※特異体質主。吸血行為あり。
 ギャグノリ。後半黒様降臨。








 とある昼下り。




「腹が減った…」

「…私も…」




 武田の為にと鍛練を怠るべからずと朝から幸村様と手合わせをしていた。

 いつもならどこからともなく佐助様が現れて大量の昼飯を用意してくれるのだが、今日はその肝心なオカ…佐助様が任務ということでいらっしゃらない。
必然的に昼飯が自動で出てこない。



「うぅぅ…」



 腹が減り過ぎてその場に倒れた幸村様を縁側に引っ張り上げた自分を褒めてあげたい。

 相変わらず低い唸りをあげる幸村様の隣に寝転んだ。
凄くお腹が減った…。




「侑哉」

「…はい」

「何か持っておらぬか?」




 首だけこちらに向け、眉を下げ困った様な表情はさながら犬。
上司に向かって犬とは失礼だが犬だ。





「何か…生憎氷砂糖くらいしか」

「構わぬ、くれ」




 そのまま口を開けられた幸村様に困惑しつつも、懐から氷砂糖の入った袋を取り出す。
お館様から頂いたものだったので常備していたのが幸をそうしたようだ。
どっかの小姓も金平糖を頂くって聞いたな…いや今はいいだろう。

 無造作に空いた口に放り込んだ。
途端に閉じた口がもごもごと動く。
先程迄は犬だったのに今は栗鼠のようだなと思うと吹き出しそうになった。
 これはいけないと思い視線を反らせば、引き締まった首筋に視線が止まった。

 トクリと鼓動が波打つ。
―血が、欲しい
 だが今はまだ昼で誰かが見ているとも限らない。腹が減るとは言っても白昼堂々と戴ける訳もない。
しかしトクリトクリと鼓動が早まる。背中に鍛練で流した汗とは違う汗が伝う。



「侑哉どうしたのだ?」



 異変に気付いた幸村様が私を見る。
視線が痛い。



「い、いえ」

「顔色が悪いぞ?大丈夫か?」

「え、えぇ…」




 ドクドクと激しくなる鼓動に胸を押さえれば、素早く立ち上がった幸村様が部屋の中に私を持ち上げて移動する。
そして、空いている足で器用に開いていた襖を閉めた。



「幸村、様」

「大丈夫か?鍛練が響いたか?」



 至極心配そうに割れ物を扱う様に幸村様はお座りになられた。
当然ながら横抱きの私は幸村様の膝の上。
先程から噛り付きたいと思っている首筋が目の前にある。




「ゆ、幸村様離して」

「む、それは出来ぬ」

「し、しかし、その」

「どうしたのだ?」




 不思議そうに覗きこんでくる幸村様に眩暈を覚える。
 吸血したがる私の事は幸村様も承知だが、全ては夜の穢れの所為と思われている。現に私もそうだと思っていた。
 極限下と言うには温いが腹が減ると血が欲しくなると言う事は今知った。数十年生きていて今知った。
これを鈍感と言われる幸村様にどう伝えたら当たり障りがないのかわからない。
 結局幸村様の問いかけに赤子の言葉の様な物しか返せなかった。



「侑哉」

「あ、あぅ…そ、のあの」



 生唾ばかりが湧いては飲み下す。
不毛な行為と美味そうな首筋と私は目が回りそうだった。



「…侑哉、お主もしや」

「え?ふぐっんっ」



 何かを閃いたとばかりに声をかける幸村様
その声に驚き、私は口を開け何か?と問おうとしたが、開けた口の中に何かが入ってきた。



「ふぅんぐっんっんっ?!」

「む?氷砂糖を詰まらせたのではないのか?」

「んっんっ!んっふぅ」



 幸村様は何を勘違いしたのか氷砂糖を詰まらせたと思い、私の口に己の指を突っ込んでいた。
しかも、詰まらせたと思っていたので頭も固定され逃げ場がない。
 必死に違うと否定するが指が縦横無尽に動くので上手く言葉にならない上に、喉の方まで刺激されて苦しい。
しかも、指が犬歯に当たる度に血が出ないかという期待で身体の奥がぞくぞくと疼く。

 色んな意味で涙が目に溜まる。段々と幸村様の顔が滲む。
流石に大の男が泣くなんてと必死に耐えるしかない。

 涙が出ると思った瞬間、強かに背中を強打した。
と同時に幸村様の指が喉の方奥に当たる。



「うぇっ…げほっ、げほっうっ…」

「す、すまぬ侑哉」

「い、いえっ…ごほっ」



 指は抜かれたが打ち付けた背も痛ければ、息が上手く吸えないわで咳き込むが肩を押さえつけられていて、それも苦しみを増す要因になっている。



「ゆ、きむらさまっ?」

「あ、あぁ…」

「幸村様?」

「い、いやなんでもないのだ。侑哉こそ何か言いたいのではないか?」

「え?」



 幸村様の問いにまた身を固くする。
しかし、この方には言わなければわからないのが骨身に染みた。




「その、ですね…」

「ん」

「その、血が欲しくて…」

「血?侑哉それは」

「私も変だと思っております。私も腹が減ると血が欲しくなるのを今知ったのです」

「そうか」




 短い返事と共に幸村様の指先が唇を這う。
吸血衝動とは別のところがゾクリとした。
幸村様は普段破廉恥だの大声で抜かす癖にいざとなると開き直る。
―あれ?何かがおかしい。
と思い見上げると清々しい笑顔が降り注ぐと共にまた指が口に割り込んできた。



「ふぅんっ」

「血が、欲しいのだろう?ならば俺の指を噛め」

「ふぅふぁんっんっ」



 噛めと言う割に先程よりも強く指を動かす幸村様に私は焦った。
しかし動こうとするが、がっちりと身体を押さえ付けられ身動きが出来ない。



「ふぅぐっんぐふぅ」

「侑哉」





 優しげな声を出してはいるが荒々しい指と、いつの間に私の上に馬乗りになる幸村様に、半ば諦めに似た感情が湧く。
 この方は何処迄いっても上に立つ人間。

 覚悟を決めて絡めていた舌で指を止めた。出来るだけ痛みを感じないように柔らかくなった指に噛み付いた。



「っ…侑哉」

「んっ…んっぅ…」

「俺の血は美味いか?」

「おい、しいです…」




 そう答えれば満足そうに目を細める幸村様が見えた。




 暫く幸村様の血を堪能していると、聞き慣れた声が聞こえてきた。



「ちょっとー、そういうのは夜するもんだぜ?」

「ん?佐助戻ったのか」

「さ、すけさま?」

「あーそういうことか、侑哉ちゃん大丈夫?」

「あ、わ、私は…」

「急に動かないで、大丈夫だから。あと旦那いつまで侑哉ちゃんの上に居るつもり?」

「えっ?す、すまぬっ侑哉っ」



 幸村様が飛び退くと同時に佐助様に抱きかかえられたが、私の意識はそこで途切れたのだった。









「旦那」

「なんだ佐助」

「確実に覚醒しつつあるから」

「あぁ、わかっている」








後書き








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