Agapanthus





試合は止まることなく進む
「チャンスボォォール!!」
ワンタッチで回ってきたボール
さあ、飛雄は誰に託す?
「来いやっ」
変人コンビの変人速攻が決まった
でも、やっぱりマークは1人
捨てに来てるということは、完全に見抜かれてる
「ナイッサー!」
「サッコォーイ!」
その後もとって取られての繰り返し
烏野は7点差を追いかける展開
なんとか大地さんのスパイクが決まり点が入ったのだけど、なんだか違和感がある
「おおーっなんだかいつもよりキレがある感じだなー!」
「……!」
そうか!
武ちゃんの言葉を聞いて思い出したけど、攻撃がなんだか速く焦ってきているように感じるんだ
あの日のあの試合と同じように王様に飛雄は戻るつもり……?
「日向!」
交代した翔ちゃんに孝支先輩が近寄る
きっと合図のことだろうけど、それより飛雄が今普通じゃないからどうなるかは微妙だ
「カバー!」
「!!」
「松川ナイスブロック!」
「ゆっくりゆっくり!焦んなよ!」
嫌な予感的中
王様飛雄が復活してしまった
スピードの呪縛
ブロックから逃れたいためにスパイカーの打ちやすいトスではなく、速さを重視してしまう
無意識のうちに少しずつ速くしてしまうトスのズレは、最初の小さなズレが大きなズレに繋がってしまう
セッターというのはスパイカーにとって命の元
セッターが自分にとって打ちやすいトスを上げてくれたらそれ以上最高なことはない
でも今の飛雄は?
「菅原」
「!」
「はい」
「出る準備しておけ。柚葵、影山観察しとけよ。今後予兆見えた時に備えてろ」
「分かりました…」
烏養くんの考えが分かった瞬間、烏養くんが烏野に来てくれた本当の有り難みが分かった気がした
「国見ナイッサ!」
「!」
放たれたサーブはネットに当たって落ちる
「落ちる前前っ」
「ふんっ」
なんとか龍が追いつきボールが上がったけど、ネット際での押し合い……!
「飛雄…!」
「押し込め影山!!」
徹くんと飛雄の戦い
「あ」
徹くんが飛雄の勢いをいなして押し返した
「!」
そのボールは烏野側へと落ちた
瞬間
ドッと音を立てて派手に飛雄が尻餅をついたのだった
「…なんかいつもの影山じゃないみたいだ…」
みたいじゃなく
"いつも"の影山はここにいない
"王様"の影山がここにいる
ちらりと見えた翔ちゃんの顔
翔ちゃんの超えたい飛雄もここにはいない
「大地!」
「ナイスレシーブ!」
焦るな焦ったら負け
思わずバインダーを握りしめる
「!」
「馬鹿…!」
思いも虚しくコンビミスで、ツッキーに上げたトスが速すぎなため大きく外してしまった
そのままコートに落ちるー…
「ふっ!」
「旭さんナイスフォロー!!」
と思われたボールは旭さんにより繋がれた
「戻ってくる!」
「チャンスボール!」
「岩泉!」
相手に渡ったチャンスボール
それは徹くんの手にかかるといとも簡単に最高の攻撃に変化する
徹くんはどこか飛雄と比べたがる
本人は嫌いといっていたり、からかったりしてるけど、本当は飛雄より優れていたいんだ
だからいろいろと見比べるんだ
それなら今の段階
セッターとして優れているのは
「徹くんだよ」
私の声はスパイクがコートに打ち付けられた音により消しさられた
ピーッ
「!…あ」
集中をしすぎて忘れてしまっていたけど
この笛の音
周囲のざわめき
プレートが1つない
メンバーチェンジ
「孝支先輩…」
このざわつきで聞こえるわけないのに
"大丈夫だべ"
声には出さないけどこっそりと微笑んできた
と同時に飛雄と交差した孝支先輩は先程の表情とは違う
少しの焦りと緊張と心配
言葉に言い表せれないけどそんな表情をしていた
そして帰ってきた飛雄
一喝でもいれー「お前を倒すのは絶対俺って言った!!!」ようかと思ったけど私の仕事ではないみたい
「それまで誰にもまけんじゃねえよ!!!」
「………………」
フーッフーッと肩を動かすほど叫んだのは翔ちゃん
飛雄がおかしいのをいち早く気づいたのも多分翔ちゃんかな
翔ちゃんが折れない子でよかった
それに比べて…
「ー試合おわってねえんだからまだ負けてねえし」
「はーいそんな変な顔しないの飛雄ちゃん」
「いてっ!」
思わず頭チョップしてみたけど、思いの外力が入ってたみたい
だって飛雄が悪いんだ
何も分からなくなってるから
「柚葵さんヒドイっすよ」
「うるさい単細胞」
「た、たん!?」
「柚葵その辺にしとけよ。影山、外からちゃんと見とけよ」
烏養くんに止められなければいろいろ言ってしまうとこだった
危ない危ない
「そんで一回おちつけ」
私も落ち着こう
久々の公式戦
大好きな大好きな
「先輩のプレー見てな」
孝支先輩のプレーを目に焼き付けるために
コートにいるあの姿がめちゃくちゃに、胸が張り裂けそうになるほど大好きなんだ

そんなウチの副主将の先輩は皆にどんな言葉をかける?
どんな行動を起こす?
コートに入っていく2番と書かれた背中を見守って
「ハーイ」
ドッ
「ハーイ」
じょり
「ハーイ」
ズス
「ハーイ」
ビッ
「ハーイ!」
ばちーんっ
…いたら、孝支先輩がいきなり皆を小突き始めた
効果音がすごい
人によって様々な音を出す小突きだったから…
夕はハイタッチだったけど
孝支先輩の皆の緊張のほぐし方が独特すぎる…!
「大丈夫!一本切ってくべー!!」
反則です孝支先輩
それは卑怯です
駄目ですそんな笑顔見せられたら…!!
「柚葵、バインダー歪みそう」
「……すみません潔子さん」
危ない、我を忘れそうになった…
顔が赤い自信もある
「柚葵顔赤けーぞ」
「ほっといて烏養くん……」
やっぱり赤かったんだ……
それにしても、こうして試合をする孝支先輩を眺めれるのが青城戦だなんて運命だろうか
でもこの状況、青城側としては孝支先輩は未知なる選手
そしてこのタイミング…ノーマークだった選手が出てきて警戒しているはず
練習試合では飛雄だけをマークしてたみたいだし
多分徹くんは今孝支先輩を分析してるはず…
あ、やっぱり……孝支先輩を見る徹くんの目
長年見てたら分かるその変化
きっと今わかる事は、高さがないからスパイクのときはそこが狙い目…とでも思ってるんだろうな
岩ちゃん横にいるからそれを伝えてるかな?
「ッサァー!」
でもきっと孝支先輩は気づいている
自分の体格で狙われること
サーブが青城から放たれ、それを大地さんが綺麗にレシーブし、孝支先輩へと繋いだ
「田中!」
「ダッシャイ!!」
孝支先輩から放たれたボールを龍が叩いた
しかし、それを青城はリベロがレシーブで繋げた
「岩ちゃん!」
「レフトレフト!」
そのボールが徹くんの手の中に収まり、そこから岩ちゃんの攻撃へと流れる
岩ちゃんは狙いを定めて上へと飛んだ
「!岩」
焦った徹くんの声
やっぱり孝支先輩のストレートをぶち抜くつもりだったんだろうけど
「!」
孝支先輩の方が一枚上手だった
ガガンッと豪快な音が鳴り響く
「ドシャット…!」
ブロックされたボールが青城側のコートへと勢いよく落ちる
直前に孝支先輩の位置を切替したツッキーによって
「ナイスー月島!」
「飛雄ちゃんのときと違って、ツッキーがいいように戸惑ってるの面白いね」
「飛雄ちゃんって呼ばないでくださいよ…!」
「あれ?徹くんにびびっちゃった飛雄ちゃーんがそんなこと言えるのかな?」
「っぐ!」
『(柚葵/柚葵さんすげえ、あの影山が言い返してない…!)』
「元気出せよ影山くん」
「!?うるせえボゲェ!!!!早くコートいけ!!」
「ホギャァ!!!」
「こら!なにしてんの飛雄!!」
コートに戻る翔ちゃんにからかわれた飛雄は、勢い良く翔ちゃんの背中を叩いて送り出した
……このコンビ…仲がいいんだか悪いんだか本当に訳がわからない
そんな翔ちゃんを見つめる飛雄を見ながらスコアを見直す
12-20
8点差…この差はどうにかしなくては
でも、このセットは孝支先輩のプレーできっと点差縮まるとは思う
でも、次のセットには青城側は孝支先輩を攻略してるはず…
そのためには、まだ青城をかき乱している変人コンビに復活してもらうのが一番
早くいつもの飛雄に戻って

サーブレシーブが完璧に行われ、青城の攻撃
完璧に徹くんの元へと流れたボールは一瞬のうちに攻撃へと繋がる
ブロックがついてない…!と思った瞬間
「!」
にゅっと出てきた翔ちゃんにより、ブロックが決まった
連続ブロックポイント…!
翔ちゃんが考えて飛んだ……いや、多分あれは
「今の多分スガさんの指示だなっ」
「マジっすか!?」
試合中じゃ分からないこととかが、外からみてると分かることもある
それが今の攻撃へと繋がったんだ
「スゲーさすが3年生!」
すごいな、孝支先輩…常に戦う事を前提として動いてる
「テンションがガッと上がりましたねーっ」
「……おう…………」
チラリと飛雄を見る烏養くん
分かり易いのが売りだけど、ほんとに分かりやす過ぎて
「……ふふっ」
「んだよ、何笑ってんだ柚葵」
「だって烏養くん分かり易い」
「んあ!?」
「大丈夫ですよ」
「え?」
「プライドの高そうな影山君がベンチへ下げられて、ヘソを曲げてしまわないか心配だったのでは?」
「……………」
武ちゃんにもバレてる…
なんとも言えない顔してるから武ちゃんに言われた通りなの肯定してるよ烏養くん
「大丈夫ですよ。影山君の強さ上手さの要因は、高いプライドとでもそれを上回る上達への貪欲さだと思うから」
単細胞も手伝ってかな?
「月島も一本ナイッサー!」
ツッキーのサーブは威力がない
青城の攻撃がしやすくなってしまう
「ナイッサー」
思った通り完璧にレシーブされたボールは岩ちゃんによ強烈なスパイクへと変わる
ブロックが着いていないそのボールはコートに落ちると思われた
「ナァイスレシーブだァーッ」
直前、大地さんによりボールは次へと繋がれた
「飛雄じゃないんだから神業速攻は無いよっ」
翔ちゃんが飛び出し警戒した岩ちゃん達を徹くんが呼びかける
孝支先輩に神業速攻が使えないとしても、これまで努力してないわけがない
ちゃんと神業速攻に負けない武器だって持ってる…!
『!!!』
「(スガはずっとコートに立った時のことだけシミュレートしてきた、烏野の)」
孝支先輩は飛雄にただでポジションを譲ったわけじゃない、正真正銘烏野の
もう一人のセッターだ
ノーマークだった青城に一泡吹かせてやる!
「ここ一本切るぞ!」
『オオ!!』
そこからは取って取られの繰り返し
点差はなんとか7点差にまで縮めて
15-22
けどここで
徹くんのサーブ
あと3点で1セット先取されてしまう
ここはなんとしてでも徹くんのサーブを止めたい
練習を思い出せ
動きを思い出せ
「来いやァァァ!!」
「オーラァァイ!!!」
「任せろ!!!」
「っ!」
駄目……!!
徹くんから放たれたサーブは絶妙な位置…!
『!!』
龍と夕の間
案の定どちらも取る気満々で突っ込んだ為、お互いに引っ込んでしまいお見合いしてしまった
さすが……見てるなぁ徹くん…!
「悪ぃ!俺が行く場面だった!」
「俺も出過ぎたスマン!」
さあ……次はドコ来る…?
「っ!!」
「前だーっ」
皆が強打が来ると思い後ろに構えてからの
前へゆるく落とす軟打…!
ほんと、いい性格してる…
とはいっても私もそうするとは思うけど……こういうところは及川家の血筋だなと嫌でも感じる
徹くんを見ていると現役時代の自分を思い出す
テニスとバレーは似ている
どちらも共通して言えることはサーブだけで得点を稼ぐこと
相手に攻撃のチャンスすら与えなければ
それは最大の最高の武器となる
「だから私もサーブを磨いた…」
「柚葵…?」
「…サーブだけで25点稼げたら最強だよね」
「…まあな。俺にとっちゃあ10点でも最強だがな」
「ははは」
……私のことか…?
「これで決めるぞ!!」
『オオ!!』
『!』
今度は大地さんと旭さんの間…!
まずい、どっちが
「俺が取ォォォる!!!」
「!!!ハイッ」
心配はなかったみたい
「大地さんナイスレシーブ!」
大地さんが繋いだボールを孝支先輩がトスを上げ、旭さんがバックアタックで攻撃を仕掛けた
そのボールはブロックを掠めたが、レシーブされ烏野側へと返ってきた
「日向ダイレクトだァァア!!」
飛雄の興奮した叫びが響き渡る
……その前に翔ちゃんにダイレクトできるの…?
「ヘアッ!」
予想通り…翔ちゃんはへろんとした威力のないボールになり青城側へと落ちる
「へたくそーっ!!」
「うっせーなーもー!!」
ねえ、何回も聞くけど仲いいの悪いの変人コンビ…
「ふんっ」
そのボールを一ちゃんがレシーブをして青城の攻撃
ブロックは翔ちゃん1枚
「!」
「あの10番また止めたーっ!!!?」
「後ろォッ!!!下がれーッ!!!」
翔ちゃんの手によりブロックされたボールは
ピピーーーッ
「あ、アウト…」
「くっそ」
惜しかった…!

コートチェンジでベンチの場所を移りながら皆にドリンクを差し出す
スコアを取るだけが仕事じゃないし
その中烏養くんが周りの声援に負けじと大きな声で叫んでいるのがこちらまで聞こえてくる
「2セット目もこのままのメンバーで行く!」
『オス』
「ーで一番厄介なのは及川のサーブなわけだがー守備を少数精鋭に切り替える!」
なるほど…あまり試したことはないけど……勝負に出るんだ烏養くん
それより、少し孝支先輩と飛雄の様子が気になる
「菅原さん!」
「おう!?」
「金田一の…えーとらっきょ………あー」
大丈夫そう……かな!
「…菅原が入ることのメリットは、他の連中が一度平常心に戻るとか…メンタル的な部分が大きいと正直思ってた」
「………」
「けど、相手が警戒しているであろう影山日向のコンビ攻撃を引っ込めて、菅原っていう完全未知の司令塔を入れた事で、相手は確実に混乱してる」
「影山君とのギャップですね」
「うん」
「それに当の菅原、格上の青城相手にして冷静に奇襲を成功させてる」
「これは他の試合になってもきっと通用するぞ…!」
ということは…これは孝支先輩にも望みがある……?
そういえば孝支先輩のタオル渡してない……
孝支先輩は?っと……いた
「あ、こう」
「俺だっていっぱい試合出たい」
「っ!」
「おっ俺もですケド…」
なんだろう、この話…聞いてた方がよさそう?
「でも今、コートに入ってみてさ、相手はデカいしスパイクは早速俺のトコ狙われるし正直ビビる。前なら萎縮してた。でもー…今は後ろにお前が控えてる」
「!」
「すごく頼もしい」
そう…思ってたんだ孝支先輩
「俺が入ってる時の得点、お前が入っている時の得点、合わせて烏野の得点だ。俺は俺なりのベストな戦いを、お前はお前のベストを
ーそれで青城に勝つぞ」
「!………オス!!」
勝つために貪欲だからこそ目が離せないんですよ、孝支先輩…
「……そろそろ2セット目始まりますよ?」
「!柚葵…」
「孝支先輩、タオルです」
「あ、ありがとう………どこから聞いて?」
「…俺だっていっぱい試合出たい…のところからですかね」
「……ほぼ最初…」
「孝支先輩の本音がしれた気がしました」
「………」
「やっぱり孝支先輩は孝支先輩ですね!」
「へっ?」
「かっこいいです」
「っ!?」
思わず本音を言ったけど後悔してない
「凹んでねえよ!!」
「!」
たたま恥ずかしいのは恥ずかしい…!
と、少し顔が赤くなり始めた時、飛雄の叫び声が聞こえた
…飛雄…ナイスタイミング
「なんだよ引っ込められて可哀想だなーって思ってやったのに!」
「てめーの心配しろ!さっきのしょぼいダイレクトなんだ!」
「う、うるせえっ初めてだったんだっ」
「…オイ」
見かねた烏養くんが私達に止めるよう求めてきた
「あ、アレは大丈夫な方の喧嘩です」
「………それより龍と夕のあの茶化しを止めるべきかと」
あの二人の後ろでやったれとかボコボコだとか言ってるし
「俺が入ったらまたガンガン打たすから覚悟しとけ!!」
「オォッ」
さて、これから
「行くぞ!!」
『オオッ』
第2セットが開始される
「柚葵、顔赤いけど大丈夫?」
「あ、大丈夫です!」
「?無理はしないでね」
「!はい」
潔子さんに心配かけさせちゃった……よし!
さあ、さっきの事は忘れて試合に集中
まずは徹くんのサーブから攻略しないと烏野の勝ちは見えてこない
その為の少数精鋭……烏養くんのアドバイスは
「ーで以上が及川サーブの時のフォーメーションだ、いいか?」
『ハイ!』
「ジャンプサーブ以外の奴は大体後衛セッターの出てくるところを狙ってくる。頭入れとけよ!」
『ハイ!』
「1セット目にサービスエースで獲られてた分をちゃんと拾えば点差はぐっと縮まる!柚葵との練習を思い出せ!1セット目で拾えなかったサーブは2セット目では絶対に拾う!そのつもりで行け!」
『ハイ!』
こっち(烏野)は徹くんのサーブ対策のためローテを回した
対する青城は1セット目と同じみたい…よかった
これで上手くいけばいいのだけど
何度も思うけど徹くんのサーブをまず攻略しないと烏野に勝ちはみえない
それともう一つ
「ナイスレシーブ!」
「ナイス月島ァ!」
「あ、ハイ」
うちの天才を王様の座から下ろすこと
まだ一人でなんとかしようとか、苦手な人にはトスをあまり上げないとかまだまだ我が儘なプレーが目立つ
孝支先輩のように一人一人の調子とかをプレーの中で気にすることがない
……翔ちゃん以外にはだけど
まだスパイカーにとって100%の力を引き出すセッターにはなれていない
そんな飛雄がセッターの力を100%引き出している徹くんにそのままで勝てるわけもない
張り合えない
孝支先輩のプレーをみてそれに気づいてくれたら
飛雄は本当に理想のセッターに近づくと思う
チラッと見えた飛雄の横顔は
まだなんとなく受け入れないようだった
「わぁぁっ」
『!』
「いいぞいいぞハジメ!押せ押せハジメ!もう一本!」
「岩泉さんナイスキー!」
2-2
「あっ!」
「!………」
「このタイミングで徹くんのターン…」
と同時にこちらも仕掛ける
後衛には大地さんと夕のみ
「サーブレシーブ…二人体制…!」
どこからかそんな声が聞こえたー…
そして先ほどの烏養くんの言葉を思い出した

ーーー
「一番厄介なのは及川のサーブなワケだがー守備を少数精鋭に切り替える。今まではー」
「!」
そんな時すかさず潔子さんがボードを用意した
すごい、ボードを烏養くんに渡すの潔子さんの動きに無駄が無い
見習わなければ…
「どのサーブに対してもサーブレシーブ四人体制だったが、及川の強烈なジャンプサーブにはー二人で対応する」
このフォーメーションはレシーブが安定してる二人にしか出来ない事
「1セット目終盤でもお見合いがあったが、あの超高速サーブを相手にした時、一瞬の躊躇い、いや…迷いが命取りになる。で、レシーブに秀でた西谷・澤村の少数二人で対応しようと思う」
この二人以外は思いつかない
「練習では一度もやってないフォーメーションだ。でもお前らならー」
『やれます』
「かっけー!!」
翔ちゃんの言葉に同感
即答で答える二人はかっこよすぎる……!!
「よし!間に来たサーブをどう取るかは予め決めちまえ!あとは声な!」
『ハイ!』
「あと、さっきもあったがフェイントでゆるく前に落とされた時は、他の連中が絶対にカバーだ!」
『オス!!』

ーーー

そう、遂にこの時が来た
徹くんのサーブに合わせて1セット目から少し回してスタートした
このローテーションをここに持ってくるため
レシーブに秀でた夕と大地さん
前には攻撃力の高い龍にバックアタックで攻められる旭さん……
今烏野が徹くんのサーブに攻めで挑めるのはこのフォーメーションだけだ
ただ、練習なしでの一発勝負……
徹くんに通用すれば烏野の武器になるが、通用しなければ自信が削がれる
だけど、このサーブを攻略しなければ
「青城には勝てない」
『来い!!』
徹くんから放たれたボールはギュルッと音を立てながら烏野へと高速で落ちてくる
「大地さん!!!!」
「っしィ!!」
「大地ナイスレシーブ!!」
そう、上がった…!!
大地さんが上げてくれた……!!
この1本、この1本で徹くんのサーブを切るというのは重要な意味がある!
これを決めれれば烏野は波に乗れやすくなる!
孝支先輩は誰に上げる……?
きっと
「田中!!」
自ら徹くんの流れを絶ち切った龍に託しますよね
期待に応えるべく龍はブロックに当てながら、強烈なスパイクを青城のコートへと叩きつけた
「うおっ」
『しゃあああ!!』
流石大地さんと龍……
それに孝支先輩だってこのポイントをアシストした
一段と輝いてる
「まずは第一関門突破…ですかね!?」
「このあと何回も通らないといけない関門だけどもな……でもこれでマトモに戦えるスタートラインだ…!」
2-3
これで一歩リード
「!」
「ん?なに、烏養くん…?」
いきなり烏養くんがこちら側をみてニヤリとしている
………不気味だ
「いや、あっちも問題なさそうだからな」
「?………あぁ、飛雄」
「柚葵の喝がいると思ったんだが大丈夫そうだ」
「烏養くん私のことなんだと思ってんの」
「このフォーメーションも今後使えそうだし、柚葵のサーブがあれば練習もできる…!」
「ねえ、聞いてる?無視なの……?」
「食らいついて放すな!!!!」
完全無視だよね、烏養くん
なんだろ、なんか徹くんになった気分…
これが……争えぬ血ってやつ?






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