔ちゃんとツッキーときっと入れ替わるようになる
「彼が烏野の"守護神"かあ、格好いいねえ」
「リベロの試合中の入れ替わりは普通の選手交替と違って、ちょっと説明しにくいので、実際に試合形式やる時にでも説明しますね」
「いつもすみません」
「…西谷が戻って来てくれると、本当…頼もしいです。あの小さい身体で存在感がすごく大きい。西谷が居ると安心感が違うんです」
あ、翔ちゃんボールを顔面にぶつけた
うん、そして叫ぶ夕うるさい
「少し喧しいですけどね…」
「…にしても西谷全然訛ってないなあ」
「部活謹慎中も"秘密の特訓"してたらしいっスよ。ママさんチームとかに混じって」
「日向みたいだな」
本当に好きなんだなぁ、皆バレーが
「あの…西谷さん」
「?」
「"旭さん"って誰ですか?」
「!不用意にその名を出すなっ」
「……烏野の…エースだ、一応な」
一応……ね…
「エース…!」
「?なんだよ」
「………………おれ、エースになりたいんです!」
「あ?」
「あいつまだあんな事…!」
「まあまあ、飛雄」
「何年か前の"春高"で烏野のエースの"小さな巨人"見てから、絶対ああいう風になるって思って烏野に来ました!」
「その身長でエース?」
「………」
「いいなお前!だよな!カッコイイからやりてえんだよな!いいぞいいぞなれなれエースなれ!」
「!?」
「今のエースより断然頼もしいじゃねーか!けどやっぱ"憧れ"と言えばエースかなあ」
「ハイ!エースカッコイイデス!」
「"エース"って響きがもうカッコイイもんなちくしょう!"エーススパイカー"っていう花形に比べたら、セッターとかリベロはパッと見、地味だもんな」
「…っ!」
「まあまあ」
「けどよ、試合中会場が一番"ワッ"と盛り上がるのは、どんなすげえスパイクよりスーパーレシーブが出た時だぜ」
確かに、一番感動するのはスーパーレシーブだ
繋げるって感じが一番伝わる
「高さ勝負のバレーボールで、リベロは小っちぇえ選手が生き残る唯一のポジションかもしんねえ。けど、俺はこの身長だからリベロやってるワケじゃねえ。たとえ身長が2mあったって俺はリベロをやる。スパイクが打てなくてもブロックができなくても、ボールが床に落ちさえしなければバレーボールは負けない。そんでそれが一番できるのはリベロだ」
「〜〜!〜かっカッコイイ」
リベロって守備の要だから責任感じやすいから、そのリベロを誇りに思えるくらいに自信がある夕が羨ましい
「ーーで、お前の特技は?"エース志望"」
「えっ」
「レシーブはへったくそだしな」
「うっ」
「なんかあんだろ」
「…お…………とり………」
「あ゛?鳥?」
「おっ囮…」
「?なんでそんな自信なさげに言うんだ」
「"エース!"とか"守護神!"とか"司令塔!"とかと比べて、なんかパッとしないっていうか……」
「呼び方なんて関係無えだろ」
「でも」
「お前の囮のお陰で誰かのスパイクがきまるなら、お前のポジションだって重要さは変わんねえよ。"エース"とも"守護神"とも"司令塔"ともな」
「………ハイ」
「まあ俺、お前の出てる試合見てねえし、その"囮"がショボかったら意味無えけどな!」
「……………そうだよな」
「?」
「今の烏野には"最強の囮"が居るんだよな…今まで決まらなかったスパイクでも、日向と影山のコンビが居れば、きっと決まるようになる…!」
「……うん」
「武田先生の言ってた…"化学変化"で俺達はもっと変われる気がする」
「良い方に変わるとイイけどなあ…」
「弱気やめろよ!」
孝支先輩もだんだん強気になってきてる
やっぱり諦めてなくてかっこいいや…


翌日ー…

「サッこォーい!!一本!!」
「んローリングッ」
『!?』
「サンダァァァ!!!」
うん、何故叫んだよ夕
普通の回転レシーブ…
「……あっうんナイスレシーブー!」
「普通の回転レシーブじゃねーか"サンダー"どこ行った!」
「コラー変な事叫びながら動くんじゃないよ危ないよー!」
「喋りながら動くと舌噛んじゃうよー夕ー」
「何で叫んだんですか?」
「何…今の…」
「影山・月島・山口まとめて説教してやる、屈め!いや座れ!俺の目線より下に来い!!」
「教えてローリングサンダー教えてえええ」
うん、みんな色々と言いたいことあったんだね
夕がいたらほんと今まで以上に騒がしくなって楽しくなるなぁ…
「おつかれさまーっ」
「!」
「武ちゃん…!」
「集合ーーッ」
『オース!!』

「皆、今年もやるんだよね!?」
『?』
「GW合宿!!」
「ハイ、まだまだ練習が足りないですか」
合宿……今年もあるんだ!
潔子さんと料理できる!
「それでね…」
「?」
「GW最終日、練習試合組めました!!」
『!!』
「東京の古豪"音駒高校"」
「?東京?ねこま?」
あれ?どこかで聞いたことあるような……見たことあるような………
「音駒って、あの…ずーっと烏野と因縁のライバルだったっていう……?」
「うん!確か通称ー"ネコ"」
「猫?」
「俺らも話だけはよくきいててよ、前の監督同士がずーっと昔からのライバルで、前はよくお互い遠征にいってたんだと」
「ほーっ」
「実力が近くて相性もよかったから、遠出する価値があるくらいのイイ練習試合ができたって聞くよ」
「なんでも練習試合があると、近所の人はみんな見に行ったって話ですよね?」
「そう!名勝負!"猫対烏!ゴミ捨て場の決戦!"つって」
「それ本当に名勝負だったんですか?」
「俺達もいつか戦ってみたいねってたまに皆で話してたんだ」
「おお…!」
その時に聞いたのかな?いや、でも違うところで…………うーん
「でも、ここしばらく接点なかったのにどうして今?」
「うん…詳しい事はまた後で話すけど…音駒高校っていう好敵手の存在を聞いてどうしても、"因縁の再戦"をやりたかったんだ」
「?」
「相手が音駒高校となれば…きっと"彼"も動くハズ」
彼?
「よし!せっかくの練習試合無駄にしないように、練習も合宿も気合入れんぞ!!」
『オース!!』
「東京かああ…!シティーボーイめええ、けちょんけちょんにしてやるんだぜええ…!」
「シティーボーイって」
「……大地さん」
「?」
「すみません、俺、練習試合出ません」
「…東峰が戻ってないからか」
「………………」
「……お前は東峰が"逃げた"って思って腹立ってるのかもしれないけど、西谷は西谷なんだしー…」
「…翔陽はいい奴だし」
「?」
「ほかの1年も曲者揃いだけど、面白そうな奴ばっかで、これからこのチームはなんかこう、いい感じにやって行くんだと思います。俺も…ここで練習したい…けど、試合に…俺も試合に出て…勝ったら…旭さんが居なくても勝てるって証明になるみたいで、今まで一緒に戦ってきたのに、旭さんいなくても勝てる……みたいになるの嫌です。わ、ワガママ言って…スミマセン……」
「!」
「……」
夕……
「…わかった、でも合宿は出てくれよ」
「ノヤさん!!もっかい!ローリングサンダーもっかい!!」
「な?」
「………………」
「………?」
合宿までになんとかしなきゃいけないことがいっぱいありそうだ


「そういえば夕、こっち来れない間の特訓って何してたの?」
「それ俺も思った!」
久々にこの3人での空間
他に2年はいるけど、やっぱり高校に入って部活でずっと一緒だったのは龍と夕だから、この空間が気を使わなくて済むから好きだ
「んー主にブロックフォローだな、ブロックされたボールを拾いまくる特訓!まだ、なかなか上手くできねえんだけど、ブロックフォローがちゃんとできればお前らもっと安心してスパイク打てるだろ」
だから、あちこち違うところにアザを作ってるんだ………
「ノヤっさんあんたマジカッチョイイ奴っ」
「何泣いてんだお前!?」
「うん、本当にかっこいいなぁ」
「え!!?本当か柚葵!!」
「おつかれさまーっ」
そんななか武ちゃんが体育館に来た……ら
「!集ごー…えっ!?」
「紹介します!今日からコーチをお願いする烏養君です!」
「…………」
「あれ?烏養くん」
「コっコーチ!?本当に!?ですかっ!?」
「音駒との試合までだからな」
「はぁ…」
「えっでも、坂ノ下の兄ちゃんだよな?本当にコーチ?」
「烏養くんは烏野バレー部OBだよ」
「そう、そしてあの烏養監督のお孫さんです!」
『エ゛ーッ!?』
「"坂ノ下"じゃないの!?」
翔ちゃん……私いっつも烏養くんって呼んでたんだけどなぁ
皆も聞いてなかったんだな………拗ねよう
「母方の実家の店なんだよ」
「店あけて大丈夫なの?」
「ああ、柚葵。大丈夫だ、そこんとこ問題はねえ」
「?柚葵、坂ノ下の兄ちゃんと知り合いなのか?」
「うん、ちっちゃい頃遊んでもらってたから」
「こいつ、球技系全部得意なのにテニスしちまって俺的には残念だったけどな。バレーはデータ収集はしてもらってたけど」
「バレーは団体競技なんだもん」
「えっ、柚葵バレーできるの?」
「?はい、一応できますけど……言ってませんでした?」
『聞いてない!!』
「………柚葵さん、どれだけ秘密にしてるんですか」
「いや、言ったと思ってて…そういえばバレーは言ってなかった」
「まだ柚葵に秘密ありそうだな」
大地さんはそういうけど、もうないはずだけどな………うん
「時間ねえからさっさとやるぞ!お前らがどんな感じか見てえから6時半から試合な!相手はもう呼んである!」
「えっ!?相手!?」
「烏野町内会チームだ!」


「…くっそ〜やっぱ平日のこの時間に全員は無理か……」
烏養くんがそう言った瞬間町内会チームの人達が体育館に入ってきた
「悪いなお前ら急に来てもらって!」
「いいって!おお!おまえ柚葵か!?」
「はい!」
「見ないうちにでかくなったなぁ…………」
「……柚葵って本当顔が広いよな」
「………ああ、がんばれスガ」
「町内会って言うからもっとオッさんかと思ってたのに…」
「俺もー」
「そろそろ始めるぞー!!」
『オース!!』
「………………」
「ん?なんだお前どうした」
何も反応しない夕に烏養くんは言葉を投げかけた
「あっすみませんそいつはちょっと…」
「なんだ?ワケありか?怪我か?」
「いや、そうじゃないんですが…」
「なんだよ?怪我じゃねえの?…よくわかんねえけど……じゃあ、町内会チームには入れるか?こっちのリベロは仕事で来らんないんだよ」
「あ、それなら…スミマセン…」
「あと2人か…どーすっかな……柚葵、お前入るか?」
「烏養くん、忘れたの?まだ私苦手だから絶対無理」
団体競技で一緒にすることは、まだやっぱりトラウマが晴れてないから出来ない
お遊び程度でするならまだしも試合となると
「となると、ベンチ組からか…」
「あっアサヒさんだっ!!!」
『!!』
「アサヒさんっ」
「旭さあーん!!?」
窓の格子に張り付いてる翔ちゃんは、旭さんを見つけたらしく大声を上げた
それに反応した龍と孝支先輩と夕と烏養くん
「なんだ遅刻かナメてんのかポジションどこだ!!」
「あっえっウイングスパイカー」
「人足んねんだ、さっさとアップとってこっちは入れすぐ!!すぐすぐ!!」
何も知らない烏養くんのお陰でバレー部のエースが戻ってくるかもしれない
旭さんはアップをとると、体育館に入ってきた
……………久々に空気が違う感じがする
「あとはセッターか…俺やりてえけど外から見てなきゃだしな…お前らの方から一人セッター貸してくれ」
『!………』
烏養くんの言葉で孝支先輩が動いた
「!」
「スガさん!?」
「…俺に譲るとかじゃないですよね」
「………」
「菅原さんが退いて俺が繰り上げ…みたいなのゴメンですよ」
「…俺は…影山が入って来て…正セッター争いしてやるって思う反面、どっかで……ほっとしてた気がする…セッターはチームの攻撃の"軸"だ。一番頑丈でなくちゃいけない。でも俺はトスを上げることに……ビビってた……」
「……………」
孝支先輩……
私とはまた違ったプレッシャーを感じてたんだ
「俺のトスで、またスパイカーが何度もブロックに捕まるのが恐くて、圧倒的な実力の影山の陰に隠れて…安心…してたんだ…!…スパイクがブロックに捕まる瞬間を考えると今も恐い。けど、もう一回俺にトスを上げさせてくれ、旭」
「!」
覚悟を決めた孝支先輩の顔は、すごくすごくかっこよかった
「ーーー…」
「…だから、俺はこっちに入るよ影山」
「!」
「負けないからな」
「俺もっス」
「西谷ナイスレシーブ頼むよ!」
「当然っス」
「………………」
「アサヒさん来たな!な!」
「ああとりあえずな」

いよいよ
エースに憧れていた囮と、エースとの対決が始まる
始まって早々、孝支先輩の手からボールが離れ、スパイカーの手のひらに見事に当たった
「よっ」
そして、それは綺麗にコートへと落ちた
「おーイイかんじイイかんじナイストス!」
「あ、ありがとうございますっ」
「!菅原さんの速攻っ…!」
「そらお前スガだって歴としたセッターなんだからなっ」
『(うれしそうだ……)』
大地さんは孝支先輩が褒められて自分のように嬉しがってた
私も嬉しい
最近見えなかった孝支先輩の速攻…
飛雄が入ってきてからコートに立つことが少ない孝支先輩だけど、無意識のうちに速攻を避けてるって思ったから、久々にみえて嬉しい
「スガさんナイストス!!」
「!おう!…つっても、町内会チームの人達がうまいこと合わせてくれてんだけどな。さすがベテランって感じだ。俺自身のトスはまだまだだよ…でも」
「?」
「速攻もどんどん使って強気で攻撃組み立てて行かないと、またエースに頼りきりの試合になっちまうからな」
「………………スガさんカッチョ良くなったっスねっ」
「エッそお!!?…西谷に言われるとなんか嬉しいな」
「ナイッサー!ッサァー!!」
「日向お前こっちだって」
「あいたっ」
「一本ー!!」
「行け日向!」
「うおお!?何だ!?」
「すげえ飛んだなオイ!!」
「すっげえドンピシャなトス…」
翔ちゃんのスパイクをみて烏養くんと町内会チームの人達は驚いていた
まあ、あれだけ飛んだらびっくりするよね
「ーー…」
「よっしゃーっ!!」
「うしっ!!」
「ナイス日向、影山!」
また翔ちゃんのスパイクが決まった
旭さんはまだ動かない
トスを呼ばない
私は旭さんと似てるかもしれない
"責任"という言葉に押しつぶされる私
"責任"という言葉に押しつぶされた旭さん
きっと時間をかけなきゃ立ち直れない
「ーー…」
「ナイス日向!」
「日向次サーブ!」
「…………思うよ」
「?」
「!」
「何回ブロックにぶつかっても、もう一回打ちたいと思うよ」
やっぱりエースはエースだった
あの頃の私には無理だった
押しつぶされて立ち上がることなんて

「ーー…それならいいです」
「?」
「それが聞ければ十分です」
「??」
「ナイッサー!」
「ふぅーーー…」
夕が集中している……
その小さな小さな身体で、きっと旭さんをしっかり立ち上がらそうとしている
「日向ナイッサー!」
「おっとっ」
翔ちゃんの打ったサーブはネットに当たった
「ネットインだ!」
「スマンカバー頼む!」
「オーライ!」
ネットインでレシーブが乱れた
ここで、誰を使うか……
「そこのロン毛兄ちゃんラスト頼む!」
「!!」
「!」
旭さんに託された
「ーー…」
「止めんぞ!!」
「命令しないでくんない」
「本気で行くっス旭さんっ!!」
そして、旭さんは飛んだ
だけど…鈍い音をたてたスパイクは、三枚ブロックに捕まってしまった
「ーーー…」
ブロックされたボールが落ちてしまう……
そんな時ボールの下に手が見えた
ボールは床に落ちることなく、その手に当たり上がった
「うおお!?上がった!?」
「ナイスフォローッ」
手の正体は夕だ
謹慎中、ブロックフォローを主にやっていたと聞いてたけど…!
「ノヤっさん…!!」
「夕…!!」
それをもう一度立ち上がろうとしている、エースのためにやってのけた
それを聞いていた私と龍は泣きそうになる
失礼、実際に龍は泣いてる

「もう一回トスを呼んでくれ!!エース!!!!」

夕が奇跡的に上げたボール
「カバー!!」
「オーライ!」
孝支先輩がボール元へと行く
ふつうならこの状況だと、苦しい場面だからエースにボールがいく
けど、孝支先輩はまだ迷ってる
でも、ここでエースに立ち上がってもらわないといけない
だから
「孝支先輩!」
「菅原さん!!」
「!」
飛雄も同じことを考えてるみたいだ、遠慮はしない
『もう一回!!決まるまで!!!』
見事被った
けど、孝支先輩はまだ迷ってる
足りないのだ
孝支先輩自身の自信が
嶋田さんをみた孝支先輩はそちらに出す構えをした
「!」
「嶋田さー」
「菅原アーーーーーーッ!!!」
体育館めいいっぱいに響き渡る声
エースの声
「もう一本!!!」
エースのトスを呼ぶ声
エースの
「旭…!!」
「君、向こうのチームに肩入れしてんの?悪いけどまた止めるよ?」
「当然だ、手なんか抜いたら何の意味もねえよ!」
「うおおおおお」
立ち上がった声!
「っ!?」
ガガガンッという音がしてボールは地面に叩きつけられた
三枚ブロックがある中、ブロックを打ち抜き3人をふっと飛ばしてみせた
「うひゃあ〜っすんごい音っ!!"ドゴゴ"ッて!!」
「ナイス!ナイス旭っ!西谷もっ!」
「…お前らも…ナイストス…スガ、西谷も……ナイスレシーブ」
旭さんが照れくさそうにいった瞬間
「〜〜!?」
孝支先輩の素晴らしき笑顔が拝めた
だめだ、私の顔まではにゃーっとなる
「柚葵うれしそう」
「はい!」
潔子さんもこちらを見て微笑んでくれてる
「いやぁ〜すごいっボールがブロックに当たった!って認識した時には、西谷君はもうボールの下にっ!いやぁ〜たまげますねーっブロックされたボールが拾えるなら恐いもの無しですねっ」
「何言ってんだ、あんなもん毎回拾えるわけねえだろ」
「えっ」
大抵拾おうと思ってみんな意識はもっていく
だけど、予測不可能なところから飛んでくるボールを全部拾える訳が無い
全部拾えたとしたら人間じゃないし、面白くもない
「…ただ、"ブロックされたらそこでおしまい"ってワケじゃないと、わかっている事が大事なんだ」
「?」
「後ろにはちゃんと仲間がいるのだと、わかってるかどうかで気持ちは全然違うモンさ」
「…ナルホド」
「影山と月島と田中さん3枚をフッ飛ばした…あれが…エース…!」
「おい、エース見たい見たいって言ってただろうが。ビビってんじゃねーぞ」
「びっビビってねえよ!あんな風な身長もパワーもないけど、俺だって戦える!次は俺の番だ!!」
翔ちゃんがようやくエンジンがかかったようで、後ろで飛雄が怖いけど笑ってる
変人コンビ炸裂する予感
「全然ジャンプできてないんじゃないですかっ!?一ヵ月もサボるからっっ」
「うん…スミマセン…」
「キビシーな〜西谷」
あ、孝支先輩が本当の孝支先輩に戻った
いままで何か抑えた笑顔だったけど、やっと吹っ切れた笑顔で笑ってる
夕も旭さんも
「大地さんっ」
「うん」
大地さんも龍もその様子に気がついた様で…
大地さんは3人を見つめながら見守るような目で見ていた
大地お父さんだ……
「でも…ベテランの町内会組に加えて旭も復活ってなると、いよいよ俺達が厳しいぞ」
そう言う大地さんは嬉しそうだ
やる気に満ち溢れてる烏野チームは、龍と翔ちゃんのコントでなんだか楽しそうだ
そして試合は再開し、町内会チームのサーブで乱れた烏野チーム
飛雄は落下点まですぐに行き、トスを上げる体制に入った
方や翔ちゃんはボールを見ずに猛ダッシュをしている
これは、来るな
『!?』
変人トス&スパイク
「ナーイス日向、影山!」
「………」
案の定見たことがない人達の開いた口が塞がってない
烏養くんでさえ、開いた口が機能してない
いつもの叫びはどこへやら

「スゲーじゃねぇか翔陽!なんだなんだ!うっかり見入っちゃったぞ!」
「えへへ」
「ウォい!!!」
「!?」
ようやく烏養くんの口が機能したらしい
いきなり大声出すもんだから、翔ちゃんも私も肩を揺らした
「??」
「今なんでそこに跳んでた!?ちんちくりん!!」
「ちんっ…」
ちんちくりんは無いんじゃないかな
まだオレンジ頭くんっていったほうがいいよ
「どっ…どこにいてもトスが来るから…です」
「!!ーー…なんだお前ら変人か!!」
『変人……?』
「なんで?」
「知るか」
意味がわかってない変人コンビがかわいすぎて笑いが止まらない
そして試合は進んでいく
久々の孝支先輩と旭さんのコンビは、一ヵ月ぶりでもタイミングもバッチリで安定感がある
孝支先輩も旭さんもスッキリした顔でいい笑顔をしてる
この孝支先輩の笑顔がたまらなく好き
バレーボールをしている時の顔が大好き
「胸が苦しい……」
「柚葵?大丈夫?」
得点をめくりなから潔子さんは私を心配してくれてる
大丈夫ですと返して試合に向き合う
やっぱりこの瞬間このメンバーが大好きであり
大切である
「夏までなんて言わずに永遠に続けばいいのに……」
私の声は誰にも聞こえないだろう
みんな翔ちゃんが旭さんのスパイクをブロックしようとして出来なかったのを励ましてるから
そして、町内会チームが1セットをとったから

でも、どうしても言わないわけにもいかなかった
長く長くもう少し長くと願うほど
「エースすっげえな!ブロック居ても居なくても、あんな風にぶち抜けるなら関係ないもんな!」
「…………」
「?なんだよ……」
「べつに」
「?」
私が思いフケていた時に変人コンビに何かがあったらしい
試合に集中しておけばよかった
「時間押してるからすぐ2セット目始めよう!」
『オース!!』
すぐ第2セットは始まった
取って取られての攻防戦
「旭!!」
孝支先輩のトスが綺麗に旭さんに上がった
ブロックはたったの2枚……
ブロックは打ち抜かれるとしてレシーブが…
「翔ちゃんっ!」
「!?日向!?」
「えっ」
スパイクが打たれる方向であるところにいる翔ちゃんが意識がここにあらずと言ったような表情をしており、ボールを全く見ていない
それに気がついた私と大地さんが叫んだのだけど
バガァン!!と派手な音が響いた
「!?ばっ…」
「うわぁぁあぁ!?」
「ギャーッ」
一足遅かった
「日向!!」
エースのスパイクをもろ
顔面で受け止めた翔ちゃんはその場で倒れたのだった






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