※魅夜様へ




 この時期、金星がキレイに見れるらしい。そういえばオリオン座も出てたな。
 暇だったから夜中に家を抜け出してコンビニへ。この季節の風は相変わらず冷たく、春がちゃんとくるのか心配になる。吐く息が黒い世界に溶けていって、ああ、冬だな。手にぶら下がった見慣れたコンビニのビニール袋。中には今さっき買ったスナック菓子ばかり。ガサガサ、そんな音は嫌いじゃない。空いている手で携帯ぽちぽち押しながら友達と今度出かける計画を立てる。
 もう1度空を見た。真っ暗で星も少なくて、雲がいっぱいあるけど、雲の間から見え隠れする月が私は好きだ。


「苗字さん?」


 携帯を閉じたら、背後から飛んできた私の名前、にびっくりすると同時に振り返った。
 やっぱそうや、とか良いながらにこにこ近づいてきたのはただのクラスメイト。嘘。ただのじゃない。大物だ。クラスの人気者。クラスの星(忍足くんじゃないよ)。


「家出?」
『違う違う。ちょっと息抜きに買い物』


 嫌いな訳じゃない。むしろ、羨ましいというか。誰にでも気配りが出来て、好かれる。外見も内面もよくて、そんな白石くんは嫌いじゃない。でもそれ故に話しかけにくいというか。2人で話し合ったことは1度もない。私にとっては、まぶしすぎて近づけない。そんな存在。
 フーン、と納得したような顔をして買い物袋を除いてきた。うわ、イケメン。


「あれ?自分、この前クラスの中心でダイエット宣言してたやろ?」
『あー…やめた』
「やめたて、あんな人数の前で」


 かっこよく白石くんが笑うたびに白が黒になって消えていく。私もつられてちょっと笑ったけど、やっぱり白い息がふわふわと暗闇に消えていった。もう話すこともないし、じゃ、と付け足そうとしたら白石くんがまるで帰さないとでもいうように先に口を開いた。そうだったらいいなとか思ったり思わなかったり。自分が分からない。


「そのとき、俺、大笑いしてもーてなぁ」
『そんなに?』
「苗字さんっておもろいなって改めて思ったわ」


 改めて、という言葉にひっかかったけど、寒いからあえて問わないことにした。白石くんはよく周りを見ている。だからみんなに気配りもできる。やっぱり羨ましい。


「やっぱ好きやなーって思ったわ」
『…は?』


 体の力がスッと抜けたような気がした。手から滑り落ちそうなビニール袋を持ち直す。目も口も、空いているのかさえ分からないくらい驚いた。ここからどうすればいいのか。頭が真っ白になって、何かを言おうとしても考えられなかった。白石くんから目が離せない。白石くんの目も私を捕らえて離さない。周りの音が小さくなった気がした。…まてよ?もしかしたら白石くんは、私のおもしろさ、つまり発言とかが好きなんじゃないのか。うん、そうだ。なに早とちりしてるんだ私。一回深呼吸でもしよう。白石くんが私を見てるのは期待の目だろう。おもしろいこと言わないかな、って。
 頭の中でいろんな考えをぐるぐるさせていると、白石くんが私の頭をポンポン、と撫でて笑った。


「いきなりごめんな、でも今って絶好のチャンスやん」




冬の出来事
(星が見えないと思ったら君か)


(2011/02/19)
魅夜様のみお持ち帰り可能!



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -