Agapanthus




〜〜♪
体育館に響く音楽
まだ翔ちゃんと飛雄しかいないから、2人とも私の方を見てきた
その通り、私のスマホから音が鳴り響いていた
この着信音はあれだ、やばいやつだ
「ごめん!ちょっと出てくる!」
2人が頷いたのを確認し、体育館から出てスマホの通話ボタンを押す

ーー…

「もしも」
「柚葵!!?」
五月蝿い面倒くさい鬱陶しいが3つ揃う徹くんだ
朝早くから大きな声で叫ばれて機嫌がいいこなんていないからね、徹くん
私今ものすごく機嫌悪いからね、徹くん
「……なに」
「最近全く連絡してくれないじゃん!!もう気になって気になって烏野に行こうかと思うくらいだよ!?」
「あー…」
確かに
最近朝早いから夜はすぐ寝るし、夕方は部活だから徹くんに連絡することがなくなった
そもそも彼氏彼女じゃないのになぜ連絡を取り合うのかは不思議だけど

「……なにかあった?」
「!」
「最近朝早いらしいし、夜はすぐに寝てるっぽいし何してるのかなー?」
うん、怖い
機械から聞こえてくる声が怖いよ徹くん
てか、なんで知ってるのさ
「柚葵、俺はお前が思ってる以上に柚葵のこと分かってるよ」
「彼氏か」
「彼氏!うん!!俺柚葵の彼氏!」
「………………」
もう、何も言うまい
あ、そういえば徹くんは飛雄が烏野に来たこと知っているのだろうか
「ねぇ、徹くん」
「なんだい愛しの柚葵」
「…………………」
「ごめん!!調子に乗りすぎたから無視しないで!!無言で切ろうとしないで!でも彼氏は本気!!」
「あー、うん、どうでもいいから話戻すよ」
いつもの冗談に付き合ってる時間はないし、そろそろ孝支先輩が来てしまう
「飛雄ちゃんが烏野に来たことは知ってる?」
「……あの飛雄ちゃんが烏野?」
「うん、烏野でバレーしてる」
「………ふーん」
あ、雰囲気が変わった……声のトーンが下がってる
さっきのようなおちゃらけた徹くんではない
バレーをする時のような真面目なイケメンの時の徹くんだ
「でも」
「?」
「なんで接点のない柚葵が飛雄ちゃんのこと知ってるの?」
「……それは…」
ヤッテ……シマッタ
そうだ、バレー部のマネしてないと飛雄との接点は皆無に近い
3年と1年ならまだ接点があったと思う
けど、2年と1年が接点あるかって言われたら思い当たらない
自動販売機とかその辺に行く時は別で……
そうだ!
「自動販売機で何にするか迷ってる時に飛雄と再会したの!」
「…………飛雄?」
終った
オワタ
end
ばか!自分のばか!
焦って飛雄って言ってしまった!
「あ、あの、飛雄に飛雄ちゃんって言ったら辞めてくれって言われて……」
「…そう」
ああ、徹くん怖い
「ま、いいよ。飛雄ちゃんには別の形で苦しんでもらうから」
語尾にハートがつきそうな徹くんは本当にうざい時と怖い時とがあるけど、これは怖い時だ
「そ、そろそろ準備があるから切っていい?」
「また電話してきてくれるならいいよー」
「う、うん」
「じゃ、俺も練習してくる」
「無理しないようにがんばって、バイバイ」
今日の私生きていけるだろうか
この電話…心臓に悪すぎる

ーー…

授業も終わり、何事もなく無事に1日をとりあえずは終えた
この後部活だけど……
だけどすごく眠い……
「ふ」
『あ〜〜〜〜あ』
孝支先輩と龍は豪快に欠伸をした
孝支先輩が可愛すぎて悶えていたのを潔子さんに見られてしまった
不覚!
でも、潔子さんは引くことなく頭を撫でてくれる
一生ついて行きます
「眠そうだなお前ら」
思いっきり肩を揺らしてしまった
大地さんは心臓に悪い!
龍がヘマをしないように祈りつつ聞き耳を立てた
「えっそぉ!?勉強のしすぎかなァ〜?」
「おっ俺も勉強のっ」
いや、龍に限ってそれはない
ほら!大地さんの視線が疑いの視線だよ!?

「まぁ、良いや。今日から入部する1年紹介するよ」
『?』
「よろしくお願いしまぁーす!」
「なっ」
「1年4組の月島と山口だ」
「……月島です」
「山口忠です!」
ああ、あの時入部届ちらりと見たけど、この二人だったのか!
確か……
「ほたるって書いて"けい"って読むんだっけ?月島蛍くん」
『!?』
あれ?2人して驚いてる、え、間違った?
「ご、ごめん!間違えたかな……?」
「…………合ってますけど、フリガナふってないのに何故分かったんです?」
「え、あ、うん。なんとなくだけど……ほたるって感じでもないかなーって思って」
「ツッキー!」
「五月蝿い山口」
「ごめんツッキー!!」
なんだか良く分からないけど2人とも楽しそうな子だなぁ……
とりあえずツッキーと山口くんって呼ぼう

ーー…

「………けっ!なァ〜んか気に入らねーなさっきの新1年!」
「龍ってば基本初対面な人達気に入らないんでしょーそういう習性じゃない?」
「習性って……」
「でも…予想以上の来たな……明日大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですよ、俺だって入るんスから!!」
「……そうだな、影山もいるしな」
「……………」
龍がなんとも言えない顔をしてる、そりゃそうだよなぁ……カウントされたかされてないかわからないし…
うん、やっぱり翔ちゃんがキーなんだよなぁ
「でもさ、影山ってな〜んか中学ん時より大人しくない?」
「えぇっ!?どこがスか!?クソ生意気じゃないスか!」
「………」
飛雄すごい言われようだなぁ
「中学校の時はもっと、こう……絶対的自信を持っていたというか、破天荒というかー…」
「?どっちみちクソ生意気です」
「お前に聞いたのが間違いだった!」
「……………」
孝支先輩スパっというなぁ
「まだ外暗いなぁ」
「夏になるまではこの暗さですね」
「柚葵、危ないから今日送るべ?」
「!」
まさかの孝支先輩からの申し出
だけど、悪いし……
「大丈夫です!孝支先輩も毎日毎日疲れてると思いますし、真っ直ぐ帰ってもらったほうが……」
なにより、送ってもらった時徹くんがいたら本当に面倒なことになる
非常に面倒くさいことになる!

「……柚葵も早朝練習で疲れてるだろ?見てるだけでも危なっかしいから大人しく送られなさい」
「!」
耳元でそんなこと言われたら断れない
「お、お願いします………」
「だべー!」

ーー…

「本当にありがとうございました!!」
「いいっていいって」
結局孝支先輩に送ってもらい、帰りに肉まんも奢っていただきとても申し訳ない
「楽しかったし無事に送り届けれてよかった」
「!」
そんな笑顔で笑いかけないでください孝支先輩
自惚れてしまう
孝支先輩はそんな気が無いのは分かってる
妹と同じ感覚なのだと思う
だから余計苦しくもなるし
好きになるんです
いつかこの想い伝えられたらいいのにな

「じゃ、また明日な」
「……はい」
明日か
2人は努力したから勝って欲しいけど
今さらになって飛雄がセッターになってしまったら………と思うと乗り気になれない
歩きだそうとした孝支先輩は私の様子がおかしいと思ったのか、足を止めてのぞきこんできた
「ん?どした?」
「!あ、いえ」
「影山のこと?」
「………」
「…もしも柚葵が俺の事で悩んでるんだったら、変な考え捨てて欲しい。これは俺と影山の問題になると思うから」
そうだ……私が考えただけで何か変わるってことにならないし、邪魔になるだけだ
「………」
「俺は負ける気はないよ。ちゃんと分かってる」
「!」
「柚葵は考えずに俺達をサポートしてくれるだけでいいんだよ。言いたいことはいってくれたらいいから」
孝支先輩の手が私の頭に乗っかる
「それで…孝支先輩は飛雄に負けませんか?」
「!うん、負けない」
その言葉で安心した
私だってプレイヤーだった
下から優秀な子がきて焦って、気持ちで負けたこともあった
その時の思いは今でも忘れられない
忘れたくない
私の代わりに後輩が私のポジションを奪うということはテニスではないけど、その代わりに番手が後輩より下になったときは悩みに悩んだ
負けず嫌いではないけど、プライドがズタズタにされたのだ
そんな時助けてくれたのが徹くん
飛雄くんが来てから徹くんも私と同じ思いをして立ち直った
そんな徹くんに支えられて私も立ち直り、後輩を見返した
そんなことがあったから孝支先輩には挫折して欲しくなかったけど…
孝支先輩は気持ちで負ける気が既に無いんだ
やっぱりかっこいいな
「それを聞いて安心しました!また明日です!」
「うん、また明日な!」
孝支先輩はまた歩き出した
私は孝支先輩の背中を見えなくなるまで見送った
というか
徹くんに見つからずに済んでよかった……


ー翌
土曜日
3対3当日
「潔子さーん!」
「…柚葵」
「おはようございます!」
朝一に潔子さんに会い、抱きついた
潔子さんは難なく抱きとめてくれた
「!潔子さんと柚葵が抱きついている!?」
「毎朝の光景だろ?」
またまた龍が五月蝿いけど、いいだろー!って自慢しておこう
「よーし、じゃあ始めるぞ!月島たちのチームには俺が入るからー」
「ええっキャプテンが!?」
「ははは!大丈夫だよ!攻撃力は田中の方が上だから!でも手は抜かないからな〜!」
「………」
うん、大地さん本気だ
「あーオホンッ」
「?」
ツッキーがワザとらしく咳をした
何か言う気か…な……?
「小さいのと田中さん、どっち先に潰……抑えましょうかあ。あっそうそう、王様が負けるとこもみたいですよねえ」
うん、ツッキーなかなかにいい性格してるわ
わざと聞こえるように言うなんて
煽ってるなぁ…
「ちょっ…ツッキー聞こえてるんじゃ……?ヤバイよっ」
「聞こえるように言ってんだろうが。冷静さを、欠いてくれると有難いなあ」
「月島、良い性格の悪さしてるね?」
「ーとくに家来達に見放されて一人ぼっちになっちゃった、王様が見物ですね」
「………………」
飛雄は言い返さない
言い返せないんだ
ああ見えて飛雄も、仲間のことは想ってたから
気持ちが先にいっちゃってただけだからな、相当こたえたとおもう
「ねえねえっ」
「!」
「今の聞いたあ??あ〜んな事言っちゃって、月島クンてばもうホント、擂り潰す!!!」
「!?」
龍の一言でどうやら飛雄も元に戻ったっぽい
流石龍だ

そして3対3が試合開始された
「そォォォらァァア!!」
「!」
今日の龍も絶好調で、ブロックを突き飛ばした
「おおっあのデカい1年フッ飛ばした!」
「シャァァアシャーーーッシャラァァァ!!」
うん、でも五月蝿い
上脱いでるし、まだ始まったばかりだというのに
「田中うるさい!喜びすぎ!」
「まだ1点だろッ」
「おい脱ぐな!!」
「田中を煽ったのは失敗だったカモね〜…」
「チッ」
うん、煽ったらだめな相手だわ
逆にやる気を出してしまうのが龍だけど
ってか、本当に
「龍!!いい加減うるさい!」
「……すまん」
ーー…

「日向!!」
「おおっ」
龍がレシーブして、飛雄がトス、そして翔ちゃんの番
翔ちゃんが飛んだ
『!?』
試合を見に行っていないみんなは、翔ちゃんが飛ぶところを見たことがないので、小さな雛鳥が飛んだのを驚いて見ていた
潔子さんも目を見開いてみてた
けど
高い高い月島のブロックに捕まってしまった
「昨日もビックリしたけど君、よく飛ぶよね!それであとほォ〜〜〜んの30cm程身長があればスーパースターだったかもね」
「も、もう一本!!」
改めて挑戦する翔ちゃんだけど
「!あー…」
「アラ〜…」
「………………………」
「またブロック………」
「これで何本目だぁ?」
「田中の方はけっこう決まってるけどなぁ」
阻まれるブロックに打つ手なし
「くそ…」
「ほらほらブロックにかかりっぱなしだよ?」
あえてそれを翔ちゃんに言わずに飛雄にいう月島
ほんと、いい性格してるわ
「"王様のトス"やればいいじゃん敵を置き去りにするトス!ついでに仲間も置き去りにしちゃうヤツね」
「…うるせえんだよ」
「山口ナイッさぁー」
飛雄がなにやら言い返そうとしてる
言われっぱなしは癪だろう
サーブは飛雄達のコートに届かず、ネットのしたをボールがコロコロと転がってきた
それを次のサーブである飛雄が掴んだ
「勝ってやるよ」
「行けっ殺人サーブ!」
勝利宣言した飛雄には悪いけど、コントロールできてないサーブで大地さんのとこに落ちるサーブは決まらない
「!?」
大地さんは飛雄のサーブの威力を潰し、月島のところへと返した
「山口」
「任せろツッキー!」
にしても、本当に山口くんは月島大好きだなぁ
私だんだんと築島腹立つからツッキーって呼ぶのやめようと思ったけど、苛立つこそツッキーってよんであげよう
「くそ…」
「…大地さんの武器は攻撃よりあの安定したレシーブだ…守備力はハンパねぇぞ」
「…何点か稼げると思ったか?」
「?」
「…突出した才能は無くとも、二年分、お前らより長く身体に刷り込んで来たレシーブだ。簡単に崩せると思うなよ」
「……………………」
飛雄は図星だったようで、顔を歪めながら大地さんを見ていた
そう、二年分
その二年分が大きいのだ
「ホラ王様!」
「!」
「そろそろ本気出した方がいいんじゃない?」
ほんと、すごい性格だぞツッキー
「ムッ!?なんなんだお前!昨日からつっかかりやかって!!王様のトスってなんだ!!」
「君、影山が何で"王様"って呼ばれてるのか知らないの?」
「!」
その言葉で悟った
ツッキーあの試合見に来てる
そして、飛雄の王様っていう本当の意味も知ってる
「?こいつが何かすげー上手いから……他の学校の奴がビビってそう呼んだとかじゃないの?」
「ハハッそう思ってる奴も結構居ると思うけどね」
「?」
「…月島!そういうのは今言う事じゃないとおもう」
私が声をあげたからみんなの視線が私に向く
もちろん飛雄の切なそうな視線も
「それを今言ってどうするの、試合に集中しなさい」
「今後チームなんですからいずれ分かりますし、今言っておく方がタメじゃないですか?」
うん、こいつの性格の悪さ舐めてたわ
徹くんよりは悪くないけどその次に匹敵するわ
「…噂じゃ、"コート上の王様"って異名北川第一の連中がつけたらしいじゃないですか」
「…………っ」
そうだ、飛雄がチームメイトからつけられた嬉しくもない異名だ
「意味は確か 自己チューの王様 横暴な独裁者でしたっけ?」
「…………」
ツッキーは私に確認しながら語るから、みんなの視線がツッキーと私を交互に見てるのがわかる
なにも言わない私に、皆は肯定しているのだと思ったようだ
「噂だけは聞いたことありましたけど、あの試合を見て納得いきましたよ」
やっぱりツッキーはみたのだ
あの飛雄の最大のトラウマ
「横暴が行き過ぎてあの決勝、ベンチに下げられてたもんね」
「!」
気持ちが空回りしてしまった飛雄は、皆に合わせることを忘れ、自分に合わせるように皆に言い放った
その結果、トスを上げたところには誰も立っていなかった
拒絶されたのだ、飛雄は
そんな飛雄とチームメイトが一緒にプレイできるはずがなく、飛雄はその試合ベンチに下げられ試合をすることはなかった
「…………」
「速攻使わないのも、あの決勝のせいでビビってるとか?」
「…てめえ、さっきっからうるっせんだよ」
「田中」
大地さんは何か言おうとした龍を止め、黙るよう視線を送った
「…ああ、そうだ。トスを上げた先に誰も居ないっつうのは、心底怖えよ…」
「…………」
「とび」
「えっでもソレ中学のハナシでしょ?」
飛雄に声をかけようとした瞬間、翔ちゃんが飛雄にいいはなった


「おれにはちゃんとトス上がるから、別に関係ない」


その言葉に飛雄は呆気にとられて、珍しく目を丸くさせてる
「どうやってお前をぶち抜くかだけが問題だ!」
やっぱり翔ちゃんは直球に思いをぶつけてくる
辛い中学生活があったからこそかもしれないけど
そうだね、今は今を大切にしなきゃなんだよね
「…………ふ、ふふふ」
「柚葵?」
急に笑い出した私を不思議そうに孝支先輩が見てくる
「飛雄!」
「!」
「過去に囚われてないで、思いっきりぶつかったらいいじゃない!」
「そうだぞ!月島に勝ってちゃんと部活入って、お前は正々堂々セッターやる!そんでおれにトス上げる!それ以外になんかあんのか!?」
「〜〜〜〜〜…」
飛雄は翔ちゃんの言葉になんとも言えない表情をした
そんなとき、なにかツッキーが呟いていたけど、こっちまでは聞こえてこなかった
そして、試合が再開された
「チャンスボール!」
「田中さん!」
「任せろ!」
龍はキッチリとレシーブを影山に返した
『俺に上げろ!』
龍と翔ちゃんが同時に叫ぶ
飛雄はどちらに上げるかを迷っているようだけど、多分龍に上げる

「田中さ」
やっぱり…龍に
「影山!!」
「!?」
そこにだれもいないと思われた場所には


「居るぞ!!!」
「っ…!」


小さな雛鳥がいた
「ふぐっ」
とっさにボールのトスを変えた飛雄に対し、翔ちゃんはからぶらないようボールに手をかすめた
「おおっ!?」
そのボールは威力がなく、フェイントみたいな形でへろんっとコートへ落ちた
「!?」
「アッブねー…空振るトコだった……」
「お前!何をイキナリ!!」
「でもちゃんと球来た!!!」
「!」
「中学のことなんか知らねえ!!おれにとってはどんなトスだってありがたぁ〜いトスなんだ!!おれはどこにだってとぶ!!どんな球だって打つ!!だから」
この進展は

「おれにトス、持って来い!!!!」

嬉しい誤算

最強コンビへの一歩だ






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