Agapanthus

「第２セット始めます！！」
ギャラリーが集まり出したところで、第２セットが始まった
「おい！後で後頭部狙うサーブ教えて！」
「あっ僕にも教えてね〜」
「くーーっ」
相変わらずいい性格してるわー
「縁下ナイッサ！」
力からのサーブで試合は始まり、青城のスパイクをツッキーがレシーブしたのだけど乱れてしまった
素早くそれをカバーしに行く飛雄
勢い良くネットへ飛び出した翔ちゃん
これは変人速攻かな？
と思った瞬間
「………？」
「あれ…？」
飛雄のトスが翔ちゃんの手に当たることはなかった
「日向！」
飛雄に呼ばれた翔ちゃんは思いっきり肩を揺らした
「悪い、今のトス少し高かった」
「！？」
「！」
飛雄がちゃんと謝った
それを見た青城側からは驚きの声が聞こえる
多分同級生達だろう
飛雄はあの頃から変わったんだよ
「許してやらなくもない！」
「……………」
「！！いだっいだだっ痛いっ」
……調子に乗った翔ちゃんの頭を鷲掴みするのはどうかとは思うけど…
「一本！」
「ナイッサァー！」
「縁下頼む！」
「オーライ正面だ任せろ！」
「ナイスレシーブ！」
今度は力くんがレシーブし、ボールは飛雄のところまで返った
何やら孝支先輩が考えているけど、おそらくサーブの威力のことで考えてるんだと思う
青城、徹くんのおかげでサーブも強烈って言われてるっぽいし
「持って来ォーい！！」
翔ちゃんと龍が同時に走り出す
飛雄は変人速攻を選び翔ちゃんにピンポイントでボールを合わした
「………あ…………え？」
そしてそのボールは綺麗に青城側の誰もいないコートへと勢い良く落ちた
『っしゃ！！！』
案の定誰もついてこれず、ポイントは烏野に入った
「アッシ！！」
「おーし！」
「よっしゃ！」
「おおお……！！」
「出たよ…変人トス＆スパイク」
「飛雄、翔ちゃんナイスー！！」
『！？何だ今の！はええーーーっ！！！』
会場がどよめく
無理もないけど
「日向、影山」
『？』
『せーの！』
『オォーーーッシ！！！』
大地さんが飛雄と翔ちゃんを呼び寄せ、円陣を組み拳を突き合わせた
こういうのみてると、団体戦したかったなぁって思う
もちろん、テニスの団体戦も個人戦も楽しかったけど！
「…………！ーー…ち、チームっぽい……！」
「あ゛ぁん？"ぽい"じゃなくてチームだろうが」
「！」
翔ちゃんチームって言葉が出る度嬉しそうだなぁ
「オス！オース！！」
そんな翔ちゃんをみている青城は、翔ちゃんを警戒し始めたみたいだ
飛雄ちゃんの作戦通りに
「日向が動き出したところでー反撃行きましょう」

「チャンスボール！！」
「オーライ！」
「また速攻だろ！？来るって分かってたら怖くねえんだよ！！」
「なんだとおらあああ！！」
勢い良く手をおろした翔ちゃんにトスは上がらず
「待ってましたァアアァ！！！ごっつぁん！！」
龍に上がり、綺麗に決めた
その後金田一に絡む龍と、空振りと挑発に乗り恥ずかしがってる翔ちゃんに飛雄がいい囮になったと褒める
なんだかんだで仲がいいと思うんだけどな、あの2人
その後も翔ちゃんは囮として活躍し、皆で点を稼いでいた
まあ、ミスがよくあるけど囮のお陰でそこまで酷くないと思えてしまうのだから不思議だ
そして、烏野がリードしたその時、青城側がタイムアウトをとってきた
「柚葵」
「はい！潔子さん」
率先して重たいボトルを持ち、潔子さんにはタオルを配ってもらうことにした
「手伝うべ」
「！だ、大丈夫ですよ孝支先輩！！孝支先輩はほら、アドバイスとか言ってあげた方がみんな喜ぶと思いますので！」
「だーめ！女の子がそんな重たいもの一人でもってるの見て見ぬふりできない」
「孝支先輩…」
本当に女の子に優しんだな孝支先輩
って思った瞬間胸がズキリと痛くなった
この感情は知ってる
だけど気にせず、孝支先輩にもってもらいつつ皆にボトルを配る
ツッキーに配った瞬間、翔ちゃんで遊ぶから叱っておいた
おいたが過ぎるよってね！

そして試合再開の合図が鳴る
「よっしゃ！このままセット取るぞ！！」
「あだっ」
やっぱり仲いいじゃないか？飛雄と翔ちゃん
翔ちゃんとなんだかんだで仲いい感じだけど、もう一人忘れていた
今もモメて大地さんに注意されてる、飛雄とツッキーである
今のローテーション的に2人並ぶので圧倒的な威圧感はあるのだけど、争いが身内で起きそうな空気だわ
武ちゃんもそう感じ取っているらしい

「君はブロックも得意なんだっけ？でも、あんまり出しゃばんないでね」
「てめーこそブッ飛ばされんじゃねえぞ」
一触即発じゃないか！
「敵はこっちじゃないよ！！飛雄とツッキー！！」
「そうだ！！敵はネットの向こうだっつーのっ！！おい来るぞ！！」
あ、岩ちゃんのスパイクだ
「！？」
岩ちゃんかわいそうに
あの2人の威圧感に少し動揺してブロックを決められてドシャットを喰らってた
「ナイスブロック！！」
「おしっ！」
「ちょっと、今止めたの僕なんだけど」
「あ゛！？俺の手にも当たった！！」
「お前らいい加減にしろ！！！」
翔ちゃんが珍しく一緒に怒られてないから、2人をみてニヤついてる
あ、飛雄が見てしまった
「何ニヤニヤしてる！！」
「影山！！！！」
「っ！」
飛雄、散々な日だな

いよいよ青城側が焦ってるのが見えてきた
徹くんがいないだけでぜんぜん違うチームに思える
まあ、実際そうなんだろうけど……
岩ちゃんが得点見て表情が硬いのが珍しいし
そんなこんなで第２セットは烏野が王手
最後には翔ちゃんが打ったスパイクが決まり、第２セットは烏野がとったのだった
「おっしゃあああっ！！このまま最終セットも獲るぜええ！！」
「あぐっ」
「…青城に………影山みたいなサーブ打つ奴いなくて助かったな…」
「…ああ…ウチはお世辞にもレシーブ良いとは言えないからな」
やっぱり孝支先輩はサーブのことで考えてたんだ
だけど、今日は飛雄の上を行く人が欠席であって、いないわけではない
「油断だめです」
「！」
「…………」
飛雄が私を見てきてそう言った
チラチラとこっち見るのはやめなさい飛雄ちゃん
「向こうのセッター、正セッターじゃないです」
『え！？』
みんな驚いているけど、飛雄が言った通りだ
あの子は正セッターじゃない
正セッターは
「アララッ１セット取られちゃったんですか！」
「！！！？」
そうそう、この声の持ち主で……
ま さ か

「おお！戻ったのか！足はどうだった！」
「バッチリです！もう通常の練習イケます！軽い捻挫でしたしね」
「及川さ〜〜ん！！」
『！！！？』
「！」
徹 く ん だ ！
この女の子達の悲鳴に似た叫びは徹くんが原因に違いない
「まったく…気をつけろよ」
「…………」
「及川」
「スミマセ〜ン」
徹くん謝る気ゼロじゃないか
あ、ちなみに私は今、一応バレないようにしゃがんで顔を隠しつつボトルの整理中だ
きっと背を向けてるからバレないはず！
「向こうには"影山出せ"なんて偉そうに言っといて、こっちは正セッターじゃないなんて頭が上がらんだろが！」
「あはは…」
やはりお前の仕業か
「及川さん無理しないで下さ〜い！」
「影山くんあの優男誰ですか、ボクとっても不愉快です」
「…"及川さん"………超攻撃的セッターでチームでトップクラスだと思います…」
だから、飛雄
なぜチラチラと見てくる
横目でこっちはみえてるんだからな！
「あと凄く性格が……悪い」
「お前が言う程に！？」
だからチラチラと見てきたのか飛雄め…
「月島以上かも」
「それはひどいな！」
「…………………」
なんていうか………ツッキーごめん
「お前の知り合いってことは北川第一の奴かよ？」
「…ハイ、中学の先輩です」

「やっほートビオちゃん久しぶり〜育ったね〜」
そして、意味なくこっちにこないでよ徹くん！
「…俺……サーブとブロックはあの人見て覚えました」
「！………」
「実力は相当です」
「元気に王様やってる〜〜？」
徹くんの声が近くで聞こえる
まずい、非常にまずい！
マスク持ってくればよかった！
そんなに"軽い"捻挫とは聞いてないよ！？

「と言うことは！柚葵も中学同じだからあいつのこと知ってんのか！？」

終 わ っ た

龍の馬鹿野郎！
声でかい！！
「………柚葵？」
ぎゃぁぁああぁ！？
なんか地の地の地に張った声が聞こえる！！
やっぱりベンチに帰ったと思ってたら帰ってなかったのかい徹くん！！！
「……ねえ、トビオちゃん？そこのマネージャーさん誰？」
「………教えることもないと思いますけど」
「名前なに」
「なんで知りたいんですか、関係ないことだったら」
「関係ないことないっての、トビオちゃんがよく知ってるんじゃない？」
飛雄、ありがとう
もうダメなようだよ、これまでありがとうね
ほんと、遺書は引き出しの中にあるからお父さんとお母さんと孝支先輩に渡してね
実際はそんなものないけど

「こんなところで何してるんだろうねえ？及川柚葵ちゃ〜ん？」

クッバイ

私の平和な日々よ
孝支先輩が目を見開いてるのがわかる

何ってマネージャーですけど？
なんて言えないこの空気!!!!
「おい！及川！お前アップとって来い！！」
「岩ちゃ〜ん、俺キレてるの……………わからない？」
せっかく岩ちゃんが助けてくれようとしたのに、怒った徹くんには敵わなかったみたいだ
ありがとう、岩ちゃん
その気持ちだけでも嬉しくて泣きそうだよ
「…………まあ、いいや。帰り覚えときなよ柚葵」
「……うぃっす」
ものすごくものすごく不機嫌だわ徹くん
ほんとは嫌だけど命が惜しいから返事しておく
帰りは飛雄と岩ちゃん連れてこう
そして徹くんは監督に言われてアップをとりに行った
ってことは試合でるのか……
そして、皆さんの視線は今は無視させていただこう

「…烏野の勢いが止まんない…！」
「烏野のマッチポイントだ…！青葉城西が崖っぷち…！」
このまま徹くんが出ずに終わればウチは勝つだろうけど…一点が遠い
今もスパイクを決められ点を取られた
一点…あと一点なのに
なぜか焦る気持ちがある
それは皆同じのよう
飛雄と私は徹くんが来る前に決めたいと気持ちがどうしても前に出る
そうだ、あと一点
あと
「ドンマイ月島！」
１点
「……………」
「アララ〜ピンチじゃないですか」
「………………アップは？」
なのに
「バッチリです！」
きてしまった
とうとう徹くんが
怪我の事を考えてるのかピンチサーバーとしてだけど
それがとても怖いことなのだ
飛雄も分かってるから焦ってる
「いくら攻撃力が高くてもさ…」
「！」
なぜか徹くんは私を指さしてきた
「その"攻撃"まで繋げなきゃ意味ないんだよ？柚葵」
「っ！」
「まあ、柚葵はわかってるだろうけど」
「！？」
徹くんは私じゃなく今度はツッキーを指さした
「？」
っまずい、徹くんわかってる！！
「月島っ！！構えて！！」
「柚葵…！？」
いきなり叫んだからか孝支先輩が驚いて私を見てきてる
けど、それどころじゃない
徹くんは宣言したんだ
ドッと鈍い音がしてサーブが放たれた
「！！」
それは宣言通りツッキーのところへと向かった
「うっ！」
ツッキーはレシーブできず、そのままボールは弾かれ２階の柵へとあたった
そう、レシーブが苦手であるツッキーに宣言をしたんだ徹くんは
「！！」
「い゛っ…！？なんつー威力…！！」
「…うん、やっぱり。途中見てたけど…６番の君と５番の君」
「！？」
「レシーブ苦手でしょ？１年生かな？」
「うっ！！」
「……………………」
「…飛雄以上の威力に加えて…ほぼ宣言通りのコースに打つコントロールがある…これが青城の主将であり……県一のセッターです」
「！」
孝支先輩は私を見てたけど、私は徹くんを見た
「……じゃあ……もう一本ね」
「ーー…」
また鈍い音と共にサーブが打たれ、また
「っ！！」
ツッキーはレシーブできなかった
「ツッキイイイ！！！」
「くそっ…」
「………………………」
あの無関心そうなツッキーが悔しがってる
翔ちゃんもそんなツッキーを見て何か考えてるのか、徹くんを睨んでいた
「おっあと一点で同点だね〜」
「おい！コラ！大王様！！おれも狙えっ取ってやるっ！！狙えよ！！」
大王様か……ナイスネーミングセンスだ翔ちゃん
「みっともないから喚くなよ！」
「なんだとっ！？」
ツッキーは半ば諦めているようにも思える
けど
「バレーボールはなあ！ネットの"こっち側"に居る全員！！もれなく"味方"なんだぞ！！」
「〜〜〜〜」
「なんてすばらしい名言！」
「…よし、全体的に後ろに下がれ。月島は少しサイドラインに寄れ」
「はい」
「！」
大地さん流石だ
「……よし来い！」
レシーブが得意な大地さんが守備範囲を広げる作戦だ
だけど徹くんはまたツッキーを狙う
けど、サイドラインギリギリならコントロール重視だから、威力はなくなる
それを考えて大地さんはこの作戦をとったんだ！
「…ふーん……でもさ一人で全部はーーー守れないよ！！」
「！チッ」
「あんな端っこに居るのにピンポイントで……！」
「大丈夫です！コントロール重視の分威力は弱い筈です！！」
「っ！！」
なんとかツッキーはレシーブをした
「！上がった…！ナイス月島！！」
「ヅッギーナ゛イ゛ズっ…！」
「おっ取ったねえら〜〜い、ちょっと取り易すぎたかな？でもーーこっちのチャンスボールなんだよね」
「チャンスボール！」
「くそっ…！」
でも、上げれただけマシだ
ここからはなにが起こるのか分からないんだから
「ホラ、おいしいおいしいチャンスボールだ。きっちり決めろよお前ら」
「金田一！」
『！』
いまのローテーションはブロックに一番高さがない
青城は速攻を選んできた
「オオッ」
「！？」
だけど、高さはないけど素早い翔ちゃんならいる
ブロックはできないとしても……
「よしっ」
「ナイスワンタッチ日向！！」
ワンタッチなら狙える！
「チャンスボール！！」
さあ、今度はこっちの番だ
「くそが！！今度は俺がたたき落としてやるよ！！」
翔ちゃんは着地した瞬間、ブロックのいない方へと走り出し
「！！？」
「！」
徹くんの真横のコーナーへとスパイクを打った
徹くんの顔に当たることはなかったけど、徹くんが反応できず床に落ちたのだった
「ーーー…」
「…………………ピッ」
ピピーーッ
試合終了
セットカウント
2-1
「………………………」
勝者 烏野高校
すばしっこい翔ちゃんに着いていけるのは……ボールだけだった
「……………………何、今の」
「コートの端っこから端っこまで一瞬で…」
「スパイカーの手に吸い込まれるみたいなトス…」
「へぇ…！！」
…まずい、徹くんが翔ちゃんに目をつけてる
『整列ーっ！！』
「はぁあぁ〜…」
武ちゃんは魂が抜けてくような息を吐いて、椅子に腰をおろした
「どうしたんですか？」
「……すんごい」
「？あ、そうか！先生は３対３見てないから日向と影山の攻撃見るのは今日が初ですもんね！ね！スゴイでしょ！？もう凄いっつーか恐いっつーか」
孝支先輩が武ちゃんに猛烈に説明してるなか、皆がこっちにすごい勢いで来るのが恐い
「柚葵」
「？」
「こっちおいで」
そんななか、潔子さんがとなりに来るよう言ってくれたのでそちらに向かって、武ちゃんの講評を聞く体制にはいる
「えーと…僕はまだバレーボールに関して素人だけど…なにか、なにか凄いことが起こってるんだってことは、わかったよ」
『？？』
「…新年度になって…凄い１年生が入ってきて…でも、一筋縄ではいかなくて……だけど、澤村くんが言ったことはその時はよくわからなかったけど、今日わかった気がする。バラバラだったらなんてことない、一人と一人が出会うことで化学変化を起こす」
化学変化…合わさると＋にも−にもなる
それが今の翔ちゃんと飛雄を表すのにぴったりかも
「今、この瞬間もどこかで世界を変えるような出会いが生まれていて、それは遠い国のどこかかもしれない。地球の裏側かもしれない。もしかしたら…東の小さな島国の北の片田舎のごく普通の高校の、ごく普通のバレーボール部かもしれない。そんな出会いがここで…烏野であったんだと思った」
武ちゃんよくここまで言葉が咄嗟に出るなぁ
「大袈裟とかオメデタイとか言われるかもしれない。でも、信じないよりはずっといい。根拠なんかないけどきっと、これから、君らは強く
強くなるんだな」
『…………………』
『？？』
「！！ごめんっ！ちょっとポエミーだった！？引いた！？」
「いやいやいや、そんなことないです！あざす！！」
『アザーーーーース！！』
「…早く技術を教えられる指導者を見つけないとな…」
本当に武ちゃんはすごくいい先生だ
ーーーーー……

「！飛雄どこ行ってたの！？」
「っ？どうしたんですか？」
「もう集合の時間！そして私を大王様から隠して！」
飛雄がどっかいっちゃって私はビクビクしながら孝支先輩の後ろに引っ付いてたけど、飛雄を見つけた瞬間走って飛雄のとこ行ったから少し後悔してる
もうちょっと孝支先輩に引っ付いてればよかった…！
「………………」
「ドンマイ…スガ」
「俺、影山になにもかも負けてる気がする……」
孝支先輩がそんなことを言ってるのも知らず

『挨拶！！』
『ありがとうございましたーーｯ！！』
「……」
「？」
あいさつする前、徹くんがいないのに気がついた
なんだ、心配しなくてよかったーなんて思っていたら、岩ちゃんが口パクして……る？

お い か わ に き を つ け ろ

まさか、バスになにか仕掛けるからあいさつしなかったとか！？
潔子さんを狙っているとか！？
岩ちゃんはその言葉を残したら体育館に帰ってしまった
いや、岩ちゃん
徹くん捕まえておいてよ…
岩ちゃん徹くんの彼女みたいな保護者でしょ…
「飛雄ちゃん」
「……なんですか？」
「この先に嫌な気配が感じるのは私だけ？」
「？なんにも感じないっスね」
「…………………私だけか」
バスに向かって歩いてるわたし達は、傍から見たら黒い集団だろう
視線をすごく感じる
烏だから仕方ないと割りきろう
そして、なぜだか嫌な気配が感じるのだよ、この先に！
「………武田先生はああ言ってくれたけど、いくら日向と影山のコンビが優秀でも、正直周りを固めるのが俺達じゃあまだ弱い……悔しいけどな……」
「おお〜さすが主将！」
「！！？」
『！』
ほら！やっぱり！嫌な気配とは徹くんか！
優雅に校門で腕を組んで待ってらっしゃる…！！
私はとりあえず飛雄の後ろに隠れる
「ちゃんとわかってるね〜〜〜」
「なんだコラ」
「何の用だっ」
「やんのかコラ」
「やんのかァコラァ」
ヤンキーのように絡む龍と、龍の後ろに隠れながら龍の言葉を繰り返す翔ちゃん
……なんだかかわいい
「そんな邪険にしないでよ〜アイサツに来ただけじゃ〜ん」
アイサツなら皆がいるときにしようよ徹くん
徹くんも主将でしょうが！
わざわざこんなふうにアイサツに来るなんて、何かある気がして気が気じゃないんだけど
「小っちゃい君、最後のワンタッチと移動攻撃凄かったね！」
「え゛っあっえっエヘヘ」
「今日は最後の数点しか戦えなかったけど…次は最初から全開で戦ろうね」
「！」
「あ、そうそう。サーブも磨いておくからね」
『！』
徹くんは翔ちゃんとツッキーを見て言った
……レシーブ練習ちゃんとしないと
サーブ磨いておくってまたオーバーヒートしなきゃいいけど……
「君らの攻撃は確かにすごかったけど、全ての始まりのレシーブがグズグズじゃあ、すぐに限界が来るんじゃない？」
「………………」
「強烈なサーブ打ってくる奴は、なにも俺だけじゃないしね。インハイ予選はもうすぐだ。ちゃんと生き残ってよ？俺はこのーー」
あれ、ちょっとまって
徹くん……こっちみて………
「クソ可愛い後輩を公式戦で、同じセッターとして正々堂々、叩き潰したいんだからサ」
「………………」
「飛雄…」
「…あと、愛しい愛しい反抗期な柚葵にも、お前が誰のものなのかって事を分からせてあげたいしネ」
「っはぁ！！？」
『え！！？』
「どれだけ俺を悲しませれば気が済むのかな、柚葵は……」
「と、徹くん…？」
珍しく余裕のない徹くんの表情を見て徹くんに近付いた
のが間違いだった
グイッと引き寄せられた身体
「へっ？」
「俺を怒らせた罰だ」
ほっぺたに 唇 が 当 た っ た ？
誰の？徹くんの唇が……
「なぁぁあぁあ！？」
「なに？昔はしてたじゃん」
「いや！昔とかいう問題じゃないし！？」
ほら！見て見なさい！！
みんな口をあけて驚きすぎて何も言えてないじゃない！！
あの飛雄まで驚いてるよ！？
「ま、俺をがっかりさせない程度でこのチームで頑張りなよ？じゃないとかっ攫うから」
「………ハイ」
冗談に聞こえないよ徹くん
「まあ、レシーブはどうしようもできないかもだけどね」
「！レッレシーブなら練習するっ」
今まで顔を真っ赤にさせて固まってた翔ちゃんだけど、徹くんの言葉に反応してツッキーの腕を掴んだ
「！！？おい離せ！！」
「レシーブは一朝一夕で上達するモンじゃないよ。主将君はわかってると思うけどね」
「………………………」
「大会までもう時間はない。どうするか楽しみにしてるね。じゃぁねー柚葵、また電話するね」
しなくていい！って叫べる状況じゃないから無言で体育館に向かう徹くんを見つめる
「……………」
「…き、気にしないでください！あの人ああやって人を引っかき回すの大好きなんです…」
「…………ふふっ」
「！？」
いきなり大地さんが笑い出したものだからみんな驚いて大地さんを見る
「主将！？」
「大地さん！？」
「…確かにインターハイ予選まで時間はない。………けど、そろそろ戻ってくる頃なんだ」
「あっ」
「？何がですか？」
「烏野の"守護神"」
「！」
「しゅ……守護神…！？」
「なんだ、他にも部員居るんですか！」
「…うん、居るよ」
孝支先輩は影を落としながら言った
「？」
飛雄はなんだ？というような顔で見ているけど
「うお〜い、遅くなると教頭先生に怒られるから早く帰るよ〜！」
武ちゃんの言葉でみんなバスへと向かった

「そう言えば！！」
「？」
後ろに座ってた龍がいきなり大声を上げた
……寝てた人も起きてこっちをみてくる
ちなみに隣は孝支先輩
なぜか座ってた私の元に孝支先輩からきてくれたのである！
そんな中、寝ないように気をつけていたらこれだ
「柚葵！お前青城の主将とどういう関係だ！？」
「どうって…」
「…彼氏？」
「っへ？」
いきなり孝支先輩がそう言うから声が裏返ってしまった
「……仲良かったし親密そうだったし」
あれ？
なんだか孝支先輩が冷たい……？
「そうそう！キスもされてたしな！」
「！？」
龍の馬鹿野郎！思い出したじゃないか！！
「…………」
「と、徹くんは！ただの従兄妹です！！」
「……へ？」
『はぁあぁぁああ！？』
「え、ほ、本当に？」
孝支先輩が疑いの目でみてくる
「本当ですよ！皆さん私の苗字覚えてないんですか！？」
「えーっと……及川？」
「そう、徹くん…青城の主将の苗字は？」
「及川……」
「苗字が同じことはあると思いますが、私の父と徹くんの父が兄弟なんです！」
『ええぇえー！？』
「お兄ちゃんみたいな存在であって、彼氏とかじゃないです！」
私は孝支先輩が好きだから徹くんはお兄ちゃんだ
「…………よかった」
「？なにか言いました？」
「あ、ううん。なんでもない」

ーーー…

「よし！じゃあ軽く掃除して終了！お疲れした！」
『シターッ』
ありゃ、翔ちゃん立ったまんまで寝てる
「柚葵」
「！はい!!なんですか？潔子さん」
「ちょっと頬貸して」
「？」
潔子さんはハンカチを取り出して、私の頬を拭きだした
「潔子さん…？」
「これでいい」
徹くんにキスされた方の頬を
「なんだか、あの主将のした事、嫌だったから」
「！潔子さん！！」
可愛すぎます！！どこまでも着いていきます！！
「それにしてもよ〜あの優男のサーブ凄かったなァ最初からアレやられたらヤバかったぜ……」
このメンバーで帰るのが日課になってきた
今日は肉まんでなくぐんぐんバーを頬張っているけど
「さすが影山と同中の先輩ー………アレ？ていうか、影山ってなんで烏野に居るんだっけ？」
あ、それ私も思った
なんで烏野を選んだんだろう
「県内一の強豪つったらやっぱ白鳥沢だろ」
「しらとり？」
「白鳥沢学園っつう県ではダントツ、全国でも必ず8強に食い込む強豪校があんだよ」
「ほーーっ！」
「…落ちました、白鳥沢」
「落ちた！？」
「白鳥沢から推薦来なかったし、一般で受けて落ちたんです。試験が意味不明でした」
「あそこは普通に入ろうとしたら超難関校だもんな…」
「へえーっ"王様"勉強は大した事無いんだネ〜」
「チッ」
「俺的には柚葵も頭いいのになんで烏野にしたのか疑問だけど」
「俺もテニスの強豪校とかに行くと思ってました」
「頭はいいってわけじゃないけど、テニス推薦きてた学校…特に白鳥沢は苦手というか嫌な人いたし、テニス辞めたかったから推薦きた学校だったらのびのびできそうにないから嫌だったし。青城は徹くんがいなかったら行きたいと思えたけど……烏野も迷ってたから烏野にしたの」
「………へー」
「(テニス推薦受けるくらい強かったのになんで辞めたんだろう……)」
「でも、烏野にしてよかったって思います。皆と部活もできてすごく楽しい！」
そう、マネージャーもできて本当によかったって思う
「まあ、飛雄が烏野だとは思わなかったですけど」
青城も推薦出したらしいし
「…引退した"烏養監督"が戻ってくるって聞いたから」
「うかい？」
「無名だった烏野を春高の全国大会まで導いた名将！…………だったハズ」
「へ〜〜〜」
「"小さな巨人"知っててなんで烏養監督しらないんだよ。その頃は監督目当てに県外から来る生徒も居たって言うぞ」
「ほーっ」
「"烏野の烏養"って名前が有名だったよな。凶暴な烏飼ってる監督だっつって」
「2･3年生は去年少しだけ指導受けたけど…すげえスパルタだったぞ…」
確かに、あれは凄かった
『………………！』
翔ちゃんと飛雄は孝支先輩の言葉に目を輝かせた
「…………なんで羨ましそうなんだよ。烏養監督は本格的な復帰が決まってたんだけど、復帰後少しして倒れちゃったんだよ。歳が歳だし…若い頃、無茶したらしいし…」
「けどべつにどの高校入ったって、戦う相手は同じ高校生。勝てない理由なんかない」
「負け惜しみは止せ！カッコつけて言ってもムダだ！」
「違いますよっ！！カッコもつけてません！！」
「あっ飛雄！」
笑ってしまった翔ちゃんを飛雄が持ち上げた
その細い腕で持ち上げる力がどこにあるのよ飛雄
「実際、今日４強に勝ったじゃないですか！」
「まあなー！あの青城に2-1！俺もフリーで決められたし日向の囮のお陰だなあ！」
「あっあザース！」
「本人的にはどうだったよ"デビュー戦"は！？」
「！！」
翔ちゃんは飛雄に離してもらい無事着地して、拳を握り締めた
きっと満足いったのだと思う
「まあ、1セット目盛大にやらかしたけどな」
「得点と同じくらい失点もしてんだから満足すんなよ」
「なんでそういう事言うんだよ！」
「…そうなんだよ……」
「？」
大地さんがいきなり語り出したものだから、孝支先輩と私ははてなマークが頭についていることだろう
「俺達にはまだ、いろいろ足りてなくて、今日の勝利もギリギリだった」
「いっいっぱい練習しますっっ」
「あっうん！個人のレベルアップも大事だな！けど…今の烏野には根本的にメンバーがたりてないんだよ」
「？」
「…守備の要の"リベロ"と、連係攻撃が使えない時でも一人で敵の3枚ブロックと勝負できる"エーススパイカー"」
「…あとは技術の指導とか試合中の采配をとる監督とかコーチ……」
「エッエースならおれがっっ」
「おめーは"最強の囮"だっつってんダロ！」
「〜〜〜〜」
「でも、"守護神"が戻ってくるって言ってましたよね」
「うん」
「烏野は強豪じゃないけど特別弱くもない。今までだって優秀な人材は居たハズなのに、その力をちゃんと繋げてなかった」
「………孝支先輩」
『…………』
「でも、また皆が揃ってそこに１年生の新戦力も加わってー…その戦力ちゃんと全部繋げたらー…」
「………………………夏のインターハイ…"全国"がただの"遠くの目標"じゃなく"現実に掴めるもの"にきっとなる」
「夏のインターハイ…！聞いたことあるっ！！」
徹くんも目指してる夏のインターハイ全国
みんなの目標の全国
私にできることはあるのだろうか
「………けど、そのこれから戻ってくる人は今までどうしてたんですか？」
「…………」
「あー…一週間の自宅謹慎と約一ヶ月の部活禁止だったんだ」
『！？』
「ふ、不良！不良！？」
「違えよ」
まあ、不良って思うのも分からなくもないけど……
「アレはな…ちょっとアツすぎるだけなんだよ。イイ奴なんだよまじで」
『(田中さんにアツすぎるって言われるとかどんだけだ…)』
「それにアイツはな、烏野で唯一天才と呼べる選手だ！」
『！』
「…まあ今はクソ生意気影山が入ってきたから"唯一"じゃなくなったけどな」
「………」
「ソイツが戻って来たら"先輩"って呼んでやれよ日向」
「龍みたくバカ喜びすると思うよ」
「バカとか……」
でも、本当に帰ってきてくれるのかな彼は
あの人が帰ってきてない部活に





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