バシャバシャと水が流れていく。
 毎回悔いる人を殺すと言う感覚。
 麻痺できない自分が異質なのはよく解ってる。




『あー』




 血溜まりの様な浴槽に身を深く沈める。
 新しい水を注いでも消える事の無い赤はまるで自分の罪のようで。
 柄にもなく詩的な言葉を連ねていると、誰かが浴室に近づいてくる音がした。





「ちょっと〜バンビーノ?生きてんの?」


『…生きてるよ、残念なからね』




 ブクブクと真っ赤な水に息を吹き込む。




「あ〜ららん、今日も派手な色の入浴剤ですこと」

『ジャン』

「だってよ、お前落ち込んでんじゃん」

『そーですよ』

「なんだって死に急ぐかネ」




 濡れたバスルームにスーツのまま入ってきたジャンは、バシャバシャと水音を発てるシャワーのコックを閉めると、俺のネクタイを引き上げて浴槽から上半身を浮かせた。




『ゴホッ、汚れるぞ?』

「バーカ、同じだよ」

『ルキーノ様に怒られる』

「風呂に入ったでチャラだ」




 黙れとばかりに、唇に噛み付かれる。
 いつもの事だが、噛まれる痛みで唇を開いてしまう。



『っ…んっ!…っん…ふぁ』



 ジャンの舌が呼吸を奪う。
 酸素が足りないのも相まってこのまま死んでしまいたいと思う。




『ジャ、ンッ』

「んっ…はぁ…ユリオス」

『はぁ…はぁ…なぁ』

「…あんだよ?」

『…このまま、ジャンに…全てを…奪われて…死にたい』




 目を見開き驚愕の表情を浮かべるジャン。




『ジャンの為に死ぬより、ジャンに殺されたい』

「…ふっ」




 口元だけで笑うと、握っていたネクタイを離される。
 後頭部から浴槽に沈むと同時に身体を押さえ付けられた。



『ガッ…グッハ…ガフッ』

「ユリオス」

『ジ…ガフッ』




 あぁ死ねる…。もうすぐ終わる…。


 気を抜こうとした時、首元をまた引っ張られた。




『グッ…ガハッ…ゴホッ』

「あーやっぱダメだわ」

『ゴホッゴホッ』

「ユリオスは殺せない」



 頭を鈍器で殴られたような衝撃が脳ミソを駆け巡る。




「ユリオスを引き入れたのは俺だし、飼い殺しってことでどうヨ?」

『ジャン』

「全部愛してア・ゲ・ル」





濡れたスーツ




(ジャンッ…ジャンッ)
(バーカッ…んな煽んなっ)
(もっ、と…奪って)






2010 05 08 0126

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