Agapanthus




「おはよ〜」
「おはよ!」
夏休みも終わり、学校が始まった
二学期は、文化祭・体育祭・球技大会・修学旅行とイベントがたんまりとある
そんな中で代表決定戦が10月末にある訳だけど
なかなかなハードスケジュールだと思うのは私だけだろうか…
「文化祭の出し物を決定します」
文化祭が10月なのは苛めなのでは?と今年は思ってしまう
去年はあんまり気にならなかったもんね
「お化け屋敷とかどう!?」
「えー喫茶店とかがいいなぁ」
「寸劇とかも混ぜたら?」
「それならファッションショーとかもやりたい!」
わいわいと盛り上がるクラスメイト達
「…楽なのはどれなんだろ」
「ははは、わからん」
「力、諦め早すぎない?」
「この雰囲気がどうも慣れないんだよなぁ」
「あー…分からなくもないかなぁ」
うちのクラスは良くも悪くもノリが良い
その上進学クラスなので頭はよくて…
「一仁が揉まれてる」
「成田大丈夫かな」
「そういうなら助けてあげなよバレー部」
「「え、大丈夫デショ」」
一仁はなんだかんだ強いし
「出来れば目立たなくて楽なのお願いしたい」
「それな」
「やる気だしてよバレー部…」

ーー…
「っえ」
「縁下達の出し物やばくね…?」
「こんな時期だと言うのになんたる事ですかね…私は逃げたいです」
「俺も」
「力も柚葵もどうした!楽しそうな出し物で良いじゃねえか!!」
「そうだぞ!!俺たちなんて迷路だぞ!」
「むしろそっちの方がよかった」
「楽なのがよかったんだよ」
「「はぁ」」
「…成田、この二人がこうなるって何があったんだよ」
「あー…それが」
「ちぃーっス」
「おっ!今日は2年組早いな!」
「準備あざッス」
「あざーっス!!」
「2年のHR早かったんだな〜」
「柚葵も今日はこっちにいるんだな」
「あ、はい。今日はテニス部オフなんで」
「?どうした?元気ないべ?」
体育館にくると2年だけしか居らず、話題は文化祭
考えるだけでも厄介だな…と思いながら力と脱力していると、他のメンバーもやって来た
準備は終わらせているので喋ってても問題はない
そんな中、孝支先輩は私の顔を覗きこんで心配してきてくれた
その優しさが私を追い込むのですが…
「あ、いや……」
「?」
「そういえば何の話してたんだ?」
「文化祭ッス」
「文化祭……」
「3年生は劇ッスよね?」
「だべ〜」
「大役からは外してもらえたから心配はないぞ」
「…多分俺も」
「私も」
3年生の方が大変だよね…まだ私達は楽な方なのかな…
「良いッスね…俺たちなんて準備ヤバイッス」
「それが楽しいんだけどな!」
「ノヤッさんは全部楽しめて羨ましい…」
「右に同じく」
「更に右に同じ」
「…縁下も柚葵もどうした?」
「あーそれがッスね」
「成田?」


『童話カフェ?』
「童話の登場人物で接客してく…って奴なんですけど」
「へえ!変わってんな!」
「それに加えて少しの寸劇風な事とかも織り混ぜるんですけど」
「うわ、大変そうだな」
「……ん?まさか」
「…そのまさかです、スガさん」
「縁下と柚葵は大抜擢されて」
「私と力はメインのシンデレラがテーマになりそうで…」
「「寸劇となると…」」
それに加えて面白要素を入れるから…
非常にめんどくさい
この上なくめんどくさい
「あー…なるほどな」
「柚葵のシンデレラ姿見れるならずっと居よう」
「それは営業妨害だぞスガ」
「はは…」
スガさん、当日驚くだろうなぁ…とぼやいた力の言葉は誰も聞いていない
まあ、なるようにしかならないし、今はバレーに集中しよ…


「おーし!こっから自主練ー!」
『ウェーイ』
「仁花ちゃーん!」
「ハイ!」
「ビブスの洗濯お願いしても大丈夫かな?私はドリンク作り直してくる」
「大丈夫ッス!」
ビブスが大量に入った籠を仁花ちゃんに渡し、ボトルを回収
そのまま入り口に向かったのだけど、仁花ちゃんの後ろ姿が見えて不思議に思う
「仁花ちゃん?なにがあ…」
「柚葵さん…!」
「……飛雄、その格好どうしたの」
仁花ちゃんの前に、見るからに怪しげな格好をした飛雄が居た
「ちょっと、見に行きたい学校があって…」
「あー…徹くんのとこでしょ」
「っな!な!?」
「分かりやすいよ…飛雄が見たいのは昔から徹くんなの分かってるんだからね」
中学時代、そんなに過ごした時間はないのに徹くんの背中を追いかけていた飛雄
どうしても見に行きたい学校はそんな徹くんがいる青城以外にない
「そんな格好じゃ逆に浮いてつまみ出されるぞ」
「あ、それ私も伝えました」
「だよね……普通に練習試合に来た感じでいけば浮かないのになんでこうも空回りしちゃうのだろうか」
「柚葵さん…」
「影山君には容赦ない柚葵さん…」
「ほら、着替えて早く行ってこい」
「ういッス」

飛雄は無事に着けただろうか…
「おーい柚葵〜サーブ打ってくれよ!」
「今休憩中」
「なぬ!」
「さっきから何本打ってると思ってるの…私現役じゃないから少しは許して…!」
容赦のない夕に体力が限界なのだ
「柚葵さんも意外と体力無いんですね」
「現役スポーツ男子と比べてもらっては困るよ…これでも一応現役時代と同じくらい体力あるからね…!それにしてもツッキーもしんどそうだね…ドリンクいる?」
「…イタダキマス」
東京合宿でなんとなくやってしまってから、ツッキーをまじまじ見るのは久々な気がする
「……なんですか」
「いや……ツッキーもう少し筋肉つけたら良い感じになりそうだなって思った」
「……変態ですね」
「ごめんね、これでも烏野のトレーナーだから」
忘れがちだけど
「まあ、ゆっくりこれからだよね」
「?」
もう少しだけ待ってみよう
「なあ!」
「…なに」
「月島だったらウシワカ止められるか!?」
そんな時、ツッキーの元に珍しいお客さんが来た
お客さんの正体は翔ちゃんな訳だけど…言うことが唐突すぎる
「…無理デショ。全国トップ3のエースなんて…マグレならまだしも」
「でも誰かがウシワカ止めなきゃ白鳥沢倒せない!おれ達MBじゃん!」
おお…もうそこまで考えていらっしゃるのかこの子は
「もう県トップとのこと考えてんの?随分ヨユーだね?」
「…どっちみち…全部倒さなきゃいけないんだから同じだ」
違う…翔ちゃんの中ではその先まで見据えてる
「…何か腹立つ」
「なんでだよ!つ…月島で無理ならおれがやってやる…!」
そう言って翔ちゃんは勢いよく立ち上がった
それにつられるかのようにツッキーも立ち上がった
「…自分で言うのはともかく、他人に"無理"って言われると腹立つよね。君はとくに」
そして、翔ちゃんのつむじを思いっきり押した
「!!!ギャアアアア!!下痢ツボ押したな!月島コノヤロォォオ!!」
「…帰る」
「ハァ!?」
「柚葵さん、ドリンクありがとうございました」
「いえいえ〜気をつけてね」
「はあ、お疲れ様デシタ」
「なんなんだあいつは!」
「翔ちゃん…」
「?はい?」
「ありがとね」
「??」
ツッキーのあの顔は確かにスイッチが入ったはず
やっぱり翔ちゃんは何かあるなぁ
天然記念物恐るべし

「うわっ夜になるの早いなぁ」
外はもう真っ暗…
タオルを畳ながら皆のサーブ練を眺めてるこの時間は割りと好きだ
「スマーン!!」
孝支先輩のサーブが龍の頭を直撃していたり見ていてとても面白い
そんな時、横の扉が音をたてて開かれた
「あ、飛雄おかえり」
「…ただいまッス」
「おっ生還影山!どうだったよ!?」
「……………」
「?」
「飛雄?」
「俺はーー俺は一生及川さんに勝てないかもしれない」
「!!?何言ってんだフザケんな!!何見たんだ!!」
あ、翔ちゃんが思わず怒ってるから旭さん達が心配してみてきてる
一応大丈夫ですと意味を込めて首を降っておいた
飛雄も飛雄でどうしたというんだろ
その言葉を徹くんが聞いたらめちゃくちゃ嬉しそうにするんだろうなぁ…"飛雄ちゃんが俺に勝てるなんた150年早いってんだ!"と脳内に出てきた徹くんを消す
「…青城は多分、OBの居る大学と練習試合やってた。俺が行った時は一区切りついてて、休憩中にメンバーを代えた"違う試合"が始まった。大学生の中に及川さんがセッターとして一人で入ってた。初めて会った人も多いみたいだった」
大学生と練習試合してるんだ…上の繋がりがあるのはいいな…
「でも、ほんの数プレーで及川さんは完全にチームに溶け込んだ。スパイカーが活き活きしてるのが俺にもわかった。誰からもどんな奴からも"100%"を引き出すなんて、たとえ時間をかけたってできるとは限らない。でも及川さんは、例えあの人を嫌ってるやつとかすげえクセのある選手とかでさえ」
その分努力を惜しまない彼だからこそ

「きっと自在に使いこなす」

「ーそのスゲー大王様に改めてビビっちゃったのかよ、影山クンは」
「……ーあぁ、スゲービビった」
「!」
言葉と裏腹に飛雄の顔はやる気に満ち溢れていた
きっと徹くんなら"飛雄ちゃんめ!!もっと悔しそうにしろよっ!!"て言うだろうな……とまた脳内に出てきた徹くんを消す
「その及川さんの3年間、全部を詰め込んでんのが今の青城で、春高はそれと戦える唯一のチャンスだ。チームとして絶対に勝つ」
「うおおお!!打倒大王様ーっ!!」
「俺の台詞だバカヤロー!!」
「飛雄のその精神素晴らしいわ」
「!あざッス!!」
「……………」


8月末
再びやって来た東京
今回は音駒高校であるみたい
「おーっし今回も柚葵貰ってくぜ」
「貸すだけだからな」
「いっそのこと転校させちゃう?」
「アホか」
「それは俺が許さないから」
また主将同士始まったわ……と思っていたら今回は意外なことに孝支先輩が入ってきた
「……ま、まさか!菅原ちゃん」
「察しが良くて助かるべ!」
「そんな、いや、まだ大丈夫だ…」
「諦めろ」
「?」
男同士何の話をしてるのか分からないけど
「研磨〜今回の水道の場所とか教えて」
「いいよ」
こっちは準備で忙しいのだ、構ってられん
「柚葵さんって結構ドライ?」
「えっそんなことないと思うんだけど…」
「黒尾さんにだけか…なるほど」
「…福永くんって意外と喋るんだね」
しゃべらない人だと思ってしまってた
「結構しゃべるよ」
「研磨が言うなら違いないか」
「虎は柚葵がいると喋らないけど」
「そこが謎なんだよねぇ」
「「(女子だからなんだけど)」」
「あ!柚葵!!今日からもよろしくな!」
木兎さんが遠くから腕を降りながらロックオンしてきた
「あはは…」
私は苦笑いしながら手を振り替えしておいた
合宿も合宿でサーブは休めないな…
「ヘイツッキー!!今日もブロック跳んでくれヘイヘーイ!!」
よし、ターゲットがツッキーに移ったな…
「……………」
「木兎、他校の1年に引かれるの巻」
「………………ハイ、お願いします」
『!!?』
「!?!!?」
「自分で頼んどいて何びっくりしてるんですか」
月島が、自ら進んで…
「月が輝く…?」
「何言ってンの柚葵チャン」
「クロナイスタイミング……月島をよろしく」
「…おう、言われなくてもそのつもりだ」
ツッキーは良い師を持ったなぁ
「猫又監督!今回もよろしくお願いします」
「ほっほっほ、こちらこそよろしく頼むよ」
私はそのクロの為、そしてここに来ることができたきっかけである猫又監督の為
さぁ、ここで恩返し…倍にして返す

「よーし、自主練いくぞ〜」
「あ、クロまって…研磨」
「?」
「指だして」
「……」
「ほら、誤魔化さない!さっきちゃんと見たんだからね!」
「はぁ…なんで柚葵目敏いんだろ…」
「おほめに預かり光栄です」
「ほめてない」
「……」
仕方ないじゃないか…これでも一応トレーナー目指してたりするし
「さっきブロックで打ち付けてたの見てたんだからね……罰無くてよかったね」
「これくらい大丈夫なのに」
「だめ!特にセッターであるなら大事にして」
徹くんも飛雄も孝支先輩もみんな手は大事にしてる
研磨が大事にしてないわけではないけど、やっぱり3人と比べたら気にしてない節がある
「…ごめん」
「分かれば大丈夫。ゲームしちゃだめ!とは言わないからちゃんと今度からは見せてよね」
「…分かった」
「隠したら福永くんの面白話聞かせるからね」
「たっぷりあるよ」
「福永くん心強い」
「ほら、柚葵いくぞ」
「あ、うん」
ーー…
「あれ?今日ツッキー休憩長いね」
「……まあ、確かめたいことあるんで」
「……ふーん」
「………なんですか」
「いや、なんか嬉しいなって思って」
「??」
凄い顔で見られてるけど知らない
だって、確かめたいことはきっとブロックのこと
ずっとクロ見てるもんね
前より大分筋肉が着いてきてるのが分かる
多分ツッキーもツッキーなりに練習してるんだろうなぁ
あ、リエーフくんがクロにドシャットくらってる…
「おいツッキー!いつまで"見る専"やってる!?」
「あ、とうとう怒られたね〜」
「…すみません、お邪魔します」
ツッキーは何を学ぶのか楽しみだ


「ナイッサー」
今日の音駒はなんだかブロックの本数が少ない…
リエーフくんが抜かれてるのが要因だとは思うけど
「リエーフ、バンザイブロックすんなっつーの!真ん中抜かれてんじゃねーか!腕はギリ球が抜けない幅!!」
「ハイッス」
流石ブロックの要…駄目なところ的確についてる
「これで今回は終わりだねぇ」
「ですね、今回もお世話になりました」
「こちらこそだよ…また次頼むよ」
「はい!」

そして東京遠征が終わっても宮城に帰ると町内会チームとの試合も組まれてる
やることがいっぱいで時が過ぎるのが早すぎると思う今日この頃
ドリンクを作り終え、ベンチにおいて一息つこうと思った瞬間、何か背中に伝った
「柚葵!危ない!」
目の前に迫り来るボール
力をいなしてふわりと上げてみせた
「かっ!かっけえ!!!」
「柚葵スマン!!!!」
龍が放ったスパイクがこちらまで豪速球で襲いかかってきていた
避けることもできたけど、それだとドリンクが犠牲になるからレシーブを選択
作りたてを台無しにされると少しメンタルに来るし……それにしても
「超インナースパイク過ぎない…?」
こんなところまでボールが飛んでくるだなんて…
「大丈夫だった!?」
「あ、はい。大丈夫でしたよ孝支先輩」
「よかったべ……にしてもレシーブ上手すぎだろ」
「まあ、一応経験者ですし合宿で私もさせられてるんで!」
「流石かよ…」
「?」
そんな日常も過ぎ去り

最後の東京遠征
あんなに濃い時間を過ごしてきた合宿がこれで最後になる
終わりは呆気なく来るもので
「柚葵さん!本当にいままでありがとうございました!」
「柚葵さんがいたからいろんな事できました」
「なんでもしてくれてありがとうございました」
「敵になるなんて嫌だから音駒に転校してくる?」
「クロ…それはない」
「だよな」
こんなにも音駒に馴染めていただなんて…最後になって気づく羽目になり、泣いた
本当にサポートできただろうか?なんて思ってた日々もあったけど、みんなのありがとうは心に響いた

「ー"ゴミ捨て場の決戦"俺達にはラストチャンスだーー東京体育館で会うぞ」
「ーおう」
耳に入ってきたクロと大地さんの言葉に胸を打たれる
このメンバーとうちの最高なメンバーで、ゴミ捨て場の決戦を絶対にしたいという決意が胸に残った

あとは、東京体育館で皆と会うため、そして日本一になるために勝ちをもぎ取りに行く
棘の道だろうと、この烏野なら乗り越えていけるのではないかと感じてる
大丈夫、きっと大丈夫


……その前に学校行事を済ませないといけないのだけど






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